戦闘中――魔法の使えないスキル持ち
「全くアプリコットちゃんはとんでもないですね。」
大盾で水棲青鬼を抑えながら、ガリムが言う。
「まったくでござる。」
「俺たちも負けてられねえぜ!《スラッシュ》」
「その通りですね。《マジックシュート》」
サブロー、フレイ、ハンスが同調した。他の面々も同じ気持ちだ。
「よし、野郎ども! もういっぺん気合い入れろ!」
「「「「「おう!」」」」」
ダルツの声かけに対し、野太い声がこだました。
----------
「まだまだいくよ! 《曖昧の夢想曲》♪」
次の曲は対峙する者にデバフを与えるものだ。これにより、水棲青鬼の攻撃と守備が弱くなる。それに加え、来訪者たちが戦闘に慣れてきたのもあって、水棲青鬼の数は順調に減っていった。
だが、それで終わる水棲青鬼たちではない。まだ海中にいた群が、呪文を唱え始めた。
「奴らが何か唱え始めた。各員警戒して。」
動きが変わった敵を前に、デニーゼが警戒感を示す。何人かは呪文を妨害しようと遠距離攻撃を放つが、上陸済みの個体に阻まれて届かない。
そうして数秒後、呪文が終わると、突然上空に雨雲が現れ、激しい雨が降り始めた。水棲青鬼の鱗が水で濡れる。すると、目に見えて彼らの動きが活発になった。
「《ガード》っ!」
アニーが複数の敵の剣攻撃を盾で防ぐ。しかし、明らかに先ほどまでより威力が強い。押し負けないようにするので精いっぱいだ。
「《マジックボール》っ……」
アニーの負担を減らそうと、アプリコットがまた《マジックボール》でスイングしようとする。しかしこれも、先ほどまでと違って抑え込まれてしまう。
「足りない……」
「だったら一体ずつ確実に《ブレイク》! フラウさん合わせて!」
「《マジックショット》! ってきゃっ!」
シーナに合わせてフラウが攻撃しようとするが、そこに別の水棲青鬼の矢が刺さる。
「《トリプルシュート》」
ノーラがリカバリーのため放った矢は3本とも、フラウが攻撃しようとした水棲青鬼を穿つ。これによりアニーの負担が減ったことで、彼女はすぐさま反撃に転じた。
「《薙ぎ払い》」
幸い戦線を立て直すことはできた。しかし、
「遠距離攻撃持ちも出てきたか。」
フラウを回復させながらミリアムが言う。一行は警戒感を新たにした。
同時に、アプリコットはステータスパネルを展開する。このままでは威力が足りない。アプリコットは現在レベル10だが、SPを一切振っていなかったのでステータスは初期から変わっていない。20SPのうち半分をINTに振った。
先ほどまでの順調ぶりはどこへやら。現在は拮抗状態だ。幸いリスポーンした者が少ない今は戦線を維持できているが……。
「決定打が足りない……」
デニーゼはそう呟く。指揮のため後方にいる彼女も、先ほどから魔法を撃つ機会が増えていた。それはつまり、来訪者たちの攻撃網を抜けてきた敵が出始めているということに他ならなかった。何か策はないかと全体をもう一度見渡す。
ちょうどそのとき、ロゼの《雷爆弾》とウィルナの《サンダーショット》が同じ方向に着弾した。途端、大きな爆発音が鳴る。デニーゼはすぐそちらに目を向けた。すると、爆発の周囲にいた複数の水棲青鬼が麻痺していた。効果が広がったのはおそらく雨で体が濡れているからだろう。麻痺した相手に次々と来訪者たちが攻撃し、相手は屍となった。
「そっか。《雷》が弱点だったね。」
星奈の報告を思い出す。そして拡声器を口に近づけた。
「今の爆弾と魔法を発動させた方! もう一度合わせて攻撃できませんか?」
デニーゼの問いに答えようと、ロゼとウィルナはすぐにコンタクトをとった。
「君、行けるかしら?」
「まだ数はありますね。」
すぐに2投(射)目が放たれる。《雷爆弾》に雷魔法を当てるだけの簡単な作業だ。また複数の水棲青鬼が痺れて動けなくなり、そこに一斉に攻撃が命中した。
このコンビネーションの繰り返しにより、戦線は再び持ち直した。時折一緒に感電してしまう不憫な人もいたが、彼らはすぐに回復役が回復させた。
一方、水棲青鬼の魔法使いたちは更なる自軍の強化のため、再び先ほどの詠唱を唱え始める。
「ロゼさん、爆弾はあと何発残ってる?」
「あと2発です。」
「分かった。それじゃ、1発は目の前の奴らに。痺れさせたらそのまま海まで突っ切るよ。他の人たちは私たちに寄って来る奴らを排除して。」
「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」
そうしてロゼとウィルナは再びコンビネーションを見せる。そして、痺れた相手を尻目に、彼らのパーティーは駆け抜けた。
そして海でもう1発。これで、一部の水棲青鬼の魔法使いが倒れ、呪文の効力は弱まった。しかし、依然雨は降りづいている。ちょうどその時だった。
ドゴーーンッ!
港の灯台に雷が落ちた。幸いなことに来訪者の近くには落ちず、不幸なことに水棲青鬼たちには当たらなかったが、衝撃で空気と地面が揺れた。多くの来訪者と水棲青鬼がバランスを崩した。その隙に、両陣営の体勢を崩さなかった者たちの攻撃が両者を襲った。
アプリコットも当然の如くバランスを崩してコケていた。運動音痴に咄嗟の反応は難しい。幸いにもアニーがすぐにカバーしてくれたおかげで、相手から追撃されることはなかった。
「ありがとう。」
目の前の敵を倒した後、余裕があるうちにアプリコットはお礼を言った。
「いいよ。にしても、すごい雷だったね。」
「ほんとに。」
しかし、そんな会話も長く続かない。すぐに次の水棲青鬼が襲い掛かってくる。
「まったく、これじゃ休めもしない。」
「ほんと、ヘトヘトになってきたぞ。」
アニーのボヤきに答えたのはシーナだ。いくらリアルではないとはいえ、鎌を振り回し続けて疲れ始めていた。少しづつ水棲青鬼のレベルが上がっていっていたことも関係している。
「さっきの雷が海に落ちてくれればもう少し楽になったんでしょうけど。」
ノーラが矢を放ちながらそう独り言ちる。アプリコットはそんなノーラの言葉を聞きながら、前方から来る新たな水棲青鬼に注意を向けた。
ちょうどそのとき、ウィルナの一団もアプリコットたちの近くで戦闘を行っていた。アプリコットの耳に、話し声が入ってくる。
「なぁウィルナ。さっきみたいな雷を、操ってあいつらの所に落とせないのか?」
斧を振り回しながらシビュラが問いかける。
「雷をつくることはできても落とす場所は……今の私には難しいわ。もう1人《雷》スキル持ちがいればってところね。」
その呟きを聞き、アプリコットは思わずその会話に飛び込んだ。
「あの、それってまだ雷が使えないスキル持ちでも可能ですか?」
「えっと、あなた。《雷》スキル持ってるの?」
「はい。最もさっきの通り、魔法はまだですけど……」
「魔法の使えないスキル持ち、ね……。」
その発言に、ウィルナが考えを巡らせる。
(魔法の使えないスキル持ち......そんなこと、あり得るのかしら? いえ、先天的に耐性だけ持ってて、変換方法が分からないとか? だったら、物を操る術が分かっていれば、後は雷の強力な力が流し込まれれば自然と理解できる?)
「魔法で物を操ったことは?」
「《魔粘土》なら」
「……不可能ではないということね。でも、制御に失敗したらあなたは消し炭よ?」
「そのときはそのときです。私は来訪者なので。」
その返答に対してウィルナが再び思考を巡らせる。思考を中断させたのはシビュラの一声だ。
「あたしは、嬢ちゃんになら賭けていいと思ってる。」
「「シビュラ(さん)?」」
「あたいらは嬢ちゃんたちのおかげで万全に戦えてる。この町を守れてる。だからこそ、な。」
「シビュラさん……」
アプリコットは感激した。
「……トルテはどう思う?」
「《雷爆弾》も尽きてる。士気も下がり始めてる。やる価値はあると思うわ。」
仲間の回復を受けながらもトルテが返す。
「私も賛成☆ それと」
「雷が落ちるとしたら、また灯台だと思う。幸いにも灯台の鍵は本部にある。」
どうやらトルテと行動していたらしい星奈が発言した後、彼女とチャットをつないでいるデニーゼからも肯定に近い返事を得た。いつの間にか、アプリコットのパーティーメンバーも集まっていて、頷いている。
「……わかったわ。今から儀式魔法を使う! その間私は動けないから援護よろしく!」
「おう!」「「ええ。」」「うん☆」「「「「「はい!」」」」」