水棲青鬼素材で防具づくり
FSOが始まって初の土曜日。杏梨は午前中に部活動へ行き、そのまま大学で講義の課題を済ませてから帰宅。レーテギアの電源を入れた。現在時刻は14:00。今日は19:00までソロ活動で、それからは配信の告知もしている。どうして配信することになったのかというと、フラウの一言がきっかけだ。
「せっかくだから配信始めたら? この戦いで知名度も上がったことだし。」
アプリコットは否定できなかった。というか寧ろ満更でもなかった。
配信に際して属性スキルについて訊かれることになるだろう。アプリコット自身は教えることに忌避感はない。なんなら前回同様、アーツの自力取得の様子を流せば、ほかの人が別のアーツで真似をして、もっといろんなアーツ――魔法を見られるようになるかもしれない。って思っている。しかし、魔法で物を操る技術は魔法雑貨店のリランに教えてもらった技術だ。
(NPCとはいえ、事前に許可は取っておくべきだよね。)
というわけでアプリコットはモアーレのポータルからミナピソルへ転移した。光に包まれ、数秒後には風景が変わる。
「構わないよ。」
魔法雑貨店にて、リランは快く快諾してくれた。
「理由を聞いてもいいですか?」
「魔法雑貨は人の数だけアイデアがある。そのアイデアはまた、刺激となって別の人のアイデアへと繋がっていく。来訪者がやってきて、これからどういう作品が増えていくのか、私は楽しみにしているんだよ。」
「私に教えてくださったのも?」
「そうだね。あと、魔法雑貨に興味がある来訪者が来たら、技術を伝えてもいいと思ってたんだ。最も、ほとんどの来訪者の興味は雑貨そのものより効果だったみたいだけど。」
「それは……なんかすみません。」
「君が悪いわけじゃない。それに、そういった来訪者もね。戦闘に必要な物を見極める力は冒険には必須だからね。」
そういうと、リランは左目でウインクをした。
「ところで、杖なしで《マジックトーチ》の発動はできるようになったかな?」
「うっ、まだです。《マジックボール》を通して雷を操れるようにはなったんですけど。」
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目下のアプリコットの課題は、「杖なしでの《マジックトーチ》の発動」だ。とりあえず、来訪者ギルドで魔法についての本を読むことにした。
魔法とは、自身の魂の力を魔力を使って行使する術である。
ただし、体から離れた場所に魔法の力を行使するのは難しい。それを装備するだけで行えるようにするのが《杖》等の魔法武器の役割である。
……新情報はあった。目的の情報でもあった。ただし、現状の解決策にはなりそうになかった。アプリコットは本を閉じ、パネルを展開。FSOコネクトから、検証班のウェブページを見ることにした。
読めば知ることのできるこの情報、検証班も当然把握していた。ただし、それ以上の有用な情報はやはり見当たらなかった。
ゲームで行き詰ったときのお約束。とりあえず、他のことをすることにした。
(せっかく水棲青鬼の素材が手に入ったんだし、それで何かしよう。)
先の戦いでアプリコットは、少なくない量の〈水棲青鬼の鱗〉〈水棲青鬼の皮〉〈水棲青鬼の肉〉〈水棲青鬼の鰭〉〈水棲青鬼の目玉〉を手に入れていた。……といっても、使い方はわからない。アプリコットは再びFSOコネクトを見た。
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【大量】水棲青鬼素材について語るスレ【どうしよう】
1. 通りすがりの来訪者
報酬の水棲青鬼素材どうしよう?
そう思って立てたスレです。
2. 通りすがりの来訪者
数が多いからなぁ
生産ギルドとかで売れはするが、売値も安いし
3. 通りすがりの来訪者
しかも、素材って劣化するし
まあ今回は最初から高品質じゃないから気にしなくていいかもだけど
4. 通りすがりの来訪者
手っ取り早いのは《錬金》だな
今後も素材が増えていくことを考えたら覚えておくのもアリだと思う
時間を食うのがネックだけど
5. 通りすがりの来訪者
肉と目玉は料理にしたらどうだ?
6. 通りすがりの来訪者
>>5 干し肉にしてしまえば今後の冒険が楽になるかもな
7. 通りすがりの来訪者
鱗は薬にできるぞ
8. 通りすがりの来訪者
>>7 あと、防具にも使える。皮もな
……
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(よし、防具を作ろう)
皮防具なら《服飾》の領域だ。〈初級服飾キット〉のレシピを確認する。今作れそうなのは、胸当て、籠手、ベルトの3種だ。最低限必要なものは以下の通り。
・胸当て
メインの素材と〈分類:糸〉〈分類:布〉
・籠手
メインの素材と〈分類:糸〉〈分類:ひも〉
・ベルト
メインの素材と〈分類:糸〉、ベルト留め用の金具
布とひもは今持っていないが、低品質の物なら生産ギルドで買うことができる。糸は前回購入した分でまだ余裕がある。
(金具も多分リランさんの店で買うことができるだろうけど、同時に装備できるアクセサリーは3種類までだし、今回はなしで。)
アプリコットは胸当てと籠手を作ることにした。アプリコットは生産ギルドの受付で〈クロース〉と〈羊毛ひも〉、〈服飾型紙〉を購入し、初級生産部屋に入る。
「まずはレシピから型紙に描き写すんだよね。」
フラウに教えてもらったことを思い出しながら、レシピ集のページに型紙を重ねて、〈マジックチャコペン〉でなぞっていく。今回は基本に忠実に、レシピ通りに作ることにする。
型紙が完成したら、素材をインベントリから取り出す。まずは胸当てから。眼前に皮と型紙、布が現れたら、アプリコットは型紙の上に皮を置いてアーツを唱えた。
「《型転写》」
皮の表面に転写された切り取り線が浮かび上がる。その線に沿って〈チャコ裁ちバサミ〉で切っていく。
このハサミで皮って切れるのかな? なんて思ったけれど、問題なく切ることができた。同様にして、布も裁断する。
「そしたら、これをミシンに置いて。あ、糸のセッティングしないと。」
現実だとボビンを使うのは下糸だけなことが多いけれど、糸を素材として用意するFSOでは上糸にもボビンを使う。糸の通っていないボビンに糸をくぐらせ、糸巻き軸にボビンをセット。すると、ボビンが回転して糸が巻き付かれる。これを2セット行う。
できた上糸と下糸をミシンにセットしたら準備完了。一息ついた後、アーツを宣言する。
「《魔法裁縫》」
皮と布を縫い合わせたら、次はフィッティングだ。マネキンに装備を着せて
「《フィッティング》」
後は名前を付けて完成だ。サイズはアバターに自動対応するので気にする必要はない。早速装備した。
〈水棲青鬼皮の胸当て〉
・VIT+3
水属性への耐性
雨天時 VIT+2
次は籠手だ。といってもやることは変わらない。皮を裁断し、それらとひもを縫い合わせて完成だ。
〈水棲青鬼皮の籠手〉
・VIT+3
水属性への耐性
雨天時 VIT+2
これも装備して、アプリコットは生産部屋を後にした。
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アプリコット
ステータス
Lv. 10
HP:16 MP:19 STR:1 VIT:9(+8) AGI:9 DEX:9(+1) INT:22(+1) MND:4(+1) ATK:2
《魔力操作 Lv.3》《杖 Lv.10》《雷 Lv.1》《服飾 Lv.2》《言語学 Lv.1》
装備
頭:なし
上半身:出会い日のフリルシャツ
下半身:出会い日のスカート
靴下:初心者用の靴下
靴:初心者用の靴
武器1:旅人の杖(両手装備)
武器2:なし
アクセサリー1:旅人のローブ
アクセサリー2:水棲青鬼皮の胸当て
アクセサリー3:水棲青鬼皮の籠手
話が短くなったので18:00にもう1話投稿します。