97.周回プレイは嫌いじゃない
その後、五回デイリークエストを行い、ソウルイーターのストックを103まで増やした。
いい武器は手に入らなかったが、ストックはかなり増えたな。
月光と月影には途中から抜けてもらい、『遠征』の方に参加してもらった。
猿たちのレベルアップも並行して行う。
『ソウルイーター
現在のストック数73
攻撃補正+0.7%
使用可能なスキル 魂魄斬り(消費ストック10)
魂魄障壁(消費ストック10)
魂魄強化(消費ストック10)』
魂魄斬りは、肉体を切らずに相手の魂を直接斬りつける斬撃だ。
斬られた箇所は黒い痣が浮かび、攻撃を受けたオークはめちゃくちゃ痛そうに藻掻いて絶命した。
めちゃくちゃ物騒な技だ。
魂魄障壁は強力な防御壁の展開。
前方に壁を張るか、体全体に薄い膜を張るかを選べる。
壁一枚の方が防御があり、体の方は不意打ちなんかに便利だな。
ただどちらも、攻撃を一回受ければ消滅する。
魂魄強化は自己ステータスの好きな項目を強化出来るバフだ。
正確な数値は不明だが、ステータスの伸び具合からして+30%ぐらいだと思う。
効果は60秒。
それぞれ一回ずつ使ったので、ストックを30消費した。
基本的にどのスキルも、一回限りの使い捨てだが、ストックさえ消費すれば何度でも使えるし、スキルと違ってCTもない。
ただただ使えば使うほど、攻撃補正値が下がるし、回数は有限だ。
使いどころはしっかり見極めなければいけないだろう。
「もうおわりー?」
「ウガーオ」
「ウッキィ」
「きゅー」
『ボー』
皆、やる気満々過ぎる。
まだまだ全然足りないらしい。
(まあ、やる気があるのは良いことか)
俺もまだまだソウルイーターのストック貯めたいし。
「んじゃ、もっとやるか!」
「おー!」
「ウガーオ!」
「ウッキー♪」
「きゅー!」
『ボ!』
というわけで、皆と共に再び周回に突入した。
えーっと、ソウルイーターのストックが最高2,000(予想)で、現在のストックが73だから、マックスまで128回か。
(社畜で鍛えた精神力を舐めるなよ……その程度、軽くこなしてくれるわ!)
むしろ、雷蔵たちの方が先にへばっちゃうんじゃないかな。
あっはっは――なんて、笑っていた俺はとても愚かだった。
――周回12回目。
「ふぅ……そろそろ休むか」
「えー、まだやれるよー?」
「ウガォーウ」
いったん休憩をしようかと提案したが、皆休憩は要らないという。
うーん、タフだな。
とりあえず回復薬で、体力を回復しておこう。
――周回32回目。
「よし! ついに雷蔵の新しい武器ゲットだー!」
「ウッガァ~♪」
ようやく雷蔵の新装備をゲットすることが出来た。
・妖刀・数珠丸 攻撃+40、防御+15
スキル発動時、攻撃8%、スキル効果+20%。連撃発生率40%
夜空のレインボー・マジカルステッキと同格の武器だ。
強い武器になればなるほど、実数値と補正値がセットになっているのだろう。
新しい装備をゲットすると、雷蔵は右手に数珠丸を、左手に鬼丸を構えた。
「……ひょっとして二本とも使うのか?」
「ウガ」
まさかの二刀流だ。
基本的に刀って二本よりも一本で使った方が強いはずだけど、まあ雷蔵はモンスターだしな。
雷蔵ならきっと使いこなせるのだろう。
――周回54回目。
「ハァ……ハァ……休憩……一回、休憩しよ? ね?」
「わかったー」
「ウッキィ~」
なんで皆、こんなに元気なんだ……?
雷蔵たちはともかくセイランまでピンピンしてる。
(お、俺の方がレベルは上のはずなのに……)
うぅむ、体力や持久力は、単純なレベル差やステータスだけでは測れないという事か……。
けどまあ、周回をこなしたおかげで、ソウルイーターのストックはかなり溜まったし、新たなスキルも目覚めたからいいか。
『ソウルイーター
現在のストック数753
攻撃補正+7.5%
使用可能なスキル 魂魄斬り(消費ストック10)
暗黒障壁(消費ストック10)
魂魄強化(消費ストック10)
魂魄修復(消費ストック15)
魂魄集団強化(消費ストック20)
魂葬刃断(消費ストック20)』
魂魄集団強化は、その名の通り全体強化。
魂葬刃断は魂魄斬りの強化版。
魂魄修復は魂魄斬りや魂葬刃断で斬られた魂の修復だ。
なんでこんなスキルがあるのかと思ったが、敵にソウルイーターの所有者が居た場合の対策だろう。
ソウルイーターが一つしかないとは限らないからな。
他のスキルも含めて、何度か試したから、その分のストックは消費しちゃったけど、検証は必要だからな。
またソウルイーターについて追加で分かったこともあった。
ソウルイーターは装備さえしていれば――正確に言えば、身に着けてさえいれば、どの武器で止めを刺しても問題ないし、仲間が止めを刺しても、ストックは貯めることが出来る。
但し、仲間が止めを刺す場合は半径十メートル以内に居なければならない。
所有者から半径十メートルがソウルイーターの『魂喰らい』の効果範囲なのだろう。
あと味方が召喚したモンスターについては無効。
嘆きの亡霊が召喚した下級幽霊をソウルイーターで斬っても、吸収は出来なかった。
ソウルイーターについて分かったことはこんなところだな。
――138回目。
ついにソウルイーターの補正値がマックスになった。
ただストックについてはいい方向に予想が外れた。
魂のストックは2,000を超えてもカウントされたのだ。
ただスキルは六つ以上増えなかった。
「つ、疲れた……」
流石にこれだけの回数をこなしたので、俺も含め、みんなのレベルもかなり上がった。
俺がLV48、雷蔵がLV46、雲母がLV39、夜空がLV43、小雨がLV32、セイランがLV30になった。
直接戦闘に参加している雷蔵、夜空に比べれば、やはりサポート中心の雲母の方が若干レベルの上りが遅い。
まあ、そこまで気にするほどの差でもないけど。
(てか、雷蔵たちの体力、おかしいって!)
俺もうくたくたなのに、なんでアイツら「あー、いい汗かいたー」くらいのリアクションなんだよ!
俺か? 俺がおかしいのか?
まあいいけどね!
疲れるけどこういう周回作業、全然嫌いじゃないし!
むしろ楽しいし! ちくしょう!
山のように手に入った武器と、猿たちの遠征結果は後で確認しよう……。
「さて、現実だと今何時だ?」
俺は待機室の中央にある時計塔を見る。
時計塔は異世界ポイント内の時間と、現実の時間を表示してくれる。
見れば、現実時間で一時間半ほどが経過していた。
……前よりも時間の経過が早くなってる気がするな。
まあ、今は都合がいいか。
「それじゃ一旦、ログアウトするか……」
「えー、りゅーぅ、いっちゃうの?」
「すぐ戻ってくるよ」
セイランの面倒を、雷蔵たちに任せ、俺は一旦ログアウトした。
現実に戻る。
念のため、こちらでも時間を確認する。
よし、問題ない。
あと一時間もすれば小雨の『世界扉』が使用可能になる。
「さて、大河さんは居るかな?」
ライ~ンの連絡先から、大河さんに電話をする。
すぐに出た。
『は、はいっ。虎にバニー……あ、違った。大河でひゅ!』
「佐々木です。今、大丈夫ですか?」
『大丈夫です。ちょうど自宅に戻ってきたので』
昨日からずっと出かけてたのか。
仕事だろうか?
「実は大河さんにちょっと相談したいことがありまして。……異世界ポイントの件です」
『! ……内容は?』
大河さんの声が一瞬で鋭くなる。
この辺の切り替えの早さは流石だな。
伊達に廃人トップランカーしてない。
「実は――」
俺は大河さんに小雨の『世界扉』のことを話す。
『そんなスキルが……流石にびっくりですね』
「……やはり大河さんもご存じないのですね」
『ええ、初めて聞きました』
掲示板でも調べてみたが、それらしいスレッドはなかったからな。
やはり相当特殊なレアスキルみたいだ。
「それで、大河さん、頼みたいことがあるんですが……」
『分かってます。私にそのスキルを打ち明けてくれたってことは、スキルの検証を手伝ってほしいんですよね? 例えば、『他のプレイヤーはその扉をくぐることが出来るのか』とか……』
「察しが良くて助かります」
流石だな。
理解が早くて助かる。
「では、俺の部屋に来てもらえますか? 流石に、外では試せませんから」
『分かりました』
「それじゃあまた後で」
通話を切る。
すると隣の部屋から、ドタドタドラという駆け足と共に、玄関のインターフォンが鳴った。
……流石の早さである。
大河さんはこの間会った時と同じ服装だった。
「それじゃあ、一旦ログインするのでちょっと待っててください」
「はいっ」
俺は異世界ポイントを起動させ、再び待機室へ向かう。
待機室の扉を開けると、雷蔵たちが待っていた。
「りゅーぅ♪」
「ウッキィ~♪」
そしてくっ付いてくるセイランと夜空である。
うん、もう慣れた。
俺は皆に大河さんのことを説明する。
びっくりするかもしれないけど、決して驚かず、また攻撃しないことを厳命する。
「……だれかくるの?」
「大丈夫。心配しなくても、その人はお前に何かすることはないよ」
「うぅ……」
やはりまだ俺以外の人が怖いのだろう。
とはいえ、今後のためにもセイランには他の人にも慣れてもらわないと。
いくらセイランが嫌がろうと、これは必要なことだ。
「それじゃあ、小雨。『世界扉』を発動させてくれ」
『ボー』
小雨は頷くと、俺の前をくるくると泳ぐ。
すると目の前に、あの片開きの扉が出現した。
扉を開けると、そこには俯いたままの俺と、大河さんが居た。
「お、おぉー……本当に扉が出てきました」
「ちゃんと見えてるみたいですね」
「見えますとも、見えますとも」
俺が部屋の中に入ると、視界が反転し、現実の肉体が同期する。
「うぉ!? 佐々木さん!? な、なるほど、こういう仕様なんですね。異世界ポイントでの姿が、現実でそのまま反映されると。……うわぁ、腹筋と鎖骨エッロ」
……大河さん、聞こえてるよ。
俺はいそいそとあらかじめ用意していた服を着る。
大河さんが残念そうな声を上げた。少しは自重してください。
「それじゃあ、大河さん、お願いできますか」
「了解です」
大河さんはしっかりとした足取りで、世界扉をくぐる。
すると、部屋に座ってうつむいたままの大河さんが出現し、扉の向こうにはSMバニーメイド女王様の姿となった大河さんが出現した。
相変わらず際どくて、とてもエロスな姿である。ありがとうございます。
「……すっごいへんなふく。ひょっとしてこのひと、りゅーぅとおなじへんたい?」
「へ、変態じゃないですっ。というか、え、誰、この子!? かわよっ」
あ、そういえばセイランには説明したけど、大河さんにはセイランのこと、説明するの忘れてた……。
でもセイラン、良い人と変態は全く別だよ。
まあ、とりあえず他のプレイヤーでも『世界扉』はくぐれるって判明した。
この調子で、色々と検証していこう。




