プロローグ
カタタン・・・カタタン・・・カタタン・・・
街へ向かう1編成の汽車。
冬が近づいている。まだ4時半なのにもうあたりは薄暗い。
「終点まであと10分ほどね。」
「ねぇ、終点ってこの国の首都でしょ。何をする?」
「そうだなぁ…」
汽車の中では至る所で楽しげな笑い声が聞こえていた。
「…まずい。」
それとは裏腹に、深刻な表情を見せる帽子を目深にかぶった車掌。
人をかき分け、1両目の運転室へ向かう。
「フィード運転士!この汽車はまだ止まらないのですか!」
運転士は速度計をに視線を落とす。時速130キロ。
「…なぜ、通常の倍の速さが…」
「こうなったのも、あなたの操作ミスじゃないのですか!!」
車掌の語気が強まる。
運転士は反論せず、ただブレーキを必死に操作している。
しかし、その眼は責任に押しつぶされた心を映し出していた。
そんな姿を見て、車掌は自分の言った言葉を後悔した。
「…すみません。わかってたんです。あなたのせいではないことも。冷静なそぶりを見せているけど、本当は誰よりも乗客のことを考えて必死に行動していることも。」
「いいのだよ、ガウス君」
優しく答える運転士。
運転室の窓に、光が見えてくる。
「あれが…終…点…。」
汽車は一向にとまりそうにない。
流石に異変に気が付いたのだろうか、乗客席のほうからもどよめきが聞こえてくる。
「センタータウン駅を越えたら、すぐに線路は途切れます。いや、線路がなくなるだけじゃない、壁があるのです。」
「知っているわい、そんなこと。」
「ガウス君」
運転手は静かに立ち上がる。
「もうなすすべはない。」
「そんな!何を言うのですか!あきらめないのが自分の信念とあれほど言っていたのは誰ですか!」
「覚えているよ…。でも、これは我々が制御できるトラブルではない。」
「……」
「いいか、生き延びることを信じるんだ。絶対に。」
「…、はい!」
涙を流す車掌。
「できるだけ衝撃が少なくて済むように乗客を後ろへ誘導します!私も一緒に行くので、あなたも早く来てください!」
「分かった。でも、先に行っていてくれ」
「はい。」
運転士だけになった先頭車両。
途切れる線路の先がどんどん迫ってくる。
「フッ…、本当はだれ一人助からないのだろうな…」
目をつむる運転士。
「これが長い間言い伝えられてきた…神の戒めか…。」
そう呟いたとき、汽車は線路から外れ、前にある壁に衝突していった…。