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水棲青鬼対策と新たな知識

「とりあえず、動画を確認しない? できるだけみんなが見れるようにしてさ。」

 アニーの一言で、アプリコットたちはそのまま、モアーレのポータル前に移動した。なお、アニーは他のフレンドたちも招待したが、その人たちはすぐにモアーレに辿り着ける状況じゃなかったらしい。

 代表して、アニーが動画を大画面で再生する。


 ----------


「みなさんこんにちは。FSO公式配信者のシルヴィアです。」

「運営のおぐちーです。今回はイルカディム内のスタジオの1つ、模擬戦用フィールドからお送りしています。」

 現れたのは2人のアバター。シルヴィアは金髪ロングの女性で、特徴的なエルフ耳を持つ。一方のおぐちーはスーツ姿のサラリーマンといった感じだ。2人とも公式動画の出演常連である。


「この動画では大規模戦闘であるレイドの一種、都市防衛戦について説明します。」

 おぐちーが説明を続ける。

「都市防衛戦の特徴は、来訪者だけでなく、現地人も参加し得るということ。町の損耗を考慮しないといけないということです。」

「現地人は来訪者と違って、一度死ぬとおしまいなんですよね?」

「そうだね。あと、町も壊されてしまうと復興しないといけなくなるね。」

「いかに犠牲をなくしていくかが大切ということですね。」

「その通り。ではそこで、都市防衛戦で最も大切なことを解説していくよ。それはこれだ。」


(テロップ)ポーションをたくさん納品しよう


「えっと、大切なのはわかるんですけど、もう少し詳しくお願いします。戦闘時の補給として使うんですか?」

「その通りだ。でも、実際戦闘中にポーションを飲むのって難しいよね。混戦中なら猶更だ。」

「じゃあどうするんですか?」

「そこで、このアイテムを使うんだ。」

 そう言っておぐちーが指を鳴らすと、2人の目の前に魔法陣が描かれた台座が現れた。

「このアイテムは各町の冒険者ギルドが管理している、ポータルの影響下でのみ使えるオブジェクト〈ポータルヒーラー〉だ。詳しい使い方を説明したいから、シルヴィアさんにはこれから模擬戦闘を行ってもらおうと思うよ。」

「わかりました。」

「敵を3体召喚するから、MPを使って迎撃してくれ。下側にシルヴィアさんのステータスを映しておくから、視聴者のみんなはそこに注目してね。ではスタッフさーん、準備お願いしまーす。」

 おぐち―が軽い口調でそう言い終わると、シルヴィアの前に3体の訓練用電子妖精が現れる。シルヴィアも弓に3本の矢を番え、構える。

「では行きます。《トリプルシュート》!」

 シルヴィアの矢が相手にヒットする。妖精はまだ倒れない。戦闘は継続中だ。

「FSOでは戦闘継続中だと、自動的なHP・MPの回復ができない。だけど……」

 おぐちーが台座に〈MPポーション〉を置くと、台座の前方の戦闘エリアを覆うように結界が現れる。するとシルヴィアのMPが回復し始めた。

「この結界の中にいる、影響下のポータルにアクセス済の全存在にポーションの分だけ、HPとMPが供給されるんだ。シルヴィアさん、ありがとう。戦闘終了です。」

 すると、訓練用電子妖精は消失した。シルヴィアはふぅと一息をつく。

「なるほど。この結界内に人数が増えるほど、多くのポーションが必要になりますね。だから『たくさん納品しよう』ですか。」

「そうだね。どの程度必要かは戦闘の規模にもよるけど。」


「というわけでこの動画では、都市防衛戦で大切なことについて解説していきました。いかがだったでしょうか?」

「都市防衛戦というより、〈ポータルヒーラー〉の説明でしたけどね。」

「他のゲームにはあまり見られない仕様だからね。解説動画を作る必要があると感じたんだ。そうだ、あと1つ。普通、町中では攻撃性のあるアーツは発動できないけど、〈ポータルヒーラー〉下ではそれが撤廃されるよ。」

「なるほど。」

「それではまた別の動画でお会いしましょう。」

「「バイバーイ!」」


 ----------


「納品クエストはそういうことですか。」

 《調薬》持ちのロンドが言う。

「……今回のレイドって多分1500人の多くが参加するよな?」

「初の大型イベントになるからな。」

「それどころか、現地人も戦闘に参加することになりません? さっきの雰囲気だと。」

「その辺りはもう少し冒険者ギルドと話を詰めんといけないかもな。」

 フレイ、ダルツ、アプリコット、バーツが次々と意見を口にする。

「というか、そもそも各ポーションの材料ってなんなんです?」

 アニーの質問にロンドが答える。

「そこは今出ているクエストを見てもらった方が分かり易いと思います。一応説明しますと……」


〈初級MPポーション〉の素材(《調薬》の場合)

 〈分類:魔法の草(トリフィド草などが該当)〉〈分類:水〉

〈初級HPポーション〉の素材(《調薬》の場合)

 〈分類:魔法の草〉〈分類:薬の材料〉〈分類:水〉


「――という感じなので。」

「すごいね。その分類とかって全部覚えてるの?」

 アニーが感心したように言う。

「そこはスキルが教えてくれるので難しくないですよ。」

「なるほどね。」

「それで、これからどうしますか?」

 アプリコットが尋ねる。話の結果、男性戦闘組とフレイはパーティー戦闘&採取のため郊外へ、残りは冒険者ギルドで詳しい話を聞くことになった。


 冒険者ギルドでは冒険者ギルドの受付の人と、アプリコットが以前会った来訪者ギルドの受付の人、先ほどの酒場の店員の3人が話していた。酒場の店員がアプリコット一行に気づく。

「おっ、嬢ちゃんたちじゃないか!」

「どうしたんですか?」

「今後の対応について詰めてたんだ。嬢ちゃんたちは?」

「私たちも気になることがありまして。そういえば名乗ってなかったですね。私はアプリコットと言います。」

 アプリコットに続いてアニーたち残りの面々も自己紹介する。それが終わると3人が自己紹介を始めた。

「あたいはシビュラだ。」

「ここ、モアーレの冒険者ギルドを担当しているモニカです。」

「来訪者ギルドのディミリアと申します。」


「それで、気になることとは何でしょうか?」

 ディミリアの問いにロンドが尋ねる。

「どれくらいのポーションが必要になるかと、どのくらいの現地人が戦闘に参加するのかが気になりまして。」

「そうですね。まず、確認できた水棲青鬼(サハギン)の数は約3000くらいだそうです。」

 モニカが答える。

「3000……。来訪者が全員集まれれば1人2体倒せば済むね。」

「そう簡単にはいかんだろうな。群れなら強い個体やボスもいるだろう。」

「それに今の私たち、最大MPが少ないし、大規模戦闘は初めてだから……。あの、5レベルくらいの人間がサハギンを1匹倒すのに必要な魔力量分かりませんか?」

 アニー、バーツ、アプリコットが意見を交わす。

「うーん。5レベルだとどうだろうな。」

「一般的な水棲青鬼(サハギン)なら20MPあれば倒せるとは思います。」

 アプリコットの質問に、シビュラとモニカが発言する。

「えっと……」

 (水棲青鬼サハギン)3000 × (最低必要MP)20 = 60000

 60000 - (初期MP最低値)10 × 1500(人) = 45000

「……ということは1500人が全員参加して、かつ水棲青鬼(サハギン)が全部通常個体だとしても、だいたい4500個弱の〈初級MPポーション〉が必要ということですね。」

 ロンドが咄嗟に必要量を推定する。

「町の在庫から〈中級HPポーション〉〈中級MPポーション〉を各1000は出せます。回復量がどれくらいかは品質を1つ1つ確認しないといけませんが。」

「そのへんは来訪者がバイトしてもいいかも。」

「それでも結構な数の〈MPポーション〉が必要だよな。だったらHPの依頼は後回しでいいんじゃねぇか? 来訪者なら死んでも復活できる。」

「それでも全滅しないようにある程度は要るだろうが……HPよりは必要ないか?」

「となると、現地の人には後ろに下がっていてほしいですね。」

「えっと、よろしいのでしょうか?」

「なら、来訪者が戦闘に出て、現地の人たちには治安維持に当たってもらうっていうのは? ポーション泥棒とか現れるかもしれないし。」

「分かりました。では、戦闘は来訪者と《リスポーン》持ちの方に担当してもらうということでお願いしたいと思います。」

 

「《リスポーン》持ち?」

 聞き慣れない言葉にアプリコットが疑問を呈する。質問にはシビュラが答えた。

「HPが0になった時に、近くのポータルに強制転移するスキルのことだ。あたいも持ってるぜ。」

「なるほど。ということはHPが0=死ではない?」

「そんなことも知らなかったのか? ……って来訪者だとそうかもな。あくまでHPは体を守るバリアなんだ。HPが0になったらバリアが無くなって一撃もらうだけで致命傷になっちまうが、逆にいえばそれだけじゃ死にはしないよ。危ないことに変わりはないけどね。」

「HPが0だと、回復ポーションの効果もありませんしね。」

「そうなんですね。」

 これは後々重要になる情報だとアプリコットたちは思った。

「って話を戻さないとな。あたいは問題ないぜ。」

 シビュラが発言する。アプリコットもアニー達の顔を見て頷く。

「私たちもそれで問題ありません。後はこの方針とかを他の来訪者に伝えるには……」


 そのとき、アプリコットたちの後方から女の人の声が上がった。

「それなら私に任せてほしいな☆」

 そこには、 耳裏にゆるふわなお団子から髪をテール上に伸ばしたピンク髪でうさ耳の少女がいた。

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