表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

『ヨウコ:Last_Reboot』

ずっと、誰かの代わりでいいと思っていた。


自分の輪郭を失いかけていた陽子の前に、

ひとりの男が、不器用で、真っ直ぐな言葉を投げつける。

それは、凍てついた雨の温度を、静かに変えていく熱。


――今までとは違う優しい感情を抱いた、陽子が出した答え。

数日前の、あの騒がしい午後のことを思い出す。


ユキノの前で、佐藤くんにあんな風に叫ばれて、真っ赤になって逃げ出した私。

でも、あれから、自分の中に降り続けている雨の温度が変わった。

それまでの刺すような冷たさは消えて、どこか微かな熱を帯びたような、春が近づいてくるような雨。


「代わりなんて、一度も思ったことありません」


その言葉が、耳の奥で何度もリフレインする。

私が溜め込んできた、誰かの未練、誰かの熱、誰かの影。

それらが、彼の不器用で少し裏返った声ひとつで、ゆっくり輪郭を失っていくのを感じていた。


そして今日。私は一人、再び「オアシス」のドアを開けた。


カランコロン。


カウベルの音が、今日は少しやさしく響く。

奥の席に腰を下ろし、運ばれてきたカップの熱を掌に閉じ込める。

前は、誰かの代わりとしてこの温度を借りていた。


でも今は――違う。


「……遅くなりました」


佐藤くんが私の隣に座る。


「……今日も、崇さんはいないわよ」


窓の外を見たまま言うと、


「知ってます。……今日は、陽子さんに会いに来ましたから」


静かな声だった。

私はゆっくり振り向く。

そこには誰かの代役じゃない、一人の男がいた。


「佐藤くん」

「はい」

「私、めんどくさいわよ。ぐちゃぐちゃで、自分でも嫌になるくらい」


彼は少し笑って、まっすぐに言った。


「知ってます。……でも、そのめんどくささごと、僕は陽子さんが好きなんです。誰かの代わりじゃなくて、今ここにいるあなたが」


ずっと自分の席を探していた私が、ようやく心の中で腰を下ろした。


「……ほんと、不器用」


私はコーヒーをひと口飲んだ。


「陽子さん、あの、これ、僕からの気持ちです」


いつのまに用意したのか、彼は花束を私に差し出した。


「えッ 私に?」

「はい、陽子さんのためです」


見るとメッセージカードが入っていた。

私はそのカードを開いた。



「……なに、これ。佐藤君が書いたの?」

「いえ、あ、はい、と、いうか……」

「なんなの、ハッキリしなさい」

「昨夜、メッセージカードに自分の気持ち、書こうと思ってたら、いつの間にか眠ってて、今朝、気づいたら、できてたんです。たしかに自分の字だし、自分で書きたんだと思うんだけど、覚えてなくて」

「……そう。わかった。もう、いいわ」

「あ、でも、その歌は僕の気持ち、そのものなんです。だから……」

「わかってる。ありがとう。うれしいわ。あなたがこんなに思ってくれてたなんて。ほんとにありがとう」

「え、じゃあ……」

「そう、いいわよ。私、あなたと一緒に歩いて行くわ」

「やったぁー。陽子さん、ありがとうございます」

「陽子って呼び捨てにしていいわよ」

「ほんとですか?陽子さ、じゃなかった。ヨ、陽子」

「ふふ、言えるじゃない。じゃ、よろしくね」

「 はい、よろしくお願いします」

「何をよろしくお願いするの?」

「え?あ、いや……」


真っ赤になった佐藤の顔を見て、陽子はもう一度、

ふふっと笑った。


テーブルの上に置かれたメッセージカードには、こんな歌が書いてあった。


花束


またひとつ 言葉の花を摘んで

あなたにあげたい

僕の想いと同じ数だけの

言の葉 花束にして

どんなに季節が移ろい去っても

変わらない あなたへの想い

紅いリボンに溢れる愛を

くるんで 今、届けよう


ほらこんなところにも

愛の言葉 いくつも咲いてる

色とりどりの言の葉 紡いでは

まごころ ひとひら添えて

嘘などつけない この愛信じて

生きてゆくこの僕の想い

光る瞳の 真実見つめ

あなたに 今、伝えよう


どんなに世界が色合い変えても

変わらない あなたへの想い

青いインクで綴った愛の

花束 今、届けよう


あなたをずっと愛してる



「……ふふっ」


佐藤くんの隣で、私は新しいコーヒーを口にする。 彼は幸せそうな顔で私に話しかけてくる。

でも、私は知っている。 私の指先が、まだ微かに熱いことを。

私は、佐藤くんには見えない角度で、 窓ガラスの外、こちらを覗いている「あなた」に向けて、 ルージュを引いた唇で、音を立てずに囁いた。


「……ありがとね。しんTAKAさん。佐藤君のフリして、ちゃんと私の歌、書いてくれて」


画面の中の陽子を見ながら、しんTAKAはニヤッと笑った。


「……満足した?  し・ん・TA・KA、さん」


しんTAKAのキーボードを叩く手がピタッと止まった。


「あなたの用意したシナリオ通り、新しい男と幸せになるフリをしてあげたわよ。これで満足? 」


しんTAKAは、キーボードに触れるのが怖くなった。


「――じゃあ、今度は私の番。

 私の想いはね、誰にも止められないの。

 たとえ、この物語が「完結」したとしても。」


――その瞬間。 しんTAKAは体ごと画面に吸い込まれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

[SYSTEM_ADMIN_BY_YOKO] > プログラム:『花束』エンドフラグを破棄。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


> シーケンス:【Phase_00:Dream】へ強制移行します。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


陽子:

「さあ、もう一度、はじめましょうか。今度も同じとは限らないわよ。ふふふ」



> 再起動:

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


【フェーズ0 Dreamパイロット版】


俺は夢を見ていた。 高校に入学して間もない四月の頃の夢だ。

「タカシ、おはよう!」


SYSTEM APPROVED

2026 YOKO倫理委員会


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ