フラウの《服飾》スキル披露
帰宅後、FSOにログインしたアプリコット。フラウとは広場の外れで合流予定になっている。お互いのアバターデザインは既に教えあっているし、フレンド同士限定のチャットもあるので合流は容易だった。
「えっと、フラウさんですよね。」
ピンク髪のミドルウェーブの女性に話しかける。
「ええそうですよ。もしかして、アプリコットちゃん?」
その女性が答える。アバターなので厳密には違うはずだが、どことなく咲と似た雰囲気をアプリコットは感じた。
「おー、顔は違うのに、なんとなくリアルの面影を感じるものなんだね。」
どうやら相手も同じ感想を抱いたらしい。
「それじゃ、さっそく行こっか。」
「行くってどこへ?」
「生産ギルドだよー。」
生産ギルドは現地人・来訪者の区別なく生産に関わる人が所属する団体で、来訪者ギルドと違い街中に建物がある。生産系のスキルを持っていると登録することができ、ランクに応じて中の施設を使うことができる。ランク上げの方法はスキル毎に様々だ。
「そういえば、フラウさんはどうしてこのゲームに?」
生産ギルドに向かう道中、アプリコットが雑談がてらフラウに質問する。
「そうだね......。一言で言うと、お洋服作りが続けられる場所が欲しかった、かなー。」
「お洋服作り、ですか。」
「私、昔からぬいぐるみとかお人形に自作の服を着せるのが趣味なの。でもこれから先、社会人になったときに、今まで見たいに毎日のように趣味を続けていくって難しいんだろうなーって。そんなことを思ってた時にFSOのCMを見てね。ぬいぐるみじゃなくて人相手だけど、魔法を使ったお洋服作りなら日々の隙間でできるかなーって。そういうアプリコットちゃんは?」
その質問にアプリコットは一瞬考えを巡らせた。
「私は魔法に興味があって。現実だと魔法って空想で。でもゲーム内ならって。」
本当は現実にも存在する。しかしそれは妄言と取られかねない。18歳のアプリコットは経験上知っていた。FSOの応募書類にも、あの出来事は夢という体裁で書いている。
「確かに、ゲームならではだもんね。……って、あ、着いた。ここが生産ギルドだよー。」
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ギルドに入ると、フラウが早速受付に向かった。
「すいませーん。生産部屋を借りたいんですけどー。」
「フラウさんですね。ではこちらへどうぞ。」
生産部屋は1分あたり10Gで借りることができる。なお、料金は後払いだ。
「ありがとうございます。ほら、アプリコットちゃんもついてきて。」
そうして2人は受付横の転送魔法陣の上に立つ。光が終わるとそこは机が1つあるだけの簡素な部屋だった。
「よし、まずはデザインイメージを見せるね。」
フラウが【FSOコネクト】でインポートした画像をアプリコットに見せる。そこにはフリル調の白シャツとライトコーラルのスカートを着た首元から膝上までの絵が描かれていた。
「わ、かわいい。」
「でしょ? 今日はせっかくだから、《服飾》スキルができることを見せてあげようと思って。」
「いいんですか?」
「スキル自体はまだ低レベルだし、これからリアルで裁縫を見せる機会も多いだろうしね。先輩の技術は遠慮なく盗んでいきなさーい。」
そう言うとフラウは、インベントリから裁縫道具やミシン、白布と型紙を取り出した。その中から型紙と布を手に取り、布を上にして机の上で重ねて、その上に更にフラウが手を置いて唱える。
「《型転写》」
すると、型紙から光が浮かび上がり、布に線が現れる。いかにも魔法っていう感じの雰囲気に、アプリコットのテンションも上がってくる。
「これで、型紙に書かれた線を布に転写できるんだ。しかも終わったら消える優れもの。で、しかもー」
フラウは説明しながらハサミで裁断し始める。
「このハサミも、線の部分だけを切ってくれる優れもの。」
そして、ミシンに布を置き、次のアーツを唱える。
「《魔法裁縫》」
すると、布に浮かび上がっている仕上がり線(縫うところ)に沿ってミシン糸が縫われ始めた。速度自体はミシンをゆっくりめに動かした時と同じくらいだ。
「すごい。私の《魔法裁縫》と全然違う……。」
アプリコットは感動していた。魔法ってこういうこともできるんだ!と。後、昨日の魔法裁縫より遥かにレベルの高いことをしている……と。一方、フラウはアプリコットの発言に驚いて思わず作業を止める。
「え、アプリコットちゃんって《魔法裁縫》持ってるの? 聞いた感じ生産系スキルは持ってないんだよね?」
「はい。《服飾》は持ってないですけど、《魔法裁縫》のアーツは自力取得しました。」
「えー。それってどうやったの?」
キラキラ目で迫ってくるフラウに(近い……)と思いながらも、アプリコットは昨日のいきさつを話す。
「なるほどー。掲示板で話題になってたのはこれか。」
「掲示板ですか?」
「アプリコットちゃんは読んでない? あそこ、情報の宝庫だから時々読んでみると面白いかもよ。」
「そうですか。」
「それはさておき。これは試してみたいね。」
「試す、ですか?」
「《服飾》スキルは《型転写》と《魔法裁縫》、それから《フィッティング》で構成されてるの。だから、その3つを覚えたら」
「《服飾》スキルを獲得できるかもしれない、と。でもいいんですか? せっかく初期スキルの枠を使って覚えたスキルを人に教えて。」
「さっきも言ったけど、後輩に技術を伝えるのも先輩の役目だよー。その代わりなんだけど」
「なんでしょう?」
「今からすること、動画にしてもいい?」