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魔法の存在

 唐突なイルの発言に驚くアプリコット。そんな彼女にウィルナが補足する。

「イル様は精霊と交信することができるの。だから、精霊郷やイルカディムで精霊たち絡みで何かが起こったらすぐに知ることが出来るのよ。」

 アプリコットは思う。

(精霊と交信できるってテレパシーみたいな? それとももっと違う?)

 そんなアプリコットをよそに、イルが続ける。

「この感じは木乃香ですね。」

 木乃香――アプリコットも会ったことがある巫女服の女性だ。同名はゲーム内で使えないはずなので。

「え、木乃香さんが?」

 さっきの疑問も忘れ、アプリコットが訊く。

「彼女もここに来ていたのね。」

 ウィルナも木乃香がここに来れることを知らなかったようだ。

「ええ、彼女の力が特殊なものだったので。」

 何か気になる言い方だったものの、とりあえずアプリコットたちは最初の小屋へと戻ることになった。


 ----------


「あら、ウィルナはんにアプリコットやん。2人もここに来れたんや。」

「そういう貴女こそ。」

「まあ、ウィルナはんはこっちの人やし分からんくもないけど、アプリコットがここにおるってことはそういうこと?」

「そういうこと?」

 アプリコットが反射的に訊き返す。代わりにイルが答えた。

「貴女とは少しだけ事情が違います。似ているといえばそうなのかもしれませんが。」

「ん? どういうことや?」

(事情……。私の事情はたぶん「精霊に触れていて、かつ魔法に順応しきっていない魂」なこと。ということは……。)

 アプリコットの手がわなわなと震える。そして、震える声で尋ねた。

「木乃香さん、貴女はもしかして……本当に魔法が使える人?」


 木乃香はアプリコットの質問に対して一瞬思案し、答える。

「ということは、アプリコットは()()()()()()ってことか。……でも、せやな。これも何かの縁や。

 アプリコットの言う通り、うちは向こうでも術が使える。それこそこういう感じのやつをな。」

 そこまで言うと、木乃香は護符を懐から取り出して唱えた。

「――《光符(こうふ)淡花(あわばな)》」

 すると、彼女の胸の前に淡い金色の光が集まり、蕾となった。そしてそれがふわりと開き、高さ30cm、幅1mくらいの多弁な花が咲く。その状態から数秒後、花は再び光となって霧散していった。


「どうやった?」

「すごいです! 何と言うか綺麗さと儚さが混在して!」

 アプリコットが捲し立てる。横にいる小さな精霊もピョンピョン跳ねている。

「そうね。ショーなんかに使えるんじゃない?」

 ウィルナは落ち着いた感じでそう言った。

「それに、今木乃香のお手伝いをした子たちも楽しそうでした。」

 イルも笑顔だ。

「ほんまか! それならやった甲斐があったわ!」

 3人の反応に木乃香のテンションも上々になった。


「それで? アプリコットにはどういう事情があるん?」

「実は……」

 アプリコットは、昔の経験と先ほどイルに聞いたことをそのまま説明した。

「なるほどなぁ。こういうのは不謹慎かもしれんけど、レアな経験しとるなぁ。」

「まあ、あの時は怖かったですけど、それもあの人が払拭してくれたので。」

「そうかそうか。そりゃ良かったわ。」

「FSO始めたのもそれが理由なんです。ここなら魔法を追い求めることができるんじゃないかなあって。まさか、ほんとに使える人に会えるとは思いませんでしたけど。」

「うちもある意味似たようなもんかなぁ。あっちと違って、こっちやったら人の目を気にせず術を使えるし。」

「やっぱりそういうルールってあるんですか? 人に見られちゃいけない的な。」

「ルール自体は特に無いけど、明かさんのは自衛のためやな。うちの一族やと、過去には誘拐とかもあったらしいし。」

「えっと……それで私に明かしちゃって大丈夫なんですか?」

 アプリコットが心配そうに尋ねる。対する木乃香はあっけらかんとした感じだ。

「時には誰かに話したくなるねん。隠してたら猶更な。」


「なんというか、大変なのね。魔法が少ない世界というのは。」

 2人の会話を聞いていたウィルナが口を挟む。

「私は色んな人に助けられて今があるから、だからこそこの力を広めたいし、みんなの役に立てたいと思ってる。でもそれは、この世界に魔法が溢れているからこそできるのね。」

「まあ、その代わりといってはあれやけど、色んなモンがある世界やよ。空飛ぶ金属の乗り物とか。」

「それは……なんというかすごいわね。」

「モンスターも基本的にはいないですから、道とかも安全ですし。」

「なるほど。そもそも生き物が魔力を持つことがないから、そういうことになるのか。……ってちょっと待って。貴女たちの言い分が本当ならここにはどうやって来ているの?」

 ウィルナとしては単純な疑問だったのだが、来訪者2人はドキリとした。NPCにここがゲームっていうわけにはいかないし……。

「……せやな、しいて言うなら雷の力?」

 なんとか木乃香が捻りだす。

「雷?」

「私たちの世界って雷の力を使った技術が発展してるんですよ。なので、その力で意識だけをこっちの世界で作った義体に転送して……的な?」

「まあそういうことなんやろうけど、技術レベルが高すぎて素人のうちには分からん。」

「ですです。」

「貴女たちの世界、どれだけ技術レベルが高いのよ……。」

「なんか本当に異界という感じですね。でも、精霊が存在するという意味では共通もしている。不思議なものです。」

 とそこまで言ったところで、イルが話を変えた。

「ところで」

「あ、せやった、忘れとった! それじゃあうちは行くな。ほなまた!」

 そう言うと木乃香は走り去っていった。

「あ、はい。また!」


 ----------


「さて、私もつい長居してしまったわ。そろそろ戻らないと。」

「あ、そうですね。私も戻らないと。」

 時間はもう19:00だ。一度ログアウトしてご飯を作らないといけない。

「そうですか。またいつでも来てくださいね。」

「ありがとうございました! それと、キミもありがとうね。」

 イルと小さな精霊に感謝を告げ、アプリコットはウィルナとともにイルカディムへと戻っていった。


 ----------


「やっぱり魔法はあったんだ。」

 ログアウトした、ベッドに寝転んだままの状態で杏梨が呟く。そしてその上で考える。

 仮想世界で「魂に現実での精霊の残滓」なんて、普通のゲームじゃありえない。しかもそれが魔法に関わってくるとなると……。

(このゲーム、実は異世界転移だったりしないよね? 魔法が使える世界への。)

 もしかしたら、魔法がこのゲームに関わってるんじゃないか。そう思ったことは以前にもある。杏梨のFSOのESには、あの日の、魔物と、それに対峙する女の子の絵を描いたのだ。あの時も面接でも「夢で見た」とぼかしたけれど、それが通ったということは、と。

(まあ、今考えても仕方ないか。面接以降、運営からそういった連絡がないということは、秘密にしておいてほしいか、あの時の本人はFSOに関わっていないということなんだろうし。)


 アプリコットは起き上がって台所へと向かった。

今回から、月・火・木・金の週4投稿とさせていただきます。

というわけで、次回の投稿は10/6です。

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