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73.魔女さんの後片付け


 視界が晴れると、目の前には酒瓶が散乱していた。


「あー、そういや魔女さんと飲み会した直後だったな……」


 半日近く飲み続けた結果、俺の記憶は崩壊した。

 床に転がっている酒瓶の量を見るに、マジで相当飲んだんだな。

 人数も多かったとはいえ、120ポイントも使ったし。

 120万円の飲み会だぜ、ひゅー。


「ほぼ覚えていないが、楽しかったという記憶だけはある」


 あれは本当に楽しかった。

 思い出せない思い出に浸っていると、『魔女の心臓』が目の前に現れた。


「え?」


 俺、収納リストいじってないぞ?

 魔女の心臓が淡く光ると、四体のモンスターが姿を現した。

 幽霊、屍狼、骸骨騎士、呪い人形だ。


「お前ら、自由に出てこれるのか?」

『……条件、アル』


 四体を代表して呪い人形が前に出る。

 髪が金髪の、昔のホラー映画に出てくる感じの見た目の人形だ。

 ……今更だけど、この人形、地味に怖いな。

 高校の時にあの映画を見たけど、結構な恐怖だった。

 着てるドレスも白いし、あの恐怖が地味によみがえる。


『ココ、主ノ領域(テリトリー)。ワタシ達、何時デモデラレル』

「そうなんだ……」


 どうやらこの四体は魔女の縄張りなら自由に出てくることが出来るらしい。

 ……知らなかった。

 何時でもってことは、これは使用回数の一回には含まれないってことなのかな?


「あ、そうだ。お前たち、終末世界では悪いことをしたな。すまない」


 終末世界では彼らを囮にして、嘆きの白のテリトリーを通過する作戦をとった。

 それについて詫びると、呪い人形が首を横に振った。


『カマワナイ』


 他の三体も同じような仕草をする。


『貴方ニハ恩ガアル。ダカラ、カマワナイ』

「その恩ってなんなんだ? 俺、何も覚えてないんだけど……?」


 魔女さんと飲み会をして、気付いたらクリアしていただけだ。

 それが何故、彼らにとって恩になるのか?


『……』


 すると呪い人形はふわふわとどこかへ飛んで行く。

 やがて何かを抱えて戻ってきた。

 それは古びた日記帳だった。

 

『魔女の日誌を手に入れました』


 頭の中に響くアナウンス。

 魔女の日誌、ね。


「読んでいいのか?」

『……』


 こくりと呪い人形は頷く。

 俺はページをめくる。

 見たことがない文字で書かれていた。


(文字は読めないのに意味は伝わるのか……)


 不思議な感覚だな。

 パラパラとページをめくると、魔女さんの過去が色々と分かってきた。

 とある青年との出会い、増えていく仲間、深まっていく絆と淡い恋心。そして信じていた友の裏切りと凄惨な結末。

 ……中々に壮絶過ぎる過去をお持ちだった。

 こんなところで道具屋をやっている理由も、本当なら彼女があの後、何をする(・・・・)つもりだった(・・・・・・)のかも全て書かれていた。


(もし仮に実行されていたら、この町の住民は全滅していたのか……)


 魔女さんはアポリスの町の住民の魂を奪い、自らを強化するつもりだったようだ。

 その力を使って、ある国に復讐するつもりだったらしい。

 そして……その計画を実行するか迷っていたことも書かれていた。


『主ヲ止メテクレテ、アリガトウ』

「……」


 その自覚は全くないんだけどな。

 図らずも、俺との飲み会が魔女さんにとって抱えていたものを全て吐き出す場となっていたらしい。

 日誌の最後に『わしを止めてくれてありがとう、若人よ』と書かれていた。

 消える前に書き残したのだろう。

『欲しいもんがあるなら、好きなだけ持っていけ』とも書かれていた。

 その後にやってほしいことも。


「……魔女の遺品、か。んじゃ、ありがたく持っていくか」


 俺は日誌を閉じると、魔女の眷属たちを見る。


「ここにあるものは全部貰っていく。構わないな」

『……ウン』


 なんだよ、しょぼんとなって。全部持っていくのは駄目なのか?

 まあ、コイツらにしてみたら、主との思い出だろうしな。

 色々と残しておきたいのだろう。


(でもここに置いておいても意味ないんだよなぁ……)


 だって魔女さんの最後の頼みがあるから。

 はぁーと俺はため息をつく。


「……魔女さんが生前、特に大事にしていたものとかあったら教えてくれ。それは使わずに残して、魔女さんの仲間の墓に供える。魔女さんの墓も隣に作る。それでいいか?」


 俺がそう言うと、四体は目に見えて嬉しそうな仕草を見せた。


『! ウン、ウン! ソレデイイ! デモ、イイノ?』

「良いも何もそれくらいはするよ」


 見た感じ、この店には使えそうなアイテムが山のようにあるのだ。

 それが全部、手に入るなら、そのくらい手間賃みたいなもんだ。

 魔女さんの仲間の墓の場所も、日誌に載ってたからな。

 ここからかなり離れてはいるが、まあ今すぐって訳じゃないし問題ない。


「じゃあ手伝ってくれ。魔女の道具屋の店じまいだ」

『分カッタ!』


 その後、雷蔵たちも呼び出し、俺たちは魔女の残したアイテムを回収した。

 かなりの量になったが、その手間に見合うだけのアイテムが手に入った。

 特に『女神の十字架』、『天使のネックレス』、『悪魔のメダル』、『ファンブル・エレメント』はかなり強力なアイテムだ。

 今後の攻略がかなり楽になるだろう。


(でもなんで『女神の十字架』はゲロまみれだったんだろう……?)


 女神の十字架が入っていた壺は大量のゲロで満たされていた。

 ……ひょっとして飲み過ぎて吐くたびに、この壺を使ってたのだろうか?

 貴重なアイテムが入った壺になにやってんだ、俺。


「墓に添えて欲しいのはどれだ?」

『コレト、コレト、コレ』

「分かった。すぐには無理だが、ちゃんと使わずにとっておくよ」


 呪い人形たちから墓前に供えて欲しいアイテムも教えてもらう。

 最後に伽藍洞になった店に火をつけて燃やした。

 これも魔女さんからの遺言だ。『残った店は燃やしてほしい』と。

 俺がアイテム全部回収するって言ったのもそれが理由だ。


『……』


 呪い人形たちは炎に包まれ、灰になってゆく道具屋を最後まで見つめていた。

 見た目は恐ろしいが、彼らにも魔女との絆が確かにあるのだろう。

 町はずれだし、周囲には延焼しそうな建物や木々もなかったので、魔女の道具屋だけがきれいさっぱりと燃えてなくなった。


『……コレカラハ、貴方ニ仕エル。ヨロシク』

「ああ、よろしくな」


 満足そうに頷くと、魔女の眷属たちは水晶の中へと消えていった。


「さて、それじゃあサブクエストを始めるか」


 なんか前置きが長くなってしまったが本来のサブクエストはコロロさんとニャンマルさんと再会することだ。

 とりあえずはアポリスの町で情報収集をするか。

 そう思い、その場を立ち去ろうとしたら――。



「んにゃ!? どういうことにゃ? にゃんで魔女の道具屋が燃えてるんだにゃー!?」

「こりゃまいったねぇ。彼らになんて報告すれば……ん?」



 少し離れたところから声が聞こえた。

 声のした方を見れば、そこには二人の亜人の姿があるではないか。

 一人は狐の耳と尻尾を生やした二十代ほどの女性。

 もう一人は、猫の耳と尻尾の少女だ。

 ふと、狐の亜人の女性と視線が合う。


「……コロロさんに、ニャンマルさんですか?」

「あら、やっぱりリュウさんかい。こんなところで会うなんて奇遇だねぇ」

「んにゃぁ!? お、おみゃーはあの時の変態!」


 俺が探している人物――コロロさんとニャンマルさんがそこに居た。

 てか、ニャンマルさん、変態は酷くない?

 俺の格好のどこが……いや、☆眼鏡の上半身裸の、マントを羽織った派手パンツ男はどう見ても変態だな。

 すいません。



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― 新着の感想 ―
まごうことなき変態装備なんだよなー
そだね。変態だね
見かけだけで人を判断するのは愚かしい、と言うことを体現する為にしたくもない格好をしているのだ!趣味ではないのだ! とか言えば獣人差別と上手く絡みそうな言い訳が出来そうすが、もう手遅れですねwそろそろ変…
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