99.大丈夫だ。天井に頭はぶつけない
お昼頃になり、大河さんは昼食兼打ち合わせがあるということで帰っていった。
検証に付き合って貰ったお礼に、ご馳走したかったのだが、仕事では仕方ない。
「今度埋め合わせをします」
「た、楽しみに待ってます! ……ふへへっ」
去り際、大河さんは独特の笑みを浮かべていた。
好き嫌いはないとのことだったので、どこかいい感じのレストランを探しておこう。それとも焼き肉がいいだろうか。
正直、俺も楽しみだ。
「大河さんも帰ったし、昼はコンビニで済ませるか」
下の階にあるコンビニでかつ丼とサラダ、みそ汁を買う。
ふふふ、以前の俺なら値段を気にしていたが、今は値段を見ずに買える!
何故ならお金持ちだから!
なのでデザートのあんみつだって買っちゃうんだぜ!
揚げたてのから揚げ串も!
いつもなら立ち読みで済ませていた雑誌も!
明日の朝食に食べるパンとヨーグルトと野菜ジュースまで!
値段が割高なコンビニでこんな豪遊が許される。
(ふっ、俺も贅沢になっちまったもんだ……)
回転寿司に続き、こんな贅沢しちまうなんて。
そのうち、贅沢しすぎてバチが当たるかもしれないな。
「レジ袋とお箸下さい。あとスプーンも」
「有料ですがよろしいですか?」
「はい。あ、それとコーヒー追加で」
有料? 気にしないさ!
コーヒーもちょっとお高めのやつにしちゃう。
味の違いなんて分かんないけどな!
(……セイランや雷蔵たちにも食わせてやりたいが今は無理か……)
こちらの物品を直接持ち込むには、『世界扉』を使わなければいけない。
CTが回復したら、次の時に持って行ってやるか。
後でまた買いにこよう。
昼食を済ませた後は、再び異世界ポイントにログインする。
待機室へ向かい、まずは猿たちの遠征結果を確認した。
「かなりの猿たちが進化してるな……」
俺たちが周回している間、遠征も並行して行われてたからな。
相当な数の猿が進化したようだ。
魔術猿から呪術猿に進化した個体が八匹。
戦士猿から重戦士猿に進化した個体が九匹、騎士猿に進化した個体が七匹、射手猿に進化した個体が八匹。
音猿から音楽猿に進化した個体が八匹、聖歌猿に進化した個体が二体。
森猿から戦士猿、魔術猿、音猿にそれぞれ進化した個体が五十体以上。
進化のバーゲンセールである。
「射手猿、音楽猿、聖歌猿は初めて見る個体だな」
『モンスター図鑑№19 射手猿
戦士猿の進化系
身体能力がさらに向上し、遠距離攻撃系スキルを手に入れた
常に集団で行動し、息の合った動きで敵を翻弄する
また優れた索敵能力も有している
極稀に特殊なスキルを有する個体が生まれる
討伐推奨LV18』
『モンスター図鑑№20 音楽猿
音猿の進化系
知力、魔防が更に向上し、強力な支援系スキルを使用できる
音猿と共に奏でる演奏は相乗効果を生み、独自のバフを生み出す
極稀に特殊なスキルを有する個体が生まれる
討伐推奨LV15』
『モンスター図鑑№21 聖歌猿
音猿の希少上位種
音猿の本来の進化先は音楽猿だが、極稀にこちらに進化する個体が居る
知力、魔防が更に向上し、強力な支援系スキルと回復スキルを使用できる
音猿や音楽猿と共に奏でる演奏は相乗効果を生み、独自のバフを生み出す
極稀に特殊なスキルを有する個体が生まれる
討伐推奨LV18』
へえ、聖歌猿は希少上位種か。
夜空の魔法猩々と同じだな。
夜空の場合はマジカルステッキを装備してたのが条件みたいに書いてあったけど、こっちは、何が条件だったのだろうか?
「回復スキルを持ってるのは嬉しいな」
回復役は今までいなかったからな。
この二体がパーティーに加わってくれれば、相当な戦力になる。
『名前 なし LV17
種族 射手猿
戦闘力 ☆☆☆+
スキル ひっかき、投擲、精密射撃、遠見、器用指揮
射手の誓い、貫通
忠誠度 良』
『名前 なし LV16
種族 音楽猿
戦闘力 ☆☆☆+
スキル ひっかき、投擲、演奏、歌唱、知力指揮
オーケストラ
忠誠度 良』
『名前 なし LV18
種族 聖歌猿
戦闘力 ☆☆☆+
スキル ひっかき、投擲、演奏、歌唱、癒しの歌、
憩いの歌、魔防指揮、オーケストラ、
忠誠度 良』
これが射手猿、音楽猿、聖歌猿の情報だ。
猿たちは本当に進化のバリエーションが豊かだな。
俺としては大歓迎だ。
後でまた名前を考えてあげないとな。
「武器も良い武器が色々手に入ったな」
職業が変態貴族と存在破廉恥男になったことで、これまで装備できなかった爪、棒、鎌系の武器も装備できるようになった。
訓練場で雷蔵や夜空たちに手伝ってもらい、手に入れた武器や新しく進化した猿たちの力を試す。
「さて、デイリーダンジョンとメインストーリー、どちらをやるか……」
あと『塔への挑戦権』ってのもまだ残ってるんだよな……。
かなりレベルも上がり、戦力も整ってきたとはいえ、なんとなくまだ早い気がする。
根拠のないただの勘だけど、まだやめておこう。
デイリーダンジョンも、あの黒い人影が言っていた『門番』ってのが気がかりなんだよな。
おそらく次は間違いなく大規模な戦闘になる。
出来るだけ準備は整えておきたい。
「やっぱまずはメインストーリーを進めるか」
と言っても、まだサブクエストが残っている。
まずはこれをこなそう。
『サブクエストを開始します』
『クリア条件 グランバルの森で隠しダンジョンを発見する
成功報酬 白の鉱石、2,500イェン』
白い光に包まれ、俺の視界が暗転した。
再び視界が晴れると、そこはアポリスの町の路地裏。
前のステージだった養護院から少し離れた場所だ。
「まずはグランバルの森に戻らなきゃいけないか」
ここからグランバルの森まではおよそ20キロ。
まともに移動すれば、かなりの時間が掛かるが今回は問題ない。
俺は小雨を呼び出す。
いよいよ、小雨のあのスキルを使う時が来た。
「小雨、『空間移動』を使ってくれ」
『ボー♪』
小雨は俺の周りをクルクルと回る。
すると俺と小雨の体が白い光に包まれた。
「おぉ……」
再び視界が晴れると、目の前に広がっていたのはグランバルの森の入り口。
オープンワールドで使ったのは、初めてだがやっぱ便利だな。
・空間移動 アクティブ
プレイヤーが行ったことのある場所へ移動できる
CT15分
行ったことがある場所限定だが、移動時間を大幅に短縮できる便利なスキルだ。
戦闘にも応用できないか検証中だが、発動にある程度時間が掛かるし、バレバレだから使いどころが難しいんだよな。
不意打ちするなら、他のスキルを使った方が早いし。
あと、正確には移動というかワープみたいなものなので、あの有名なスキルと違って、室内で使っても天井に頭をぶつける心配はない。
「さて、それじゃあ隠しダンジョンを見つけるとするか」
雷蔵たちも呼び出す。
フィールドマップで確認するが、それらしいヒントはなし。
すると夜空が俺の腕を掴みながら、森の奥を指さした。
「ウキッ、ウキキ♪」
「……ひょっとして何か知ってるのか?」
「ウキッ」
そうか、夜空たちは元々この森に棲んでいたんだったな。
何か心当たりがあるのだろう。
俺たちは夜空の後をついて、森の奥へと向かった。




