69.デイリークエスト 討伐編
光が収まると、目の前には広大な湿原が広がっていた。
足下には木道が敷かれ、それが湿原の向こう側まで続いている。
初めて見る光景だな。
てっきり採取クエストと同じ森の中かと思ったが違うらしい。
ボスクエストは闘技場みたいな場所だったし、デイリークエストごとにフィールドは異なるのだろう。
フィールドマップを確認すると、広さはマザー・スネイクたちと戦ったステージと同じくらいか。
俺が居る場所はマップの一番下側だ。
俺以外のアイコンは表示されていない。
「今回はちゃんと壁があるな」
すぐ後ろを叩けば、フィールドの端を示す『壁』が確認できた。
「勝利条件はモンスターの全滅だし、先に進めば出てくる感じか?」
まずは雷蔵たちを呼び出すか。
俺はバインダーから雷蔵、雲母、夜空、小雨のカードを取り出す。
「皆、今回は討伐クエストだ。出てくるモンスターを倒すぞ。んで、コイツは新しい仲間の小雨だ。仲良くしてくれ」
「ウガァ」
「きゅー」
「キキッ♪」
『……ボ』
三人は了解だと頷く。
小雨はまだLV1だし、戦闘面では役には立たないだろうが、レベリングの為だ。
小雨のことも簡単に説明すると、三人は快く受け入れてくれた。
雲母にバフを掛けてもらい、準備も完了。
「んじゃ、先に進むか」
木道はあちこちに張り巡らされているから、湿原の上でも足場には困らない。
しばらく進むと、水面が波打ち、ジャイアント・スネイクが現れた。
「お前かよ!」
「シャァァァ!」
新しいフィールドだし、どんなモンスターかと思えば、まさかのジャイアント・スネイクだった。いや、でも確かに森よりもこういう湿地帯に居そうだな。蛇だし。
「ウッキッ!」
襲い掛かってくるジャイアント・スネイク目掛けて、即座に夜空が『睡眠』を発動する。
「……ジュラァァ……」
あっさりとジャイアント・スネイクは眠りについた。
「ウガァォ!」
すぐに雷蔵が接近し、ジャイアント・スネイクの首を刎ねる。
『経験値を獲得しました』
あっさりと決着がついた。
てか、俺の出番なかったな。
魔石を回収し、周囲を警戒する。
「雷蔵、新しい武器の使い心地はどうだ?」
「ウガォゥ♪ ウッガウッガ♪」
雷蔵は上機嫌で刀を振り回してくる。
名刀・鬼丸。雷蔵の新しい武器だが、気に入ってくれたようだ。
でも危ないから、刀を振り回すのはやめような?
「夜空もよくやった」
「ウキキ♪」
夜空の『睡眠』は相手を強制的に眠らせる強力なデバフスキルだ。
・睡眠 アクティブ 対象を睡眠状態にする(60秒)
攻撃や周囲の物音で目が覚めることがある
CT5秒後に再発動可能
攻撃を加えたり、周囲の音がうるさいと目が覚めるらしいが、CTも短く、使い勝手もいい。
なにより確定で『睡眠』を当てられるのはデカい。
俺の『不快』はどのデバフが付与されるかはランダムだし、雷蔵の麻痺も最大でも80%の発生率だからな。
スキルはそれぞれ一長一短とはいえ、これは大きな強みだ。
いやぁ、本当に優秀だわ、この子。仲間に出来てよかった。
夜空は「褒めて~もっと褒めて~」という眼差しを向けてくる。
「はいはい、偉い、偉い。これからも頑張ってくれよ」
「ウッキキ~♪ ウッキィ~♪」
頭を撫でると、嬉しそうにぎゅーっと腕に抱き着いてきた。
こらこれ、歩きにくいから、少し離れなさい。
一応、まだクエスト中なんだから。
『ボ……ボー♪』
一連の戦闘を見て、小雨は興奮した様子でくるくると俺の周りを泳ぐ。
皆の活躍を見て、やる気に火が付いたようだ。
目がキラキラしている。
「小雨、状況次第ではお前のスキルもどんどん試そうと思う。期待してるよ」
『ボー♪』
余に任せよと、小雨は大仰に頷いて見せた。
するとまた水面が波打ち、モンスターが現れた。
(お、今度は違うモンスターだな)
初めて見るモンスターだ。
見た目は……人の形をした水草の塊って感じだな。
小さいのと大きいのが一体ずつ。
『モンスター図鑑が更新されました』
『モンスター図鑑№13 モスボーイ
人間の少年ほどの大きさで全身が苔の塊で出来ている
体の中心に核があり、それを破壊しないと何度でも再生する
主に湿地帯や河原などに生息する
石を投げたり、体当たりをしてくる
接近されると、根を張られ、養分にされる
討伐推奨LV5』
『モンスター図鑑№14 モスダディ
モス・ボーイの進化系
人間の成人男性ほどの大きさで全身が苔の塊で出来ている
体の中心に核があり、それを破壊しないと何度でも再生する
主に湿地帯や河原などに生息する
石を投げたり、体当たりをしてくる
接近されると、根を張られ、養分にされる
討伐推奨LV10』
モスボーイにモスダディ、ね……。
要は苔のモンスターってことか。
「近づいてきて根を張る、か。よし、距離を取って倒すぞ」
『ボ……』
すると小雨が俺たちの前に出る。
パクパクと口を動かすと、小さな水の球体が発生した。
『ボ!』
小雨の声と共に、それはモスボーイに向けて勢いよく発射された。
これは水鉄砲か。
小雨の持つ唯一の攻撃スキル。
・水鉄砲 アクティブ 対象に向けて低威力の水の球体を放つ
CT1秒後に再発動可能
水の弾はモスボーイの肩に命中すると、その部分を弾き飛ばした。
「オォォ……」
ぐらりと、モスボーイが体勢を崩す。
『ボ、ボ、ボ』
更に連射。
水の弾がモスボーイ、モスダディの体をみるみる削ってゆく。
小雨の水鉄砲はCT1秒という回転率が強みだ。
一発、一発の威力は低くとも、その連射速度は侮れない。
実際、モンスターたちは小雨の水鉄砲に足止めされ、その場から動けずにいる。
「よし、ナイスだ小雨! 雷蔵! こいつらは体の中心に核がある。そこを狙うぞ!」
「ウガォウ!」
俺が銃弾を、雷蔵が雷撃を、モスボーイとモスダディに放つ。
石が砕ける音と共に、二体のモンスターは消滅した。
『経験値を獲得しました』
『ボ♪』
「うん、偉い偉い」
どんなもんだいとドヤる小雨に、俺はパチパチと拍手を送る。
実際、LV1にしては大した威力だ。
もっとレベルが上がれば、足止めじゃなく、そのまま核を砕くことも出来るかもしれない。
今後の成長が楽しみだな。
「そろそろバフが切れるな。雲母、頼む」
「きゅー」
雲母にバフを掛け直してもらい、更にフィールドを進む。
「シャァァァァ!」
今度はジャイアント・スネイクが一体に、シャドウスネイクが三体。
問題なく倒すことが出来た。
「ギッシャアア!」
その次はホブゴブリンとゴブリンが現れた。
雷蔵の同族だ。
一瞬、どうしようかと思ったが、雷蔵がいの一番に斬り倒した。
「大丈夫なのか?」
「ウガォゥ」
雷蔵は問題ないという感じの返事をした。
デイリークエストで出現するモンスターは、同族の姿をしていても、全く別の存在なのかもしれない。
なので雷蔵たちにとっても忌避感はないのだろう。
そんな感じでモンスターを倒し続けること十五体目。
『おめでとうございます。デイリークエストをクリアしました』
クリアのアナウンスが鳴り響いた。
どうやらモンスターは十五体で終わりのようだ。
「……普通に苦も無く終わったな」
あまりにもあっけなさ過ぎて、なんか拍子抜けしてしまう。
うーむ、デイリーダンジョンやEXステージのせいで感覚がおかしくなってるのかもしれない……。
でもこれくらいの難易度なら、問題なく『派遣』が出来そうだ。
小雨や猿たちのレベリングにはぴったりだな。
次は猿たちだけでパーティーを組ませてみるか。