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事実が正しいとは限らない  作者: 仙人掌
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第一章 偽装された日常編 前半

◆悪夢◆



 子供のころは、夢のような楽しいことしかないと思っていた。

 家族みんなで楽しく笑って、たまの休みには旅行に出かける。

 そんな毎日を。そんな日常を。

 それは当たり前だと思った。

 それは本当に、当たり前だと思った。


「ねぇ、貴也くん」

「…………」

「ねぇ、聞いてるの貴也くん?」

「うん?」

「今日、楽しかったね……」

「ああ、そうだね」

「明日さ、何して遊ぼっか?」

 夕焼け空の下。

 舗装されていない砂利道を貴也が地面を見ながら歩いていると、隣にいる赤いリボンを頭に結んだ少女がそう尋ねてきた。

 この赤いリボンは貴也が彼女の誕生日にプレゼントした物だ。

 彼女はあまりにも近すぎて、その息づかいが伝わってくる。僕は彼女の音が好きで。彼女の声が好きで。彼女のすべてが大好きだった。

 だけど、恥ずかしくて彼女の顔を見ずに答える。

「明日、決めればいいよ」

「ねぇ、あれってやばくない?」

 と、彼女は貴也の言葉を遮るように唐突にそう言った。

 彼女の声は、いつもの明るい感じではなく少し震えているように聞こえる。

 貴也は彼女の不安げな声を聞いて、顔を上げる。

 そこには、夕日さえ塗りつぶしてしまうほどの黒煙が目の前に広がっていた。

 貴也はその黒煙を視界にとらえたまま、少しずつ歩く速度を速めていく。


 ――嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。



  嘘だ 嘘だ 嘘だ 嘘だ

 ――嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。嘘だ 嘘だ 嘘だ 嘘だ 嘘だ 嘘だ。 嘘だ。 嘘だ。



 ――嘘だ。



 ――なんで、なんで僕の家が燃えてるんだよ!


 その映像だけが、頭の中を埋め尽くしていく。

 それが理解できなくて、それが信じられなくて、それが嘘であってほしい、そんな気持ちから無意識のうちに歩きから走りに変わっていく。

 燃える。燃える。燃える。さっきまでの日常を、あざ笑うかのように家が炎に呑まれていく。

 背中から「まって!」という声が何度も聞こえてくる。

 だが、その声は遠くで響いているように聞こえてはスーッと消えていく。

 いつもなら彼女と途中で別れ、家に向かって歩くこの道を、息を切らし、涙で視界を歪ませながら走る。

 前が涙で見えなくて、石に蹴躓いて転んだ。

 擦り剥けた膝や腕に砂利が食い込んで痛かったが、とてもそれどころでは無かった。

 お腹がくるしくて、吐き気まで込み上げてくる。

 家まであと少しというところで、白いコートを羽織った中年風の男にぶつかる。いつもだったら「ごめんなさい」と言って謝っていただろう。が、今はそれすらも考えられない程、頭の中は混乱していた……。

 やっとの思いで家に着くと、パチパチという焚き木が弾けるような炸裂音と、あのあざ笑うような炎が空気を震わせていた。

「母さん、父さん……どこにいるの?」

 貴也はそう言いながら家に向かっていく。

 すると、後ろから誰かに抱きとめられ「行っちゃだめ!」と、声をかけられる。

 誰が止めているのかと思い振り返る。そこにいたのはあの彼女だった。

 いつもは笑顔でいる彼女の目は、僕と同じように涙を浮かべ、身体は小刻みに震えていた。

 貴也は燃える家を見つめ返しながら思う。

 子供のころは、夢のような楽しいことしかないと思っていた、のに。

 家族みんな楽しく笑って、たまの休みにはどこかへ出かける。

 そんな毎日を。そんな日常を。

 それは当たり前だと思えたのに。

 それは本当に、当たり前だと思えたのに。

「……力が」

 と貴也は涙を流しながら、拳を強く握り呟く。

「……大切なものを守るためには、力が……足りない」

 この日、三道貴也(みどうたかや)は自分がいかに無力な存在なのかを教えられた。

 だから、もう二度と大切なものを絶対に失わないためにはどうしたらいいかを何度も、何度も、僕は考えた……。


 それから十一年の月日が流れた。



◆教室◆



 五月二日。木曜日。

「……カ、タカ!」

 聞きなれた声が頭の中で聞こえている……。俺はこの声の主に気づきハッと目を覚ました。

 うつ伏せの状態から目線だけ上げると、前の椅子に座り込み、俺の右手を握って、心配そうな顔をしている親友の笹崎大輝(ささざき だいき)が見えた。

「……大、輝」

「あ、やっと起きた? かなりうなされてたけど……」

「ああ、何でもないちょっと夢見が悪かっただけだ……」

「具合が悪いのなら、保健室行って休む?」

「ホントもう平気だから……」

 まだ時々夢に見る、あの頃【十一年前】の悪夢……。俺はこの東京郊外にある白陽(はくよう)市に住んでいた親戚の倉本(くらもと)家の許へと引き取られた。

 そういった流れで白陽市の小学校へと転校した時に、一番初めに仲良くなったのがこの大輝だ。

 もし「親友と呼べる友達を一人挙げてください」なんてアンケートがあったら、コイツの名前を真っ先に挙げる……。それぐらいかけがえのない存在だ。

 見た目は短髪で茶色みかかっており、顔つきは不眠や低血圧とは無縁そうな爽やかな雰囲気を醸し出している。

 そんな活発そうな見た目をしていながら、運動神経が悪い。

 その代わり頭は相当いいようで、学年トップクラスの成績。

 試験の後に張り出される順位表の、最初の十人の中に、この笹崎大輝の名前が必ず記されている。それも全教科まんべんなく、だ。社会以外は赤点ギリギリだった俺なんかと較べるのはおかしな話だが、きっと、脳の構造そのものからまるっきり違うのだろう。

 まあ、この白陽学園に入学して一ヶ月しかたってないのだから、これから頑張っていけば少しは成績が上がるかもしれないが、一年の時からプライベートより受験勉強を優先する気は、サラサラない。

 ……そういえばあの子【彼女】は元気しているだろうか?小さい頃はずっと一緒に遊んでいたから気になるところだ。

 確か椎名(しいな)って名前だったはず……って俺、幼馴染みのフルネーム全く知らないじゃないか!

 そう貴也は幼馴染みの名前の事で一考し始めたら、大輝が急に声をかけてきた。

「なーんか、困ったような顔をしているね?」

「まあ、そうだな」

「何について困ってるんだい? この僕に話してごらんよ! 健全な青年の悩み事について、真剣に、かつ適当なアドバイスをおくってあげようじゃないか」

 大輝は甘ったるそうな笑みを浮かべながらそう言った。

 俺の悩み事について大輝は真面目に対応はしてくれないらしい……。親友だと思ってたのに。

「友人の悩み事は悪ふざけの範疇ってか」

 貴也は皮肉っぽい調子で、大輝にたずねる。

 すると、大輝は小さく肩をすくめて貴也の質問に答える。

「友達だからこそだよ、タカが悩んでる事について、容易なアドバイスするって良いことだとは思わないからね」

 そう言い終わると、大輝は微笑みかけてきた。

 ふむ、そういう気遣いの仕方もあるのか……。やはり大輝(コイツ)は親友と言っていい存在だ。

 そういや今、何時だろう? コイツと話すのはいいが時間がさっぱり分からない。 たしか、六時間目の始めまでは覚えているが、その後に何があったのか寝てしまったため覚えていない。

 教室に一応時計が備え付けてあるが、正確な時刻を表示しないので、貴也は急いで制服のポケットから、携帯電話を取り出し時間を確認する。

 携帯電話の待受画面には午後十六時五十七分と表示されていた。

「……大輝、一時間近く寝かしぱなしってどういう事だ?」

 貴也は多少の苛つきを感じながら、大輝にそう問いかけた。

 すると椅子に座っている当の本人は、心の底から楽しそうに笑いながら、椅子から立ち上がりこう答えた。

「ははは、バイトで疲れていると思ったから起こすの悪いなって思って起こさなかったよ! ま、途中でうなされてたから起こしちゃったけどね」

「俺がバイトで疲れるわけないだろうよ、誰一人としてお客が入らないあの店で」

 大輝の答えに、貴也は苦笑じみた口調で呟いた。

 すると「そうだね」、と大輝は頷いてクスリと小さく笑う。

「ところで、まだ寮には帰らないのかい?」

 大輝は肩をすくめ、辺りを見渡すように視線を動かし、最後に愉快そうな表情を貴也に向ける。

「……もう放課後だから誰もいないよ?」

 気が付けば教室の中、より詳しくに言えば、この一年A組の室内には俺と大輝を除いて誰一人としていなかった。

「わかってるよ、今帰るつもりだったんだよ!」

 貴也はふてくされながら、横に掛けてあった鞄を持ち、教室の扉へと向かう。

 大輝はそんな貴也の後ろから、小走りでついて行った。



◆帰路◆



 貴也と大輝は教室を出て、校門を通り過ぎ、人通りの少ない住宅街へと話しながら歩いていた。

 話している内容は、今日あった学校の授業の事や、何のテレビを観るのやら、そんな他愛のない会話。

 だが、そんなおしゃべりも終わりを告げる。いつもの分かれ道に差し掛かり、二人は別れの挨拶を交わす。

「じゃ、また明日」

「おーっ、タカもまた明日」

 そう二人は言いながら別々の道へと歩いていく。

 大輝は自宅から学校へと通っているが、貴也は学園から西に一.五キロメートルほど離れた学生寮で一人暮らしている。学生寮は徒歩二十五分ぐらいかけて学校から着く距離にある。

 貴也は自分が住んでいる学生寮に向けて歩いていると、不意に左側頭部にむかって何かが頭に直撃した。

「痛ってぇー!」

 そう貴也が声を上げるのと同時に、その何かはカランカランと音を立てて、地面へと転がっていった。

 貴也は左側の頭を押さえてしゃがみこむ。そして、一体何が当たったのかを確認する。

「……空き缶?」

 その何かは空き缶だった。見たところ錆びれた箇所がいくつもあり、数年前に誰かが捨てた物だということが分かる。

「なんで、こんな物が頭に当たるんだ……」

 貴也は自分の不運さを少し嘆いた。

 嘆きつつも、貴也は投げられた方向へと振り向いた。

 そこは剥き出しの鉄骨、風になびいている破れたビニールシート、窓ガラスの幾つかが割れている廃ビルだった。資金難から建設途中で放置されたのか、それともビルとしての役目を終え、解体されようとしているのかは貴也には分からなかった。

 その廃ビルの回りには誰も入らないようフェンスが並んでおり、目の前には重そうな鉄の門。だが、その門は少しだけ開けられていて誰かが入ったのは明白だった。

 貴也は、あの錆びた空き缶を手に持ち、門をこじ開けた。

 門は空き缶と同様に錆び付いているらしく、ギギッという金切り音をあげながらゆっくりと開かれる。そして、貴也はそのビルの中へと歩を進めた。

 ビルの中へと入った貴也は思考を働かせる。

 中に人がいるとしたら、不審者(犯罪者または不良)か、子供のどちらかだ。

 もし不審者がいたら、一定の距離を取りながら警察に通報すればいいし、逆に子供だったら軽めに注意をすればいい、「不法侵入だから、ここでは遊ぶな」と。

 ……俺も不法侵入しているがな。

 貴也は自分が最後に思ったことに、僅かながら苦笑した。

 そして貴也は今、現在の状況を把握しにかかる。

 ビルの高さは、七階まであるから二十五メートル(大輝から教えてもらった雑学だ)ほど、視界で見える範囲は、鉄骨が剥き出しで、夕焼けの光が地上へと降り注いでいる。

 一階の奥を覗けば、見えないというほどの暗さではなく、薄暗いといった感じだ。

「さて、一言ぐらい文句は言わせてもらうか……」

 そう貴也は小さく呟くと、一階の奥へと向かった。



◆出会い◆



「あれ〜、おかしいな?」

 廃ビルの奥から、そんな不思議そうな声が漏れる。

 貴也は、ビルの一階部分を一頻り探したが、そこには誰もいなかったのである。

 当たった角度からして、上からじゃなくて横から来たんだけどな……。

 もしかして、一階じゃなくて二階にいるのか?

 そう考えた貴也は、二階へと繋がる階段へと歩みを変える。

 一頻り探した(無駄な労力)お陰で、階段のある場所は把握していた。

 貴也は階段のそばまで歩いていく。すると、ひとつの影が見えた。

 その影は間違いなく、人影であろうと決めつけ、俺は階段の前へと躍り出る。

 その階段にいる人物を確認するため、新也は視線を上げる。

 そこには、一人の少女が佇んでいた。

 その少女は、貴也の存在に気付いたらしく目を見開いた。なぜそこにいるんだと言わんばかりに。

 歳はおそらく十代前半──十四か十五あたり。金髪碧眼。

 金色の髪は腰まで届き、人形のように整った顔立ちで、目鼻立ちには幼い柔らかさがあるのだが、同時に端麗な容姿をあわせ持っている。

 夕焼けの光を背にしていながらも肌は、陶器のようになめらかな白さが見てとれる。

 上半身は、白いブラウスに青いリボン、白い線が縫われている黒色のブレザーで下半身は、赤と黒のチェックのブリーツスカートの丈。足先から太ももまでには、黒のニーソックスを履いており、妙に艶かしい。

 ここが日常とかけ離れた空間だからだろうか?

 俺は無意識的に、手に持っていた空き缶を床へと落とした。

 重力に従って落ちた空き缶は再び爽快な音を響かせる。

 その音が合図であるかの如く、金髪少女の目つきが一気に鋭さを増した。

 まるで貴也に殺意を抱いたかのように。

 その時、俺は気づくべきだった……。

 いかに現実実が感じられないこの廃ビルに、入り込んでしまったとしても、この金髪少女が右手に黒い物体を持っている事ぐらいは、気づけたはず。否、気づかなければならなかった。

 金髪少女は足を一歩引き、その黒い物体を瞬時に、貴也へと向ける。

 それは、拳銃だった。

「………………っ!!」

 日本の警察官が携帯しているリボルバー式の拳銃ではなく、アクション映画の主人公が持っているような黒光りした拳銃だった。

 その拳銃は、一人の女の子が持つにしては大きく、ずっしりとした重みがあると見てとれる。

 だが、金髪少女はそれを意に介した様子もなく、拳銃の引き金を引いた。躊躇う事も、臆した事も無く。

 その時、貴也が取った行動は、――多分、最も愚かな動きだった。即ち、素早く瞳を閉じ、その場で立ったままの硬直。逃げることさえ放棄し、だからといって防御すらしていない、現実逃避の姿勢である。

 これが物語の主人公とかなら、地面に転がってる石を蹴り上げて拳銃を飛ばしたり、銃の射角に入らないように横っ飛びなんかをするのだろう。

 でも、貴也は一介の高校生に過ぎない。だから、そんな事は出来るはずがない。

「………………」

 ………………、………………。 引き金が引かれて数秒後。後方からドオォォォンという地面を揺るがす規模の轟音が響いた。

 その轟音を聞いて、貴也は閉じきっていた瞼を、そっと上げる。

 少し眩しさを感じてぼやけていたが、夕焼けに照らされた金髪少女を見る。

 ……綺麗な見た目をしていながら、この娘危ないな〜。

 ふと。

 ふと、唐突に思った。

 たしか、この金髪少女は確実に拳銃の引き金を引いたはず……。なのに、俺には何の外傷も見当たらないし、痛みも感じない。

 だとしたら、何に対して撃ったんだ?

 その疑問に対する答えは、すぐに分かった。俺の後にいたモノに対して撃ったのだ。

 貴也は急いで背中を振り向いた。

 そこにあるのは、――そこにあったのは、貴也と同じぐらいの高さほどありながら、横幅は貴也の倍近い巨大な黒い化物だった。

 その黒い化物は、人間と同様に胴体から腕と脚が二本ずつ生えていて、腕から伸びる手だけで人間の胴体を掴める大きさがある。

 だが、その黒い化物が動くことはない。

 何故なら、胸部から頭部までが見るも無惨なまでに円形に抉り取られ、血のような赤黒い液体を飛散させていた。

「う……うわああああああっ!」

 貴也はそう叫ぶと同時に、膝に力が入らず盛大に尻餅を突いた。

 すると、コツン、コツンと一定のペースで足音が聞こえくる。

 しかし、今の貴也は現状を理解するどころか、頭の中は混乱(パニック)しているに等しかった。

 足音が止まるのを頃合いに、黒い化物は塵となって消えて無くなっていく。その光景は『蒸発』と言っていい光景だった。

 貴也は横目で隣を見やる。勿論そこにいたのは、あの金髪少女だ。

 金髪少女は貴也の目線に気づき、一言告げる。

「今日の出来事は忘れて、関わろうとするなよ……、いいな」

 金髪少女は貴也と視線を合わせず、それでいて感情を切り離したかのように警告した。

 そう言い終わると、金髪少女は足早に廃ビルの出口へと向かっていった。



 貴也が入った廃ビルを見下ろせる反対側のビルの屋上の端に、新也と同年代だと思われる糸目の青年がしゃがみ込んでいた。

 その青年の表情は、不敵な微笑を浮かべている。それは恍惚としたようでも、嘲笑っているようでもあった。

「倉本くん、そろそろ僕の、私の、我の、計画に沿って動こうかっ!」

 青年が声帯を震わせ、愉快そうに呟く。この青年は貴也の事を知っているようだ。

「……でも、今のままじゃ使い物にならないね」

 糸目な目を少し開き、ニィ……と微笑んだ表情は、まるで玩具の完成を待つ子供のように、歓喜しているように見えた。



◆恐怖◆



 貴也は金髪少女が出ていって数分、動かずにいた。動けずにいた。 それから、貴也は今あった出来事を思い出す。

「………………っ!」

 貴也は尻餅をついた状態から立ち上がり、廃ビルの出口に向かって無我夢中で駆け出した。

 門があった場所までたどり着き、門を急いで閉める。

 まるで、そうやって行動すれば時間が巻き戻って、そこに自分は入っていなかったとするかのように、貴也はしっかりと閉めた。

 門を閉めてもなお、固いコンクリートの道を踏み締め、全力で走り続ける。

 まだ五月上旬だというのに、貴也の全身から吹き出した汗で学生服は濡れて、不快感を感じる。

 だが、今は一刻も早く貴也はこの場から離れた。

 貴也は、このおぞましい廃ビルから離れていたかった。

 余計な興味をもってしまったと、後悔せざるを得なかった。

 どれくらいの恐慌状態に陥っていたのだろうか?

 貴也は、今住んでいる学生寮の一○六号室前に、いつの間にか着いていた。

 貴也は、学生服のポケットから鍵を取り、鍵穴に差し込もうとするが、手がガタガタ震えてなかなか入らない。

 やっとの思いで鍵を開け、玄関で靴を脱ぐことも急いで、洗面所へと直行する。

「う……っ、…………っ!」

 貴也は、体をブルブルと震わし、歯をガチガチと鳴らす。

 恐怖心や気持ち悪さといった感情が全身から込み上げてきて嘔吐をした。同時に、自問自答する。

 何が怖い?

 あの金髪少女が殺すような目をしていたから?

 違う。あれは必死に俺を、見ず知らずの俺を、助けようとしたからそんな目に見えただけだ。

 何が怖い?

 あの黒い化物が倒れていたから?

 違う。見た目はまったく違うが野生の熊みたいなものだ。今もこうやって体を震わせ、歯を鳴らす必要はない。

 何が怖い?

 それは、あの黒い化物が自分の背中にいたことが、怖い。

 より正確に言えば、後ろにいたにも関わらず、何も、何一つ気配を全然感じなかった。それが怖い。

 怖い。怖い。怖い。

 あり得るのかよ、あの大きさで違和感すら感じないなんて……。

 人間ですら『気配がある』、『視線を感じる』、『そこにいる感じがする』なんて事がわかるのに、あの轟音が聞こえてから、あの黒い化物が背後にいる事を、自分はやっと理解した。

 それが、どれだけ怖いか。

 それが、どれだけおぞましく恐ろしいか。

 もしあの金髪の少女が、あの廃ビルにいなかったら、もし助けてくれなければ、俺は今ここには生きて帰ってきてなかっただろう……。

 その事を考えると精神が、崩壊する。

 貴也は、自身を守るように両手で肩を必死に抱きしめ、目を見開いていた。

 しかし、その精神状態は長くは続かなかった。

 脳内の情報処理能力が限界を超えてしまい、意識を失った。



 自分が意識を失って、どれぐらい時間がたったのだろう?

 部屋に入った時は、夕焼けに照らされていたのに、いつの間にか明かりの一つもない真っ暗だった。

 貴也は不安な気持ちを晴らす為に、部屋の電源をOFFからONへ切り替える。

 電気がついたその部屋は、市販で売られている木製のイスとテーブルに、食器ダンス、冷蔵庫が見える。そこがキッチンダイニングであるという事が窺える。

 貴也は壁にくっ付けられている時計の時刻を確認する。

 時刻は午後二十時二十分になろうとしていた。

「マジかよ……」

 貴也は、自分が思っていた以上の時間が経過していた事に驚きを隠せず、言葉を漏らした。

 その言葉の後に続いて玄関のチャイムが鳴った。

<ピンポーン>

「お兄様、いらっしゃいますか? いたら開けてください」

 玄関から幼く可愛らしい声が、部屋を透き通っているかのように聞こえた。

 貴也は驚きで、肩が一瞬ひくっと縮み上がる。

 貴也は心中で少しの間考えた。

 こんな時に『警察だ! 無駄な抵抗を止めて出てきなさい!』、というボケをやって欲しいと願うのは些か我が儘だろうか――と。

「け、警察です! 無駄な抵抗をお止めになって出てきてくれませんか?」

 玄関から説得しているとはとても思えない、オドオドとした声が聞こえてきた。

 ニュアンスは違うが、俺の心を読むとはコイツ、やるな。

 貴也はその声を聞いて、さっきまで不安だった気持ちが少し和らいだ。

 そして、ゆっくりと玄関へと向かう。

 玄関に手をかけ、扉を開けた。


◆兄妹◆



 すると、そこには義理の妹である倉本彩乃(くらもとあやの)が、にっこりと微笑みかけてきた。

「こんばんわ、お兄様」

「……彩乃、週一のペースで来るの止めてくれないか?」

 貴也は、困った表情をしながら、ぽんと頭に手を乗せて優しく言った。

「然しですね、お兄様! お兄様は色々と無茶をする人なので、こうやって様子を見に来るのは、自然な事ではないですか?」

「うっ……」

 貴也は、自身の痛いところ突かれて反論する事が出来ずにいた。

 ……そうなんだよな、俺って叔父さん達や彩乃に、かなりの迷惑をかけてるんだよな……。

 もう少し正しい判断力と行動力があれば、誰にも迷惑をかけずに済むのだが……。

「ところでお兄様、考え事をしてらっしゃる途中で申し訳ないのですが、部屋に入れてもらえませんか?」

 彩乃は頬を赤らめながら、自分を部屋に入れるよう促してきた。

 貴也は改めて義妹である彩乃の様子を確認する。

 身長は150センチほどあり、貴也の肩よりやや下ぐらい。

 服装は、白陽市で一番有名なお嬢様中学校【聖心せいしん女学院】の黒のセーラー服の姿に、両手には膝下が隠れるほどの大きな二つのスーパー袋を、人形のような色白の小さな手で大事そうに持っている。

 髪は肩口で切り揃え、目鼻立ちも整っている。少し丸みがかって大きい瞳が印象的だ。

「どんだけ買ってきているんだ? お前の腕、ちょっと震えてるぞ?」

 貴也はそう言いながら、彩乃から二つのスーパー袋を手に取る。

「あ……、ありがとうございます」

 彩乃は照れた様子で、そっと、うつむきながらお礼を述べる。

「別に、感謝するほどの事じゃない……、血は繋がってないけど俺たちは兄妹だろう?」

 貴也は、赤くなった彩乃の手のひらを見ながら、そう答えた。

 しかし、彩乃は不服そうな口調で小さく「はい」、と頷いた。

 そのようなやり取りをした後に、貴也と彩乃の二人は寮の中へと入っていった。



 彩乃は今、短い髪を小さく後ろで結って、料理を作っている。

 動きはテキパキしており、無駄な動作はない。手伝おうか? なんて言ったが、『いや、大丈夫です』と断られてしまったのも理解できる。

 この状況、新婚夫婦の夜みたいだな。

 義妹じゃなかったら、間違いなく惚れてるところだ。

 ……そんなくだらない事を考えている間に、料理が並んでいく。ごはんにみそ汁、そして俺が大好きな生姜焼き、さらに肉じゃが。

 食べてみると、どれも満足いく味だ。一応俺だって料理作れるんだけど彩乃には劣る。



 いつの間にか時間は過ぎて、時間は深夜一時。

 貴也は一人でリビングにあるソファーに座り、携帯電話を持って隣の部屋を見ていた。その部屋では、義妹の彩乃がベットでぐっすり寝ている。

「……急に夕食を作りに来るとはな」

 貴也は、目を閉じて肩をすくめる。

 そして、手に持っていた携帯電話を開き、いつものように検索を始めた。


 【神奈川県文喜(ぶんき)市父親殺人放火事件】

 十一年前の時に、自分が見たあの悪夢の名前だ。

 記事の内容は以下の通り。 

 二0五一年五月二日午後十七時頃、神奈川県文喜市の民家より火災が発生。約二時間後に消し止められ、焼け跡からその家の父親である三道冬也(みどうとうや)当時三十二歳の遺体が発見された。

 当初は事件性のない民家火災と思われたが、室内の灯油を撒いた跡や遺体にも損傷の痕跡があったことなどから、神奈川県警はすぐさま殺人放火事件の捜査に切り替え、特別捜査本部が設置された。 なお殺害方法は刃渡り約二十センチ以上の鋭利な凶器で、全身数十ヶ所以上を執拗に刺されたことによる出血性および外傷性ショック死とみられる。刺創幅は五センチ程だが、一部には脊髄までに到達している深い傷もあり、強い衝撃で肋骨も折れていた。

 肺に溜まった煤の状況から、放火後もある程度生きていた可能性がある。

 また現場の状況や交友関係などから、顔見知りの犯行と思われ、調査したところ、妻である三道春乃(みどうはるの)は事件当日、勤務先から行方不明になっており、事件に深く関与している人物として、最重要参考人として捜索中。現在もまだこの犯人は捕まっていない。

 この内容を見て貴也は思う。

 警察は母さんがこの事件の犯人だと疑っている。

 確かにケンカはよくしていた。が、事件があったこの日、五月二日は絶対にあり得ない。

 だって、この日は父さんの誕生日だからだ……。

 それに母さんは言ったんだ。

 ――今日、父さんの誕生日だから仲直りしようと思うんだ……。だから、貴也も手伝ってくれる?

 そう、俺に言ったんだ。

 だからあの日、俺は少し上の空だった。

 貴也は寂しい気持ちになりながらも、携帯電話を閉じて、ソファーで横になった。



◆朝日◆



 ここは人口十八万人が暮らす都市、白陽市。

 白陽市は東京、正しくは帝東府(ていとうふ)郊外にあり、府の中心から二十キロ圏内に位置している為、ベッドタウンとして発展している。

 その白陽市の中心に、私立白陽学園高等学校が位置している。

 白陽学園は進学校でありながら、部活動にも力を出しており、特に剣道部は顕著である。

 一昨年は全国大会初出場し、去年は全国大会準決勝進出している。

なので今年は、全国優勝候補と呼ばれる程までに、名を馳せるまでになっている。

 そんな学校ではあるが、私立という事で年々新入生が減少していた。その事態に危機感を抱いた学校側は、新しい学費減額制度を実施。

 その制度とは、この白陽市に五年間住んでいる中学生は入学金免除、諸経費等を公立高校並みに減額するというものである。

 これによって、毎年減少していた新入生が増加へと転ずる事に成功した。

 その白陽学園を中心に、東西南北に分かれた四つの町が点在する。

 四つの町には正式な町名があるが、この白陽市に住む大多数の人は北にある町を【北町】、南にある町を【南町】と言った具合に呼ぶ。

 市全体は北に行けば行くほど田園風景が広がり、南に行けば行くほど都市化が進んでいる状態だ。

 市の南部には白陽駅があり、駅内部に大型ショッピングモールが開業した。それにより近年は商業地としての顔も芽生え始めてきている。

  また駅周辺は繁華街となっており人波が絶えず、新幹線の主要駅と言う立地でもあるため各企業などの支社、支店や商業施設・オフィスビル・ビジネスホテルが多数混在している。



◆転校生◆



 翌朝、貴也は窓からさんさんと降りそそぐ陽射しに目を開けた。

 見慣れはじめた白い天井が、目に入る。

 そうだった――と、貴也は寝起きののろのろとした思考で思い出す――昨夜は、義妹の彩乃がやって来て夕食を作りに来たのだった。その後、一人で考え事をしていて、カーテンを閉め忘れて寝てしまったらしい。

 朝がつらいとはいえ、そろそろ起きて彩乃を起こさなければ。ああ見えて、朝が弱いからなあいつは……。

 まぶしい光に目を細めながら、貴也はソファーに手を突いて起き上がった。

 彩乃が寝ている部屋へと、貴也は向かい、ドアの前まで来た。

 ノックを二回する。しかし、返事はない。

 またノックを二回する。やはり、返事はない。

 さらにノックを二回する。返事どころか物音一つしない。

 貴也は不思議に思ったので、ドアノブを回し部屋に入って、部屋の様子を見回した。

 勉強机に青いシーツが掛けられたベット。それ以外には何もなく寝るという動きしかする事のない殺風景な部屋だ。

 だが、そこには彩乃の姿はない。

 もう学校へと出かけたのだろうか?

 そう考えていると、香ばしい匂いが鼻を刺激した。

 匂いのする方へと向きを変えて歩き出すと、楽しげな鼻歌がキッチンから聞こえてくる。

 貴也はキッチンを覗くと、そこには義妹の彩乃が料理を作っていた。

「夕食だけじゃなかったのか……」

 貴也は驚きとともに、小声でポツリと漏らした。

 その声が聞こえたのか彩乃が後ろを振り向いた。

同時に束ねていた後ろ髪が、その動きに合わせてふわりと揺れる。

 彩乃は一瞬唖然とした顔を見せたが、すぐに笑みをこぼした。



 少しして貴也は、彩乃が作った朝食を食べ終わると、学校へ行く準備をするため学生服に着替えた。

 学校指定の緑色のネクタイに紺色のブレザー、胸元には金糸縫われた校章が輝いている。

 貴也は身だしなみを整えるため鏡に写る自分と向き合い、寝癖のついた髪の毛を整髪料は使わずに整えていく。

 倉本貴也の髪は目と耳に少しかかる程度の長さで、ところどころ横へとくせっ毛のように流れている。

 一方、彩乃は貴也が着替えている間に、食器を洗って先に出ていったようだ。

 彩乃に遅れる形で、貴也も寮を出た。




 貴也は、学校正門へと続く直線上の道までやって来ていた。

 さすがにここまで来ると景色に変化が訪れる。

 左右の歩道に等間隔で並べられた桜の木などあるが、やはり一番の違いは、前を歩く人達の格好だろう。

 スーツ姿のサラリーマンや専業主婦などの姿は消え、学校指定の緑色のネクタイに紺のブレザーを着ている学生が目に入ってくる。 貴也と同じ白陽学園に通うの学生達だ。

 自分と同じように一人で通学している者もいれば、友人と談笑しながら通学しているのもいる。

 いつもの光景を漠然と見ていると、後ろから貴也の左肩に手が置かれる。

 一瞬驚き硬直したが、すぐ後ろを振り返った。それとほぼ同時に声がかけられる。

「おはよう、タカ!」

 声をかけてきた人物は、大輝だった。相変わらずにこやかな笑顔を向けている。

 ……ストレスとか感じたこと無さそうだな。

 貴也は大輝に挨拶を返す。

「おはよう、大輝。いつも通り元気そうで何よりだ」

「まあね、それが唯一の取り柄だからね」

「唯一って、それ違うだろ? 嫌みか」

 俺は笑って、鞄で大輝の脚を叩いた。それに気づいた大輝はすぐに鞄を振って俺の脚を叩き返してきた。

 そんな悪ふざけをしながら貴也と大輝は校門を抜けると、普通科の校舎へと入っていく。

 この学校は『土足禁止』ではなく『土足』なのである。

 もちろん靴箱など用意されて無い。

 二人は土足のまま入り、階段を上がり、二階の廊下を右に曲がった。

 すると、そこには貴也達が勉強する一年A組の教室が見えた。

 その先には、B組、C組の教室が並んでいる。

 まだ、始業のチャイムが鳴ってないので、大半の生徒は自分の教室には入らず、ワイワイと楽しそうに騒いでいる。教師がいない時間は生徒のもの。だから、騒がしいのは当然である。

 そんないつもの日常を見ながら、貴也は自分の教室の引き戸をガラリ開けた。

 教室の中も廊下と同様にお喋りに夢中だった。

 時計を見ると、時刻は午前八時三十八分。あと七分ほどで朝のホームルームが始まろうという時間。

 貴也は窓際の一番後ろにある自分の席に着くと、鞄から教科書とノートを出し、机の中へと閉まった。

 これが彼、倉本貴也のいつもの『日常』。

 昨日の出来事さえなければ、であるが。

 貴也はすべての荷物を入れ終わると、教室の前方から陽気な声が聞こえてくる。

「やっはー、倉本くん!」

 声がした方角へと貴也が視線を見ると、教壇を歩いて近づいてくる人物を視界にとらえた。

 緋山薫(ひやま かおる)

 糸目で黒髪の男子生徒であり、一年A組の情報屋(パパラッチ)と呼ばれるクラスメイトだ。

「なんだ、緋山か……」

「ちょ、冷たくない? 倉本く〜ん」

「その鬱陶しい言い方を止めれば普通に接してやるよ」

 貴也は朗らかな表情をしながら言い放つ。

 すると、緋山は不満げな顔を浮かべながら、小さく一言呟いた。

「一番最初に、この情報を倉本くんに教えようと思ったのに……、僕なにか悪いことでもした?」

 貴也は、小さな驚きの表情を見せるのと同時に、少しだけ緋山に引いた。

 もちろん貴也が引いた理由は、最後の一言が原因である。唇に人差し指を当てて、まるで恋人に話しかけるかの如く甘えた声音に変えたからだ。

「緋山、先に言っとくけど最後の一言が余計だ。それと、俺に話したい情報ってなんだ?」

 ふふっ、と緋山は小さく笑うと「彼女が欲しくなったでしょ!」と茶化した。

 そして、すぐに言葉を続ける。

「うちのクラスに転校生が来るんだってさ、倉本くんに彼女ができるいい機会だと思うな〜」

 緋山の言葉に、貴也は自分の意見を述べた。

「俺は……、彼女が欲しいなんて思わない」

 ……この発言は自分で嘘だと言いきれる。

 正直に言えば欲しい。今、自分は青春のまっただ中にいる、恋人が欲しいと思うのは必然と言っていい。

 だけど、もし彼女ができたとしてもあの事件ばかりに自分は思考が働いてしまうだろう……。そうなれば、彼女になった相手に申し訳が立たない。だから、『今は気持ちの整理がつかないから無理だ』こう言うべきだった。

 緋山は貴也のこの言葉に驚愕したかのように目を丸くした。

「ま、まさか倉本くんがそっち系の人だなんて」

「違うッ!! 今は気持ちの整理が着かないから無理なんだよ!」

 貴也は、誤解を早めに解くため怒気混じりの言葉を発した。

 そう言い終わるのを待っていたかのように始業のチャイムが鳴り響いた。

 廊下に出ていた生徒達はチャイムを聞くのと同時に慌てた様子で教室に戻っていった。

 ダメだ……と貴也は思う。緋山は大輝以上に悪ふざけがすぎるから、ついつい感情に任せて話してしまう。そんな緋山だからこそだろう、誰も知らない情報を持ってこれるのは……。貴也が心中にそうつぶやいた時である。

 教室の前の引き戸がガラリと開けられた。

 現れたのは一人の女性。眼鏡もネクタイも、全てをだらしなく身につけた、腰どころか太股まで届いた長さの髪に、童顔の女性。その人物は、面倒臭そうにこう言った。

「朝からうるさい。小学生か、お前らは」

 A組の担任教師――雲村瑠璃奈(くもむら るりな)先生、その人であった。



 この雲村先生という人はなんというか、教育者とは到底思えない、やる気に満ち溢れていない瞳をしている。

 だが、教師としては素晴らしい人物で、もし授業で分からないところがあれば、担当科目である社会以外もちゃんと教えてくれたり、学校内で困っている事にもちゃんと対応してくれる。

 まさに、教師の鏡とも言える人物である。ただし口は悪い。

「よ―し小学生さっさと席に着け、まぁ知っている奴も居ると思うが、今日このクラスに転校生がやってくる」

 教卓にクラス名簿をポンと置きそう告げた。

 そう雲村先生言い終わるのを待たずザワザワと騒ぎ出した教室内。

 まぁ転校生自体が珍しいからなぁ……。

 立っていた生徒は、雲村先生の言葉に従い足早に席に座って行った。

「ほら小学生静かにしろ、じゃあ入れ転校生」

 雲村先生の呼びかけに転校生が教室内に入ってきた。

 その瞬間教室内は一気に静かになった。

 それは白けたわけではなく、むしろ逆。自分達の予想を上回る転校生が入った事によって、静まり返った意外の他でもなかった。

 貴也はその瞬間、自分の周りの時が止まったように感じた。

 それと同じくして金色の髪を揺らしながら入ってくる一人の少女。

 俺はそれを見て「まさか」、という気持ちが胸中を駆け巡っていた。

「じゃあ自己紹介を頼む」

 雲村先生は転校生に対してぶっきらぼうに告げた。

 先生にそう言われた少女は、黒板に振り向き大きく綺麗な字で、名前を綴った。

「スカーリア・リ・ヴェルディエスと言います。皆さん、よろしくお願いしますね」

 そう言って微笑む彼女。

 まさしく、昨日出会った金髪少女そのものであった。

 俺は思い知る事になる。これが一体、どれほど仕組まれた計画だったのかを……。


国名 日本帝国

国歌 帝国よ永遠なれ

国家元首 天皇陛下

国家元首代理 内閣総理大臣

       征威大将軍

人口 一億四○○○万人

首都 帝京都

国際関係 国際連合常任理事国

備考 世界第二位の軍事大国

   第三次世界大戦の戦勝国

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