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これから そして

 ささらが目を覚ますとそこは薄暗いどこか狭い場所だった。

「何ここ」

 視線を上げるとすぐ近くに豚郎がいた。口を塞がれる。

「んぐ」

「静かにして。誰か入ってきたみたいだ」

「ん」

 静かにしろと言われて暴れるようなことはささらはしなかった。狭い場所の扉の向こうの足音と気配が去ったのを待ってささらは言った。

「ここって……」

 見回してみる。その頃にはここがどの場所か彼女は気づいていた。嫌そうな顔をして答えを言う。

「トイレの個室じゃない。なんでこんなところに」

「人のいない場所がここしかなかったんだ」

「ここは駄目だって言ったのに。それで呪いは?」

「ささらさんの口の中に入った」

「ああ」

 ささらは納得して頷き、とんとんと自分の頭の後ろを叩いた。

 黒い呪いの魂はあっさりと彼女の可愛らしい口から出てきて、ささらはそれを瓶に詰めた。豚郎は拍子抜けした気分だった。

「そんなに簡単に出てくるものなんだ」

 てっきり何か大変な事態に発展するのかと思っていたのに。でも、安心した。ささらは瓶を鞄にしまって答えた。

「元からこういうものよ。あなたが特別だったのよ」

「そうか。僕が特別か」

 豚郎はその言葉を噛みしめた。それをどう受け取ったか、ささらはそれ以上は取り合わずすぐ眼前の扉に目を向けた。

「あなたが入ったってことはここはその……男の人の……場所なのよね」

「そうだけど?」

「…………」

 ささらは扉を前にした狭い場所で身をかがめ、神妙な顔をして豚郎を見上げた。

「ここからわたしにどう出ろって言うのよ」

「大丈夫だよ。人は来ないから。さっきのが初めての人達だったんだ」

「……あなたの言葉を信じるわ。よし」

 ささらは覚悟を決めてドアを開けた。人のいない人の気配もない静かなトイレを忍び足で横切っていく。と、ちょうど入ってきたおっさんと目が合ってしまった。

 ささらはびっくり仰天して声にならない悲鳴を上げた。ささらの背筋がびっくりして持ち上がるのを豚郎は後ろから見ていた。

 背の高い体格の良いおっさんは小さなささらを見下ろして言った。

「何しとるんじゃ、お前」

「あ、あ、ごめんなさい。間違えましたー!」

 ささらは慌てふためいておっさんの横を駆け抜けてトイレから飛び出して行った。

「待ってよ、ささらさーん!」

 豚郎も慌てて追いかけた。

 おっさんは追いかけてこなかった。すぐに興味を無くして自分の用を足しに行く。

 呪いが解けていなかったら捕まっていたかもしれない。後でささらはそう言っていた。


 使命は終わった。豚郎とささらは動物園を出て別れることにした。

 ささらは呪いを詰めた瓶を入れた鞄を軽く叩いて言った。

「じゃあ、わたしこれを届けてくるから。今日はありがとう」

 彼女は上機嫌の様子だった。目的が達成出来たのだから当然だろう。でも、豚郎は気が気ではなかった。

 彼は彼女の携帯の番号や家や学校の場所も知らない。ここで別れたらもう会えなくなるかもしれない。そんな彼の気持ちを全く気にしない足取りで去っていこうとする彼女の背中に豚郎は思い切って声をかけた。

「待ってよ、ささらさん!」

「なに?」

 ささらは足を止めて振り返る。豚郎は何を言おうか迷った。彼女は答えを待っている。迷った末に彼の言えたことは

「またいつでも家に遊びに来てくれていいから」

 それぐらいのことだった。でも、

「ありがと」

 最後に彼女の笑顔が見れたからそれでいいと思った。


 最後じゃなかった。

 次の日、早速ささらは家に遊びに来た。学校帰りなのだろう制服を着て、子供のような満面の笑みをして手に持った玩具のコインのような物を見せつけてくる。

「見て、この幽霊メダル。呪いを集めたご褒美にもらったのよ」

「もしかしてそのために頑張ってたの?」

 豚郎にはよく分からないけれど彼女はそれがとっても気に入っているらしい。

「うん、今凄く人気の激レア品なのよ。ああ、手に出来て良かったあ」

 ささらが幸せそうで豚郎も幸せだった。

 彼女は豚郎の家で自分の家のようにくつろいでいた。

「いいなあ、一人暮らしって。わたしも自分の家が持ちたーい」

「それはまあこれから頑張ってね」 

 呪いが解けてこれからは楽しい暮らしが送れそうだと思った。 

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