パーティーでイルミスへ
間違って明日の分を投稿してた……
アニーたちが加わったことで、旅路の快適さは格段に増した。なお、快適さを感じているのはアプリコットとフラウだけではないようで……。
「いやー、その灯り便利だな!」
シーナが口にする。話題はアプリコットの《マジックトーチ》だ。
「そうなの?」
以前アニーにも言われたが、アプリコットとしてはイマイチ理解しがたい。だって攻撃の回数がどうしても減っちゃうし。
「分かるよ。これで攻略するとね。ランタンって何だったんだってなるから。」
アニーがうんうん頷く。
「確かに、あの時は大変だったからな。」
「初デスもあの時でしたっけ?」
「……何があったの?」
謎の一体感にフラウが思わず訊いた。アプリコットも内心同じ気持ち。
「2日目かな。アニーがランタンと盾を持って残りのメンバーで攻撃、という形で攻略していたんだが。ランタンに敵が引き寄せられるわ、ガードの度にランタンが揺れて視界が乱れるわで散々だったからな。」
「それを踏まえると、その魔法は便利ですよね~。少し離れた場所をブレなく照らしてくれるので、弓も狙いやすいです~。」
「そういうことがあったのね。ところで、その魔法ってどうやって覚えたの?」
フラウの更なる問いに今度はアプリコットが答える。アニーと初めて出会った日、ランタンを忘れたまま森に突っ込んで、《マジックボール》を灯り代わりにしたことを。
「何と言うか、初日からアプリコットはアプリコットだったんだな!」
シーナがそんなことを言う。見ると、ノーラとミリアムも頷いている。
「ねぇ? それってどういう意味?」
アプリコットは思わず口を尖らせかけたが、
「魔法の天才って意味だよ!」
アニーの発言があまりに邪気が無くて、これ以上追及する気も起きなくなった。
しばらくすると、先ほど苦戦した相手が数を増やして再び襲い掛かってきた。なお今は、先ほどの話を聞いたフラウが《マジックトーチ》を覚えるため、《マジックボール》を灯り代わりに運用している。
イワバラヤモリ Lv.10 ×6
「《トリプルシュート》」「《サンダーショット》」
ノーラが各ヤモリに向けて3本の矢を、アプリコットが雷の弾を放つ。これにより4体の動きが遅くなる。
「《纏わりの風》」
ミリアムが速度低下のデバフを残りの2体にかける。動きが遅くなったところでアニーとシーナが前に出る。
「《サイブレイク》!」「《スラッシュ》!」
その間も灯りを消すわけにはいかない。フラウは〈初級MPポーション〉でMPを回復させる。
「《タウント》」
ここでヘイトをアニーに集中させ、2体の反撃を受け持つ。その隙にシーナはアニーの後ろに隠れる。盾で攻撃を防がれている2体のヤモリに、ノーラが走りながら次々と矢を当てる。そして一回転してアーツで4本矢を追加で2体に放つ。
「クアドラプル・シュート」
あとは、シーナが鎌で切り撫でると2体のヤモリは倒れた。
一方、残り4体。アニーの《タウント》発動と同時にアプリコットが雷の力をチャージし始めた。そしてチャージ完了に合わせてアーツを放つ。
「《サンダーブラスト》」
そこに、ミリアムが風の力を加えるアーツを乗せる。
「《付加招風》」
風雷の一撃は残り4体のHPをあっけなく0にした。
「おお、今度は勝ったねー。」
「ですね。前衛の大切さが身に沁みましたよ。」
戦闘が終わって、そんな感想を言う死に戻り組。そんな2人に対し、アニーとシーナは「でしょ」という感じでニッコリ笑った。そんな雰囲気の中、フラウの脳内にアナウンスが鳴った。
「おっ、《マジックトーチ》覚えたよー。」
「あっ、私もさっきの攻撃がアーツ化したみたいです~。」
どうやらノーラの脳内にもアナウンスが鳴ったようだ。
「どんなアーツ?」
「《クアドラプルシュート》ですね~。勢いでやってみましたが上手くいってよかったです~。」
「クアトラプルって4……。えっ、さっきの4本矢ってアーツじゃなかったの!?」
後方で戦いを見ていたフラウにとって、ノーラの弓捌きがアーツじゃなかったのは驚きだったようだ。
「アプリコットさんみたいにやってみたら上手くいきました~。」
「え、どういうことです?」
突然名前が挙がったアプリコットが困惑し、訊き返す。
「トリプルとかと同じ感じで魔力を矢に込めてみたんですよ~。」
ノーラの返答に一同「なるほど」という雰囲気を示す。ここで気になることができたアプリコットが好奇心のままに質問する。
「そもそも、魔力込めるのと込めないのでどう変わるんですか?」
「そうですね~。それは実際にやってみた方が分かり易いと思います~。今からあの木に向かって矢を放つので、フラウさん、灯りをあそこまでもっていってください~。
「りょうかーい。《マジックトーチ》」
ノーラの指示通りにフラウが《マジックトーチ》を木のそばで点灯させる。木までの距離は約50mだ。
「ではいきますね~。」
そこまで言うとノーラは「ふぅ」と一息ついた。瞬間、ノーラが纏う空気が変わったのをアプリコットは感じる。
「はっ」
ノーラが弓を構え、矢を放つ。放たれた矢は真っ直ぐに木へと突き刺さった。周囲から「おぉ」という感嘆が漏れる。
「こんどはアーツでいきます。」
ノーラが再び弓を引く。ただし、先ほどと違い弓は横向きで、矢尻も少し右に向いている。
「《シュート》」
その一声とともに、矢が弓から離れる。すると矢は右方向に山なりの軌道を描いて1射目と同じ位置に刺さった。再び感嘆の声が上がる。
「と、こんな感じで矢に魔力を込めると、多少狙いがずれてても狙った位置に当てることができるようになるんですよ。
「そうなんだ。これって誰がやっても綺麗に狙った位置に当てられるの?」
今度はアニーが質問する。あの顔は、もしかしたら自分でもって思ってそうな顔だなとアプリコットは思う。
「それはどうなんでしょう? 私、元々弓をやっていたので。……せっかくですし、もう1射お見せしますね。」
そう言ってノーラは三度弓を構える。心なしか空気が一段と鋭くなったようにアプリコットは感じる。
「はっ」
放たれた矢は真っ直ぐに進み、なんと矢筈(矢の頭の部分)に突き刺さった。これには一同口をあんぐりさせている。
「あれ、どうしました~?」
周囲の唖然とした雰囲気に、ノーラが不思議に思って尋ねる。先ほどまであった緊張感はもうなかった。
数秒後、なんとか起動した一同。それぞれ矢継ぎ早にコメントしていく。
「すっげー!」
「まさかここまでの実力とは。」
「今ってアーツ使ってなかったよね?」
「ノーラさんって弓の達人!?」
「すごーい!」
シーナとアニーに至っては目をキラキラさせている。ノーラはどう返したものか困って「えへへ」と照れ笑いした。
「ねえ、もしかしてノーラってFSOの中で一番弓が上手いんじゃない?」
落ち着いた後、アニーがそんなことを言った。まあ確かに1500人の中に矢を寸分狂いなく矢筈に当てられる人は2人はいないだろう。しかし、ノーラの回答は違った。
「ん~、どうでしょう? シルヴィアさんの方が上手な気がするんですよね~。」
「それは何か理由があるのか?」
ミリアムが訊く。それに対してノーラはあっけらかんと答えた。
「それは……」
「「「「「それは?」」」」」
「勘ですね~。」
その答えに、一同ガクッと倒れた。
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そんな一幕もあった後、一行は更に進む。その後の経路も特に問題なしだ。フラウに至っては、花を採取する余裕すら生まれている。
「その花って何かに使うのか?」
シーナがフラウに質問する。フラウが採取していたのは4枚の花弁を持つポピーのような花〈ポルピー〉だ。
「色々使えるとは思うけど、私は専ら布地の染色に使うかなー。アプリコットちゃんのスカートの色も花から作ってるんだよー。」
「そうだったんですね。」
「大変そう……」
アプリコットはこの色の作り方を知って、改めて履いているスカートを見た。最も、夜なので色は分かりにくいが。一方、アニーは工程の大変さを想像して少しげんなり気味。
「大変だけど、良い服を作るためだから。」
「すごいなー。」
最初に質問したシーナはただただ感心している。
「ほんとうに……っと、前方の木の影にモンスターが1体いるな。」
「分かりました。じゃあ、今度は私から行きますね~。《ラピッドショット》」
……
こんな感じでコジームを出てから40分後、6人は何事もなくイルミスの街に到着した。