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「RPGパラレル・パラドックス」  作者: しんTAKA


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第一話 「知らない女にキスされ、俺は“別の現実”に目覚めた」

高校時代の失恋の夢から覚めた瞬間、

俺は知らない女にキスされた。

彼女は俺の名前を知っていて、

俺は自分の人生を知らなかった。

【フェーズ0 Dreamパイロット版】


俺は夢を見ていた。 高校に入学して間もない四月の頃の夢だ。


「タカシ、おはよう!」


そう、みゆきが叫んで追いかけてきた。

タカシ、そう俺は安岡崇。追いかけてきた女は、栗山みゆき。同級生だ。


「いい天気だね」

「そうだな。今日も、いい天気だ」

「今日も?……そうかなぁ、私にはいつもと少し違って見える」

「え?」

「タカシと一緒にいるからかな? な〜んて」

「あ、お前、またそんなこと言って」


みゆきは俺の怒った顔を見て笑った。


「今日も、放課後、一緒に歌おうね」

「ああ、ギター、用意しとくよ」


この頃の俺たちの会話は、毎朝、こんな感じだった。


彼女と話すようになったのは、俺が音楽室でギターを弾いているのを彼女が見つけた時だった。


「あ、安岡君、ギター弾けるんだ?」

「うん。まだ始めたばかりだけど、コード掻き鳴らすくらいならなんとか。栗山さん、アコースティックギター好きなの?」


彼女は、俺の問いには答えず、


「安岡君、下の名前、なんだっけ?」

「崇だよ」

「へぇ、崇君か。じゃ、タカシ」

「え?」


俺は、急にタカシと呼び捨てにされて戸惑った。女子から下の名前を呼び捨てにされたのは初めてだ。

だが、その響きは妙に新鮮で、悪い気はしなかった。


「タカシ、今、流行ってるあの曲、弾いてみて」

「へ、あの曲ってナニ? 知らない」

「なんだ、知らないんだ。つまんないの。タカシ、つまんない」


そう言われた俺は、その呼び捨てに心を奪われていた。


「じゃあ、その曲教えて」

「仕方ないなぁ。明日、持ってきてあげるね」


それだけ言うと、彼女は音楽室から消えた。


翌日、

教室に入ると彼女はもう来ていた。


「タカシ、おはよう!」


その声に周りのみんながこっちを振り向いたが、彼女は一切お構いなしだ。


「はいこれ、このCDに入ってる三番目の曲だからね」


彼女は自分の好きな曲が入ったCDを袋に入れて渡してきた。


「ああ、ありがと」

「いい? しっかり覚えるんだぞ」

「ああ、わかったよ」


彼女は自分の席へ戻って行った。俺の後ろから同じクラスの岸本が絡んできた。


「安岡、お前、もう栗山に『タカシ』なんて呼ばれてるの? やるね〜」

「いや、彼女が勝手に呼び出したんだ」

「そうか、じゃあ、俺も今日からタカシって呼んでいいか?」

「別になんでもどうぞ」

「ならそうする。じゃあ、タカシ、せいぜい頑張れよ。期待してるからな」

「そんなんじゃないって、岸本、お前はすぐそうやって絡むんだから」


家に帰ってCDの袋を開けると、ノートの切れ端に彼女の好きな曲の歌詞が書いてあった。



♪「夏のなごり」


遠い夏 今も目にうかぶ

銀の月 照らす浴衣姿

人の途切れた川辺で 

初めて口づけした

夏祭り 宵飾り 繋ぐ手と手 伝わる

お互いの温もりを信じた 

光咲く 恋花火 鮮やかに煌めいて

永遠を 刻み込む空


せせらぎは 今も変わらずに

緩やかな波折り あの日を呼ぶ

胸に残る感触が 甘く苦く蘇る


祭りの後の静寂の中で 

川辺に腰をかけて

線香花火 一緒に火をつけ 

いつまでも見つめてた


時は過ぎ 愛は去り ひとり見上げる空に

今宵また 光咲く花火が

すれ違う 賑やかな浴衣姿の波に

遠い日の 恋の匂いがした 

幻・・・ 影・・・ 戻らない日々 

夏の日のなごりの匂いよ



--- そんな歌詞が万年筆で書かれていた。俺は、その文字に見惚れた。

彼女が書いてくれた文字は、とても美しく、上品さもあって、とても高校生が書いたとは思えない、まるで大人の女性が書いたような文字だった。その字を指でなぞりながら、自分でもこんな字が書けたらいいなと思った。


(いやいや、それより今は、この曲覚えなきゃ)


俺は曲を覚えて、そのバンドのコピーやっていた友達から楽譜借りて必死にコードを覚え、数日後、彼女の前で弾いた。


「タカシ、えらい! ちゃんと覚えてきたんだね」

「当たり前だよ。こんなの簡単だからね」


本当は必死で練習したのだが、そんなことは決して言わない。俺とみゆきは、それから、放課後になると、俺がギターを弾いて彼女が歌うっていう日々を繰り返すようになった。

そんな時間を過ごすうちに、これって恋なのかな? なんて考えるようになった。でも、自分から告白なんてできないし、そんなことするタイプでもない。今はこのふたりの時間を楽しもうと俺は思っていた。


そんな俺の感情を知ってか知らずか、一緒に歌を歌っていると、


「崇、ジャンケンしよ。私が勝ったら、私の好きな曲弾いて。弾けなかったら許さないからね」


とみゆきは言って無理やり俺とジャンケンをはじめた。しかし、負けが続くと、


「あーん、今のナシ!もう一回!」


と一方的に勝負をリセットして、笑った。

みゆきはじっと考えて、


「じゃあ、今度、私が勝ったら、私の好きな歌、十曲まとめて弾いてね。負けたら崇の好きな曲でいい」

「えー、もういっぱい歌ったしなぁ」

「じゃあ、崇の言うこと、なんでも聞く。それならいいでしょ?」

「え、そんなこと言って大丈夫か?」

「大丈夫よ。じゃあ、それで行くよ。崇、チョキ出して」


と俺に言うので、


「わかった。ジャンケン、ほい」


---チョキを出すと、みゆきはなぜかパーを出していた。


「あーん、そう言ったら、グー出すと思ったのに、崇のバカ〜」


って勝手に怒ってる。


「へっへっへ。さて、では、なんでも俺の言うこと聞いてくれるんだね?」

「あ、いや、今のはナシ。もう一回、ジャンケンしよ」

「何?俺、そんなに怖いかなぁ?」

「え、崇なんか怖くないよ。じゃ、いいよ、なんでも言って」

「じゃあ、俺と付き合ってくれ」

「え、それは……」

「そう、俺に付き合って、この歌一緒に歌ってくれ」


と彼女の好きな曲を弾いた。


「崇、ありがとう。やっぱり崇はやさしいね。そういうところ、きっと女子にモテるよ。その気持ちを忘れないこと、いいわね?」

「お前、どこまで俺を下に見てるの?」

「え、そんなことないわよ。崇が私のしもべだなんて思ってないよ」

「思ってるじゃん」

「失礼ね、思ってないって。私になんてこというの?あなたのご主人様よ」

「やっぱりしもべじゃん」

「へへ、ごめん。崇、気、取り直して、一緒に歌おうね〜」


と彼女は俺のギターで気持ちよく歌い始めた。




ある日の放課後、いつものようにふたりで歌っていると、みゆきが訊いてきた。


「崇はどんな子が好きなの?」

「え、いやぁ、その……」


本当は『みゆきが好きだ』と言いたかったが、そんなこと言えるはずもなく、口を濁していると、


「あ、わかった。ゆみちゃんでしょ?」


とみゆきは言った。ゆみちゃんは、みゆきといつも一緒に話している同級生の女の子だ。


「え、あ、ゆみちゃん?」

「あ、崇のその反応、やっぱりそうなのね?」

「え。あ、いや、その……」

「やっぱり。わかった、まかせておいて。私が悪いようにはしないから」

「いや、いいよ。そんなことやめてくれ」

「なんで、いいじゃない」

「そういうのは、自分でちゃんと言うことだよ」

「そっか、そうだよね。ごめん」

「わかってくれたんならいいよ」

「……でも、そっか、崇、ゆみちゃんのことが好きなのか」

「えっ?」


みゆきは椅子に座ったまま、足をブラブラさせながら、俺のシューズの裏をコツコツと蹴り出した。


「何?」

「……あーあ、崇、ゆみちゃんのこと好きなのか」


彼女はコツコツ突くのをやめなかった。


「だから、何?」

「……私、傷ついちゃうな」

「え?」

「崇、私、傷ついてるんだぞ!」


そこまで言われた俺は、自分の本当の気持ちが抑えられなくなって、


「誰がゆみちゃんが好きだって言ったんだよ?」

「え?」

「俺が本当に好きなのは、みゆきだよ。こうやって毎日、ここで一緒に歌ってきたんだ。わかるだろ?」


と言った。

みゆきの目は一瞬、大きくなったが、すぐに元に戻った。そして、彼女は立ち上がるとそのまま教室を出て行った。

俺は、わけがわからなかったが、翌日、岸本から、


「崇、栗山に告ったんだって?それで、彼女、何か言ったか?」

「なんで知ってるんだ?」

「知ってるも何も、次は崇が犠牲になるって、みんな知ってたよ」

「どういうことだ?」

「あの子は、ああやって、いろんな男子に近づいては相手に告白させることが目的なんだ。ただ、お前がなかなか告白しないんで、彼女、かなり入れ込んでたな。でも、やっと言わせたってみんなに言いふらしてたよ」

「え、そんな……」

「ま、もうあいつのことは忘れろ」


(俺は彼女に騙されていたのか……)


そんな思いが頭を駆け巡った。彼女は自分に告白させるためだけに俺に言い寄っていただけだったのだ。


不意に、俺のスマホが鳴った。あれ、この時代にスマホないはずなのにおかしいな?と思って出ると、ユキノからだった。


「崇、どこ、ほっつき歩いてるの? いい加減にしてよね」

「おう、ごめんごめん、ユキノ、今から帰る」

というと、急に地震が起きたように俺の体が大きく揺れ始めた……。




【フェーズ1】


目覚めると、白い天井とLED灯が見えた。 空気の温度、周りの気配、微妙にいつもと違ってる。が、そこが病院とかの特別な施設ではなく一般の家庭であることは天井が教えてくれた。

ひとりの女の顔が見えた。細面だが目は割と大きく、鼻も通った感じの女。


(……誰だ? こいつ……)


怪訝な顔をすると、


「気がついた?  崇。……よかった」


安心した顔がすぐに涙に変わった。


(……ウッ……頭が痛い)


後頭部に重みにも似た痛みが走った。


「ごめんね」


俺の頭をさすりながら女は、


「でも、どうしてもあなたを失いたくなかったの。崇、お願いだから、ずっとここに居て、ネ、今までどおり一緒に暮らしましょ」


(……今までどおり……?)


頭の中はパニくった。冷静に考えようとすればするほど、後頭部はキリキリと痛み、急激に喉が渇いた。

そんな俺の戸惑いに気付いたのか、女はそばに置いてあったコップを持つと、


「これ飲んで。痛み止めだから」


いつ出したのか白い錠剤を二つ手にしていた。そしてその薬を俺の口に含ませ、コップの水を自分の口に含むと口移しに飲ませようとした。とっさに逃げようとしたが間に合わず、女の口で俺の口は覆われ、すぐに冷たい、でもわずかに温かい水が流れ込んできた。


「いいコだから、ゆっくり休みなさい」


そう言った顔がほんの少し微笑んで、


「おやすみ、タ・カ・シ」


ともう一度、俺のおでこにキスをした。

タカシ。そうだ、俺は確かに崇だ。 しかし、今そばに居るこの女は誰だ?はじめて逢った女……のはず。思い出そうとするとそれをさえぎるかのように白い霧が頭の中に深く立ち込め、やかて俺は深い眠りに堕ちた。


ふと、陽子の声が遠くで聞こえた気がした。


「ふふふ。私の中で、おやすみなさい。ゆっくりと……ね」


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