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配信前に一冒険

 リアル時刻で16:00。配信までにはまだ時間がある。アプリコットは冒険を再開することにした。次なる目的地はミナピソルの西側だ。なお、本日も《マジックトーチ》をお供にしている。

 草原地帯を歩き始めてすぐ、ブルースライムに遭遇した。

「《サンダーショット》」

 INTにSPを振ったことで威力が上がったこともあり、ブルースライムは一撃で倒れた。


 というわけで、アプリコットは特に苦戦することもなく歩を進め、やがて、モアーレ湾へと流れるのであろう川が流れるエリアへとやってきた。川では釣りをしている来訪者の姿もある。周辺が草原なのも相まって雰囲気はキャンプエリアだ。

(川……水か。操れれば水魔法が使えるかも?)

 ふと思い立ったアプリコットは川にかかる橋の途中で歩を止めた。しかし、

(それは配信のネタにした方がいいかも)

 アプリコットは再び歩……こうとした。そのタイミングで、声を掛けられる。

「あら? アプリコットさんですか?」

 呼びかけられたアプリコットは、《マジックトーチ》を声の方向へと向けた。すると、見知ったベージュ髪の人が片手に竿を持ち、もう片方の手を振っている。

「ノーラさん!」

 アプリコットは女性の所に向かった。


「夜釣りですか?」

「そうですね。私実家が海なし県でして。釣りには少し興味があったんですけど、今まで縁がなかったんですよね~。」

「……ここ、川ですけど。」

 なんかとても気が抜ける雰囲気だ。

「海釣りはモアーレでやったので。あ、また釣れました~。」

 ノーラが竿を引き上げると、確かに川魚が掛かっていた。ウインドウによると、名前は「イフルナ」らしい。直径10cmくらいだ。

 ちなみに、アプリコットが川面を見たところ、魚の姿はなかった。どうやら釣り時に出現(ポップ)するみたいだ。こういうところはゲームである。

「というか、よく分かりましたね。」

「さっきから、雷魔法が目立ってましたから~。」

「なるほど。」

 確かに、現在のゲーム内時間帯は夜だ。それだと、魔法の光は目立つだろう。アプリコットは納得した。

「アプリコットさんはどうしてこんなところへ?」

 続けて糸を垂らしている間、今度はノーラからの問いだ。

「次の町へ向かう途中です。」

「次というと、トルナントですか。なんか意外ですね~。」

「どこがですか?」

「アプリコットさん、トップを走ってる印象があったので。あ、また釣れました~。」

「そういうわけでもないと思いますけど。」

「だって、あの時はバーン! って感じだったじゃないですか~。」

「あの時? バーン?」

「自然と皆の中心になってて。すごいなって思いましたよ~。」

「あ、ありがとうございます?」

「おっと、また釣れました~。」

 少し不思議な人だな。アプリコットはそう思った。前回は戦いの途中だったので気づかなかったが。

 アプリコットは時間を確認した。後のことを考えると、ここらで進むべきだろう。

「ノーラさん。そろそろ向かいますね。」

「そうですか。ではお近づきの記念に」

 ノーラがそういうとインベントリの魚を一尾譲渡する旨の画面が現れた。

「ありがとうございます。」

「いえいえ~、配信頑張って下さいね~。」

 ……アプリコットが配信することは彼女も知っていたようだ。


 -----------

 

 川を越えた所からモンスターのレベルが上がる。その上、鳥モンスターが襲い掛かるようになってきた。


 ナイトサギ Lv. 7


《サンダーショット》

 雷の弾を撃つが、相手の俊敏性とショットの制御難易度も相まって、攻撃は外れてしまう。

 グラスバードの啄む攻撃! アプリコットに3のダメージ。

 防具を作ってなかったら2発でお陀仏だっただろう。事前に作っておいてよかった。アプリコットは思った。……ってほっとしている場合ではない。

「《サンダーボール》」

 今度は制御しやすいボール系魔法で攻撃する。すると無事命中し、相手は墜落した。

 アプリコットは墜落地点に近づく。するとナイトサギは気絶していた。

「……《スイング》」

 えいっとアプリコットが杖をぶつけると、ナイトサギはドロップアイテムへと姿を変えた。


 最初こそこんな感じだったが、以降は《サンダーボール》で感電→墜落で大ダメージ→《スイング》で光に還る相手に苦戦する理由はなかった。どうやら、飛んでいる相手には電気が効果抜群なのはこのゲームでも一緒だったらしい(某世界的RPG感)。


 といっても、直にナイトサギに加えて+αの魔物が襲い掛かるようになってくる……とアプリコットも思っていた。しかし、そんな機会は無かった。見晴らしの良い草原。有利なのは遠距離攻撃を持つ者である。先制して仕留めることで、無意識のうちに複数が同時に襲い掛かって来る事態を避けていた。

 そうして難なくアプリコットは次の町〈トルナント〉へ辿り着いた。


 ポータルへの登録を済ませたアプリコットはまず、ポータル横に掲示されている地図を見た。どうやら、この町にも冒険者ギルドと生産ギルドがあるらしい。その理由は、町の南西部に存在するダンジョン〈トルナントの洞〉だろう。


 ダンジョンについても、例のごとくイーチューブ配信で紹介されていた。

・ダンジョン内は別サーバーになっており、入場組毎に各サーバーに振り分けられる。

・中はいくつかの層に分かれており、最奥には強力なボスモンスターが存在する。

・敵を一度倒しても、退場時にリセットされるため、何回でも攻略可能。

・退場も好きなタイミングで階層毎に存在する転移魔法陣で、任意で退場することができる。

 ちなみに、これは余談だが、配信では〈トルナントの洞〉でシルヴィア・星奈・デニーゼ・ナディネのパーティーがわちゃわちゃする様子が流れていた。


 ふと、アプリコットは思いついた。ダンジョン内なら他の来訪者に干渉されることなく配信をすることができる。しかも、ダンジョン内に池があるのは、公式配信で確認済だ。

 といっても、現在17:00。ダンジョンに入る前に、ここらでゲーム内でもリアルでも夕食を摂るべきだ。アプリコットはご飯処を探すことにした。

 そこから歩くこと数分。アプリコットは冒険者ギルドの隣に食堂を見つけたので入ることにした。


「いらっしゃいませ。」

 店員の女性に声を掛けられながら入る。まだ夕食時には早いこともあって人はまばらだ。

「メニューをどうぞ。」

 アプリコットはメニューを見て、それから

「猪肉カツ定食をお願いします。」

 配信前にしっかり食べよう。と、ガッツリしたものを頼んだ。猪自体が豚肉よりも野性味が強いこともあって非常にボリューミーだった。

 ……数分後、ログアウトした杏梨は冷蔵庫を見て少しショックを受けた。というのも、事前に学食でテイクアウトしていたのもカツだったのだ。しかも豚である。(豚は家畜化された猪)

 料理自体は美味しかったが、今後は似たようなものの連続にならないようにしようと杏梨は胸に誓った。

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