74.タイトルがネタバレになるやつ
コロロさんとニャンマルさんの方へと近づく。
すると、さっとニャンマルさんがコロロさんの後ろに隠れた。
「く、来るにゃ変態! ふっしゃあー!」
警戒されてる。
ものすっごい警戒されてる。
(くっ……なぜ、もっと早く俺は普通の格好に着替えなかったんだ……!)
迂闊……あまりに迂闊……!
町に戻るまでは普段通りの格好でいいかって高を括ってた自分を恥じる。
だって慣れれば動きやすいんだもん、この格好。
……いや、慣れってなんだ、俺。いかん、だいぶ毒されてる。
「こらっ! 失礼な態度とるんじゃないよこのバカ猫!」
コロロさんがニャンマルさんの頭をグーで殴る。
「いったぁ!? ババア、なんでミーよりもその変態の味方するのにゃ!」
「……次ババアって言ったら、その尻尾をむしり取るよ?」
「すいませんでした、コロロさん」
「分かりゃいいんだよ。ほら、リュウさんにも謝んな」
コロロさんに促され、おずおずとニャンマルが前に出る。
「へ、変態、さっきは失礼な態度取って悪か――」
「リ・ュ・ウ・さ・ん、だろ? あと敬語」
「ふぎゃぁ!?」
コロロさんがニャンマルさんの後ろに手を回した瞬間、ニャンマルさんはこの世のものとは思えないほどの苦悶の表情を浮かべた。
……あれ、ひょっとして尻尾でも掴まれてるのかな?
すっごい涙目になって震えてる。
「……りゅ、リュウさん、失礼な態度をとってしまい、ほ、本当にすみまぜんでじだ……ふみぃぃ」
「うん、よく出来たね。悪いね、リュウさん。うちのバカ猫が失礼な態度を取っちまって」
「い、いや気にしてないよ……」
というか、むしろ感謝してます。
涙目になって震えている猫耳少女、めっちゃ可愛いです。
大変、良いものを見させていただきました。
ありがとうございます。すいません。変態ですいません。
そんな内心を微塵も悟られぬよう、平静を装いながら二人に問いかける。
「というか、二人はどうしてここに居るんだ? 亜人の国に行ったんじゃないのか?」
「ああ、そうだよ。だから今はこうして仕事してんのさ」
「仕事?」
コロロさんは頷く。
「アタイとニャンマルは亜人解放戦線に入ったんだよ。アタイはそれなりに、いろんな所に顔が利くし、このバカ猫も腕っぷしだけは良いからね」
「なるほど、そういうことか」
ひょっとして亜人の国で何かあったのかと思ったが、そういう事情か。
……てか、え? ニャンマルさんって強いの?
俺の視線に気づいたのか、ニャンマルさんはむっとした顔をする。
「ミーは村一番の狩人にゃ。狂鎧大猪を狩ったことだってあるにゃ!」
「へえ、そりゃ凄いな」
俺が素直に驚くと、ニャンマルさんは満更でもない表情を浮かべる。
「むふー♪ もっと褒めるにゃ♪」
狂鎧大猪の討伐推奨LVは10。
最初のEXステージに出てきたモンスターであり、当時の俺じゃ壁ハメで倒す以外に方法がなかった強敵だ。
アレを倒せるなら、確かに腕は立つのだろう。
「強いんだけど、搦め手に弱いのが玉に瑕なんだよねぇ」
「ああ、確かに」
夜空の『睡眠』であっさり無力化出来たからな。
「魔女の道具屋には、このバカ猫の弱点対策になるアイテムがあるって聞いてたんだよ。それがまさかもう無くなってたとはねぇ」
「ああ、そういう事情で。ちなみにどんなアイテムが必要だったんだ?」
「『天使のネックレス』ってアイテムだよ。まあ、無いなら仕方ないさね。上に報告して、別の手を――」
「それならあるよ。ほら」
俺は収納リストから『天使のネックレス』を取り出す。
・天使のネックレス 受けたデバフを三種類まで無効化する。
効果はステージ終了時点まで継続する。
ステージ終了後、効果はリセットされる。
天使のネックレスはデバフを三種類まで無効化してくれる。
確かにこれなら搦め手に弱いニャンマルさんにはうってつけだろう。
「なっ……!?」
あんぐりと、コロロさんは口を開ける。
「な、なんでリュウさんがこれを?」
「いや、実は――」
俺は事の顛末をかいつまんで説明した。
「――そうだったのかい。なら頼む、リュウさん。これを貸してくれないか?」
「それは構わないけど、何に使うんだ?」
「……他言しないでおくれよ?」
「勿論」
コロロさんは周囲に人がいないことを確認してから、事情を話し始めた。
「……実はこの町には亜人の養護院があるんだ」
「亜人の?」
「ああ。身寄りのない亜人の子を引き取ってるらしいんだが、どうにも黒い噂がある施設らしくてね。アタイとニャンマルでそこに忍び込むつもりだったんだ。噂が事実かどうか、確かめるためにね」
「どんな噂なんだ?」
俺が尋ねると、コロロさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「――亜人を使った人体実験だよ」
「ッ……」
マジか……そんなことが。
「実はミィが引き渡される予定だった施設がそこなんだ。アタイらも最初は、そんな噂なんて知らなかったから、あんな村に居るよりもって思ってたんだけど……」
コロロさんの肩は震え、ニャンマルさんも拳を握りしめている。
二人の顔にははっきりとした怒りが浮かんでいた。
(そういえば、メイちゃんがあの時、そう言ってたな……)
呪術猿の呪いを受け、余命いくばくもなくなっていた彼女は、唯一の肉親である妹のミィちゃんを施設に預ける手続きをしたと言っていた。
村にはそれらしい施設がなかったから、どこか外部だとは思っていたが、まさかそんな噂がある施設だったなんて。
「だからアタイらが志願したんだ。そんな施設に、ほいほい身内を預けようとしてた馬鹿さ加減に嫌気がさしたからね。……リュウさんには本当に感謝してるよ。今、あの子たちが一緒に居られるのはアンタのおかげさ」
「……二人は元気か?」
「ああ。今は亜人の国にある学校に通ってる。規模は小さいけどね。毎日、楽しそうにしてるよ」
「そっか……」
そうか、それなら良かった。
「分かった。そういう事情なら俺も協力するよ」
「……良いのかい?」
「ああ、もちろん」
だって変態さんはいつだって小さな女の子の味方だからな。
「……ありがとう。恩に着るよ」
コロロさんの差し出した手を、俺は握り返す。
『サブクエストをクリアしました』
お、どうやら今の会話でサブクエストが完了したようだ。
『メインストーリーが解放されます』
『このままメインストーリーへ移行しますか?』
『メインストーリー5 『血塗られた養護院の闇を暴け』
クリア条件 NPCの救出、またはモンスターの全滅
敗北条件 院長パルゴスを取り逃がす、NPCが全員死亡する
成功報酬 ポイント+50、終末の楽譜C、4,000イェン』
……うん、タイトルがネタバレになってる。
完全に真っ黒だわ、その施設。
(院長パルゴス、か)
覚悟しろよ。
変態さんは、小さな女の子に手を出す輩に容赦はしない。