70.猿たちを派遣してみよう
『おめでとうございます。デイリークエストをクリアしました』
『活動実績を算出……完了』
『成功報酬 ポイント+10、よく斬れる剣、初心者の弓、レインボー・マジカルステッキを獲得しました』
採取クエストの時もそうだったが、やはりデイリークエストには追加報酬がないのか。
手に入れた武器は三つ。
剣と弓と……なにこれ?
レインボー・マジカルステッキ?
いったいどんな武器なんだ?
・レインボー・マジカルステッキ
知力+40、魔防+20
スキル発動時、知力+8%、魔法スキル効果+40%
虹色のキラキラエフェクトが発動する
魔法職のみ装備可能
「……すげぇ武器だな」
実数も補正値もこれまで手に入れた武器の中で最高峰だ。
一番実数値の高い雷蔵の『名刀・鬼丸』でも+30だぞ。
キラキラエフェクトってのはちょっと意味わかんないけど。
「魔法職ってことは、これ夜空が装備できるのか」
さっそく夜空の装備を魔術師の杖からレインボー・マジカルステッキへと変更する。
……夜空のカードの絵柄が、なんか魔法少女っぽいポーズになった。
日アサのアニメにありそうなデザインのピンク色のど派手な杖だ。
気に入ったのか、夜空も嬉しそうに笑みを浮かべている。
コイツ、こういうのが好きなのか……。
まあ、喜んでるならいいか。
「初心者の弓は……あ、戦士猿なら装備可能なのか」
よく斬れる剣、初心者の弓はそれぞれ戦士猿に装備させる。
「さて、んじゃもう一回、やってみるか」
『デイリークエストを開始します』
『デイリークエスト 討伐
クリア条件 モンスターを全滅させる
成功報酬 ランダム装備品』
デイリークエストは日曜のボスクエスト以外は何回でもチャレンジ可能だ。
ただし、二回目からはポイントはなく、ランダム装備だけになる。
視界が明けると、再びあの湿地帯が広がっていた。
「んじゃ、猿たちを呼ぶか」
夜空、魔術猿×2、戦士猿×4、音猿×3を呼び出す。
「ウッキー♪」
夜空は俺を見るなり、コアラみたいに抱きついてきた。
どうやらレインボー・マジカルステッキが余程嬉しかったようだ。
ぐりぐりと顔を胸に押しつけてくる。
「ウキ?」
「ウキキ?」
「ウッキ?」
他の猿たちは、「ここどこー?」と首をかしげている。
俺は夜空を引きはがしつつ、手を叩く。
「よーし、皆ちゅうもーく。これから、呼び出した理由を説明するからよく聞いてくれー」
俺の声に、猿たちはすぐに反応し、こちらを向いて整列した。
おぉ、流石忠誠度が『高い』以上の猿たちだ。ちゃんとしている。
俺は猿たちに事情を説明する。
ここがデイリークエストの『討伐』ステージであること。
猿たちにはここでモンスターを倒し、各自レベリングに励んで欲しいこと。
「お前たちには各部隊のリーダー、サブリーダーをしてもらいたい」
派遣は最大で4部隊。各部隊の参加人数は10名まで可能だ。
俺がログアウトしている最中も、派遣は継続される。
それぞれの部隊はリーダー、サブリーダーを指名することが可能だ。
「それで、今回はお前たちの実力を見るために呼び出した。動きに応じて、役職と役割を決める」
「「「「ウキキ!」」」」
俺の言葉に、猿たちは頷く。
「勿論、頑張った部隊にはご褒美がある。『美味しい餌』が食べ放題だ。他にも活躍に応じて、おやつや肉も支給するぞ」
「「「「ウッキイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!」」」」
先ほどよりも遥かに元気よく猿たちは返事をした。
誰もがやる気に満ち溢れた表情をしている。
まったく現金な奴らである。
でもそれでいいのだ。
部下のやる気を引き出す手っ取り早い手段は、分かりやすいご褒美だ。
そこから個性に合わせて、報酬を変えていけばいい。
立身出世、金、目上の者からの信頼、食い物、自分だけの時間。
人が仕事に求めるモチベーションは様々だからな。
「夜空、お前は彼らのまとめ役だ。俺が居ない間、彼らの指揮を頼む」
「ウキ!」
『派遣』は各部隊のリーダー、サブリーダーの他に、監督という役職もある。
監督は、プレイヤーがログアウトしている間、各部隊のメンバーの入れ替えや、傷ついたモンスターの治療、装備の追加などを行うことが出来るのだ。
とはいえ、装備の追加は、デイリークエストで得た装備に限るし、治療に使用できるアイテムも事前に渡したモノに限られる。
プレイヤーのようにポイント交換やショップは利用できない。
あとログアウト中の時間経過は、現実に比べて四分の一程度まで落ちる。
現実で12時間なら、デイリークエストでは3時間だ。
まあ、そうしないとログアウトしてる最中、無限に近い時間が流れるからな。
モンスターたちにとっては拷問だろう。
プレイヤーがログインすれば、いつも通りの時間の流れに戻る。
「それじゃあ、夜空。まずは彼らを使って、モンスターを倒して見せろ。出来るだけ、手出しはするなよ。彼らの力だけで倒せるように指示を出すんだ」
「ウッキィ!」
夜空は「任せて!」と言うように胸を張った。
そして猿たちの初めての戦闘が始まった。
それから数十分後。
「――うん、これなら大丈夫だな」
猿たちは無事にモンスターを全滅させた。
夜空の指示が巧みだったのもあるが、それぞれの連携も上手だった。
まあ、俺の仲間になる前から呪術猿の元でこき使われていたからな。
既にある程度のチームワークは出来上がっていたのだろう。
余裕もありそうだし、これなら森猿を加えても問題なさそうだ。
手に入れた武器は、『護身用のナイフ』、『初心者の槍』、『木製のヌンチャク』の三つ。
どうやら毎回、いい武器が手に入るわけではないらしい。
まあそりゃそうか。
「んじゃ、派遣をしてみるか」
俺はカードを操作して、『派遣』を行う。
・第一部隊
リーダー 魔術猿、サブリーダー 戦士猿、
その他 魔術猿、戦士猿×2、音猿×1、森猿×4
・第二部隊
リーダー 魔術猿、サブリーダー 戦士猿
その他 魔術猿×2、戦士猿×1、音猿×1、森猿×4、
・第三部隊
リーダー 戦士猿、サブリーダー 音猿
その他 魔術猿×1、戦士猿×2、音猿×1、森猿×4
・第四部隊
リーダー 戦士猿、サブリーダー 音猿
その他 魔術猿、戦士猿×2、音猿×1、森猿×4
監督役 夜空
よし、こんな感じだな。
夜空には森猿が進化した場合は、別の森猿を入れ替えるように指示してある。
本音を言えば、小雨にも参加してもらいたかったのだが、アイツ妙にプライドが高くて、俺が居る時以外は、パーティーに入りたくないらしい。
まあ、それならそれで仕方がない。
あと雷蔵や雲母も派遣には不参加だ。
こっちは小雨とは逆に、猿たちと力の差があり過ぎるから。
雷蔵は一人で倒せちゃうし、雲母のバフは音猿よりもずっと高性能だ。
猿たちが頼り切っても駄目だしな。
(たいしてレベルも上がらないしな……)
俺も二回やってみて感じたが、LVが上がれば上がるほど弱いモンスターを倒しても大して経験値は増えない。
レベルに見合ったモンスターを倒さなければいけない。
『デイリークエスト『討伐』にカードの派遣を行いますか?』
イエスを選択。
夜空にも無茶しない程度にって伝えてあるし、大丈夫だろう。
傷薬や回復薬もたっぷり持たせたし。
「んじゃ、皆、頑張ってくれよー」
「「「「ウッキィ~~!」」」」
猿たちの健闘を祈りつつ、俺はログアウトを選択する。
あそうだ。『派遣』が終わったら、『合成』についても相談してみるか。
猿たちが拒否すればそれまでだけど、もし前向きなら試すのも視野に入れよう。
白い光に包まれて、俺はログアウトした。