名場面上映会と属性魔法講習
ある程度ご飯が進んだあたりで、突然店の入り口から男性が現れた。
「みなさん、お疲れ様でした。【世界の運営者】のおぐちーです。今回の戦いの名場面集ビデオが完成しましたので、上映会をさせていただこうと思います。」
その言葉に、歓声が一段と大きくなった。
酒場で初めて襲来を聞いた時から戦闘終了まで、多くのシーンが大きな場面で流れる。
『「すみません。来訪者にできることはありますか?」』
「あのときの嬢ちゃんの言葉助かったぜ!」
「いえ、あのときは何かしないとって必死で……」
シビュラの感謝にアプリコットはオロオロする。
『「みんな! 来訪者ができる人たちだって、現地の人たちに見せつけてやろう!」「「「「「「「「「おーっ!!!」」」」」」」」」』
「なんというか、今見ると気恥ずかしいな。」
「あ、アプリコットの顔が赤くなった。」
「なんか学生時代のクラブ活動を思い出して楽しかったですよ。」
ダルツ、アニー、ロンドが口々に語る。他のあのときいたメンバーも皆笑顔だ。
『「それなら私に任せてほしいな☆」』
「ここで満を持して私登場ってね☆彡」
「いかにもって感じでスタンバってたのね。」
星奈の登場シーン。デニーゼが少しあきれ顔。
『「まずは、音楽隊いくよ! 《強化の前奏曲》♪」』
「音楽隊のみんなー、また一緒に演奏しようね♪」
ナディネが手を振ると、次々と「はい!」という声が聞こえる。
『「弱点看破! 雷属性が弱点みたい☆」』
星奈の弱点を看破したという台詞の後、各々の方法で雷属性攻撃をするウィルナ、ロゼ、巫女服の女性のシーンが流れていく。錬金術師のロゼはともかく、雷属性攻撃を使えた人がいたことに周囲が驚きに包まれる。
「属性攻撃使えるようになりたーい。」
「てか、あの攻撃(護符)何? あんなの武器としてあったっけ?」
(ありゃ、やっぱりピックアップされてもたか。まあ、しょうがないわな。この後、質問攻めに遭うんやろなぁ。)
なお、当の本人の1人、巫女服の女性はこの後訪れるであろう出来事を想像しながら黙々と炒飯を食べている。
『「サンダー……ブラストォッ!」』
「迫力すご」
「かっこよかったよー」
「あ、ありがとうございます。」
アプリコットが1番目立つシーン。歓声が上がり、アプリコットは更に顔を赤くした。
上映会終了後、アプリコットのもとに多くの人が質問を投げかけていた。もちろん話題は《雷》についてだ。
「え、えーっと……」
一気に質問攻めに遭っててんやわんや。その時、別の方から大きな声がした。
「はーい、注目☆」
見ると、星奈が拡声器を持っていた。隣にはウィルナがいる。星奈はウィルナへと拡声器を手渡した。
「属性魔法を使うには、その属性を体内に取り込むことが必要よ。一番楽なのは、魔法陣を使って精霊に呼びかけることね。魔法陣については残念ながら今すぐに使えるようになるものじゃないけれど、後で見せてあげるわ。」
「というわけで、質問攻めはここまで。気になる人は10分後、玄関に集合! 今は祝勝会を楽しもう☆彡」
登録者100万人のVチューバーの影響力というのは大きい。ほどなくみんな再び食事と歓談を楽しみ始め、アプリコットへの質問の嵐もひとまず終わりを告げた。
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ちょんちょん、とご飯を食べていたアプリコットの肩が叩かれる。振り返ると、先ほど演説(?)を終えたウィルナと映像で巫術を使っていた女性が立っていた。
「あ、お疲れ様です。えーっと……」
「ウィルナよ。」
「うちは木乃香や。」
「あ、アプリコットです。その、お2人は何の用でしょう?」
「もしかしたら、さっき質問攻めに遭っとったんやないかって思ってな。アプリコットが良ければやけど、この後外でウィルナはんがやるときに、うちと一緒にみんなの疑問に答えとかへんか? ずっと聞かれるのも大変やろ。」
「あ、そういうことならやります。」
星奈によるアナウンスから10分が経過した。多くの来訪者が外に出て、ウィルナによる魔法陣披露を楽しみにしている。
「今から属性魔法について、簡単な講義をするわ。改めて、私はウィルナ。貴方達が言うところの現地人よ。」
「木乃香です。来訪者やで。」
「アプリコットです。私も来訪者です。」
「まず、属性攻撃というのは、その属性を人体や武器が取り込むことで発現できるものよ。」
「例えば、うちは護符を使ってるんやけど、ここに自然の力が組み込まれてて、それを魔力を通して発現させてるんや。みんなが使う武器やと《扇》がその性質を持ってる。そういう意味では、属性魔法そのものを使えてるわけではないかな。あ、ちなみに、うちが護符が使える理由は秘密やで。」
そう言うと、木乃香は護符を皆に見えるように取り出した。小さな紙に文字のようなものが書き込まれている。もっとも、ウィルナを挟んで横にいるアプリコットにはうまく見えなかったが。
「そうね。属性魔法は、その属性を身体の魔力が覚えることで使えるようになるわ。さっきの戦いでアプリコットがやって見せた方法がそれね。ねえアプリコット、あの時の感覚を説明できるかしら?」
「そうですね……。なんというか身体の中の魔力が雷に染まった感じがしました。」
「ちなみに、あの方法ははっきりいって危険よ。言ってしまえば、無理やり雷を魔力で操作して、そのときに力の一部が魔力を通して流れ込んでるって状態だから。」
「え!? 私そんなに危険なことしてたんですか!?」
「まあ、あなたが無事なのは、雷への耐性を持ってたおかげでしょうね。」
アプリコットは思わず身震いした。いくら死んでも蘇ることができるからってそんな無茶をしていたとは。
「というわけで、普通、属性を覚えるときは魔法陣を通して精霊にお願いするのよ。「魔力を渡すので、あなたの力を一部流してください」ってね。こんな感じに。」
そう言うと、ウィルナは祈祷を唱え始めた。
「我、ウィルナ 雷の精よ 我が元に顕現し給え 我が魔力を対価に その御力を授け給え」
すると、ウィルナの足元に黄色い魔法陣が、周囲に黄色い光がぽつぽつと現れた。観客がざわめき立つ。アプリコットも口を開けて見入っている。
光はウィルナへと集っていく。やがて魔法陣が消えると、黄色い光も見えなくなった。
「と、今のが魔法陣を通した精霊との遣り取りよ。詳しいことを語ろうとするとかなりかかってしまうから、今回はここまでね。あとは魔法の都〈エント〉で学んでちょうだい。」
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講義(?)が終わると、みんなはまた店内に戻り、歓談と食事を再開した。今度はアプリコットから話しかける。
「そういえば、木乃香さんはどうしてあの名乗り出なかったんですか?」
木乃香なら雷の誘導もできたのではないかとアプリコットは思う。
「あーそれな。うち、魔法で物を操るのはやってなかったから、条件からは外れるなって思うて。ウィルナはんとの遣り取りを聞いてたら行ってたかもしれんけど。」
木乃香が来なかった理由はいたってシンプルなものだった。
「にしてもウィルナはん、良かったんか? 報酬も無しにあそこまで教えて。」
「いいのよ。だって、ここで教えたら、私がこんなにいる来訪者全員の魔法の師匠だって言えるじゃない。」
片手にワイングラスを持ちながら、ウィルナは爽やかな笑顔でそう答えた。
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運営ルーム。1人の女性が名場面集ビデオを観ている。場面は杏髪の少女が雷魔法を放つシーンだ。そこに別の女性が話しかける。
「あれ、確かそのプレイヤー、センパイのお気に入りの娘でしたっけ。」
その問いに、ビデオを見ていた女性は微笑み顔で答えた。
「うん、そうだよ。」