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アプリコットのコーディネートとスキルのレベルアップ

「じゃあ、アプリコットちゃん。次は《フィッティング》だね。」

「はい。」

「といっても、これは服を完成させないとできないんだけどー。」

「なるほど。」

「というわけで、次は《クラフト》の《魔法裁縫》が《服飾》のそれと一緒かどうかもついでに検証するよー。」

「わ、わかりました。」

 半ばフラウの勢いに呑まれるがまま、アプリコットはミシンの前に立った。


「《魔法裁縫》」

 アプリコットがアーツを発動させると同時に、針が布地を縫っていく。別口で得たスキルであってもミシンはフラウの時と遜色ない動きをした。ほどなくスカートが縫いあがった。ただし、スカートの裾幅とウエストの幅が同じ長さになっている。

(そういえばこれ、サイズ調節用のゴム紐っていらなかったのかな?)

 イラストにはベルトは無かったことから、普通ならウエストサイズ調整用のゴム紐をつける必要があることに気づいたアプリコット。

「そういえば、ゴムってあるんですか?」

「そこはオートフィットしてくれるから大丈夫!」

(わー便利。なんというか、ゲームだなぁ。)


「そんなことより、今度こそ《フィッティング》のお時間だよー!」

 フラウのテンションは相変わらず謎に高い。アプリコットもそれに応える。

「わー!」

「《フィッティング》て使用するのがこのマネキン。」

 そう言ってフラウが取り出したのは、無性別タイプのマネキンだ。ただし、横になって机に置かれている。

「服のサイズはこのマネキンが基準になっててね。この縮尺で作っておけば、ある程度はいい感じにオートフィットされるんだよ。もちろん、細かい調整は必要だけどー。」

「ほんと便利ですよね。ゲーム的といいますか。」

「まあ、こういう機能でもないとドロップ装備とか、体型に合わせてサイズを変えられないだろうからね。」

「メタい……でいいのかな?」

「そんなことより、マネキンに着せてくよー。」

 そう言ってフラウが収録前に完成させていたフリルシャツをマネキンに着せる。その後、アプリコットも自身で作ったスカートを履かせた。しかし、

「やっぱりブカブカなんですけど。」

「大丈夫だよー。これから調節されていくから。普段は、マネキンに手を置いて《フィッティング》を発動させるんだけど、たぶんさっきの要領でいけるんじゃないかな? ……あ、でも流す魔力の量は気を付けてね。」

 その発言にアプリコットの脳内に先ほどの失敗がフラッシュバックする。それに加えて、リランの「ひどいときは爆発するから。」という発言も。

(流石にマネキンを爆発させるわけにはいかない……!)

 アプリコットは細心の注意を払いながら、少しずつ少しずつマネキンに魔力を流していった。30秒かけてMPを5減らしたところで、マネキンに紋様が浮かび上がり、衣装がマネキンにフィットするように収縮した。この段階でアプリコットは魔力を流すのを止めた。流しすぎで爆発するよりは中断で終わるほうがマシという判断から。

 結果的にその判断は間違ってなかったようだ。アプリコットの脳内にアナウンスが流れる。

『アーツ《フィッティング》をアクティベートしました。』

『《型転写》《魔法裁縫》《フィッティング》のアクティベートに伴い、スキル《服飾》を獲得しました。』


「スキル化しました!」

 アプリコットはフラウを手招きしてステータス画面を見せた。そこには確かに《服飾》の文字。視聴者の為、カメラにも写す。

「っと私のところにも通知が来たよ。」

「どんなですか?」

「レベルアップの通知。どうやら人に教えるのも経験値になるみたいだねー。」

「おめでとうございます。それで何か変わりましたか?」

「あ、新しいアーツを覚えたみたい。……なになに? 《簡易作成》?」

「どんなアーツですか?」

「えーっとね。一度作った衣服を再現できるようになるみたい。」


《簡易作成》

 ・一度作成した衣服を簡易的に裁縫できるようになる。


「やってみるね。《簡易作成》」

 フラウが新アーツを唱えると、彼女の眼前にパネルが展開した。パネルには今までフラウが作成した服のリストと必要な素材が載っている。しかし、そこで問題が発生した。

「必要MPが足りてないかー。」

 服毎に必要なMPは変わってくるが、一番低MPで済む〈始まりのシャツ〉で20。一方、現時点のフラウの最大MPは16。

「仕方ない。SPをMPに変換して……ふぅ、何とか足りたよー。」

 フラウは更にステータス画面を展開してMPを獲得した。戦闘をそんなにしていないフラウは、SPが足りるのか不安だったようだ。

 改めて、アーツの検証を再開するフラウ。今度は、必要な素材を机に置いて口にした。

「《簡易作成―〈始まりのシャツ〉》」

 すると、クリーム色の布と黒糸がひとりでにシャツを形作った。

「おーっ。」

 魔法オタクのアプリコットは、いかにもな魔法現象に目を大にして向けていた。一方のフラウは疲れ気味の様子。

「はぁ、はぁ。これ結構きつい、かもー。」

 息も絶え絶えになりながら膝に手をついていたが、そのまま倒れてしまう。

「大丈夫ですか!?」

 慌ててフラウに近づいたアプリコット、間一髪フラウの腕を掴んで肩で抱えることに成功する。

「ありがとー。」


 フラウが少し息を整えた辺りで、2人は《簡易作成》で作ったシャツを検分する。フラウのインベントリに以前作った〈始まりのシャツ〉もあるので、それと比較して。その結果、分かったことがある。

「縫いの位置と間隔が全く同じですね。」

 2つのシャツは、使った色以外瓜二つだった。以前のシャツには白布と白糸を使っており、それがそっくりそのままクリーム色の布と黒糸に置き換わっている。

「いやー、色を変えて良かったよー。これで、色は問わないことが分かったからね。」

「そこはフラウさんのファインプレーですね。でもどうして合わない色を選択したんですか?」

「薄い色に黒だと目立って分かりやすいかなって思って。」

「なるほど。他に気になるところは……ってすみません。お疲れですよね。」

「いいよー、気にしないで。だいぶマシになってきたから。」

「なら良かったです。」

「にしても、〈始まりのシャツ〉でこのMPなら、装飾の多いのだとどれくらいかかるんだか……。《簡易作成》」

 作成するもの別の必要MPを確認するため、フラウはもう一度パネルを展開した。

「だいたい装飾1つにつき2(MP)くらいかな。って、あ、さっき作った服、まだ名付けしてないやー。」

「名付け?」

「作った衣装は自分で好きな名前を付けられるんだよー。それで初めて完成扱いになるの。」

 パネル内の衣装リストには、さきほど作った衣装は表示されていなかった。このことで、服とスカートがまだ未完成扱いであることにフラウは気がついた。

「名前、どうしましょうか?」

「そうだね。安直だけど、こういうのはどうかな? 〈出会い日のフリルシャツ〉〈出会い日のスカート〉」

「いいですね!」

 初めてフラウと出会って作った衣装にはピッタリの名前だとアプリコットも思った。

「じゃあ、まずはマネキンをインベントリに戻すね。」

 すると、マネキンが消え、衣装だけが机の上に残された。何というお手軽仕様。それから、衣装の上にパネルが表示された。ここで名前を入力するらしい。2人はそれぞれ自身が作った衣装に名前を入力する。

「「せーのっ」」

 同時に決定ボタンを押す。すると、パネルが消えて服が一瞬淡い光に包まれた。

「これで完成だね。早速着てみて!」

 フラウがアプリコットに衣装を手渡す。アプリコットも早く着たかったので早速装備した。「装備する」と意識するだけで衣装が変わる。手間もないし、覗きの心配もない。ちなみにこのゲーム、スカートの中は基本的に暗黒空間であるし、アバターにはデフォルトで簡素な下着が装着されている。どちらも本人次第で変更することは可能ではあるが。

「うんうん。見立ては正解だね。」

 フラウが縦に首を振る。白いシャツはもちろんのこと、ライトコーラルのスカートも黒いケープとの対比で映えており、どちらも春っぽさを感じさせるからか、髪のアプリコット色とも喧嘩していない。全体的にカッコカワイイ感じになっている。

 そんな服を着たアプリコットは楽しくなって、鏡もないのにその場でクルリと回転してみたり。そんな様子をフラウは微笑みながら見つめていたが、ふと思い出したように呟いた。

「そういえば、まだカメラ回ってるんだよね。」

 アプリコットは顔を赤くしながらうずくまった。


 録画を終えたところで、フラウがアプリコットに尋ねてきた。

「あのさ、お願いがあるんだけど。服を着てるアプリコットちゃんを撮らせてもらえないかな? お店を持ったときに、こんな服を作りましたっていう紹介が欲しいんだよね。」

「全然良いですよ。それくらいならお安いご用です。それよりも、お店持つんですか?」

「そうそう。ちょうど、今回のアプリコットちゃんの衣装代で必要なお金が……って、あ!?」

「どうかしましたか?」

「スカートはアプリコットちゃんが作ったから、その分の費用を引かないと……」

「それじゃあ、スキルを教えてもらった分のお金ってことでどうでしょう?」

「それは経験値っていう形で私にもメリットがあったから、それとは別にしないとダメ。」

「なるほど。とりあえず、いくらになりそうですか?」

「待って。計算するね。」

 フラウが新たに算出した金額は1850Gだった。アプリコットはその額を支払った。

「まいどあり!」

「こちらこそありがとうございます。ところで、お金は足りそうですか?」

「現在10104G……うん、ギリギリ足りるね。」

「良かったです。」

「じゃあ、お金も解決したし、写真撮るよー。」

「分かりました。」

 というわけで、衣装を着たアプリコットの写真撮影が行われた。撮ったのは3枚。前と後ろ、それからポーズを決めた写真だ。

 写真を撮った後、生産部屋から退出。アプリコットは〈初級服飾キット〉を、フラウは〈露店用テント〉をそれぞれ購入して、この日は解散となった。

 

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〈出会い日のフリルシャツ〉

・VIT+1, DEX+1, MND+1

〈出会い日のスカート〉

・DEX+1

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