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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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第十一話  「終止符(ピリオド)の向こう側」

めいっぱい自転車を漕げば、すべてがキラキラ輝いて見えた。

ピアノの練習をする彼女と、ギターを抱えた俺たち。

彩乃から手渡された「終止符」という詩に、俺はありったけの希望を込めて音を付けた。

悲しい歌を、未来への旅立ちに変えるために。


【フェーズDream EXTRAボーナス】


陽子と結ばれた後、深い眠りの中で俺はまた高校時代の夢を見ていた。


その頃はもう放課後、みゆきと一緒に歌うことはなくなっていた。 それでも、みゆきは俺に思わせぶりな態度をとっていた。思い出したかのように音楽室に現れ、「タカシ、あの曲弾いてよ」と何もなかったように甘えてくることもあった。

俺は彼女のことを忘れたいと思っているのに、毎日のようにそんな態度をとってくるみゆきに心をかき乱されていた。それを忘れるため、必死でギターを覚え、自分で曲も作るようになった。岸本も俺と一緒の頃にギターを始めており、ふたりで「こんな曲作った」とか言い合って、もう一人、佐久本というやつも加えて、三人の頭文字をとって「SKY」というバンドを組んでいた。


高三になった四月の放課後、音楽室で岸本たちとギターを弾いているとピアノの練習をしにきた子がいた。同じクラスの三井彩乃だった。彼女は保育士になりたくて、この時間、音楽室に来ていた。

俺は、


「あ、ピアノの練習するんだよね? ごめん。俺たちすぐ帰るから」


と言った。

三井は、


「ううん、安岡君たち、いつもここでギター弾いてるでしょ。楽しそうだなって思ってた。ねぇ、もう少し何か弾いてよ。あ、あれ知ってる?」

「あれって?」

「テレビドラマの主題歌で『ふるさとへもうすぐ帰ってく〜』ってやつ」


それを聞いた佐久本が、


「ああ、あれか」


と言ってギターでその曲を弾き始めた。その曲は、青春ど真ん中にいると思っている俺からすると「年寄りくさい歌」で、佐久本によく「お前は年寄りか」とツッコんでいたものだった。

彼女は佐久本の演奏を聴いて、


「そう、それ。いい曲だよね」


と言った。

その瞬間、この曲に対する俺の評価は変わった。


「佐久本君、キミ、いい曲、弾いてるね。俺にも教えて」

「安岡君もそう思うでしょ」

「もちろんだよ。前からいいと思ってたんだ」


と、後ろで聞いていた佐久本が苦笑した。

彼女が、


「だよね、やっぱりわかる人にはわかるんだよね」


と言ったので、俺は、


「ああ、これがわからないやつの気が知れないよ」


そう言いながら、心の中で佐久本に謝った。

その後、佐久本に弾き方を教わって弾いてみると意外にも綺麗な曲ということがわかった。しかもギターの弾き方を練習するのにもってこいってほどのテクニックが必要で、


(だから佐久本のやつ、ずっと弾いてたのか)


とわかった。


彩乃は、いつも優しかった。

誰かが話している時、必ず最後まで聞いてから口を開いた。岸本や佐久本も


「彼女、いいよな。ほっとする感じがする」


と言っていた。


それから俺たちは、他の音楽好きの仲間とも集まって、放課後にピアノやギターを弾いて遊ぶようになった。話してみると、彼女も自分で詩を書いているらしいことがわかった。

彩乃は話上手というわけじゃない。でも、人を傷つけることは決して言わない。だから一緒にいて、不思議と楽というか、普段の自分でいられた。



季節は初夏を迎えようとしていた。 青い空、緑の風、初夏の匂い、すべてがキラキラ輝いて見えた。


(よーし、今日も彼女と一緒に歌うぞ)


俺はイヤホンから聴こえる曲に心を躍らせながら、めいっぱい自転車を漕いで学校に向かった。



♪「初恋ラプソディー」


陽ざし射すアスファルトの上

めいっぱい自転車こぎ出せば

青い空 緑の風 夏の匂い 

すべてがキラキラ輝いて見えた


ラララ〜 ラララ〜…

繰り返し 繰り返し 

頭の中を流れるのは

ラララ〜 ラララ〜

昨日、君が教えてくれた歌


ラララ〜 ラララ〜…

気づけば また口ずさんでる

君が好きな歌



ラララ〜 ラララ〜…

気づけば また考えてる

歌が好きな君‥‥のこと




彩乃は、二年の時に好きになった相手がいた。俺はそれを知っていたが、そいつは、確か他の子が好きだと友達から聞いていた。

その頃の俺は、みゆきの思わせぶりな態度に振り回されていたから他人の恋愛をどうこう思える余裕はなく、他人事だと思っていた。

みゆきは、時々、気に入った曲や自分で書いた詩なんかも小さな便箋に書いて渡してきた。その文字はやっぱり大人びた文字で、その字を見ると嬉しくなってしまう自分がいた。ずっと、見ているうちに、やっぱりフラれたのは錯覚だったんじゃないかとさえ思えるほどだった。みゆきの文字を見ているうちに、彼女と同じような字が書きたくなった。いつも何気になぞったり、真似して書いているうちに、ある日、同級生の女の子から、


「安岡君、綺麗な字、書くね。なんか栗山さんみたいな文字」


と言われ、ドキッとしたことがあった。知らない間に俺の文字は彼女の文字に似てきていた。そう、俺はみゆきの魔法にかかったまま、抜けられずにいたのだ。

彩乃と話すようになって、彩乃の好きな相手のことはすっかり忘れていたが、ある日、彼女がそいつからフラれたって彼女の友達が教えてくれた。

その日、彩乃は学校を休んでいた。 翌日も彼女は学校を休んだ。俺は少し心配になった。


(明日来なかったら、連絡してみようかな……)


と思っていると、その晩、彼女から電話がかかってきた。


「もしもし……」

「あ、安岡君?」

「あ、三井さん、どうしたの?二日も休んだから心配してたんだよ」

「うん、昨日と今日、風邪で寝込んじゃって休んだから、昨日と今日の分のノート、明日、見せてもらえないかなと思って」

「え、風邪引いたの?あんまり無理しないでね。ノートは全然貸すけど、俺のノートでいいの?」

「いいよ。安岡君、字、綺麗だもんね」

「そうかなぁ」

「作詞のノート見せてもらったときに、女の子みたいな字だと思ったのよ」

「え、あ、そう。まぁ、詩を書くようになって俺もだいぶ字が変わったけどね」

「うん、栗山さんの字にちょっと似てるなと思って。彼女、恋愛に関してはいろいろと噂があるけど、勉強はすごいもんね」

「まぁな、栗山は頭いいから。栗山に頼んで、ノート借りたらいいんじゃない?」

「うん、まぁ、でも、なんか頼みづらくてね」

「そうか、まぁ、そういうところもあいつにはあるな。俺のノートで良ければいつでもどうぞ」

「ありがとう。助かった」


俺は思い切って、


「あのさ、……フラれたって聞いたけど、大丈夫?」


と彼女に聞いた。


「うん、フラれた。いっぱい泣いた。でももう終わり」

「へ?」

「ふて寝したからもういいの」


(ふて寝したから、もういい?俺は二年前の初恋をいまだに引きずっているのに、『もういい』だなんて、女の子って過去をひきずらないんだな。でも、彼女、強がってるだけかもしれないしな)

「そうなの?本当にそうならいいんだけど……」


と俺は彼女の気持ちを探るようにこう言った。すると、綾乃は、


「安岡くん、なんか普段と声、違うね。低いというか、優しいというか……」


と言った。


「ああ、普段は、『おい、岸本、ギター弾こうぜ』みたいな言い方だから?」

「そうそう。だから、なんか違う人に電話かけちゃったみたい」

「いや、いつもテンション高いわけじゃないよ。特に今の状態の君と話すとこんな感じになるよ」

「まぁ、それはそうかもね。でもいつもの安岡君の声も好きよ」

「それは、どうもありがとう……って言ってもなかなか戻せないないなぁ」

「ふふ、気にしなくていいよ。充分、気持ちは伝わってるから。ありがとね」


そのあとはたわいもない話をして電話を切った。

翌日、俺は三日ぶりに学校へやってきた彼女にノートをかしてあげた。


「ありがとう。じゃ、かわりにハイ、これ」


と折りたたんだ一枚のノートの切れ端を渡してくれた。


「何。これ?見ていいの?」

「うん」と彼女は少し恥ずかしそうにそう言った。


開いてみると、『終止符』という詩が書かれていた。


「安岡君、これに曲つけてくれる?」

「え、俺が? そんなことしていいの?」

「うん。この詩、安岡君に曲つけてもらいたいなって思って」

「嬉しいな。わかった。頑張ってみるよ。ちょっと時間ちょうだい」

「うん。できたら聴かせてね」

「もちろんだよ」


俺はその日、彼女の書いた『終止符』の歌詞を授業の間中、こっそり見ていた。



もうあなたを愛せない

今の私にはもう何も……

あの子と歩くあなたを見た時

それでも信じたいと思った

私の冗談に優しく笑ってくれるあなたの笑顔を

今 この恋の終りを告げる音が

静かに聞こえてくる

今 そうよ今 この恋の終止符



という一番の歌詞が目に止まった。 この歌詞を見た時、これはバラードしかないと思った。B♭メジャーでゆったりした曲をつけよう。そう考えて家に帰ってからゆっくり曲をつけていった。

曲をつけながら俺は、(彼女のこと好きなんだな)と自分の純粋な気持ちに気づいた。それと同時に、(でも自分は彼女の心には入れないな)とも気づいてしまった。彼女が書いたみずいろの文字の中に、決して他人の入れない想いが確かにあった。

『終止符』は二番まで歌詞があった。



もうあなたを愛せない 思い出たちが心を巡る……

遠くでいつもあなたを見ていた

見ている時間が好きだった

だけどあなたが見ていたのは 私じゃない あの子だった

今 この恋の終りを告げる音が

静かに聞こえてくる

今 そうよ今 この恋の終止符



二番の終わりも『この恋の終止符』で終わってた。

B♭メジャーで曲を書いていたが、この歌詞の『終止符〜』のところは、どうしても雰囲気的にマイナーコードで終わる構成にならざるを得なかった。

俺は、


(いやいや、マイナーコードで終わったら彼女、立ち直れないだろ)


と思い、じっくりと考えて、



そして今 恋は思い出に変わるの

私はそれを胸に抱いて

今 そうよ今 未来へと旅立つの……



とラスサビを勝手に付け足した。そして、最後の「旅立つの」のところを「たーびだーつーのー」とゆっくりにしてB♭メジャーに戻る構成に変え「終止符」を完成させた。


(この構成なら、彼女もきっと納得してくれるだろう。彼女の歌詞を書き換えたわけじゃないしな)


俺はひとり、そんなことを考えていた。

数日後の朝、学校で彩乃に声をかけた。


「おはよう」

「あ、安岡君、おはよう」

「例の『終止符』、曲でつけたよ」

「ほんと?じゃ、今日の放課後、聴かせてくれる?」


彼女は目を輝かせた。


「ちょっと書き足したりしたんだけどそれでもいいかな?」


って言ったら、


「へぇ、どんなになったのかな。楽しみ」


と言ってくれた。


(とりあえず聴かせても大丈夫か)


実は曲はもらった日の晩にはできていた。でも、この曲は構成的に絶対ピアノ伴奏が合う曲だったので、なんとかピアノの伴奏で彼女に聴かせたいと思ってしまった。俺はあまりピアノは弾けなかったが、それでも「終止符」のピアノ伴奏を前奏から創って、家にあった電子キーボードで必死で練習していた。今日まで言えなかったのはそのためだ。


放課後、いつものように音楽室に行くと、俺はピアノの前に座った。 遅れて彩乃がやってきた。


「あれ、安岡君、ピアノ弾けたっけ?」


俺は少し笑って、「終止符」の前奏を弾き始めた。

彼女はビックリしたように目を一瞬見開いたけど、その優しい前奏のメロディーに耳を傾けてくれた。

そして、


♪もうあなたを愛せない 今の私には……


と俺は一番を歌った。

彩乃は(いいね)って感じの表情をして、指でグーサインを出してくれた。

そして二番、それからの追加したラスサビを歌った。

歌い終わって、


(彩乃、どう感じてくれたかな?)


と彼女の方を見ると、彼女は表情一つ変えず黙ったままになった。


(え、ダメだった?)


俺は一瞬、焦った。いろんな感情が頭を駆け巡った。


(このメロディーじゃなかった?ラスサビ追加なんて余計なことした?)


すると彩乃は止まった表情のまま、ぽろっと涙をこぼした。


「ああ、ダメ。涙なんか見せたくなかったのに」


と彼女は言った。

俺は、戸惑って、


「勝手に追加してごめんね」


と言うと、


「ううん、私の気持ちと同じだし、もっと前向きになれる気がしたよ。ありがとう」

「よかった〜。一瞬、失敗したかと思った」

「失敗なんかしてない。そしたら泣くわけない。私、この終わり方、いいと思う」

「そうか、本当によかったよ。頑張ってピアノ練習した甲斐があった」

「え、頑張っで作ってくれたの?」

「俺、あんまり鍵盤弾けないけど、この曲できた時に絶対、ピアノでないと合わないと思って一生懸命練習したんだ」

「そうなんだ。ありがとね。安岡君、私、好きよ」

「え?」


俺は、ドキッとした。


「だから、この曲。とってもいいと思う。大好き!」

「あ……、ああ、そう言ってもらえて俺も嬉しいです」


俺は、


(何、勘違いしてんだよ、たかしのバカ)


と頭の中で思いながら、それでも、めちゃくちゃ嬉しかった。

俺の創った曲で女の子が泣いてくれる。 俺にそんな力があるのかもしれないとちょっと自信になった。


(やっぱり俺にはこの道しかないな)


なんて少しいい気になった。


次の日の放課後、彼女はまた『終止符』が聴きたいと友達を連れてやってきた。 彼女が連れてきた女の子はハモリがとても上手な子だった。

僕が一回、『終止符』と歌うと彩乃は、


「もう一回、歌って」


と催促した。

もう一度、歌い始めると、友達の女の子が、僕の歌に合わせて即興でコーラスやハモリをつけて歌い出した。


「え、すげー、そんなことできるんだ」

「これくらいは簡単」


とその子が言った。

彩乃は、


「だから彼女にきてもらったの。この曲、綺麗にハモりたいなって思ったから」


と俺に言った。そう、綾乃も充分、音楽センスがある女の子だったのだ。 その後、この曲はみんなの知るところとなった。高校生活で一番よくできた曲といっても過言ではなかった。

ただ彩乃には言わなかったが、『終止符』のラスサビ、



『そして今 恋は思い出に変わるの

私はそれを胸に抱いて  

今 そうよ今 未来へと旅立つの……』



という歌詞、確かに作詞した彼女に宛てた想いであることは間違いないのだが、実は初恋で傷ついた自分にも言い聞かせる気持ちもあった。『崇、もう前を向けよ』って、『終止符を書いた彼女のように崇、お前も新しい未来へ羽ばたけよ』と自分に言いたかったのだ。


だが、そう書くってことは、その時点では、まだみゆきのことを忘れられないでいたということでもあった。結果として、この『終止符』のおかげで、俺は、みゆきに『終止符』を打つことができた。


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