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彼女が家に来た

 ある平凡で閑静な住宅街。そこのある家に一人の青年が住んでいた。

 彼は30歳無職の童貞で、その日もアニメやネットだけを見て過ごしていた。

 パソコンの画面に集中する彼の耳が玄関のチャイムの音を捉える。

 彼は重い腰を上げて二階の自室を出て階段を降り、玄関へ向かった。そこの扉を開ける。外の眩しい光に目を細める。

 目が慣れるとそこに一人の少女が立っているのが見えた。髪をツインテールにした背の低いまだ小学校高学年か中学1年生ぐらいの少女だった。学校の何かの活動だろうか、まだ着なれていない感じの制服を着ている。

 彼は彼女を驚かせないように優しく声をかけることにした。

「何? 僕の家に何か用?」

 年下の少女を相手に緊張する彼に向かって彼女は利発そうな目を上げて言った。

「やっぱり間違いない。あなた呪われているわよ。わたしが払ってあげる」

「そういうの間に合ってるんで」

 驚いたのは彼の方だった。急いでドアを閉めると彼女は叩いてきた。彼は諦めてドアを開けた。

「近所迷惑だよ。止めてくれ」

「ついてないと思ったことはない? それは呪いのせいなのよ」

 彼女は話を諦める気はないようだ。彼は付き合うことにした。まだ子供の彼女に罪は無いし、彼女の話に思い当たることもあったからだ。

「妖怪のせいじゃなくて?」

「妖怪なんてこの世にいないわ。呪いのせいなのよ」

「ふーん」

 彼女は真面目だ。意見を曲げる気はないようだ。彼はさらに訊ねることにした。

「僕がもてないのも30歳で無職童貞なのも友達がいないのも妖怪のせいなの?」

「そうね。多分。……じゃなくて呪いのせいね。妖怪なんていないから」

 釣られそうになった彼女は慌てて話を戻した。とにかく呪いのせいらしい。彼は考えた。

「じゃあ払ってもらおうかな。でも、お金は払えないよ。僕、働いてないから」

「大丈夫よ。お金なんて取らないから」

 彼女は働けなんて野暮な突っ込みはして来なかった。足を進めて近づいてくる。手を彼に向かって掲げ上げる。

 そのえも知れぬ雰囲気に彼はつい下がってしまう。少女はきょとんと首を傾げた。

「何で逃げるの? じっとしててよ」

「だって、にやけてる」

「にやけてないにやけてない! いいからじっとする!」

「嫌だぶひー」

 彼は逃げた。階段を昇って自室へ。だが、そこに逃げ場があるはずがない。入り口を封鎖する間もなく彼女はすぐに追いかけてきた。

「逃がさないわよ! やっと見つけたんだから! ん?」

 彼女の視線が部屋の隅に並べたフィギュア達を見た。彼女の気が一瞬それたが、隙をついて逃げられるほどではない。彼女はすぐに彼の方へ注意を戻した。

「さあ、観念しなさい」

「お、お、ふおおおお!」

 追い詰められた人間とは何をするか分からないものだ。彼は襲ってこようとする彼女に向かって逆に飛びかかっていった。

 気が動転するままに少女の小柄な体を押し倒し覆いかぶさる。下が部屋に敷いたままだった柔らかい蒲団だったのでお互いに怪我をすることはなかった。

 組み敷いた少女が不満の声を上げた。

「重いー、痛いー!」

「ああ、ごめん。つい」

 彼は我に返った。相手はただの少女だ。何も取り乱す必要などなかったのだ。

「ついじゃないわよ。早くどいてよ」

「う、うん」

 彼は立ち上がった。彼女も立ち上がろうとしてその手が何かに触れた。二人して視線がそっちへ向く。

 彼女の指先が触れていたのは彼が大事にしているアレな本だった。アレな本のアレなページを見て彼女の顔が真っ赤になった。

「なんでこんな物出しっぱなしにしてるのよ! 隠しときなさいよ!」

「いや、だって」

「友達が来たらどうするのよ。親に見られたら死ぬの!?」

「友達いないし来ないし、親もいないよ。僕、一人暮らしだから」

「え?」

 彼女が赤くしていた顔を今度は青くして硬直させた。

「まさかわたしのこともこの本みたいな目で……」

 その言葉に彼は一気に冷静になって鼻で笑った。

「それこそまさかだよ。僕はおっぱいの無い子や小さい子供には興味ないんだ。いてっ」

 彼女は立ち上がってアレな本を投げつけてきた。アレな本は彼の顔面を強打して床に落ちた。

「わたし、高校生だから! 子供じゃないんだから、ね!」

 少女が涙目になっていたので彼はそれ以上彼女の体の事は触れないでおこうと思った。

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