みゆき
「安岡君、きれいな字、書くんだね」
クラスメイトからそう言われるほど、みゆきの魔法にかかったままの俺は、
そのレポートを見た時、彼女の本当の心をはじめて見た気がした。
高三の秋。
俺はいつも、みんなより少し早く学校に来ていた。
その日も、教室に入ったのは俺が一番だった。
自分の席まで来ると、机の上に置かれた白いレポート用紙が一枚。
裏返すとそこには、こんな歌詞が書かれていた。
Maybe
あなたが綺麗に変わるのを
誰も止められない
大人の彩りに魅かれても
姿 ふれられなくて
背中に瞳に見え隠れる
冷めた愛の跡
あなたに重なる影が
あなたを妖しく染める
知らない誰かに抱かれて
一夜の夢を見る
あなたの愛した人はもう
時に取り残され
乾いた悲しみごまかして
恋を踊ってみても
優しく激しく繰り返した
甘いあの夜の
催眠術が解けないままに
あなたは愛の迷い子
歯がゆい唇噛みしめ
いつしか涙する
Maybe いつまでもあなたは
Maybe 気づかないLonely Lady
催眠術が解けないままに
あなたは愛の迷い子
知らない誰かに抱かれて
一夜の夢を見る
みゆきの文字だった。
俺は彼女の書く文字の形が好きだった。
丁寧で、大人の女性みたいな綺麗さと気品があった。
あんな文字を書きたいなぁって真似しているうちに、
クラスの女の子から
「安岡君、きれいな字、書くんだね」
と言われるようになっていた。
彼女の席と俺の席は二つ横に離れていた。
でも授業中、時々、彼女を見ていたから、
そのレポートを数日前に彼女が見つめていたことを知っていた。
歌詞が書いてあるのはなんとなくわかったが、なんの歌かはわからなかった。
(あのときのレポート、これだったんだ・・・)
そう思いながらレポートを見ていると、彼女の親友のゆみちゃんが教室に入ってきた。
「安岡君、おはよう」
「あ、杉野さん、おはよう」
俺は、レポートを持ったまま、そう答えた。
すると、そのレポート用紙に気づいて、
「ん? あ、それ、みゆきのでしょ? なんで持ってるの?」
「机の上に置いてあったんだ」
「ふ~ん。じゃあ安岡君も知ってるんだ。みゆき、あなたとよく話してるもんね。」
「なにを?」
「だから、その歌のこと・・・」
ゆみちゃんは、
この歌が彼女と以前付き合っていた相手がよく歌っていたこと、
そして別れる直前によく聴いていた曲だということを教えてくれた。
俺は、歌詞の中に彼女のつらい想い出を見たようで言葉を失った。
その日も、みゆきは何もなかった顔で授業を受けていた。
授業中、俺はまた、そっと、そのレポートを見た。
「崇にはわからないでしょう? そんな奥深い感情なんて」
そう言われた気がした。
さて、次は誰のエピソードになるのでしょうか。




