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第2話

あれから数日をリリと一緒に過ごした。

彼女は両親を10歳で亡くしてからと言うもの畑を一人で耕して生活していたらしい。

18歳にもならない少女が手にマメが出来るのも気にせずにクワを持つ姿は何とも言えない微妙な気持ちになる。

きっと身寄りのない俺を家に迎え入れてくれたのは元来の優しさもあるだろうが、彼女自身の寂しさもあるだろう。


あれから彼女にこの世界の様々な事を教えてもらった。

ちょっとそれを箇条書きにしてみよう。

・この世界にはモンスターと呼ばれる怪物が存在する事。

・この世界の地形は地名こそ違えど、元いた世界の地形と全く同じであり、現在俺がいるゲレーシュト帝国は元の世界で言うと祖国ドイツの辺りである事。

・文化レベルで見ると中世ヨーロッパと似てはいるが科学の代わりに魔術が発達しているという事。

・言語は世界共通でドイツ語(この世界ではただ単に言語と呼ばれている)である事。


この4つの情報が主な収穫だ。

しかし何よりこの世界の俺自身についても得られた情報がある。

俺は創造魔術という魔術の使い手だという事だ。

しかしこれはリリに教えてもらった訳ではない。

あれから気付いたのだがポケットの中に創造魔術について書かれた紙切れが入っていたんだ。

内容は創造魔術の基本が書かれた内容で、寝る前に遊び半分で書かれた通りにやってみると、手の平に木の棒が現れた。

やり方は至って簡単で、頭の中で作りたいものが自分が手の届く範囲内の指定の場所に現れるのをイメージするだけだが、リリ曰くどうやら元から素質がなければ出来ない種の魔術でその性質故にかなり珍しいらしい。

しかも創造するモノの材質に制限等はなく、金属だろうが木材製だろうか構わないという。

禁術にあたるらしいが生物でさえ産み出す事も可能らしい。

そしてしばらく車の玩具や兵士の玩具を作ったりして遊んでいたが、ある事に気付いた。


“この能力があれば元の世界の兵器も産み出せるのではないだろうか”


流石に戦車等の大物を作るのは気が引けてしまった為、まずは手の平サイズの拳銃である“PPK”と弾薬を作ってみた。

実際に試射はしていないが、ズッシリとした重厚感やスライドの具合も本物だ。

にしても内部構造など全く知らなかったが素晴らしい出来だった。

PPKはドイツ軍で陸海空の軍人の多くが愛用した小型自動拳銃であり、32ACP弾を7発装填出来る。

ついでに元世界で使っていたホルスターも模して作った。


「ハルト、そろそろご飯にしよっか」


「ああ、そうしよう」



おっと、もう昼食時か。

最初は元世界も含めて人生初めての農作業という事もあってかなりきついところもあったが、体が若いからかそろそろ慣れてきた。

リリが毎朝作ってバスケットに詰めてくれるサンドイッチはとても美味しい、美少女の手料理という補正がかかっているのは否定できないが……。


「今日はゆで玉子つきだよ、隣のおじさんが分けてくれたの」


「ほう、旨そうだな」


平和というのはとても良いものだ、この日常がずっと続けばいいのに。

そんなことを考えながらサンドイッチを頬張っていると若い男の二人組がこちらに歩いてきているのに気付いた。


「ご、ごめん……ちょっと待っててね」


知り合いだろうか、家へ招き入れたようだ……。

まあ取り敢えず待っていろと言われたんだから待っている事にしよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


しばらくして二人組が家を出てから少ししてリリが戻ってきた。

しかしその姿に俺は驚きを隠せなかった。


「へへ、ちょっと転んじゃった」


明らかに転んだ様子ではないことは一目見て分かった。

頬は赤く腫れて口角が切れて血が出ていて、髪はボサボサに乱れている。目元も腫れている、きっと泣いたんだろう。

俺は憤慨した、きっとあの二人組に何かされたんだろうと。

咄嗟にあの二人組を追いかけようと立ち上がるとリリが必死に俺の腕を掴んで止めた。


「やめてっ!私のことはいいから……」


「良い訳ないだろうが!」


「じゃあちゃんと事情を話す、だからやめて、お願い」


取り敢えず俺はリリの必死な懇願により二人組に鉛弾をぶち込むのは中止し、一度家に戻ってリリの話を聞く事にした。

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