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ハンドメイド部に体験入部

 あくる日、講義の終了後も杏梨はまだ大学にいた。4月現在、学内は部活動の新入生勧誘で賑わっている。杏梨もある部活に行こうとしていたのだが……。

「ここ、どこ……?」

 大学の敷地の広さは高校の比じゃないし、上京したばかりで人ごみに慣れてないしで、すっかり迷子になってしまっていた。きょろきょろと辺りを見廻す杏梨。完全にお上りさんである。

 その時偶然、上級生らしき女性が目に入る。マッシュショートのその人は、メイド服を着た羊のぬいぐるみを抱えていた。

「ハンドメイドに興味ありませんかー?」

 その女性はハンドメイド部の部員のようだ。杏梨はこれ幸いと声をかける。

「興味があります!」

「ほんとー!? それじゃ部室に案内するねー!」


 ----------


「失礼します。」

 開いているドアから顔を覗く杏梨。初めての場所を訪れるのはいつだって緊張する。

「はーい。入って入ってー。」

 連れてきてくれた先輩に案内され、座席に座る。先輩も座ると、長机の上にぬいぐるみを置いた。

「改めて、ハンドメイド部にようこそ。私は部長の東雲(しののめ) (さき)です。」

「ありがとうございます。倉光 杏梨です。」

 そうして部活動の案内が始まる。この部では、羊毛フェルトやマクラメ、レジンなどの小さいものから鞄などの少し大きいものまで、各々が自身のスキルを持ち寄って個人または何人かで制作を行っているという。

「倉光さんって、前からハンドメイドやってたの?」

「はい、でも1人でするのってどうしても発想力の限界があるなって思っていて。あと、自分で作ったものを見せ合うのって楽しいじゃないですか。だから、部活動でもしたいなって思いまして。」

「それ分かるよー。倉光さんはどんなのを作ったことがあるの?」

「例えば、これなんですけど。」

 杏梨は首元のネックレスを外して先輩に見せる。イエローオパールが石座に輝く、チェーン状のネックレスだ。

「すごい。これ、自分で作ったの?」

「はい。石座はパワーストーンに合わせてレジンで整形してスプレー塗装してます。」

「なるほどー。じゃあこっちも紹介するね。私というか、複数人で作ったやつなんだけど、それがこれ。うちの部のマスコット、メイちゃん。」

 そう言って咲は、机の上のぬいぐるみを少し持ち上げて杏梨の前に持ってきた。羊毛フェルトとパッチワークで作られたそれは全長約50cmでハンドメイドとしては大作とも呼べるものだ。

「私はこの洋服の部分を担当したんだ。」

「すごいですね。」

 杏梨の過去作は魔法道具のようなものが多く、ぬいぐるみ系・洋服系の制作経験はない。ただし、工作の大変さは知っている。杏梨は素直に称賛した。

「まあ折角来てくれたんだから、他にもゆっくり見て行ってよ。何なら何か作っていく? 材料はここにあるやつだけだけど。」

「それじゃ、作ってみようと思います。」


 ----------


「へぇ、ここには木工系の道具もあるんですね。」

 部室を見せてもらう中、ノミやカンナを見つけて杏梨が言う。

「どうしてもその辺は家だと敷居が高いからね。ほんとは金属加工もできればいいんだけど、そっちは火気を使うからダメみたい。」

「ほんとに手広いんですね。」

「で、倉光さんは何をしたい?」

「木工をしてみたいと思います。」

「木工か。じゃああの2人かな。おーい、坂出(さかいで)くん、海未(うみ)ちゃん。入部希望者が木工に興味あるって。」

「分かりました。あ、初めまして。坂出(さかいで) (みのる)です。」

高松(たかまつ) 海未(うみ)です。」

「あ、倉光 杏梨です。よろしくお願いします。」


 こうして杏梨の木工体験が始まった。まずは作りたいものを絵に起こす。杏梨が描き上げたのは、FSOでアプリコット(自身)が使っている〈初心者用の杖〉だ。とはいえ、流石に原寸大は体験の範疇を超えている。今回は箸サイズで作る予定だ。

 ちょうどいい太さと長さの木を彫刻刀とやすりで削っていく。先輩の2人は杏梨がケガしないように監督役だ。時折、休憩がてらに雑談を挟む。


「お2人はどういったものを作られたんですか?」

「そうだね。分かりやすいのだと時計かな。よかったら見てみる?」

「ぜひ!」

 杏梨は作業を中断する。持ってきたのは、木製の時計だった。外観から文字や針に至るまで、動力部以外が全て木でできたオシャレな時計だ。

「時計盤は海未が担当して、僕は文字と針を担当したんだ。」

 

 こんなかんじで作業すること1時間。2/3が完成したところで、夕食の時間になった。この時期の新歓では夕食は先輩の奢りになることが多い。杏梨も御多分にもれず部長のお世話になった。


「作ってたのちらっと見たけど、あれってFSOの杖だよね?」

 食事を待つ間、咲から制作物について質問がされる。

「あれ、先輩もしかしてFSOをやってるんですか?」

「そうだよ。もしかして倉光さんも?」

「はい。」

「いやー、すごい確率だね。」

「第1陣って1500人ですもんね。1億2000万人から1500人の誰かに出会う確率って……。」

「もはや一種の奇跡だね。」

「じゃあ、奇跡ついでにこの後一緒に遊びませんか?」

「いいねそれ!」

 そんなわけで、杏梨は【FSOコネクト】で咲――フラウをフレンド登録した。

 

「フラウさんって言うんですね。あ、かわいい服。」

 フレンドリストからフラウの姿を確認した杏梨。桜髪のアバターが、髪と同じ色のバブルスリーブの袖が付いた茶色いワンピースの上に白いエプロンを着て、首元には髪より少し濃い色のリボンを着けている。

「ありがとう。《服飾》スキルで作ったんだよー。」

「え、自作ですか?」

「その通り! そういうアプリコットちゃんは……ほとんど初期服か。」

「魔法に夢中で、服装のこと意識してませんでした。」

「まあ、最初のうちはそれでいいかもしれないけど……。よし、決めた! お姉さんが服を作って進ぜよう。」

「! いいんですか!?」

「あ、お代はもちろんいただくけどね。ゲーム内通貨で。」

「それは当然です。どれくらいになりそうです?」

「そうだね……。1セット2400Gでどう?」

「それなら払えます。」

「商談成立だね。ところで、コーディネートと付けたいステータスの希望ってある? ステータスは2つまで。MPとSTRとINT以外で。」

「そうですね。昨日店売りでケープを買ったので、それを活かしたコーデだと嬉しいです。ステータスはDEXとMNDでお願いできますか?」

「OK! 任せておいて。」

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