エント到着、世界図書館へ
都市と緑が調和した世界。それがアプリコットのエントの第一印象だ。建物が他の町に比べて大きく、規模の大きさを感じるとともに、街の至る所に自然が存在し、その奥には大きな樹がそびえ立っていて、どことなく雄大さと荘厳さを感じさせる。
「「うわぁ」」
アニーとシーナが目をキラキラさせながら、くるくる回っている。
「これは……なんというか、まさしくファンタジーだな。」
「魔法都市ってこういう感じなんですね~。」
「すごー」
ノーラ、ミリアム、フラウも口を開けて辺りを見渡している。アプリコットに至っては街の雰囲気に呑まれて無言になっている。
〔エント到着か〕
〔でもここからがまた長いんだよなぁ〕
〔配信はどこまでするんだろ?〕
(いけない、今は配信中だ。何か喋らなきゃ。)
「あれって世界樹?」
コメントのおかげで我に返ったアプリコットは、奥の樹を指しながら口を開いた。それに対してミリアムが答える。
「どうだろうな。確かに世界樹はファンタジーの定番だが……。とにかくまずはあの樹の許に行ってみるか。」
「え、結構距離ない?」
ミリアムの提案にフラウが苦い表情をする。街は例の樹を中心に円形状になっているようで、樹の麓自体は見えるが2km以上はありそうな?
「でも他のみんなもそっち方向に歩いてるぞ?」
シーナに言われてアプリコットも周囲を見る。確かにみんな樹の方向へ歩いて行っている。そしてコメントも見る。
〔見えてるのに遠いのってきついよね〕
〔大都市って感じではあるんだが〕
〔そこまで行けば後は楽になるから〕
「だそうですよ、フラウさん。」
「じゃあ仕方ないかー。」
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「なんというか、これだけ歩いても疲れないんだからゲームって感じよねー。」
10分歩いた辺りでフラウが言う。
「確かに。既に40分近く歩いているのに疲労感はないな。」
そんなとき誰かのお腹が「ぐ~~っ」と鳴った。
「あ、満腹度切れたみたいだ……」
シーナがあははという感じで頭の後ろに手を笑う。
「それじゃあご飯にしましょうか~。」
一行はご飯処を探すことにした。幸い、大きな街ということで飲食店は点在していたので、近くの店に入ることにした。
入った店は、大皿をみんなで分け合うタイプの店だった。丸いテーブルに6人で座り、ご飯を食べる。
「ご飯が美味しいのがこのゲームの良いところだよね!」
〈蒸し焼きチキンとレタスのサラダ〉を摘みながら、アニーが言う。
「それは言えている。下手すると現実の方が……と、すまない。」
「ううん、気にしなくてもいいよ。」
「現実の身体だと気を付けないと栄養バランスが崩れて身体にも影響が出ちゃいますからね~。」
「今月から1人暮らしを始めたんですけど、親の有難みが身に染みてます。」
「わかるわー。」
〔カロリー、肥満、うぅっ......〕
〔FSOと現実の空腹感はリンクしないからなぁ〕
〔FSOでいっぱい食べたのに、現実に戻るとまだお腹が空いて......〕
「おまえら、そんなことより今目の前の食事を楽しもうぜ……。」
次々出てくる現実トークにシーナが思わずツッコミを入れた。
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「着いたー!」
更に歩き続けて20分後、アプリコットたちは無事樹の麓に辿り着いた。大木は30mくらいの高さであり、麓から見上げると樹の先が見えない。
「まさしく世界樹っていう感じだな。」
「ですね。」
ミリアムとアプリコットはその雄大さに感心している。
「みんな、こっちに地図があるよ!」
アニーがアプリコットたちを手招きする。向かってみた先の地図には、エント全体の図と東西南北に分かれたエリア名が書かれていた。
「今いるところは〈世界樹の庭〉ですか。やっぱり世界樹だったんですね~。」
「更に何か書いてあるぞ? なになに……『世界樹はポータルシステムの根幹です。大切に扱いましょう。』ってポータルなのかこれ!」
「どうりでみんな触ってるわけだ......。」
〔そうそう、最初はわかりにくいんよね〕
〔ポータルない! って探し回ったっけなぁ〕
〔自分、これからエントに行くんだけど、この距離歩くのかぁ〕
アプリコットの視線の先にはポータルに触れる来訪者の姿が。あとは、転移したのかその場から消える人々の姿も。
「じゃあとりあえず、世界樹に触らないとね!」
アニーを先頭に世界樹へと向かう。そしてアプリコットの番が回ってきた。
『〈エント中央:世界樹の庭〉
〈エント東:学問・研究エリア〉
〈エント西:商業エリア〉
〈エント南:居住エリア〉
〈エント北:ギルドエリア〉
〈世界図書館〉
のポータルを開放しました。』
「良かったー。これで楽になるよー。」
各エリアへのポータルが開放されたことで、フラウが喜びの声を上げた。
「それで、これからどうする?」
アニーがパーティーメンバーに訊く。
「私は学問・研究エリアに行きたい。」
「私は世界図書館だな。」
「ウチはギルドエリアに。」
「私は商業エリアに行きたいなー。」
「私はこの辺りを散策したいです~。」
「じゃあこれで解散だね。次に集まるのは、イベントの後?」
「これだけ広い街だ。イベントまでに回りきるのは難しいし、ここでしかできないことも多いだろう。それでいいぞ。」
「私も問題ないよ。」
「ウチもー。」
「私も大丈夫ですよ~。」
アプリコットたちも次々とOKを出す。それにフラウが待ったをかけた。
「ちょっと待って。あなたたち、イベント出ずっぱりってわけじゃないでしょ? 観戦は一緒にしない?」
「そうだね。じゃあ、次の日曜日にイベントで会おう!」
「というわけで、配信はここまでにしますね。次回の配信はイベント後になると思います。それでは最後に「おつあんずー」でお別れしましょう。せーの」
「「「「「「おつあんずー」」」」」」
〔おつあんずー〕
〔おつあんずー〕
〔おつあんずー〕
〔おつあんずー〕
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ひとしきり〈トルナントの洞〉で新スキルや身体操作の扱いを確認してから、アプリコットはエントの〈学問・研究エリア〉にやってきた。目的はもちろん未知なる魔法だ。PvPでも有効かもしれないし。
まずは、周囲でも一際大きな建物に向かう。地図では〈魔術師ギルド〉と書かれていた場所だ。
受付へ向かうと、カウンター越しに銀髪男性から声をかけられた。
「魔術師ギルドへようこそ。当ギルドへはどういったご用件で?」
「来訪者なんですけど、魔法をもっと勉強したくて。」
「なるほど。どういった魔法とかはありますか?」
「そもそもどういった魔法があるのかを含めて知りたいです。」
「《言語学》スキルはお持ちですか?」
「はい。」
「でしたら、まずはこちらのパンフレットをお読みください。」
「ありがとうございます。」
アプリコットはパンフレットを受け取ってその場を後にした。
近くにソファがあったので座って、パンフレットを開く。うんやっぱり読めない。
(図書館に辞書ってないかな?)
アプリコットは世界図書館に向かうことにした。
「世界図書館へようこそ。ご用件は何でしょうか?」
受付の金髪女性から声を掛けられる。
「あの、辞書ってありませんか?」
「ああ、来訪者の方ですね。でしたらまずはここから右に進んだ部屋で行われている〈絵本の読み聞かせ〉コーナーに行ってみることをお勧めします。」
「読み聞かせですか?」
「はい。現在イルカディムで使用されている言語は、来訪者の皆様とは違う言語です。ただし、来訪者の皆様は《翻訳》スキルを元々持っており、それで意思疎通ができる状態なのです。」
「そうだったんですね。」
「ただし、この《翻訳》スキルは、文字には働きません。しかし、《言語学》スキルを併用すれば、文字と単語を1対1対応させることが容易になります。というわけで、まずは〈絵本の読み聞かせ〉コーナーをお勧めしています。」
「ありがとうございました。では行ってみます。」
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せいれいとレナ
あるもりのなか
キラキラ キラキラ
ひかりが たくさんあつまって
それは うまれました。
でも たくさんのひかりも
あつまってしまえば ひとりぼっち。
ひかりは かなしくなって ないてしまいます。
「ぐすん。さびしいよう。」
そんなこえをきいて
やってきたのは おんなのこでした。
「さびしいの? だったらいっしょにいこう!」
ひかりは ききました。
「あなたはだあれ?」
「わたしは レナ!」
ひかりとレナは いっしょにくらすことにしました。
どこにいっても いつもいっしょ。
ひかりは もうさびしくありません。
もうレナが おとなになったあるひ
よるのまちをあるいていたときです。
レナが かいだんであしをすべらせてしまいました。
あたまをうってしまったレナ。
「ねえ、おきてよ」
よびかけても へんじはありません。
ひかりはかなしくなってなきはじめました。
そのときです。
ひかりはおおきくまたたきました。
そのひかりはレナをやさしくつつみこみます。
すると レナは めをさましたのです。
「ありがとう。くらかったけど、
きみのおかげでかえってこられたよ」
ひかりは うれしくなって
さらにわんわんとなきました。
それからも ひかりとレナは
いつまでもいつまでも いっしょに
たのしくすごしましたとさ。
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(なんか不思議な感覚だったな......。)
読み聞かせを終えて振り返る。一語一語聞くたびに、知らない文字が日本語に変わっていったのだ。
「じゃあ、次の本に行きますねー。」
読み聞かせのお姉さんの声がした。アプリコットは再びそちらに意識を向けた。
いくつか本を読み聞かせてもらったところでアプリコットは退出した。一度パンフレットの文字を見る。すると、一部の文字が読めるようになっていた。
(あとは辞書とにらめっこかな。)
アプリコットは受付へと戻った。
第1回イベントに向けたいいところですが、先の展開に書き直しが必要になりました。
次回投稿は10/1(水)です。
より面白くしていく所存ですので、よろしくお願いします!