PvP予選決着!
残り10分。現在8位/370人中。残り人数23人。
「《ウィンドステップ》」
アプリコットは中央部へと急いでいた。デニーゼの持っているポイントが多かったこともあって順位は上がったが、このままでは本戦進出は厳しい。結局のところ、勝つには上位2名を倒すしかない。
あの後順位に変動があったのか、アプリコットには分からない。しかし現在、上位2名は少し離れているが、どちらも中央に集まっている。
ほどなくアプリコットもそのうちの1ヶ所に着いた。念のために木の上に登ってその場所を観察する。
真ん中に槍使いの男性がいて、その人に向けて多くの攻撃が迫っている。その中の1人、刀使いの人が男性を倒した。すると、その瞬間攻撃の矛先はその人に。呆気なくその人も倒れた。
どうやら乱戦状態らしい。
(でも、それなら私が入る隙はあるよね。ここは……そうだ。雷を振らせよう。それなら、雨も欲しいよね。)
「我、アプリコット 水の精よ 我が元に顕現し給え」
アプリコットは水の精霊を呼び出した。ほどなく、水色の光が集まってくる。
「お願いがあって。私の魔力を使って、あそこに雨を降らせてほしいんだ。」
アプリコットは指で乱戦地帯を指した。すると、精霊たちはぴょんぴょんと跳ねて答えてくれた。アプリコットに精霊の声は聞こえないが、「いいよ!」って言ってくれている気がした。
光はその方向の空へと向かっていく。ほどなくしてその場所に雨が降り始めた。
「なんだ?」
「雨?」
「雲なんてないのに。」
乱戦状態の来訪者たちも戸惑い、攻撃の手が一瞬止まる。やがて雨は止んだ。
「ありがとう!」
アプリコットは空に向かって大きく手を振った。そして宣言する。
「お膳立てしてもらったし、成功させないとね。
満ちし雷の欠片よ 我が力を糧とし 稲妻となりて 降り荒べ! 《サンダーファスキス》!」
結果的にその作戦は大成功だった。雨で濡れたところに雷。多くの人のHPが削れたようで、瞬く間にアプリコットは2位になった。
(って、2位!? ということは当然攻撃がこっちに来るわけで……。)
「《プロテクション》」
アプリコットは慌ててバリアを貼った。その上で〈初級MPポーション〉を飲む。その間にもひっきりなしに魔法や矢が降り注いでくる。
(このままじゃ、ポーションでのMP回復が追い付かない!)「《ウィンドステップ》!」
私は全速力で駆け出した。別アーツの発動に伴ってバリアが消え、少々ダメージを受けるが、多少の被弾は覚悟の上だ。
元々射程範囲ギリギリで魔法を使っていたこともあって、戦闘状態からは一旦脱することができた。
「はぁ……はぁ……《隠密》」
今のうちに姿を隠しておき、〈初級MPポーション〉を飲む。とはいえ、すぐにまた矢と魔法は飛んできて、近接武器持ちも追いかけてきている。
(今いる場所がマップで表示されてるんだから、隠密あんまり意味ないじゃん!)
だったらとアプリコットが自分から迎撃することにした。
「《トルネード》!」
とりあえず追っ手を吹っ飛ばす。そして
「《ウィンドステップ》」
また逃げ出した。
残り5分。アプリコットはひたすら走り続ける。残り4分、1分が長い。
すると、木々を抜けた先に1人の男性が佇んでいた。別方向から、その男性を狙って別の人達が武器を片手に走って行って……。
ドーン!
地面に爆弾でも設置していたのだろうか。あえなく吹っ飛んでいった。
と、気づく。
(これってMMOで忌避されるトレインなのでは……? 私、思いっきり敵を引き付けてきちゃったし、この感じからして目の前の男性が1位の人だろうし。)
とそのとき、アプリコットの後ろから気配がした。振り向くと、女性が今にも剣で薙ぎ払いをしようとしてきている。
「《トルネード》!」
アプリコットはとりあえずその人を吹っ飛ばした。でも女性はまだ倒れない。この感じだと直に魔法とか矢も飛んでくるだろう。アプリコットは意を決した。
「ごめんなさーーい!!」
1位の人に向かって走る。女性も起き上がって追いかけてきている。
「え!? え!?」
1位の人は困惑中。それでも爆弾を投げつけてきているあたり、流石1位といったところかもしれない。
「! 《ウィンドステップ》」
アプリコットは意を決して跳んだ。すると、爆弾は跳躍中の彼女の足の下で爆発した。
「わあぁぁぁぁぁぁっ!!」
更に跳ぶ。いわゆるボムジャンプってやつである。制御できなくなったアプリコットの身体は1位の人に向かって飛んでいく。
「ふぎゅっ」
アプリコットには一瞬何が起きたのか分からなかった。
意識が戻る。
(なんだか男の人の硬い胸板の感触が私の胴体に……って、私思いっきり知らない人に抱きついちゃってる!?)
そう。アプリコットは、思いっきり1位の男性の背に手を回して抱きつく格好だったのだ。身長差があるので足も浮いてしまっている。
「あ、あのー? 大丈夫ですか?」
耳元で声がする。アプリコットは慌てて着地、遠ざかった。
「あ、あ、あ、えと、大丈夫です! すみません!」
ペコペコしながらアプリコットは言う。ペコペコペの段階でアプリコットはようやくその人が誰かを認識した。水棲青鬼戦でも活躍した、錬金術師のロゼだ。よかったね。知らない人じゃなかったよ。もっとも、直接会話したことも無いけど。
「なら良かったです。それで、」
とロゼが何か言いかけたところで後方からまた爆発音が何回かした。アプリコットが振り向くと、追いかけてきた女性が光に還るところだった。どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
「共闘お願いします!」
私は思いっきり土下座した。初対面の人に抱きつくというアレなこともしているのだ。今更恥も外聞もない。
「そういうことか。分かったよ。」
有難いことにロゼは全てを理解し、アプリコットのお願いに承諾した。
ロゼとアプリコットの共闘。遠距離からの攻撃は私が防ぎ、接近してくる相手にはロゼさんの爆弾が炸裂する。
そうして3分後、2人は無事予選通過を決めたのであった。