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配信終了後、フラウたちと

 配信を終了したアプリコット。現在は《集中》スキルのおかげで持ちこたえている状態だ。最も、そうなった原因も《集中》スキルなのだが。

 なんとかダンジョンから脱出したアプリコットはその足でポータルへ向かい、コジームへ転移。合流したフラウに宿の部屋まで案内されたところで《集中》スキルを解除すると、気絶してベッドの上に倒れ込んでしまった。


 どれくらい経ったのだろうか。アプリコットが目を覚ますと、そこは知らない天井だった。横を向くと、フラウが椅子に座った状態で、パネルを展開して何かをしている。

「あ、起きた?」

 アプリコットの覚醒に気づいたフラウは、座ったままベッドの方に顔を向けた。

「はい、あの……ありがとうございます。」

 アプリコットが申し訳なさそうに返事をする。まあ、先輩に気を遣わせてしまったのだから無理もない。

「どういたしまして。それより、体調はどう?」

 フラウの問いかけに、アプリコットは伸びをして答える。

「さっきまでの気怠さはないです。」

「よかった。じゃあ私も《集中》解除。」

「え……」

 この先輩、《集中》スキルの使い過ぎで倒れてた後輩の横で《集中》スキルを使用していた。そうまでして何をしていたかというと……。

「いやー、課題するときにちょうどいいんだよね、このスキル。集中力が上がるから。」

 大学の課題をしていた。ゲーム内なのに。ちなみにやり方は簡単。レポートの場合、【FSOコネクト】からブラウザにアクセスしてドキュメントを起動し、入力していくだけ。仮想キーボードはFSO内に浮かび上がる。ファンタジー世界なのにどことなく近未来的。


「な、なるほど。ところで、私どのくらい寝てましたか?」

 起きて早々ツッコみたくなったアプリコットだが、堪えて聞くべきことを尋ねる。

「10分くらいかな?」

「ちょっとの使用で10分昏倒……。危なくないです? 《集中》スキル。」

「本来はそうじゃないんだけどね。コメントでもあったけど、生産中や課題中に使うだけならこうはならないよー。それこそ3時間とかでも平気だから。」

「3時間……」

「寧ろそこまでいくと《集中》スキルがないとかえって気が散って厳しいかも? まあたぶんエナドリみたいなものだよー。いわば元気の前借り。」

「そういうことですか。そういえば、ログアウトがどうこうって仰ってましたけど、あれは?」

「ああ、あれ? 前に《集中》を長く使った後即ログアウトしようとしたんだけど、『精神状態のギャップ解消のため、緊急時を除いて一定時間経過するまでログアウトを推奨しません。それでもログアウトしますか?』って出たんだよー。」

「そんな表示が……」

「で、その時は講義近かったからログアウトしたんだけど、急にハイな状態が消え去ってちょっとテンションが下がったみたいに感じたんだよー。めちゃくちゃ軽い二日酔いみたいな?」

「あらら……」

「軽いハイ状態ですらこうなのに、気絶寸前のアプリコットちゃんだとどうなるかってね。」

「だからあのときメッセを下さったんですね。」

「そゆことー。」

 とはいえ、そのまま気絶したところで死に戻りするだけなので、気にする必要もなかったのかもしれないけど。そこはフラウの優しさが大きかった。

 

「それより、心配のメッセ来てるんじゃない?」

「えーと……わ、ほんとだ。」

 フラウの言われた通りにフレンドチャットを確認すると、色んな人から心配のメッセージが来ていた。特にアニーからは2分おきにメッセージが来ている。ちょっと重い。

「それから、ファンのみんなにも無事を伝えないとー。」


 メッセージを返したり、SNSへの投稿が終わったところで、フラウがアプリコットに話しかけてきた。

「にしても、初配信で100人超えってすごいよー」

「え、そんなに来てたんですか?」

 驚くアプリコット。そんな彼女にフラウはイーチューブのアーカイブのページを指し示した。

「ほらほら見てみて」

 するとそこには確かに『103人』という文字が。

「……なんか怖くなってきました。」

「大丈夫、大丈夫。既に星奈さんの配信とかこの間のPVでもっと多くの人に見られてるよ。」

「うー」

 アプリコットの顔が赤くなった。


 このまま赤くなった顔を見続けるのもそれはそれで面白いかもしれないけど、フラウ自身もしたいことがあったので話題を転換することにした。

「さて、これからだけど。アプリコットちゃんはどうする? ログアウトする?」

 心配と若干の挑発が入った感じでフラウが言う。

「まさか。明日は休みですし、まだまだ行きますよ。」

「言ったね。じゃあこの先のエリアを一緒に攻略しない?」

「全然いいですよ。」


 というわけで、アプリコットとフラウは宿をチェックアウトし、コジームの先の新たなエリアにやってきた。平原の中に所々、岩肌が露出している部分が存在する。

 アプリコットとフラウ、2人でのエリア攻略は初めてだが、まあ1人の時とやることは変わらない。モンスターの接近前に《マジック/サンダーショット》で先制する、だ。モンスターのレベルが高くなっているが、1匹相手なら、2人力を合わせれば、自分たちの所へと到達する頃には《スイング》で倒せる程度まで弱らせることができた。

 しかし、そう甘い相手ばかりではない。


 イワバラヤモリ Lv.10 ×3


 イワバラヤモリはどうやら群れで行動するモンスターのようだ。アプリコットたち以外の来訪者にも積極的に襲っている。アプリコットとフラウも先制攻撃を加えているが、数を減らす前に自分のところに来てしまった。

 アプリコットもフラウも後衛向きのビルドだ。相手が1体の時は何とかなっても、複数体となると、前衛なしで接近してきたモンスターに対して上手く対処することが難しい。

「《スイング》」

 それでもフラウはまだ尻尾攻撃に杖で合わせるなどして、辛うじて応戦できてはいる。一方、運動音痴のアプリコットにはそんな芸当は無理だった。

「《サン》……って、うわ!」

 攻撃の間隙を縫いながらなんとか魔法を繰り出そうとするが、相手が複数のために妨害されてしまってなかなか上手くいかない。

 最終的には、なんとか1体倒したところでアプリコットが死に戻りして、それから数秒後、フラウも死に戻りした。


「後衛職だけだと厳しいかー。」

「ですね……」

 リスポーンした先、コジームのポータル前での2人の会話。

「1人ならダメでも2人ならって思ったんだけどなー。」

「だとしたら人選ミスじゃないです?」

「たまたまアプリコットちゃんの近くに行く機会があったからちょうど良いかなーって。」

 ちょうど良いの言葉に苦笑いを浮かべそうになるが、助けてもらったのは自分なのでグッと堪える。

「ということは、コジームの先に何かあるんですか?」

「「イルミス」っていう生産職の街があるって話をお店に来た人から聞いてね。行ってみたいなあって。」

「そういうことでしたか。とはいえ、私たちだけじゃ足りないので人を呼びましょう。」

 そう言うと、アプリコットは|先ほど滅茶苦茶心配してくれた友だち《アニー》にチャットを送った。

 

アプリコット:「イルミスに行きたいんだけど。フラウさんと2人だと死に戻っちゃって

       手伝ってくれないかな?」

アニー:「いいよ! なんならシーナたちもいるから一緒に行くね!」

アプリコット:「ありがとう!

       じゃあ、10分後にコジームのポータルで」

アニー:(「OK」のスタンプ)


「アニーにOKもらえました!」

「良かったよー。」

「10分後にここで合流です。なんなら、シーナたちも来てくれるみたいです。」

「りょうかーい。」

 FSOでは、死に戻りすると10分間ステータスが半減する。そのため、「10分後に」とは「バッドステータスが解除される頃に」という意味合いである。 


 ----------

 

「もう! 心配したんだからね!」

「その節はどうも……」

 10分後、アプリコットの呼びかけにやって来たアニーが開口一番に一言。その剣幕にアプリコットはタジタジだ。あまりの剣幕にフラウすらアプリコットのフォローに回る始末。

「まあまあ、アプリコットちゃんも反省してるから……。」

「アプリコット、そのうちまた同じことをすると思いますよ。」

「……」

 「しない」と断言できないアプリコット。そんな彼女に全員からジト目が向く 。

「体力って自分が思ってるよりずっと少ないんだからね?」

「はい、善処します。」

 アニーの追撃(心配)に、気を付けようと心に思ったアプリコットであった。誓えてはいない。


「まあ、今はその言葉を信じるとしましょう。それで、イルミスに行きたいんだって?」

「そうなのー。後衛2人だと辿り着けそうになくて。」

「任せて! 私が2人を守ってあげるから。」

「私もいるぞ!」

「回復はお任せを。」


「というかもう、正式にパーティーを組んじゃってもいいのでは?」

 そんな声を上げたのはノーラだ。

「私たちとしてはありがたいですけど、いいんですか?」

 アプリコットが少し不安そうに尋ねる。声には出していないが、フラウも同じ表情だ。

「いいと思うぞ!」

「私も問題ない。」

「もう気心も知れてるし!」

 というわけで、アニーたちのパーティーにアプリコットとフラウが正式に加わった。

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