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78.少女の正体


 頭の中に響くアナウンス。

 すぐに黒い空間に戻らないということは、まだイベントが残ってるってことか。

 あるいは、このままEXステージに移行する可能性もある。

 前回の呪術猿と時はそうだったからな。心構えだけはしておこう。


「……確実に死んでるよな?」


 床に倒れるパルゴスの遺体を確認する。

 呪いか、薬品の影響か分からないが、死んだパルゴスの遺体は生前よりもずっと醜く老いた姿になっていた。

 肉体はやせ細り、枯れ木のような手足は今にも折れてしまいそうなほどだ。

 傍には、パルゴスが使っていた黒い剣が落ちている。


「この剣、触っても大丈夫か?」


 直接触るのは怖いので、ファントムバレットで突っついていると、横から雷神形態を解いた雷蔵が拾い上げた。


「……ウガォウ」

「問題ないか」


 度胸あるな。

 いや、俺の代わりに試してくれたのだろう。

 雷蔵から剣を受け取る。


「ありがとな、雷蔵。助かるよ」

「……ウガォ♪」


 素直にお礼を言うと、雷蔵はどこか照れくさそうに笑みを浮かべた。


『魔剣ソウルイーターを手に入れました』


 頭の中にアナウンスが響く。

 魔剣ソウルイーターね。名前はちょっとカッコイイな。

 性能はどんなもんだろう。


・魔剣ソウルイーター 攻撃+30、スキル『魂喰らい』

           ストックに応じて、攻撃補正及び使用スキル増加

           現在のストック数18

           攻撃補正+0.1%(最大20%)

           使用可能スキル なし


・魂喰らい パッシブ  殺した相手の魂を吸い取る

      アクティブ ストックした魂を消費し、スキル発動


 こりゃ中々に強い武器だな。

 倒したモンスターの数に応じて、攻撃補正が増えるばかりか、スキルまで使えるとは。

 とはいえ、使えないのは惜しいな。

 魔剣と銘打っている以上、剣扱いだ。

 職業上、俺が装備できるのは短剣、鞭、銃系統に限られるし。


「……ん? 待てよ? それなら今なんで持つことが……あれ?」


 ソウルイーターの形状が変化していた。

 さっきまでは長剣だったのに、いつの間にか短剣になっているではないか。

 どういうことだ?

 いや、まさかひょっとして……。


「雷蔵、もう一回、これ持ってくれないか?」

「ウガ」


 ソウルイーターを雷蔵に渡す。

 すると、ソウルイーターは刀のような形状へ変化した。


「持ち主によって形状が変わるのか」


 試しに夜空や騎士猿たちに持たせてみたが、夜空が持つと杖に、騎士猿が持つと槍に、重戦士猿が持つと大剣に、それぞれ変化した。

 どうやら、このソウルイーターという武器は、所有者によって形状を変えるようだ。


「つまり、誰でも装備できる武器って訳か」


 なんて使い勝手のいい武器なんだ。

 これは素晴らしい。戦術の幅が広まるぞ。

 でもとりあえず今は収納リストにしまっておこう。

 色々と試してみたいが、まずはこっちを優先だ。


「音猿、その子の様子はどうだ?」

「ウッキキィ♪ ウッキィ♪」


 パルゴスが実験体と呼んでいた少女。

 戦闘が本格化してからは、音猿の一匹に預けていた。

 年齢はメイちゃんよりも少し上くらいだろうか?

 髪の色は銀髪で、耳が尖っている。でも尻尾は見当たらないな。

 体に傷は一切なく、血色もよく、呼吸もおかしな音は聞こえない。

 女神の雫、様様だな。


『――オワッタ?』


 すると天井に空いた穴から呪い人形が下りてきた。


『敵ノ気配、消エタ』

「ああ、倒した。もう問題ないよ」


 パルゴスの気配が消えたのを察知したのだろう。

 見れば、幽霊や屍狼、骸骨騎士も顔をのぞかせていた。


「後は狼煙を上げて、コロロさんたちに合図を送らないとな」


 収納リストから狼煙を取り出す。

 これですぐに来てくれるだろう。

 その間に、施設内を調べておくか。

 

「施設内を調べたい。皆、手を貸してくれ」


 雷蔵たちは了解とばかりに頷いた。

 猿たちも追加で呼び出し、施設内の探索を行う。


「……子供たちの遺体は一か所に集めておいてくれ。運ぶときは、出来るだけ丁重にな」

「ウキキッ」


 地下牢で冷たくなっていた亜人の子供たち。

 せめて丁重に葬ってやらないとな。

 地下にあった資料や薬品なんかも運び出しておく。

 コロロさんたちにとっても目を通すのはキツいだろうが、ここで何が行われていたかを示す決定的な証拠になるはずだ。


(……地下室には他には何もなさそうだな)


 念のために隠し階段や、隠し扉がないか徹底的に調べたが、特にそれらしいものはなかった。

 地上にある建物の方も調べたが、パルゴスの私室から、なにやら怪しい書類の束や手紙が見つかった。

 だがこちらは魔女の日誌と違って読むことは出来なかった。

 アイテム扱いにもならないし、コロロさんたちに確認してもらうしかないな。


「おーい、リュウさーん! どこだーい?」

「んにゃ!? さ、猿がいっぱいだにゃ!」


 コロロさんたちが戻ってきたようだ。

 すぐさま、声のした方へ向かい、彼女たちと合流する。

 

「リュウさん、無事だったんだね」

「ああ。そっちも子供たちは?」

「全員、無事だよ。今は他のメンバーが面倒を見てる」

「んにゃぁ、職員たちも全員、捕まえたにゃぁ~」


 コロロさんたちの話では、気絶していた職員たちも全員、グルだったらしい。

 どうしようもねえな、ほんと。


「これだけの規模の施設だ。院長が個人でやってたとは考えにくい。間違いなく純血教の本部が関わってるだろうね。向こうも黙っちゃいないだろう」

「大丈夫なのか?」

「問題ないさ。そもそも亜人解放戦線(アタイたち)の最終目的は純血教の打倒だからね」


 純血教の打倒か。

 確かに亜人たちを本当の意味で解放するには、純血教という宗教そのものをどうにかするしかないだろう。

 

「……出来るのか?」

「出来る、出来ないじゃないよ。やるしかないんだ。純血教は強大だけど、決して一枚岩じゃない。それにアタイらに賛同してくれる人間だって居るしね」

「なるほど」


 困難な道であっても突き進んでみせる。

 コロロさんたちの目には、その覚悟がしっかりと浮かんでいた。

 もう虐げられるだけの弱者じゃないと。

 

「ああ、そうだ。もう一人、生存者がいるんだ。その子の保護も頼めないか?」

「勿論さ。どこに居るんだい」

「ちょっと待ってくれ」


 俺が手を上げると、猿たちが例の少女を運んでくる。

 その子を見た瞬間、コロロさんの表情が変わった。


「ッ……この白銀の髪に長い耳……おいおい、冗談でしょ?」

「何か知ってるのか?」

「知ってるも何も……ああ、そうか。リュウさんはぷれいやーだったね。それじゃあ、知らないのも無理はないか……。ああ、奇跡だよ。まさか生き残りが居たなんて……」


 コロロさんは少女の前に跪いて、祈るように手を合わせる。


「この子は……私たち亜人にとって特別な存在。エルフ族だ」

「エルフ族……」


 ああ、あのファンタジーの定番種族。

 耳が長いし、ひょっとしたらと思ったがやっぱりそうだったのか。


「かつてこの大陸に存在した亜人の大国(・・・・・)『バルカディア』。エルフはその皇族なんだ。つまりこの子は、私たち亜人を統べる皇の血を引いておられるんだよ」

「マジか……」


 というか、ちょっと待て。

 バルカディア……?

 確か古びた金貨や、魔女さんの日誌。そしてデイリーダンジョンで手に入れたアイテムにも、その名が刻まれていたな。

 そうかバルカディアって、かつて存在した亜人の大国の名前だったのか……。



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― 新着の感想 ―
おはようございます。 この世界ではエルフ=ほぼ絶滅種ってことですか…。
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