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第8話

俺がこの世界に飛ばされてからもう数ヶ月、農作業をしてリリと仲良く暮らす日々も板についてきた。

リリの顔の傷も跡が残らずすっかり治ったようで安心だ。

平穏な生活とは楽しいものだ、何せ明日とも知れぬ命の心配をしなくても良い。

午前のまどろみの中でうとうとしていると部屋のドアが開いた。


「ねえハルト、街に買い物に行きたいんだけど着いてきてくれる?

最近この近くで盗賊やモンスターに襲われた人も出てるみたいだし、怖いの」


「仕方ねえな、すぐ準備する」


どうやら二度寝というささやかな楽しみはリリの買い物で潰れてしまうみたいだ。

当初こそ俺を引っ張る勢いだったリリだが、あの一件から俺にも頼ってくれる様になった。

しかしそれを少々嬉しく感じるというのは心の中だけの秘め事にしておこう。

そもそも大抵の物を作り出す能力を持つ俺がいるのにも関わらず何故買い物に、と思うだろう。

これについては俺も食料などいくらでも作り出せるのに農作業を続けるという事に疑問を持ち、農作業をやめる事を提案してみた。

しかしリリは俺の能力を積極的に利用しない、その理由は自分で稼いだ金以外で物を得る事に違和感があるからだそうだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それから家を出て1時間が経つが全く着く気配がない。

片道2時間は掛かるとリリから聞いてはいたが、買った物資を持ち帰る為の荷車を引いてとなるとなかなか辛いものがある。

帰りがこれより重くなるのは出来るだけ考えないようにしようと思う。

それより何よりリリの為、これだけで俺は頑張れる!

……と自分に暗示をかけながら草原の道にひたすら荷車を引っ張り続けた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



そして台車を引っ張って1時間弱、やっと街の門まで辿り着いた。道中リリにこの街の事を聞いたが、この街はアンフェンベルグ市という名で、現実世界の地図で言えば祖国のロストクあたる場所を占める港湾都市であり、ゲレーシュト帝国の経済都市としてかつてより貿易により栄えてきた街だ。

街の中心は市場となっている為たくさんの露店が並び、大体の食料や日用品等はここで買う事ができるらしい。


しかし初めて見るこの世界の都市の町並みに流石の俺も興奮を隠しきれない。

建築様式は祖国の古の時代を彷彿とさせ、まるで時代小説の中に入り込んでしまったような錯覚に陥ってしまう。


「んーと、じゃあ早速買い物を先に済ませちゃおうか。

その後は色々見て回ろうね!」


「ああ、荷物持ちは任せとけ」


流石にこの人混みに荷車を持ち込むのは出来そうにもないので、市場入り口の預かり屋に銅貨一枚を渡して荷車を預かってもらい、俺とリリは市場へと入る。

市場に入ってすぐ、何やら香ばしい匂いを感じた。

その方向に目を向けると鉄網で牛肉のブロックの様な物を焼く屋台が目に入る。


「なあリリ、腹が減ったと思わないか?」


「はいはい、買い物が終わったらね」


リリは俺のワガママを軽くいなして手早く買い物を済ませていく。

彼女は可愛らしい見た目に似合わず中々頑固なところがあるので、あまりしつこくして怒られたくないのでここは素直に待つ事にしよう。

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