戦闘終了――放つ《雷》の一撃
デニーゼが声を上げる。
「《雷》持ちかつアーツじゃない魔法で物を操ったことがある人、灯台の入り口に行ってほしい。」
「アプリコットちゃんも行くよ☆ 露払いは私がするね☆」
「はい。ありがとうございます。」
星奈が敵を切り刻み、アプリコットが駆ける。しばらくして、2人は灯台の入口にたどり着いた。
一方のウィルナ側、彼女の足元に黄色の魔法陣が現れた。その強力な魔力に警戒感を示した水棲青鬼たちがウイルナへと攻撃を仕掛けようとする。
「させねぇよ。《プロヴォケーションオーラ》」
シビュラが斧を地面に刺し、赤いオーラを纏って敵を挑発して阻止。敵を困惑させたところで、近くにいた者達が追撃する。先ほどの会話を聞いていたほかのパーティーの面々もそこにはいた。初めて会う者も多い中、各々がウィルナを庇う様に円形に並んで連携する。
「2人とも、灯台の鍵を持ってきたわ。」
アプリコットと星奈が灯台の下に到着して数分後、デニーゼが鍵を持ってやってきた。
「……ほかに条件を満たした人はなしですか。」
「一応私たちはここに残って待ってみるよ☆」
「わかりました。では行ってきます!」
デニーゼによる解錠を確認して、アプリコットは灯台の階段を駆け上がった。それを見送った2人が意見を言い合う。
「他にいると思う?」
「片方だけならまだしも両方はね……」
数分後、アプリコットがパーティーチャットで発言した。
「灯台の上、着きました! 展開します。《マジックボール》」
そうして彼女は《マジックボール》を塔の先端よりも上で発動した。そのままアプリコットは待つ。普段ならMP切れになってしまう《マジックボール》の常時発動も、〈ポータルヒーラー〉のおかげで平気だ。
それを聞いたアニーたちとウィルナはアイコンタクトをとって頷いた。
「満ちし雷の欠片よ 我が力を糧とし 稲妻となりて 集え 集え 降り荒べ! 《サンダーファスキス》!」
雲間から再び稲妻が灯台の先端に向かって走る。アプリコットの《マジックボール》も容易く飲み込まれた。
「くっ……」
それでもアプリコットは《マジックボール》に、そしてそれを覆う雷にまで魔力を流し続ける。思い出すのは、初めて〈魔粘土〉を触った時のこと。あのときと違うのは、魔力で操りたい対象に直接触っていないことと、《マジックボール》と杖との間の魔力パス(と思しきもの)を通じてビリビリが体に流れていることだ。
(痛いっ。けど大ダメージってほどじゃない。それに……)
アプリコットは感じていた。自身の体内の魔力が雷に染まっていくのを。
(これが、この感覚が属性スキルの使い方! これならいける!)
雷に染まった魔力を解き放つ。魔力球も雷に染まって黄色に変化する。アプリコットは更に魔力を込め続ける。そして眼下を見渡す。狙うのは海上だ。
「サンダー……ブラストォッ!」
雷の砲撃が海へと降り注ぐ。それは海を伝播し、水棲青鬼の魔法使いたちに大きなダメージを与えた。彼らの呪文が途絶え、雲間から光が差し込む。
「ここから最終楽章! いくよ《総ざらいの終曲》♪」
雨が止んだ今が攻め時と、ナディネが指示を出す。音楽隊が奏でるのは、前奏からの効果を曲の終了とともに打ち切る代わりに、それまでのバフ・デバフを倍加させるアーツ。まさに決戦ともいうべき壮大な音楽が流れる。
「お疲れ様。身体は大丈夫?」
灯台を降りてきたアプリコットにデニーゼが声をかける。
「大丈夫です。まだ戦えます。」
「おっけい。それじゃ戻ろっか☆」
そうして3人は再び戦場へと駆け出した。
「《ラピッドスラッシュ》☆」「《サンダーボール》」「《マジックショット》」
来訪者たちの勢いはその後も増すばかりで、5分後、最後の水棲青鬼が討たれ、防衛戦は来訪者・現地人の勝利となった。
彼らの前に画面が表示される。
【世界を変え得る戦いへの勝利を確認しました。】
【評価を確認中…………】
【評価:Sランク】
【来訪者の貢献度を計算中…………】
「え、うそ。」
【プレイヤー名:アプリコット
戦闘貢献度:4/1472
生産貢献度:1460/1472
状況貢献度:2/1472
総合貢献度:2/1472】
アプリコットは2位だった。
(いや、生産1460位だよ? ほとんど素材も納品してないし。っていうか状況貢献度って何!?)
アプリコットはガクガク震えた。何かの間違いではないだろうかと。そんなアプリコットにミリアムが話しかける。
「どうしたんだ?」
「あわわわわ……」
アプリコットはどう返せばいいか分からなかった。そんな様子を見てアニーが呟く。
「どうせ高順位でびっくりしてるんじゃない?」
「ああ、なるほど。」
「それで納得するの!?」
「だってまあ、この戦闘だけでも色々やってからな。貴女は。」
「それは成り行きじゃないかな?」
「成り行きでも成し遂げたのは貴女だ。」
「そんなことより、報酬確認しなくていいの?」
アニーの一言にハッとなって報酬を確認したアプリコット。そこにはVPとゴールド、貢献度に応じて分配された水棲青鬼のドロップアイテムのほか、SPを獲得できる〈SP獲得オーブ:40〉、〈なにかのチケット〉を手に入れたとあった。
またそれとは別に、魔力操作のレベルアップと、スキル・アーツを獲得した旨が通知されていた。
《属性変換》
自身の魔力を無属性から他属性に変換できる。
《マジックブラスト》
魔力を貯めた一撃を放つ。貯めた量で威力が変化する。
アプリコットが通知の確認を終えたころ、港に男性の声が響いた。
「皆様、この度は町を守っていただき、ありがとうございました! 町長として、この町に住む者として、御礼申し上げます。この後ですが、船来亭にてお食事の用意がございます。もちろん無料でございますので、奮ってご参加ください。」
船来亭。それは、アプリコットがこの戦いに加わるきっかけとなった酒場の名だ。アプリコットもご相伴にあずかることにした。
店内に入ると、そこには多種多様な料理が用意されていた。刺身や焼き魚、天麩羅、竜田揚げ、アクアパッツァなどの魚料理から、ポテトサラダや枝豆といったお酒のおつまみまで。バイキング形式で各々食べたい料理を取っていく。
「みんな、ご飯は取れた?」
ある程度時間が経った頃、デニーゼが乾杯の音頭を取り始めた。
「では、私たち来訪者のイベント初勝利と、モアーレの町を守れたことを記念して、乾杯!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「かんぱーい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
この戦いに関わった者たちの声がこだまする。さて、集団で乾杯をした後は個別で乾杯するのがお約束。プチ有名人となっていたアプリコットには多くの人が訪れていた。その度にアプリコットはグラスを合わせていった。
ある程度乾杯が終わったら、食事タイムだ。港町の魚介料理に舌鼓を打つ。
「やばい、どれも美味しー!」
アニーは豪華な食事にテンションを上げている。他の人達もみな楽しそうだ。お酒を飲んでいる人も多い。
「これだけ食べても太らない……VRゲームのいいところです。」
ノーラは体重を気にせず食べられるところに嬉しさを感じていた。何人もの女性来訪者が同じように頷いている。
「アプリコット、これ食べてみなー?」
「どれどれ。って辛ーっ!」
またあるところではアプリコットがシーナのイタズラを受けて悶絶していたり。
「明日も仕事あるけど、今は忘れて呑むぞー!」
ミリアムが現実逃避(?)をしていたり。
「サブローさん、服の調子はどうですか?」
「フラウ殿、問題ないでござる。」
と、店主と客で会話していたり。
「ロゼ、はいどうぞ。」
「こっちも美味しいわよ。」
ロゼが2人の女性から食べ物を渡されていたり。そんな様子を
(爆ぜろや……)
と恨めしげな目で見ている男どもがいたり。
とまあ、各々が各々で楽しんでいた。