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現実はそんなに甘くない!

作者:

 女子に囲まれた高校生活は、きっと男子にとっては夢で、ロマンで、青春なんだろう。

 休み時間に女子と戯れて、勉強のことで質問なんかして、そのまま一緒に勉強したりとか。昼休みに、一緒に弁当を食べたりして。放課後なんかは、たまたま帰り道が一緒になっちゃったりとか。

 夢見すぎ? いいじゃないか、中学三年生、高校生活に夢を馳せても。俺は女子と仲良くしたい。というよりも、やっぱり彼女は欲しい。年齢が彼女いない歴だなんて言いたくない。


 だから、クラスの中に男が俺ともう一人だけだと分かった時は、不安よりもまずそんな夢の実現を夢見たんだ。




「なのに、こんな現実なんて……!!」

「なにやってんの、高森?」


 机に突っ伏し現実を嘆いた俺に、日比野が奇妙なものを見るような目を向けた。うん、やめて。悲しくなる。


「いや、ちょっとこう、言いようのない悲しみを吐き出してただけ……」

「ああ、またか。しょうがないじゃん、現実なんてこんなもんだって」

「それでも俺は夢を見たかった!!」


 あまいあまい青春の夢を、俺は見たかった。そう、過去形だ。なぜならその夢は入学初日にぶち壊れている。

 女子との戯れも、休み時間の勉強イベントも、お弁当も帰り道も何もかも!!


「女子恐い………」

「そうだねぇ。私も恐いよ」


 切実なまでの俺の呟きに、日比野はうんうんと深く頷き返してくれた。




 俺が入学した央柳高校は、どこにでもあるような有り触れた公立高校だ。

 この街には公立高校が三校、私立が四校ある。計七校あるわけだが、央柳高校の学力は四番目と僅かに下の方だ。ただ、公立と私立それぞれ一校が進学校であり、それが一位と二位を独占しているのをここに記しておく。順位としては下だが、決して馬鹿の集まりというわけでは無い。

 央柳高校の特徴としては、その授業内容にパソコン関係を多く取り入れている事だろうか。といっても、何もプログラムを組んだりという専門的なものでは無い。ワードやエクセルといった、まあ事務で使用するパソコンの技術を授業で教えてくれるという感じだ。資格も取れる。

 他の公立校が卒業後は大学への進学を目的とするなら、央柳は就職を目的としている。残念ながらお金に困ることは無くともさほど裕福でも無い家は、卒業後は就職するようにと親のお達しだ。二つ上の姉が進学したというのに、なんだか不公平にも感じるが仕方が無い。これは俺も同意の上だ。

 まあ、そんな理由から進学先を央柳に選んだ俺だが、一つだけ期待していた事があった。高校に入れば、いや、央柳に入れば彼女が出来ると思っていた。女友達が出来ると思っていた。

 中学までは男と遊ぶばかりで、見事に女っ気が無かった。クラスに女子はいたが、俺は彼女が欲しいとは思うも女子のグループに突撃することは出来なかった。いや、だってなんか、入り辛いじゃん?

 それなのに、彼女が出来ると思っていたんだ。央柳のもう一つの特徴から、無条件にそう思っていた。思いとどまれ中学三年生の頃の俺。

 俺は、甘く見ていたんだ。自分のコミュニケーション能力の低さと………箍を外した女子の恐さを。

 央柳の特徴、女子が多い。三十人のクラスに、男が二人だけという程に―――。




「漫画やアニメじゃあるまいし、現実でそんな都合よく性格の良いというかキャラの濃い女子ばかりが集まることは無いって。しかも央柳じゃねぇ……何だかんだで宝仙も裏は結構荒れてるって聞くし」


 宝仙というのは、さっきの学力ランキングで言うと三位の公立高校だ。


「いや、宝仙はどうでも……ってか、ある意味キャラは濃い。中学にはいなかったから」


 中学の頃は、授業中に化粧をする女子も(校則違反だ)、机に突っ伏して堂々と寝る女子も(授業はちゃんと聞こう)、漫画を読む女子も(持ち込んで良かったのか?)、授業妨害な勢いで雑談する女子も(学級崩壊か?)、誰一人といなかった。中学が真面目なのか央柳が不真面目なのか……俺には分からない。


「あ、そっちそんな煩いんだ?」

「ああ。ってか、どのクラスも煩いんじゃないか?」

「うちは別に。というよりも静かすぎて、先生に心配された」

「なんだそりゃ」


 央柳において、静かに授業が進行するのは珍しいというか、奇跡なんだとか。先生方、さすがに慣れ過ぎだ。普通の学校は静かに進行するのが当たり前だ。


「まあ、静かな理由も化粧してるか、寝てるか、漫画読んでるかが大半なんだけど。あとは真面目に勉強してるか……ああ、あと、携帯弄ってるか」

「あ、それはこっちもあるぞ」

「だろうねー」


 ………これで学力ランキング四位って、むしろ凄くないか? たぶん、真面目に勉強してる女子が平均点を引き上げてるんだろうな。


「ただいまー」

「遅くなったー」

「やー。おかえりー」


 ノックも無しにガラリと開けられた扉から、女子が二人入ってきた。


「なぜにただいま?」

「なんとなく」

「そんな感じだったから」

「ってか、日比野も返してただろ」

「まあね」


 何気ない雑談だ。普通過ぎてというか何一つと面白味のない雑談だ。

 鞄を下した女子二人が教室の隅に片付けられた椅子を引っ張ってくる。二つ並べた机を囲むようにして、俺たち四人は座っていた。


「んー、とりあえず、今日の部活始めよっか」


 放課後、その言葉を合図に俺が所属する演劇部の活動が始まった。




 同性ばかりを集めると、どうにも遠慮というものが欠如するらしい。央柳に入って、俺はつくづくそれを思い知った。

 分かりやすい例を、というよりも実情を言うなら、着替えだろう。体育の際の着替えだ。

 制服を脱ぎジャージに着替える、これは男には非常に目に毒だ。目の前でやられると目のやり場に困るというか、そもそもその場にいられない。

というよりも、普通は男がいる前で着替えるか? 最初こそ更衣室で着替えたり、俺ともう一人の男(名前は志島という)がそそくさと足早に更衣室に移動するのを待ったりとしていたが、一月が経った頃にそれが無くなった。全員というわけでは無いが……教室内でそのまま着替える女子が増えた。忘れ物をして取りに戻る、なんてことは俺にとっては命取りだ。………まあ、女子の方は気にしていないというか、俺が着替え中なのを忘れて教室に入っても誰一人焦らなかったのを見ると、俺は男と見られていないのかもしれない。見られて焦りそうな真面目そうな女子は、更衣室に移動して着替えてるみたいだしな。

まあ、隣のクラスの日比野の話だと、そっちは一週間で更衣室に移動せずに着替える奴が九割を占めたらしい。日比野のクラスはあいつも含めて三十人全員が女子……遠慮が無くなるのは早かった。だが、担任である教師(男)がいてもそのまま着替えだすのがいる辺り、もう遠慮とかそういう問題じゃない気がする。

そんな実情を筆頭に、俺の中にあった女子のイメージはガラガラと音を立てて崩れ去って行った。清楚で可憐な女子は、この学校にはいなかった(いても話しかけたりは出来ない気がするが、それは気にしないでおこう)。

………そんな俺でも、やはり高校生の青春全てを捨てきることは出来ず。藁にも縋る想いで、俺は部活をすることにした。高校生と言えば部活、部活と言えば青春と俺の中の方程式が訴えかけて来たのだ。ちなみに入部届を出した後で、志島から男で部活に入っているのは全学年で俺だけだと聞かされた。出した入部届を取り下げようかと本気で考えた瞬間だった。

そうして俺が入ったのは演劇部だった。なぜに運動系では無く文化系の演劇部だったかと言えば、見学に行った運動部は全て女子で構成されていたからだ。男が一人入って、いったいどんな立場に立てるというんだ。孤立無援でいったい何に立ち向かえと言うんだ。試合も出来ずに毎日放課後は一人で汗を流す青春なんて、俺の求めているものじゃ無い。

そんな理由から諦めた運動系。次に見学に行った文化系の部活だが、問題は山積みというか高い壁となって俺の前に立ちはだかっていた。

吹奏楽部、楽器の経験も無ければやれる自信も無く却下した。女子ばかりでその人数がクラス相当だったのも理由の一つだ。この時点で、大人数の女子に対する俺の恐怖心が垣間見える。

茶道部、人数は少なく雰囲気は良さそうだったが、致命的な問題。俺は抹茶が嫌いだ。

書道部、活動が不定期で集まりが悪いそうな。却下。

家庭科部、体験入学の際、縫い針で指をぐさぐさ刺した。自分の不器用さを嘆き却下。

………一通りの部活を見学し、壁の高さと自分の能力の低さと欠点を嘆くに終わった。いや、俺の理想が高すぎるのか? いやいやないない。

そして、最後まで残ったのが演劇部だった。そこで俺は馬鹿をやった。見学も行かず、入部届を出したのだ。すさまじく馬鹿だ、殴ってでも止めるべきだっただろう。現実を見ればまた入部に辿り着けないと思い、現実を見ずに入部することにしたのだ。何という挑戦者魂、今すぐそこの窓から飛び降りろ。

……顧問だと言うお爺さん先生から、部活の日取りを聞いたときに確認すればよかったんだ。演劇部が、どういう状況なのかを。

まさかだと思うだろう。初めて部活に行ったその日、集まっていた女子を見るまで、俺はそんな現実が待ち構えているとは思っていなかった。いや、正確にはその女子たちから話を聞くまで、か。

入部した一年生は、俺を含めた四人だと。そしてその四人だけが、演劇部の部員なのだと―――演劇部は、今年卒業した三年生を最後に廃部となる筈の部活だったのだ。




「ぶるんぶるんぶるん、はるちるがるとるぶる~」


 発声練習に滑舌の練習、円形に距離を取って立った俺たち。どうにか噛まないように四苦八苦して歌いながら、俺は他の部員たちを眺めた。

 一人目、日比野真子。他二人が来るまで話していた、隣のクラスの女子。ちなみに俺が二組で日比野が一組だ。

 特徴というか、まあ第一に思うのは……あれだ、ふくよかな体だ。痩せれば可愛いんじゃないか? というやつだ。性格は、物静かかと思えば割としゃべる。本人曰くネガティブらしいが、今のところそれらしきものを俺は目撃していない。


「でれんでれんむるしりむるしりからたらつるむるりり~」


 二人目、秋元奏。部活開始の合図を出した、一年生にして部長となった女子だ。ちなみに俺はヒラ、日比野は会計で、日比野と秋元は同じクラスだ。

 身長は、平均女子よりも数センチ低いくらい、部活内で一番小さい。化粧はしていないが、それで普通に可愛い、それが良い。演劇部に入って良かったと思った。ただ、それは見た目だけで中身はあれだった。本人曰く可愛い子が好きなんだという……クラスで仲良くなった可愛い女子の話をデレデレと楽しそうにされた時は、可愛いと思いつつ反応に困った。


「東京特許許可局、許可局長の許可、東京特許許可局、許可局長の許可」


 三人目、山代澪。副部長となった女子、ちなみにこの役職だが、実はくじ引きで決められた。クラスは俺と同じ二組だが、この部活で一緒になるまで話したことは無かった。

 至って普通の、真面目そうな女子だ。眼鏡をかけると男女関係なく真面目に見えるのは俺だけか? とりあえず、教師からは優等生と思われていること確実だ。ただ、なんというか、時々発言がぶっ飛んでいるんだが、それはどうなんだろう。ツッコんでもいい、んだよな?


「かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、合わせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ」


 四人目、俺、高森浩介。高校に入れば彼女が出来て、女子と楽しい高校生活が送れると夢見ていた男だ。悲しい事に夢破れて現実は甘くないと知った。


「発声&滑舌終了ー。ってなわけで、今日はなにしよっかぁ」


 演劇部は、説明した通り先輩となる三年生も二年生もいない。入部が誰もいなければ廃部の予定だったのだから、当然と言えば当然だ。

 一年生で入部してきた俺たちは、全員が演劇に対して全くの素人。というよりも、話を聞けば目の前の女子三人は、とりあえず部活ということで入部したに過ぎないらしい。俺もある意味似たような理由とも言えるので、人のことは言えないが。


「んー、とりあえず部室探索?」

「台本漁りすればいいんじゃない?」


 顧問のお爺さん先生も多忙でなかなか部室に来ない。なので、殆ど俺たちは手探りで練習を行っている………自由気ままに遊んでいると言っても過言では無いかもしれない。活動内容に、部室探索があるくらいだから。


「お、面白そうな台本はっけーん」

「どんなの?」


 教室奥の壁際に置かれた棚を漁っていた日比野の言葉に、秋元が寄って行った。数あるロッカーを覗いていた山代、窓際に置かれた別の棚を見ていた俺も近寄る。

 壁際の棚は、台本置き場とされていたらしい。過去の演劇部が使用してきた数々の台本が、埃を被って積み重なっている。


「んーとねー……引きこもりのヒーローの話、っぽい?」

「なんだそりゃ」


 思わず呟いた。日比野は台本の表紙を、俺たち三人に見せた。


「ヒーローは引きこもり」


 ……タイトルで内容を示していた。山代が日比野の隣で台本の山を漁って、残念そうな声で言った。


「その台本、それ一冊しかないよ」

「あー……さすがに一冊じゃなぁ。今度、コピーして来よう」

「だね」


 台本は山積みでも、それが人数分あることは稀だった。大体が三冊までしか無くて、いつも誰かしら同じ台本を使っている。グーパーで決めるが、それで秋元と組めたときは最高のひと時を味わえる。


「うーん、どうしよっか」


 しばらくの部室探索を終えて、示し合わせたように椅子に座った。日比野が言う。


「このままぐだぐだする?」


 さすがにそれは無い、とは言えない。よくあるパターンだったからだ。


「それでもいいかもね」

「でしょでしょ」


 秋元が頷くと、まあ、そんな雰囲気になる。これはこのままぐだぐだパターンだ。いつものことだな。


「ぐだぐだって言っても、何するんだよ」

「ぐだぐだはぐだぐだじゃない?」

「いや、答えになってないって」


 日比野の答えに呆れた溜息。たぶん、これはこのまま駄弁って終わりだろう。


「んー、しりとりでもする?」

「なぜに」

「というかしりとりって」


 山代は時々、話の前後関係なしに発言する。そしてそれに、日比野と秋元が揃って反応を返す。今更ながら、日比野たちは中学も一緒だったらしい。


「(そこに俺が飛び込んだ、と)」


 何気に置いてけぼりを感じる時がある俺だ。女子の結束力というか、男とは違う絆でもあるのか。


「リスト」

「トンビ」

「ビール」

「次、高森だよ。三文字ルール」


 ……気づけば、しりとりが始まっていた。しかも三文字限定らしい。

 思った。女子がどうのというより、目の前のこいつらの会話というか、ノリが俺にはまだ理解不能なんだろう。さっきの流れでどうしてしりとりをやることになった。


「ル、ル……ルール」

「ルーズ」

「ずこう」

「うちわ」

「わなげ」

「ゲート」

「トマト」

「トビラ」

「ラッコ」


 ……………これ、いつまで続くんだ。


 結局、しりとりが終わったのは部活が終わると同時だった。演劇部なのにそれで部活が終わるってどうなんだ。というより、かれこれ一時間半はしりとりが続いたのだと思うと、それにも驚きというかなんというか。


「………絶対」


 違うよな、俺の求めた青春。帰り支度を始めた三人を前に、俺はこれからの高校生活がどうなるのかと、今更ながらに不安に駆られるのだった。



ギャグにもほのぼのにもなれませんでした。

とりあえず、キャラをもっと活き活きとさせるような文章を書けるように頑張ります。


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