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アプリ『異世界ポイント』で楽しいポイント生活 ~溜めたポイントは現実でお金や様々な特典に交換出来ます~  作者: よっしゃあっ!
第三章

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85.EXステージ5 その4


 ゲートから登場する嘆きの屍狼を見据える。

 三体目の相手。

 真っ黒な毛並みで、大きさとしては大型犬程度。

 ただ腹部が露出し、常に内臓をぶらぶらさせている。

 幽霊や骸骨とはまた違った意味で、恐怖心を煽る姿だ。

 息を整えながら、俺は相手の情報を思い返す。


(屍狼の強みは獣の体躯を生かした素早さと、様々なデバフを与える『雄たけび』、そして牙だったな)


 デバフ対策は必須の相手。

 あの鋭い牙に噛みつかれれば、一噛みで肉を食いちぎられてしまうだろう。


(……息が苦しい。体中が悲鳴を上げてる……)


 骸骨騎士との戦いは、想像以上に体を酷使しすぎた。

 どれだけ呼吸しても、体が新鮮な空気を求めてくる。

 体だけじゃなく、脳も疲労して思考が上手く働かない。

 嘆きの亡霊、嘆きの骸骨騎士との連戦は確実に体を蝕んでいた。


「――回復薬」


 収納リストから回復薬を取り出し、一気に飲み干す。

 五本も飲み干すと、だいぶ体の重さが消え、思考もクリアになってきた。

 とはいえ、この後に控えている呪い人形(ラスボス)も考えれば、屍狼に必要以上の力は割けない。

 これ以上、手の内も見せられない。

 長引かせればするほどこちらが不利になるだけだ。

 

(だから……一撃で決める)


 そのためには、一つ賭けなくてはならない。

 俺は手に持ったファントムバレットを見つめた。

 銃身には、酷い顔をした自分が写っていた。

 

(はは、なんて顔してやがる)


 情けない顔だ。大河さんやエイトさん、井口には絶対に見せられないな。

 だけど、もう少しだけ。

 もう少しだけ頑張ってくれよ、自分。

 屍狼を見つめると、お座りのポーズをしていた。

 待て、のつもりなのだろうか?


「ウガァ?」


 もう始めてもいいか、と問いかけるように屍狼は声を上げながら身を起こす。


「ああ、待たせたな。始めよう」

「ウガォゥ」


 互いに向き合うと、決闘の合図を告げる銅鑼の音が鳴り響く。

 集中。

 ただ目の前の相手だけに狙いを定める。

 動くのはほぼ同時だった。

 

「ハッ!」


 疾走。

 回復薬で回復した体力を使い切る勢いで俺は全力で走る。

 確実に攻撃を当てるその間合いまで。

 対して屍狼は、その口を大きく開けた。


 ――来るっ!


「―――ォォオオオオオオオオオオオオオ~~~~~~~~~~ン!」


 咆哮。

 空気を裂き、大地を揺らし、フィールド全てを震わせるほどの大音。

 屍狼の攻撃手段にして、絶対の切り札。

 その咆哮に込められた、複数のデバフが聞くもの全てに襲い掛かる。

 ステータスの減少、麻痺、混乱、沈黙、昏倒、暗視。

 ランダムだが、強力なデバフを複数振りまく強力極まりないスキル。

 だがその効果は――。


「……ワォン!?」


 屍狼が咆哮とは別の驚愕の声を上げる。

 俺が全く止まらずに走り続けていることに。


 一切のデバフを食らっていないことに。


 一体なぜ?

 屍狼の顔にはそんな疑問が浮かんでいるようだった。

 その理由は単純にして明快。


(――悪いが、今の俺は耳が聞こえないんだよ)


 そう、今の俺には聴覚がない(・・)

 一切の音が聞こえないのだ。

 

 ――スキル『催眠』。


 その対象は敵に限らない。

 目で見ることが出来れば、仲間であっても、それこそ『自分』であってもその対象なのだ。

 だから俺は先ほど、銃身に映る俺の目を見て、自分に『催眠』を掛けた。

 対象は聴覚。

 デバフを与える咆哮も、聞こえなければ意味をなさない。

 何も聞こえない無音の世界で、俺は走った。

 不思議な感覚だった。

 無音の世界で、俺の感覚は研ぎ澄まされていくのを感じた。


『――』


 屍狼が何かを察し、動き出す動作がはっきりと見えた。

 その動きに合わせるように、俺はファントムバレットの照準を合わせる。


(ここだ――ッ!)


 俺は引き金を引いた。

 発射された『浄化』が付与された弾丸。


 それはまっすぐに屍狼へと放たれ――外れた。


「ッ……!?」

 

 躱されたのだ。

 凄まじい反応速度。

 まるで弾丸の軌道を先読みしているとしか思えないほどの身のこなし。

 弾丸が地面に穴をあけたかと思うと、その一歩先に屍狼は居る。

 速い、速すぎる。

 スピードだけならば、間違いなく骸骨騎士以上。

 瞬く間に間合いを詰めて接近してくる。

 叫びによるデバフが効かないと分かった以上、屍狼がとる手段は一つ、牙による物理攻撃。


(狙いは腕か、それとも首か)


 武器を無力化するならば腕。

 一撃で絶命させるつもりなら首。

 狙ってくるのはどちらかのはずだ。


 そして――どちらを選ぶかで勝敗が決まる。


『ガルルォォオオオオン!』


 聞こえない無音の世界で、屍狼が吼える。

 涎を垂らしながら開いた口。


 その鋭い牙が選んだのは――腕。


 屍狼は俺の左腕を噛み千切ろうとした。

 まだ勝負は始まったばかり。

 反撃される恐れがある首を狙うよりも、まずは攻撃の起点となる腕を潰す。

 それが屍狼の戦略思考だったのだろう。


「――ありがとよ」


 賭けは俺の勝ちだ。

 屍狼が腕に噛みつく寸前で、俺は『着替え』を発動させた。

 腕を狙われる――あらかじめそう想定しなければ不可能なほどのドンピシャのタイミングで、俺は腕に『丸盾』を装備した。


「ガッ――!?」


 突然、出現した防具に屍狼は一瞬驚くも、強靭な咬合力で盾ごと噛み砕こうとした。

 だが遅い。

 その前に、俺のファントムバレットが至近距離で屍狼の体を撃ち抜く。

 片手撃ちでも、この至近距離ならば外すことはない。

 なにより、こっちは最初から腕に噛みつかれることを想定して動いていたんだ。

 右腕でも、左腕でも、即座に噛まれていない方に銃を持ち替えて撃てるようにな。

 まあ直前の発砲や、体の向きで出来るだけ噛まれる腕を誘導はしたけどな。

 

「……クゥン」


 どさりと、屍狼が倒れる。

 ゆっくりとその体が消えてゆく。

 自分の催眠を解除して、俺は屍狼の前にしゃがんだ。


「……悪いな。今度はゆっくり遊んでやるから許してくれ」

「……ワォン」


 くるんと、屍狼は腹を見せた。

 いわゆるへそ天のポーズである。

 撫でろと言っているのだろうか。

 いや、あの……剥き出しの内臓が脈打ってるんですけど。

 でもやらないと後ですっごい顰蹙(ひんしゅく)を買いそうだ。


「……」

「ハッ、ハッ、ハッ♪」


 無言で内臓剥き出しの腹を撫でる。

 な、生暖かい。それに血とか色んな体液でぬめってる。SAN値が下がるわ、これ……。

 それでもしばらく撫で続けると、屍狼は満足そうに消えていった。


「……うっぷ」


 違う意味できつかった。

 銅鑼の音が鳴る。

 なんとか気持ちを持ち直していると、最後の一体――呪い人形が現れた。


『凄イネ』


 呪い人形は手を叩きながら、賞賛の声を上げる。


『マサカ、最初ノ一回デココマデ勝テルナンテ』


「まさかも何もないだろ。むしろ、一回目(・・・)が一番、勝率が高い」


『……』


 今回のEXシナリオは5回まで挑戦できる特別仕様だ。

 だが実際には、挑戦するたびにその難易度は上がる。

 理由は単純明快。

 魔女の眷属たちが俺の手の内を学習するからだ。

 だから相手がまだ知らないカードが残っている一回目に全てを賭けるしかない。

 メインストーリーとは独立してるから、ストーリーを進めてレベルを上げてから挑戦するという道もあっただろう。

 だが後でやればいい、失敗しても次がある。

 そんな思考でいる内は、おそらくこのステージはクリア出来ない。

 だから、今までのEXシナリオと同じ。

 これが最初で最後の勝機なんだ。


『――アッハッ』


 呪い人形は嬉しそうに笑った。

 まるで正解だと言わんばかりに。


『本当ニ貴方ハ素敵。ダカラ――私モ最初カラ全力ヲ出ス』


 ズズズズズと、呪い人形から大量の黒いオーラがあふれ出す。

 宙に浮かぶ彼女からあふれ出したオーラは泥のように足元に滴り、黒いシミをフィールドに作り出す。

 俺が武器を構えると、呪い人形は首を横に振る。


『マダヨ』


 まだ勝負は始まっていないと呪い人形は告げる。

 銅鑼の音が鳴るまでは、お互いに不干渉ということなのだろう。

 これはあくまでも、俺と同じ戦闘準備だということ。


 黒いシミは十分な広さを作ると、コポコポと泡立ち始める。

 次の瞬間、驚くべきことが起こった。

 まるで底なし沼から這い出るように、何かが姿を現したのだ。

 それは一つではなく複数。その数――三つ。


「……嘘だろ」


 思わず俺はそう呟いた。

 這い出て来たそれらから、黒い泥が流れ落ちる。

 そこには三体のモンスターが居た。


『……■■■』

「……ォォゥ」

「……ゥォン」


 嘆きの亡霊、骸骨騎士、屍狼。

 先ほどまで俺が必死の思いで倒してきた強敵たち。


「まさか……全員(・・)、相手にしろってのか?」


 唖然とするしかなかった。

 絶句するしかなかった。

 目の前の現実を否定したかった。

 準備は終わりとばかりに、呪い人形が両手を広げる。


『サア、最後ノ試練、見事乗リ越エテミセテ!』


 絶望を告げるように、銅鑼の音が鳴り響いた。

 最終決戦――開始。




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某ゲームの復讐者かな?
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