イベント前
「よし、やるぞ!」
月曜日。アプリコットは錬金釜の前で独りごちる。ここは生産ギルド内の錬金ルームだ。やることはシンプル。〈初級HPポーション〉〈初級MPポーション〉の量産。
〈初級HPポーション〉の素材(《錬金》の場合)
〈分類:魔法の草〉×2〈分類:薬の材料〉〈分類:水〉
〈初級MPポーション〉の素材(《錬金》の場合)
〈分類:魔法の草〉×2〈分類:水〉
レシピは上記の通り。なお、《錬金》に5SP,素材集めのための《採取》に10SPを使用したので、残りSPは9だ。
ちなみに必要材料や時間が少なくて済む《調薬》ではなく《錬金》を選んだのは、そっちの方が魔法っぽいから。やっぱり魔法バカ。
錬金釜には謎の液体が入っていて、そこに材料をドパパと入れる。上級者になると、より効果的な投入タイミングが分かるらしいが、Lv.1のアプリコットには分からない。
そして20分間混ぜる。ただ20分混ぜ続けるのでは絶対に集中力が持たないので《集中》スキルは必須。なお、アプリコットはその上で、イーチューブに上がっている《錬金》に関する動画も流している。
20分後、錬金釜の中の液体が光ったら調合成功だ。成分が分離して浮かび上がるので、今までのポーション消費で残っていた空き瓶にポーションを流し込み、コルクで蓋をしたら完成だ。
ちなみに、これは余談だが、動画によると《錬金》スキルなしでは釜が光らないらしい。
そんな感じの作業をひたすら続け、アプリコットは相当数のポーションを用意した。
〈初級HPポーション〉
HPを10回復する。
〈初級MPポーション〉
HPを10回復する。
以上からポーションの基本性能だ。なお、途中から《錬金》レベルの上昇に伴って、素材についている効果(回復量上昇など)が1つ引き継げるようになった。
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火曜日。アプリコットは世界図書館の一室で《瞑想》をしていた。残りSP8。
《瞑想》
・発動すると、30秒に1MP回復する。
瞑想中は目を閉じたまま行動できない。
目的は《瞑想》をレベルアップさせると得られる《自動瞑想》だ。
《自動瞑想》
・戦闘中でもHPやMPが時間経過で回復するようになるパッシブスキル。
世界図書館の本によると、《瞑想》のレベルアップには一定時間の瞑想が必要らしい。
レベル上げのためにひたすら戦い、それで問題が分かったら、世界図書館で調べものをして。その結果、今、《瞑想》をしている。
この《瞑想》を続けて既に3時間が経過しているが、まだお目当てのスキルは生えてこない。流石にぶっ通しは辛いので《集中》スキルも併用しているが。
そうして更に3時間経過した頃、アプリコットの脳内にアナウンスが鳴り響いた。
『スキル《瞑想》が《自動瞑想》に進化しました。』
鳴った瞬間、アプリコットは座っていた石の上に倒れ込んだ。苦労が報われた瞬間、その顔は笑顔だった。
そこから更に日が経過し、アプリコットたちはPvPの日を迎えた。
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PvPイベント当日。参加者は12:00の開始時間にはイベントエリアにいる必要がある。アプリコットたちは余裕をもって15分前に世界樹の庭で合流することにした。アニー、アプリコット、フラウ、ミリアム、シーナ、ノーラの順に集まった。
「ごめんなさい。待ちましたか?」
「大丈夫。さっき集まったところだよ。」
「それじゃあ行こっかー。」
イベントエリアにはポータルから直接飛べるようになっている。というわけで、システムメニューからイベントエリアを選択、転移する。
「闘技場だ。」
開口一番、アニーが呟いた。見えているのは本戦で使用する闘技場だ。約1500人収容可能。
「こうして実際に見ると、イベントが近づいてるんだなぁって感じがするよね。」
「うぅ、ウズウズしてきた!」
アプリコット、シーナがそれに続く。
「でも、予選は違う場所だよな?」
「4ブロックに分かれての予選ですもんね~。そういえば、皆さんはどのブロックになったんですか? 私はDブロックです~。」
「Cだよ。」
「Bだぞ。」
「私もBブロックですね。」
「Aブロックだ。」
上から順に、アニー、シーナ、アプリコット、ミリアムである。
「おお、アプリコットもBか! 負けないからな。」
「私だって。」
シーナが意気揚々と宣言するが、アプリコットも負けじと答える。
「おお、早くも燃えてる。けど、燃えすぎてガス欠起こさないようにねー。」
そして12:00直前、イベントの開始を告げるアナウンスが流れた。
「はーいみなさん、聞こえてますか? それではこれより第1回PvPイベントを開催いたします♪ 司会兼実況は私、音符の精霊、ナディネ・グラッセと」
「現地人代表。みなさんとはチュートリアルルーム以来になりますかね。ドゥクシアでお送りいたします。」
「それではこれよりイベント参加者を各フィールドに転送します♪ 転送されたら即スタートです。それでは、いってらっしゃい♪」