第11話 特訓!《型転写》
昨今のゲームと同様、FSOもゲーム録画・配信が許諾されている。そのおかげで、プレイヤーであれば誰でもイーチューブ動画投稿・配信が行えるようになっているのだ。ちなみに、ゲーム内からでもそれらを観ることができる。なお、他人の録画・配信に写る可能性がある旨は利用規約で示されている。
フラウが今回行うのはスキル取得の様子を動画にすること。取得しているスキルやアーツについては個人情報になる以上、配信で垂れ流すのは避けた一方、検証も兼ねて録画はしておきたかったのだ。録画なら後で編集もできるので。アプリコットも異論なし。
「なんなら、投稿してもらっても大丈夫ですよ。」
アプリコットとしては、アーツの自力取得の様子を流せば、ほかの人が別のアーツで真似をして、もっといろんなアーツ――魔法を見られるようになるかもしれない。なんて思っていた。
「それは結果次第かなー。」
フラウとしても、動画投稿自体には異論がなかった。僅か1500人しかプレイしていない話題のゲーム(しかも動画投稿・配信している人は一握り)。既に過去の動画でイーチューブのチャンネル登録者数は順調に伸びていっている。
「みなさま、こんふらー。フラウのFSO動画へようこそー。今日は、フレンドのアプリコットちゃんとアーツの取得についての検証配信をしまーす。」
「フラウさんのフレンドのアプリコットです。よろしくお願いします。」
浮遊カメラを前にして、2人が笑顔で挨拶する。浮遊カメラの上には撮影中の画面が表示されているため、初心者でも画角を把握して写ることができる。
「この動画では、アプリコットちゃんに《服飾》スキルのアーツ《型転写》と《フィッティング》を覚えてもらおうと思うよ。」
「私が既に別口で《魔法裁縫》を取得しているので、その2つを覚えれば、《服飾》スキル化するのか。ということですね。」
「その通り。」
「じゃあ、まず私の獲得アーツの一部を表示しますね。」
アプリコットはそう言うと、自身のステータス画面が配信に映るようにした。今表示しているのは、獲得スキル一覧の画面だ。《杖》《雷》《言語学》《不明》から《不明》をタップすると、《魔粘土形成》《魔法裁縫》という文字が現れる。
「で、これが私の初期スキルの1つ、《服飾》の中身だね。」
今度はフラウがステータス画面を映す。《服飾》の欄には《型転写》《魔法裁縫》《フィッティング》が紐付けされている。
「じゃあさっそくやっていくんだけどね。まずは《型転写》から。」
「はい先生、お願いがあります。」
「なんでしょう? アプリコットさん。」
急に生徒ロールをしだすアプリコット。フラウも先生ロールで答える。
「一度《型転写》でできることを見せてほしいです。」
「わかりました。」
そう言ってフラウは再び、白布と型紙で《型転写》を行う。布に光の線が浮かぶ。
「うーん。」
「なにか気になることがあったかな?」
「《型転写》の仕組みが分からなくて。試しに型紙だけで発動してもらってもいいですか?」
「えっとー、それじゃ成功しないと思うんだけど……」
「失敗したならそれでもいいです。」
「まあ、そこまで言うなら。ってあら?」
「どうしたんですか?」
「型紙に再使用時間あるみたい。」
「えっ、そうなんですか?」
「私も初めて知ったよ。今まではそのまま《魔法裁縫》に入ってたからかも。」
「なるほど。再使用時間ってどうなってますか?」
「1分だよー。」
「じゃあ、そこまでカットですね。」
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「《型転写》」
再使用時間経過後、フラウが手を置きアーツを発動すると、型に描かれた線の上を光が走りだす。走破跡は淡く光っている。やがて全ての線を光が走破し終える。通常なら上の布に転写して終了するが、上の布が無いためか、アーツが終了しない。
「で、これどうすればいいかな? さっきからMPがどんどん減っていくんだけどー。」
線は光っている。アプリコットはふと思い立って白布を持つと、わざと雑に線へと当てた。当てたところに線が浮かび上がるが、雑に当てたので綺麗な線にはならなかった。
「なるほど。こうなるのか。」
「1人で納得しないでよー。」
「ごめんなさい。ごめんね。《型転写》は型紙の文字を浮かび上がらせてそれを布に張り付けるアーツなんだなって思いまして。」
「そうだね。それが?」
「それが解ったら」
そこまで言うと、アプリコットは型紙を自分の側に寄せて手を置いた。ほんの少し静寂が流れる。やがて線に光が走り始めた。一方、線を走る光はフラウの時よりも素早く広がっていく。やがて、全ての線が光に包まれたとき、ビリッという音がした。
「あ、やば」
アプリコットが慌てて手を離す。光が消える。すると、型紙は無残にも、線の所が破れた状態となっていた。
「ごめんなさい!」
アプリコットは全力で土下座した。それに対し、フラウが苦笑しながら答える。
「いいよいいよー。まだあるから。」
「弁償します。」
「そうだね、それはお願い。でもまず、何が起こったのか教えてほしいかな?」
フラウの疑問にアプリコットは仮説を立てる。
「たぶん、型紙に魔力を込めすぎたんだと思います。」
「だから、光が速かったのか。そして、許容量を超えて破れちゃったとー。」
「はい。多分、アーツを持つ人は無意識に正しい量の魔力を流せるんだと思います。」
「私としては、自在に魔力を込められることにびっくりだけどー。」
「体内の魔力を意識すればできます。」
「まじかー。」
フラウはアーツが自力取得できることについては知っていたが、魔力そのものを自在に流せることには気づいてなかった。
「もしかしたらそれに気づいてる人少ないんじゃないかなー。掲示板でもそんな話題は上がってなかったし。」
「そうなんですか? 私はこっちの人に教えてもらいましたけど。」
「この3日でそういう交流をしてる人がどれだけいるかって話だよねー。」
「あぁ、戦闘と冒険メインの人が多いでしょうしね。」
「まあそんなことより、検証の続きだね。型紙の用意するからちょっと待ってねー。」
「いいんですか?」
「だって気になるし。」
フラウはあっけらかんと言いながら、新たな型紙と何かを取り出した。
「それって何ですか?」
「これは《服飾》用のレシピだよ。基本的なやつの作り方はここ載ってるんだ。これをこうしてっと……」
フラウはレシピのあるページの部分に型紙を載せる。よく見ると、型紙の下、レシピにはスカートの型が描かれていた。載せ終わると、フラウはペンのようなものを手に取った。
「こうして型紙に服の型を書いていくんだよー。」
そう言ってすいすいと線をなぞっていくフラウ。
(なるほど、基本の型はここから書いて、後は作者自身が派生させていくんだ。)
フラウの作業を見守りながら考えるアプリコット。ほどなくフラウは2枚の型紙を書き上げた。
「はい、1枚どうぞ。あと、布も渡しておくね。さっきの分も含めて30Gね。」
「あ、ありがとうございます。」
アプリコットはフラウに30Gを支払い、型紙とライトコーラル色の布を受け取った。
(今度からは事前に借りていいか聞かなきゃ。)
アプリコットは心の内で反省した。そして、同じ失敗をしないための質問をする。
「そういえば、《型転写》の消費MPっていくらですか?」
「この型紙だと3だよー。というか、それは最初に確認しようよー。」
(つまり、3MPなら流しても大丈夫っと……)
「ごめんなさい。気持ちが先走っちゃって。」
「とりあえず、私もやってみるから、それを見ながらやってみるのはどう?」
「いいですね、それ。」
フラウとアプリコットが向かい合う。フラウが型紙に向かって《型転写》を行うのと同時に、アプリコットも見様見真似で型紙に魔力を流し込む。先ほどは光の走り方が速かったので、今度はフラウと同じ速度になるように調節しながら。すると今度は光が走り切っても紙が破れることはなかった。しかし、布地を上に重ねていないのでアーツは先に進まない。一度行為を中断する。
「なんか上手く行きそうじゃない?」
「そうですね。」
フラウの反応にアプリコットは反応を示す。そうして1分後、フラウは見本としてそのまま、アプリコットは布を上に置いてもう一度同じことをした。無事にアプリコットの方にも、同じように光が走る。フラウの方で光が走りきったのを確認するのと同時に、アプリコットの方でも布地に線が浮かび上がった。
『アーツ《型転写》がアクティベートしました。』
「あ、アーツ化しました!」
アプリコットがステータス画面をカメラに映す。
「すごい! 私にも見せて! ……本当だ!」
達成したのはアプリコットだが、フラウのテンションも高くなっていた。




