表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

04

 前回の投稿からかなり時間が空いてしまいました。


 次はもっとさくさく更新したいと思います!

 ひとしきり飛ぶことを堪能した後、私たちは家へと戻りました。

 ファリシエッドさんの背から滑り降りて、私は辺りを見回します。


「紹介したい子がいるのですが、見当たりませんね。少し家の中を見てきます」


 ファリシエッドさんの返事を待たずに玄関の扉を開け、中を覗き込みます。しかし、家の中にも姿はありませんでした。


「ファリィ」


 大声で呼びかけますが、答える声は返ってきません。


「すみません、ファリシエッドさん。どうやら近くにはいないようですから、探してきます」


「えっ!? 別にまた今度会う時に紹介していただければ――」


「いいえ、大丈夫です。すぐに呼んできます」


 そんなに遠くへは行っていないでしょう。大方湖の周りを散策しているだけ……。

 私は早速湖の方へ駆け出しました。


「待ってくださいミカエルさん! 私今日はちょっと用事があって、そろそろ帰らなければいけないので、また今度お願いします。ごめんなさい」


 振り返ると、ファリシエッドさんが首をすくめて申し訳なさそうに項垂れていました。


「そうですか……気付けずに無理に引き留めてしまってすみません。今日はありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました! では、また会いましょう」


 言いつつ、翼をはためかせてファリシエッドさんは飛び去って行ってしまいました。

 忙しいドラゴンです。まるで嵐のようですね。

 それにしても言動の端々に表れる自分には無い元気の良さ、羨ましいです。

 少しは見習って、私もはつらつとした受け答えをしてみましょうか。

 ファリシエッドさんの帰って行った方を見ながら、そんなことをぼんやり考えていると、小さな足音が後ろから聞こえてきました。

 おや? 良い実験相手が来たようです。


「ミカさん!」


 私は、いつもは決して浮かべないような顔の筋肉をいっぱいいっぱいに使った笑顔を作って振り返りました。


「あぁ、ファリィ。どこに行っていたの? ずいぶん探したんだからね」


「ごめんなさい。ミカさん――って、ひゃあっ!」


 可愛らしい声を上げると、ファリィは耳まで真っ赤にして固まってしまいました。


「ははは離してください! どうして突然抱き着くんですかっ!?」


「知り合いを見習って」


「えぇっ!? 意味わかりませんよ。と、とにかく離れてください」


 何故かはわかりませんがとても嫌がっているようなので、離した方が良いのでしょう。

 しかし、近くで見てもやっぱり非の打ちどころのない艶やかで綺麗な髪です。

 その上、天気の良い日に外で干した洗濯物の匂い……いわゆるお日さまの香りがします。


 そうそう、抱きついたままでいるとファリィが困ってしまいますね。

 私はファリィから離れようとして、思う様に体が動かない事に気が付きました。

 頭もどこかぼんやりとして、不思議と愉快な気分です。

 込み上げてくる笑いを抑える事が出来ずに、私は声を上げて笑いました。


「ミカさん、どうしちゃったんですかぁ……」


 自分でもわかりません。

 ただ、今の自分がかなりおかしい事だけはわかります。


 ふいに体の力が抜けて地面へと倒れていく自分を、私は他人事のように感じていました。


 強い頭の痛みに、私は目を開きました。

 あぁ、このどうしようもない体のだるさは風邪ですね。

 冬なのに毎日何時間も外にいたのがいけなかったのでしょう。


 取りあえず体を起こそうと腕に力を込め、頭を微妙に浮かせたところで扉の開く音が聞こえてきました。

 目を向けると、はしっこにタオルを載せた桶を軽々と持ったファリィが立っていました。


「良かった。目を覚ましたんですね! でもミカさん、熱があるんですから起きちゃだめですよ」


 ファリィの言うとおりに頭を枕へと沈めます。

 ファリィが持っている物から察するに、私の看病をするためにこの部屋に訪れたのでしょう。しかしいつまで経ってもファリィは扉の傍で困ったように立ち尽くしています。

 若干怖がられているような……。

 そこまで考えて私は、眠る前の出来事を思い出しました。

 あぁ、何て恥ずかしい事をしてしまったんでしょう。

 突然抱き着かれたと思ったら笑い出して、しかもそのまま気を失ってしまったらビックリしますよね。


「ごめん、ファリィ。私熱が出ると、辛いのを誤魔化そうとするのかな? ちょっと情緒不安定になって……熱があるのを自覚したらたぶん大丈夫だから」


「良いんですよ。ちょっと驚いちゃいましたが、そういう事もあると思います」


 寛大な心の持ち主です。

 安心したのかファリィは顔を綻ばせてこちらへと駆けてきました。

 桶に並々と入った水が盛大に床へと撒かれています。


「こぼれてるこぼれてる」


「ごめんなさい! うわぁ、水浸しだ……」


 まぁ、加湿効果はあるかも知れません。

 それにしても、水がたっぷり入った桶をあんなに軽々と振り回せるとは、ファリィって意外と力持ちみたいですね。

 それに私をここまで運んだのもファリィでしょうし、実は服を脱いだら素晴らしい筋肉が顔を出したりということも……。


「部屋を濡らしちゃってごめんなさい」


 しょんぼりと首をすくめて項垂れる姿は可愛らしい少女のもの。

 鍛え抜かれた体なんて、まずありえませんね。


 ファリィはタオルを水につけると力一杯絞りました。

 はち切れんばかりにタオルがねじれていきます。

 えっと……筋肉ムキムキとか、あり得ませんよね?


 ファリィは不馴れそうな手つきで私の額にタオルを置きました。


「あ、ありがとう」


 載せられたタオルからは水気というものが全く感じられません。

 いや、良いのですが。決して悪くは無いのですが。必死に絞ったけどちょっと濡れてる、くらいが少女らしいと思うのは私だけなのでしょうか。



「そういえば自分に治癒魔法を掛ける事って出来ないんですか?」


「出来るよ。日常の怪我とか、ちょっと体がだるい時とか、よく自分に治癒魔法を使ってる」


「なら」


 私はファリィの言葉を遮る為にわざと大きく首を横に振りました。


「けど今は魔法さえ使えない。魔法を使うのはある程度の集中力が必要だからね。というより、熱があるからか魔力を作れないんだけど」


「なるほど。だから家じゅうの魔法が止まってたんですね」


「うん」


 省魔力の為に暖炉は点火以外薪を使っているので大丈夫でしたが、床暖房、冷蔵庫、その他もろもろ日本の家電を模して作った魔法は使えなくなっています。

 特に困りはしませんが、明かりも魔法で灯していて蝋燭などもないので、夜は少し不便かも知れませんね。



「私が治癒魔法を使えたら――」


 今にも泣き出しそうな声に、私は慌ててファリィの顔を覗き込みました。

 引き結ばれた桃色の唇は、今にも嗚咽が漏れ聞こえてきそうな程震えています。


「治癒魔法は魔法の中でもちょっと特殊だから仕方がないよ。それに、治してあげたいって思ってくれることが、私には何よりも嬉しい」


 聞いているのか聞いていないのか、ファリィはその華奢な肩を震わせて俯いたままです。


 少し風邪を引いただけなのに随分と大げさな悲しみようではないでしょうか。

 不治の病にでも掛かったような気分です。

 それにしても、会ってから一晩しか経っていない私をどうしてそんなに心配してくれるのか、疑問に思わずにはいられません。

 気付かぬうちに彼女のトラウマにでも触れてしまったのでしょうか。


 掛ける言葉も浮かばないのでただぼんやりと見つめていると、突然勢いよくファリィが顔を上げました。


「あのっ、私、精一杯看病させていただきますねっ」


「あ、ありがとう」


「温かいお茶、淹れてきます!」


「うん、ありがとう」


 ファリィは自分に気合を入れる為か一度大きく頷くと、元気よく部屋を飛び出して行ってしまいました。


「忙しい子ですね……まるで、嵐みたい」


 ファリィが慌ただしいのは主に私が原因のような気もしますが。

 反省してもう少し健康的な生活を送るべきですかね。


 冬なのに出てきた汗のせいでべたつく髪を払い、私が小さく溜め息を吐いた瞬間、扉の向こうから重い物が地面に落ちた音が聞こえてきました。


「ファリィ?」


 返事の代わりに何かが割れる音が響きます。


 まさか泥棒――?


 私は飛び起きて、ファリィがいるであろう台所へと駆け出しました。


 しかしもし泥棒がいたとして、私が行って何ができるのでしょうか。

 魔法は使えず、武器もろくに扱えない。

 チートなんて肝心な時に役に立たなくては意味がありません。

 まぁ、生活する上ではかなり助かっていますが。


 私は腰に隠した護身用の短剣の柄を握り、意を決して勢いよく台所に飛び込みました。


「あ……ミカさん」


 気まずげに振り返ったファリィの体には傷一つありません。

 他の人間の姿も見当たりませんし、どうやら泥棒と言うわけでは無いようです。

 私はそっと息を吐き、そして惨状を目にしました。


「ファリィ、これは一体、どうなって」


 ファリィの足元にはバラバラになった皿や鍋が転がっています。

 皿はわかりますが、鍋はどうやって割ったのでしょう。


「すみません。ちょっと失敗しちゃいました」


「はは……まぁ、そういうこともあるよね」


 あまりの大惨事に私は乾いた笑い声を上げる事しか出来ませんでした。

 人間のちょっとには、随分と個人差があるようです。


「ミカ様! ファリィ! 大丈夫ですか、一体何があったのですか!」


 音を聞きつけてきたのかオルディオが緊迫した様子で駆けつけてきました。


「ちょっとね。それにしても外まで音が聞こえてたんだ。凄かったんだね」


 私の言葉にオルディオは僅かに眉をひそめました。


「音、というより火柱が見えたので」


「ん、火柱?」


 まさか――。

 私は不安を胸に視線を天井へと向けました。

 今日は一日良い天気だったんですね、綺麗な夕焼けが見えます。

 特に異常はありません。

 いや、あるでしょう。


「私の家の天井に穴が……穴がぁ……」


「うぅ、ごめんなさい。こんなつもりじゃなかったんですけど。火を点けようと思ったら力加減を間違えちゃって。本当にごめんなさい」


「いい、んだよ? 別に魔法で塞げば、すぐだしね。うん、いい。大丈夫。全然気にしてないからね」


 そもそも込めた魔力の量によって、際限なく火力を変える事が出来る魔方陣を描いたのがいけなかったんです。

 しかし、料理をする上で調節が出来なければ不便。

 まさかファリィの魔力がこんなに多いとは思わなかったという事もありますが、せめて説明しておけばこのような事態にはならなかったでしょう。


「とにかく、ファリィが無事で良かった」


 安心するとふいに気だるさが思い出されました。

 壁にもたれて誤魔化そうとしましたが、堪えきれずに私はその場にへたり込んでしまいました。


「ミカ様!?」


「大丈夫、少しふらついただけだから」


 ひんやりと冷たく気持ちの良いものが額に触れました。

 あぁ、これは手ですね。

 汗が付くよと忠告しようと思いましたが、オルディオが真剣な表情をしているので黙ります。


「酷い熱ですね」


「ミカさん、昼に倒れて……それからずっと眠ってて、さっき目を覚ましたところなの」


「倒れたって……まぁ、詳しい話は後で聞かせてもらいましょう。取りあえず治癒魔法を掛けますね」


 額に当てられた手を通して、オルディオの魔力が流れ込んでくるのが感じられます。

 体が軽くなり、思考もクリアになっていきます。



 治癒魔法というのは怪我や病により魔力の行き届かなくなった部分、魔力を作れなくなった体に魔力を送る事によって回復させる魔法です。

 自分自身に掛ける事が出来る人は多いのですが、他人に掛ける事が出来る人はあまりいません。

 それは個人個人によって魔力の質が微妙に違ってくるからだそうです。

 他人の魔力に自分の魔力を合わせるという繊細な魔力コントロールをする必要があるので難しく、また失敗すれば掛けられた方は拒否反応を起こし、あまりの痛みに悶絶することになるので敬遠されている魔法でもあります。


 それをあっさりと使うあたり、オルディオが天才と言われているのも頷けますね。


「ありがとう、かなり楽になったよ」

 私は立ち上がりつつそう言いました。

 まだ自分で魔力は作れませんが、それも休めば治るでしょう。


「何が起こるかわからないので、一応今夜は私もここで過ごそうと思います。あと夕飯を作れそうな人もいないので、そのまま食べる事が出来る物を調達するついでに、この事を報告する為に今から少し都に戻ります。詳しい話は都から帰ってから聞かせてください」


「わかった。色々と迷惑を掛けてごめん、ありがとう」


「仕事ですので。そういえばファリィ、君の服を買ったから、ミカ様みたいに倒れない内に着替えておくこと」


「あ、ありがとうございます……えへへ」


 オルディオは何着か服をファリィに手渡しました。

 全体的に青っぽい服が多いですね。瞳の色に合わせているのか、それとも彼女のイメージなのか。

 受け取ったファリィはだらしなく口元を緩めて喜んでいます。

 実に可愛いですね。


「では、行ってきます。ミカ様は安静にしていてくださいね」


「うん」


 オルディオを見送ってから、天井に開いた穴を塞いでもらうのを忘れた事に気が付きました。

 まぁ、台所はしばらく放置でしょう。


「ファリィ。私はオルディオの言うとおり寝るから、何かあったら呼んで」


「あっ、はい!」


 ファリィの着替え終わった姿を見られないのは残念ですが、起きていてオルディオに説教されるのも嫌なので仕方ありません。


「じゃあ、後はよろしく」


「わかりました」



 寝室に入り、ベッドにダイブしてすぐに私は眠りに落ちました。


 読んで下さりありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ