第17話 戦闘前
配信終了後、アプリコットは明日の戦闘準備のため動いていた。装備の追加購入だ。
FSOでは装備に耐久値が存在する。耐久値が0になると破損してしまい、修復するまで装備は効力を失ってしまう。明日の連戦中に破損してしまうと大変なため、装備を補修しようとアプリコットは考えたのだが、予備の装備を持っていなかった。幸い、バーツから〈旅人の杖〉という新しい杖を購入することができたため、そちらを装備することにした。
〈旅人の杖〉
・ATK+1 INT+1
一方、星奈たちVチューバーの配信は枠を変えて各々で続いていた。明日の講義の為ログアウトした杏梨は、就寝準備をしながら星奈の配信を見ている。
画面内では、星奈を含めた《鑑定》持ちの人たちが会話しながらポーションの鑑定を行っていた。配信画面に映る、つまり外の目があるためか、共演者にマナーが悪い人はいない。
星奈の呼びかけもあって、それなりの人数が集まったことにより、鑑定作業は1時間で終了した。それを確認したところで杏梨は寝ることにした。
水棲青鬼戦当日。杏梨は講義後すぐに学食を食べ、ダッシュで帰宅。入浴まで済ませてFSOにログインした。時間は18:00。軽食を食べ、アプリコットは町はずれへ向かう。そこで、アニー&そのフレンドたち4人(全員女性)とフラウと合流する手はずだ。ちょうど6人で女子パーティーが組めるねという話に今朝なったのだ。
移動中、偶然星奈と誰かが話をしているのが聞こえた。アプリコットは思わず立ち止まってしまう。
「シルヴィアも参加するんだね☆」
「参加しないと、アドミンロードは何してるんだって言われかねないですから。」
「それ、方便だよね?」
「さて、どうでしょう?」
……なんか重要そうな言葉を聞いてしまった気がした。アプリコットは逃げるようにその場から離れた。
町外れで無事合流した面々は、各々自己紹介をする。
「アニーです。武器は《剣》と《盾》です。」
「アプリコットです。《杖》を使います。」
「フラウです。アプリコットちゃんと同じく《杖》使いです。」
「シーナだ!《鎌》を使ってるぞ。」
「ノーラです。《弓》担当です。」
「ミリアムだ。《扇》と、あと《回復》も持ってる。」
シーナは赤いショートヘアの少女で、死神チックな雰囲気を醸し出している。
ノーラはベージュ髪のロングヘアで、どことなく簡素な装いだ。
ミリアムは薄紫の長髪を毛先で束ねている和装の女性だ。
また、フラウは装備が前回着ていたものから変わっている。桜色の胸当てとケーブを着けた、いわゆる戦闘用装備といった感じだ。
自己紹介が終わったアプリコットたちはその足で街道に向かった。水棲青鬼戦前に連携を確認するために。そして数戦の後、彼女らの連携が確立され始めた。
ゴブリン Lv.5 ×3
「「《マジックショット》」」
「《アローショット》」
アプリコットが左側、ノーラが真ん中、フラウが右側のゴブリンへ遠距離単体攻撃を放つ。ゴブリンたちは各々にヘイトを向け、襲い掛かろうとする。
「《纏わりの風》」
「《カバー》」
ミリアムが速度低下のデバフを相手全体にかける。その隙にアニーが後衛を庇い、盾で攻撃をガードする。
「《サイスラッシュ》!」
ゴブリンたちにシーナの鎌が襲い掛かる。ゴブリンたちは止めを刺され、戦闘は終了した。
「こんなもんかな。」
アニーの呟きに同意した一同は、モアーレの港へと移動した。
港には多くの来訪者が集まっていた。また、港の外側には露店がいくつか立っている。うち1つを覗いてみると、ギルド職員のモニカ他数名の現地人がいた。
「ここって何なんです?」
アプリコットがモニカに質問する。
「ここは本部兼ポーション即時補給のための臨時調薬店です。ここの《ポータルヒーラー》から皆様の回復支援をさせていただきます。」
見ると、テントの中に、動画で紹介されたものと同じものがあった。
「臨時調薬店?」
今度はアニーが質問する。
「こちらで薬師の方にポーションの調合を行っていただけることになりました。」
「そうなんですね。」
「改めて、《来訪者》の皆様。今回は有難うございます。」
「そんな、大袈裟ですよ。」
突然のお礼にアプリコットたちは慌て、むず痒くなってその場を離れた。ちなみに、他の露店は、稼ぎ時と考えた生産系の人たちの露店だった。最も、平日なので数は多くなかったが。
そうこうしている内に後ろから声をかけられた。振り向くと、そこにいたのはダルツたちのパーティーだ。《料理人》のフレイもいる。
「みなさん、パーティー組むことにしたんですね。」
「ああ、昨日やってみて上手くいったからな。そんなことより、アプリコットちゃん、昨日の配信見たぜ。」
「俺も」「僕も」「おらも」「私も」「拙者も」
次々と男性陣から声が上がる。
「私もー」「私も」「ウチも」「私も」「私も」
女性陣からも声が上がった。アプリコットは顔を赤くする。
「やっぱりすげえよ。アプリコットちゃんは」
「そうなんでしょうか?」
ダルツの言葉に、アプリコットは疑問顔だ。
「そうだぜ。不謹慎かもしれねぇが、俺たち年甲斐もなくワクワクしてんだ。そのきっかけをくれたのは間違いなくアプリコットちゃんだ。だから、ありがとな。」
アプリコットはダルツの言葉に恥ずかしくなりながらも、
「ありがとうございます。でも感謝は全部終わってからでお願いします!」
笑顔でそう答えた。
そんなとき、どこかから声が上がった。海を見ると何かの群れが近づいているのが見える。おそらく水棲青鬼だろう。集まっている来訪者たちの間でも緊張感が流れる。
「大丈夫だよ☆」
隣から大きな声がした。いつの間にか星奈が拡声器を持ってアプリコットの横に立っていた。必然的に多くの人の視線が集まる。
「アプリコットちゃん、掛け声よろしく。」
小声で星奈がアプリコットに話しかけ、拡声器を渡してくる。その顔はまるでイタズラが成功したかのような顔だ。
「え、なんで私?」
困惑するアプリコットに星奈が語り掛ける。
「さっきの人が言った通り、今回の水棲青鬼退治、あなたがきっかけだから。大丈夫、昨日みたいにやればいいんだよ☆」
昨日の決起の様子はアニーが掲示板に流し、星奈がSNSで拡散していた。故に知っている人も多い。なお、拡散を知ったアプリコットの胃は痛くなった。今も痛くなりそうだが、アプリコットは覚悟を決める。
「みなさん!モアーレの人たちに、来訪者ができる人たちだって見せつけてやりましょう!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おぉーっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」




