98.これ思った以上にやべぇスキルなのでは……?
世界扉の検証を進めよう。
他のプレイヤーでも使用することが出来ると分かったなら、次だ。
「大河さん、次はそのままこっちに来てください」
「はい」
SMバニーメイド女王様姿の大河さんが再び世界扉をくぐる。
すると、扉をくぐった瞬間、大河さんの姿が消え、俺の隣にSMバニーメイド女王様が出現した。
「お、おぉ……なるほど。こういう感じになるんですね」
「スキルも使えるはずです。こんな感じに……」
俺は大河さんに向けて手をかざす。
すると、大河さんの見た目が、現実と同じ服装に変化した。
「これは……?」
「幻惑ってスキルです。自分や周囲の景色を変える事が出来ます。その……あのままでは少々、話しづらいので……」
かぁっと大河さんの顔が赤くなる。
「そ、そうですよね。お心遣いありがとうございます」
とはいえ、効果時間は60秒なので、CTが終わるたびにかけ直さなきゃいけないけど。
『幻惑』は大河さんに使わなきゃいけないだろなと思い、事前に服を用意しておいて良かった。
「これって私にもスキルが使えるんですよね?」
「おそらくは。何か使ってみてもらってもいいですか? 出来れば、目立たず、部屋も壊さない感じのスキルで」
「ああ、それなら丁度いいのがあります。えっと……あ、これ、お借りますね」
大河さんはキッチンの壁に掛けてあった古びたフライパンを手に取る。
それに手をかざすと、古びたフライパンがまるで新品のように甦った。
「これは……?」
「メイドのスキル『清掃』です。部屋を綺麗にしたり、こうして古びた家具を新品みたい戻すことが出来るんです。今回の検証にはぴったりかと」
「……ああ、なるほど」
大河さんの言わんとすることが分かった。
今、大河さんは現実の物に対してスキルを使った。
その効果が、大河さんがログアウトした後も継続するかどうか、
それを確認するには、確かにこのスキルはうってつけだろう。
「じゃあ、一旦ログアウトしますね」
「ええ、お願いします」
大河さんが画面を操作するような素振りを見せた直後、彼女の体がブレた。
次の瞬間、仮の肉体があった場所に、大河さんが出現する。
「おぉー……、なんか戻った感覚がないですけど。どうですか?」
「フライパンは……新品のままですね」
「ログアウトしても効果は継続。ということは、おそらく他のスキルでも同じってことですよね。……これ、マズくないですか?」
「めちゃくちゃマズいですね……」
つまりプレイヤーは現実でスキルを使い放題ってことだ。
それはおそらく……どんなスキルでも。
雷蔵たちがこちらに来られることも確認済みだし、悪用しようと思えば、いくらでも出来るだろう。
「……ただ幻惑の効果は消えてますね」
服装は幻惑時の服装のままだが、スキルを掛けた俺にはその効果が続いてるかどうかが分かる。
ゲーム内の怪我や疲労がログアウトすれば消えるのと同じ理屈なのだろう。
(……こりゃプレイヤーにとってあまりに都合が良すぎるな……)
こんなとんでもない力を与えて、異世界ポイントの運営は何を考えているのだろうか?
まあ、考えても仕方ないか。
「とりあえず検証を続けましょう。次は――」
俺は大河さんと共に、事前に考えていた検証をこなしていった。
――数十分後、検証が終わり、様々なことが分かった。
まず、扉は拡張可能。
小雨にどれくらいまで可能か確認したところ、最大で今の倍ほどの大きさまで広げられるとのこと。
身をよじれば、かなり大きなモンスターでも通過できるだろう。
次に世界扉は開いてさえいれば、何度でも往来は可能。
世界扉使用中は、待機室と現実の時間の流れは同期する。これは遠征に出ている部隊も同じだった。
スキルを使用した際のCTも現実の時間が適用される。
現実からの持ち込みも可能だった。
試しにいくつか食材を持ち込んで食べてみたり、、スマホ(大河さんが仕事用にもってるもの)を持ち込んで使用したりしてみた。
食材は問題なく食べることが出来たし、スマホも使用できた。といっても、電波やワイファイは飛んでなかったので、カメラとかの内蔵されてる基本機能だけだ。
現実でログインしたまま扉を閉じればどうなるか?
結論から言えば、ログイン状態は継続された。
スキルも問題なく使用することが出来たし、雷蔵たちを召喚することも出来た。
ただ扉が閉じていた場合、雷蔵たちには自力で帰還する術がなく、もう一度カードに戻さなければ向こうには戻れない。
では、雷蔵たちを現実に残した状態で、俺たちがログアウトすればどうなるのか?
セイランに協力してもらい、検証した結果、俺たちがログアウトした後も、セイランは部屋に残ったままだった。
スキルも使用することが出来る。
試しに精霊魔法で、フライパンの精霊を呼び出してもらった。
「もっとていねいにあつかってほしいって」
「……ごめんなさい」
フライパンの精霊に怒られた。
ついでに『偽装』のスキルも使ってもらい、試しに耳を普通の耳にして、髪を黒髪にしてもらった。
元々の容姿も相まって、完全に名家のご令嬢といった容姿だった。
「……りゅーぅ、にあう?」
「んがわぃいいいいいいいいいいいい!!」←大河さん
(んがわぃいいいいいいいいいいいい!!)←俺。
凄まじい破壊力だった。
声に出さなかった自分を褒めてやりたい。
大河さんは声に出して恥ずかしそうにしていたが、何も言わなかった。
だって俺も同じだし。
ログアウト中は、彼女をカードに戻すことは出来なかったが、再びログインして、待機室側から彼女を呼び戻すことは出来た。
協力したお礼に、今度現実世界に連れてって欲しいと約束させられた。
まあ、あの姿なら問題なく出歩けるだろう。
……雷蔵や夜空が滅茶苦茶羨ましがってたけど。何か埋め合わせしないとな。
「ふぅ……とりあえず検証はこんなところですかね」
「調べれば、調べるほどとんでもないスキルですね……」
「全くです」
本当にとんでもないスキルである。
「……大河さん、俺はアナタは信用してます。ですが――」
「分かってます。他のプレイヤーには絶対に言いません」
相変わらず理解が早くて助かる。
「ただ一つだけ、試していないことがあるんですよね」
「……?」
試していないというか、試せないというべきか。
「プレイヤーじゃない人に使用できるかどうかです」
「あっ……」
大河さんもハッとした顔になる。
異世界ポイントは基本的にプレイヤー以外には話すこと出来ない。
仮に誰かにこのアプリのことを話しても、他人には一切聞き取れず、どのような伝達手段であってもそれは不可能だ。
だが、この世界扉に関してはどうだろうか?
ひょっとしたら、これに関しては認識される可能性があるのだ。
何故なら、現実でスキルが使え、その効果が現実に影響を及ぼすのだから。
プレイヤーじゃない人間も、待機室へ招くことが出来るかもしれない。
そして……もしモンスターを倒し、経験値を獲得することも出来れば。
それは――意図的にプレイヤーを作り出すことが出来るのではないか?
その可能性に思い至り、ゾッとした。
それはいわば、人類の『強化』だ。
レベルを上げ、スキルを獲得した『疑似プレイヤー』とでも呼ぶべき存在。
もし本当にそんなことが可能なら、それは世界の在り方を根本から変えてしまう。
世界を変える禁忌の扉。
まさに『世界扉』と呼ぶに相応しい。
(……願わずにはいられないな)
俺以外にこのスキルを持つものが居ないことを。
仮に居たとしても、ソイツがその可能性に思い至り、試さないことを。
悪用し、現実を滅茶苦茶にしないことを。
欲と利益を前に、人の善性を問うのは愚かだと分かってはいても、そう願わずにはいられなかった。




