挑め! ダンジョンボス
ボス部屋の前。アプリコットはインベントリを確認する。ポーションにはまだ余裕がある。ここのボスは〈オオボルド〉。仕込み杖を持った犬型巨人。近距離は仕込み杖の刃で、遠距離は魔法で攻撃してくる。遠近一体のボスだ。
(よし!)
意を決してボス部屋に入るアプリコット。これが、このゲーム初のボス戦だ。
オオボルド Lv.10
「ウォォォォォン!」
オオボルドが吠える。叫び声とともに、HPバーが現れた。
「《ウォーターボール》」
窒息させてしまえば楽に倒せないかな? とアプリコットは早速水球をコボルドの口元に発生させた。しかし、
「ガブッ!」
《ウォーターボール》完成前にオオボルドはそれを飲んでしまった。流石ボス。そんなに甘くない。
「ウォォォォォン」
相手が魔法使いだと認識したオオボルドは近接戦を仕掛けてきた。仕込み杖で切りかかってくる。
「《スイング》」
アプリコットは《スイング》でこれに対処。しかし、圧倒的にATKが足らず、吹っ飛ばされてしまう。壁に激突する……ことはなく、足で壁に着地。蹴ってオオボルドへと跳躍した。
「《ウィンド》」
更に風魔法で加速。これにはオオボルドも対処できない。ほどなくオオボルドの眼前へと迫る。
「おりゃぁっ!」
杖の先(尖ってない方)を目にぶつける。そして
「《マジックボール》」
左目に直接魔法を叩き込んだ。オオボルドが怯む。その隙にアプリコットは着地し、背後に回った。
(ふぅ、なんとか上手くいったね。身体操作。)
〈初級MPポーション〉を飲みながら、さっきの一幕を振り返る。運動音痴のアプリコットが華麗に着地・跳躍できたのは、魔力で身体を操作したからだ。これなら思い通りに身体を動かせる。
(まあ、本当は最後、《サンダー》か《ウォーター》を叩き込みたかったけど。)
相次ぐ魔法の使用と足への脚力強化で魔法を使いきってしまい、属性変換するだけのMPの余裕がなかったのだ。
さて、ポーションを飲み終わったところで、オオボルドがアプリコットに再度攻撃を仕掛けてきた。近接でのアプリコットを脅威と判断したのか、今度は遠距離での魔法だ。大きな魔法弾がアプリコットに襲い掛かる。
「《プロテクション》」
しかし、アプリコットはこれを難なく防ぐ。その間にポーションを飲むのも忘れない。
すると今度は魔法で石の礫を生成してきた。いかにも貫通攻撃。
(だったら……)
イメージする。数秒後の自分の姿を。
「ウォォォォォン」
石の礫が放たれる。その瞬間アプリコットは跳んだ。
「《ウィンド》」
そして、礫を足場にして更に跳ぶ。そしてオオボルドの頭に乗った。
「ウォォォォォン」
オオボルドが頭を振るう。アプリコットはそれを両耳を掴んで凌いでいる。振り回されながらもアプリコットが唱える。
「《満ちし雷の欠片よ 我が力を糧とし 稲妻となりて 集え》」
手が耳から抜け、落下する。しかし、それに構わずアプリコットは叫ぶ。
「《振り荒べ! サンダーファスキス!》」
ドゴーン!
オオボルドの脳天に雷が直撃する。あの時のウィルナの一撃よりは軽いが、それでも脳天に雷が直撃したダメージは大きかったようだ。片膝をついたオオボルドのHPが大きく減る。
(これで倒れないのは流石ボスだね……。)
墜落したまま地面に倒れ込みながらも、アプリコットは〈初級HPポーション〉〈初級MPポーション〉を急いで口にした。
「ウォォォォォォン!!!」
オオボルドがまた雄叫びを上げる。するとオオボルドが赤色のオーラを纏い始めた。いやゆる第2形態というやつだ。
「ウォォォォォン」
オオボルドが魔法の球を2つ展開した。同時にアプリコットに接近、切りかかってくる。そしてそれに合わせて魔法の弾が発射される。
「《プロテクション》!」
アプリコットがバリアを展開するが、斬撃がバリアを切り裂いてしまう。
「うそっ!」
アプリコットは咄嗟に魔力を足に込め、横に跳んだ。しかし、そこに魔法の弾が追尾してくる。
「《マジックボール》!」
1つは相殺できたがもう1つは着弾。アプリコットのHPが減る。HP:6/16。
(2発受けると死に戻りは流石にヤバい!)
「《ステップ》《ウィンド》」
サイドステップを風魔法で加速させ、オオボルドの背後に跳ぶ。
オオボルドが振り返る前に〈初級HPポーション〉を飲む。
「ウォォォォォン」
オオボルドが振り返り、再度同じ攻撃を仕掛けてきた。
「《マジックショット》《マジックボール》」
まずは魔法の弾を処理する。これで後は斬撃だけだ。
「《スイング》」
斬撃に杖を合わせる。ATKが足りないのは承知だ。アプリコットは考えた。だったらINTで補えばいい。
「《マジックボール》」
魔法陣の授業のときのように、《マジックボール》を変形させて杖に纏わせる。すると、攻撃をいなすことに成功した。相手の杖が地面に刺さる。
(チャンス!)
アプリコットは杖に跳び乗り、駆け上がった。
「《ステップ》」
途中、オオボルドが魔法弾を放ってくるが、それは魔法で相殺する。
そして口に杖をねじ込んで
「《ウォーターボール》」
口に障害物があることで、今度は水を飲み込めなかったオオボルド。暴れるが、アプリコットはその杖を離さない。途中で何とか〈初級MPポーション〉を飲んでMPを維持する。やがて窒息したのか、オオボルドのHPは0になった。
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「やった!」
体を大の字にして地面に寝そべるアプリコット。その顔は笑顔だ。だが、すぐに起き上がった。
「そうだ! 報酬を確認しないと!」
アプリコットの目の前には2つの宝箱があった。初回報酬とソロ撃破報酬だ。宝箱を開ける。
〈犬人の仕込み杖〉
初回報酬
ATK+5
〈剣〉スキルも使用可能
〈相換の首飾り〉
攻撃時にATKとINTの両方を参照する。
……アプリコットはステータス画面を開いて《剣》を取得した。レベルアップした分も加えて残り24SP。
だが、問題は〈相換の首飾り〉の首飾りが4個目のアクセサリーなことだ。FSOではアクセサリーは3個までしか装備できない。
(着けるだけならできないかな?)
アプリコットはダメ元で首飾りを装着した。すると、画面が現れた。
『装備は最大で3個までしか効力を発揮できません。
ただし、同じ製作者かつメイン素材が同一の装備であれば、《フィッティング》で合成して1つの装備にすることが可能です。』
今装備している籠手と胸当ては、どちらもアプリコットが製作したもので、水棲青鬼皮をベースにしている。
早速アプリコットはマネキンを取り出した。そして自身の装備を脱ぎ、マネキンに装着する。
「《フィッティング》」
すると、装備効果が変化した。名前も空欄になっている。アプリコットはそこに〈水棲青鬼皮の防具セット〉と入力した。
〈水棲青鬼皮の防具セット〉
・VIT+5
水属性への耐性
雨天時 VIT+3
元々2つを同時に装備したときは、VIT+6,雨天時VIT+4だったので、少し効果は下がってしまったが、それでも単独装備よりはステータスが高くなった。
ともかく、これで首飾りも装備できるようになった。アプリコットはダンジョン踏破の証を胸に転移魔法陣へと進んだ。
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翌日、窒息させすぎな戦闘スタイルが大丈夫だったか心配になって、アプリコットは再び精霊郷を訪れた。
イル曰く
「戦いとは、自らの使え得る手を使ってこそです。」
とのことだ。小さな精霊も気にしていないようで、アプリコットはホッと一安心した。