67.もっと設定とかキャラの背景を説明してほしい
大陸龍魚。
俺がこの終末世界で最初に出会った化け物。
その幼体が、俺の仲間になる?
(てことは、ここってあの巨大アロワナの産卵場なのか?)
あの巨体でどうやってこんな場所に……あ、天井に穴が開いてた。
そこにも卵の殻がいくつかこびりついている。
人間にとっては大きな病院でも、あの巨大アロワナにとっては卵を守る岩礁地帯みたいなものなのかもしれない。うーん、スケールが違う。
『ボボ……ボ?』
巨大アロワナの幼魚は「仲間にしてくれないの?」と俺を見ながら首をかしげてくる。
くっ、あざとい仕草しやがって。
ちょっと可愛いじゃないか。
「うん、可愛いな! リュウもそう思うだろ!」
「え、ああ……うん」
エイトさんは素直だなぁ……。
『……ボ♪』
くるくる空中を回ってる。
可愛いって言われて喜んでるのか?
「……仲間にして大丈夫なのかな? あの巨大アロワナ――大陸龍魚に目を付けられる可能性もあるんじゃ……?」
「かもしれないな! でも可愛いからいいんじゃないか? むしろ私が仲間にしたいくらいだ!」
エイトさん、心がつえー。
でもそれはあの巨大アロワナを見たことないから言えるんだよ。
だってアイツ、空食うんだよ? 黒い虹が出来るんだよ?
……そういえば、食われた空間は今回来た時には直ってたな。
食われた空間も時間と共に再生するんだろうか?
『ボ、ボ……』
「なになに? 嬉しいけど、余はそっちがいい? なるほど! それなら仕方ないな!」
なんで会話出来てるの!?
さっきまでは何となく意思を読み取ってる感じじゃなかった?
え、てかコイツ、一人称『余』なの? え、偉そう……。
「リュウ、君は本当にこの子に好かれているな! 羨ましいぞ!」
『……ボ』
……なんで?
「俺、何も好かれるようなことしてないけど?」
すると、幼魚がまたエイトさんの周りをくるくる回る。
『ボ』
「ふむふむ……先ほどのアイテムは母の恩人を救ってくれた証。母も恩人のことをずっと憂いていた。それを救ってくれた者ならば信頼できるし、信じてみたい。だから余は母に頼まれてここで君を待っていた……と言っているな」
「ボ、にそんな長い意味が!?」
どういう言語体系?
そしてなんでそれを読み取れるの?
エイトさん、何者なのマジで?
「何を言うか。相手の目と仕草と声音さえ分かれば、何を言いたいか、どんなことを訴えているかなど分かるだろう?」
「……普通は分からないと思う」
「ミーちゃんとハッくんで鍛えたからな!」
それさっきも聞いたよ!
てかミーちゃんとハッくんは口も目もないでしょうが!
数字と音符だもの! わけがわからないよ!
『……ボ』
「ともかく、この子は君が母の恩人を助けてくれたから、その恩に報いたいと言っているのだ。ならばその想いを汲んでやるのも男の務めだと私は思う!」
エイトさんの熱弁に、幼魚もコクコクと頷く。
ともかく話を整理すると、母ってのはあの巨大アロワナで間違いないよな。
恩人ってのはあの魔女さんのことだろう。
魔女さんがあの巨大アロワナの恩人? いったい過去に何があったんだ?
(そもそも俺、魔女さんと飲み会開いて愚痴聞いてあげただけなんだけど……)
それでなんかステージ4もEXステージもクリア扱いになったし。
訳が分からないし、こちとらずっと混乱してるんだよ。
もっと説明しろ、説明を。
ストーリーの背景を話せ。
もしくは倒した敵の裏情報とか、設定とか開示しろ運営。
「さあ、仲間にしてやれ、リュウ!」
『ボ……』
ずいっと顔を近づけてくる8と幼魚。
圧が……圧が強い。あと絵面が凄い。
数字の8と、宙に浮かぶマグロサイズの幼魚だもん。
頭がくらくらする。
「わ、分かったよ。分かったから、少し離れてくれ」
「おっと、私としたことが。少しはしたなかったな。すまない」
エイトさんが離れると同時に、俺は頭の中でイエスを選択する。
次の瞬間、巨大アロワナの幼魚はカードになった。
『名前 なし LV1
種族 大陸龍魚(幼体)
戦闘力 ☆
スキル 空泳、空間移動、水鉄砲、世界扉(lock)、迷宮扉(lock)
忠誠度 普通』
まだレベルも1だし、戦闘力も低い。
将来性は凄まじいだろうが、生まれたてだもんな。
というか、スキル欄にある世界扉と迷宮扉ってなんだ?
しかも(lock)って表示されてるし……。
「その子の名前はどうするんだ?」
「名前か……」
何にしよう?
魚……水、川……てか、そもそもコイツって雄なのか、雌なのか?
「なあ、エイト……この子の性別って分かるか?」
「雌だろ? 何を言ってるんだ?」
いや、そんな当然みたいな感じに言われても……。
マジでエイトさんが主人になればいいと思う。
「あ、リュウ、外を見てみろ。少し雨が降っているぞ」
「本当だ」
この世界にも雨が降るんだな。
通り雨だったのか、すぐに止んだ。
「その子の誕生を祝福して雨が降ったんじゃないか? 雨の日の魚は縁起物というぞ?」
「へぇ……」
そうなんだ。知らんかった。
「雨……雨か。じゃあ、『小雨』にしようかな」
「うむ、いいんじゃないか」
エイトさんも賛成のようだし、どうやらコイツも気に入ったらしく、カードの忠誠度が『普通』から『高い』に変わった。
「よし、出てこい小雨」
『……ボ♪』
小雨はくるくると嬉しそうに俺の周りを泳ぐ。
時折、口をぱくぱくさせてる仕草をしているのが気になるけど。
これ、空間削れてないか?
やすりで削ったような黒い跡があるぞ。
「そういえば、コイツ、空間を食べるって図鑑に載ってたな」
「みたいだな。私もその子を見た時に、図鑑が更新された。だが、見た感じ、問題ないんじゃないか? 一瞬、空間が削られた感じになったが、すぐに元に戻ってるぞ?」
「あ、本当だ」
あの黒い虹はあのサイズだから、ああなったってことか。
このサイズならば、食べてもすぐに元の空間に戻るのだろう。
……どういう原理かは分からないけど。
「まあ、すぐに元に戻るんなら問題ない、のか……?」
『ぼ……ぼ……』
小雨はパクパクと空間を食べつつ、俺たちの周りを泳ぎ回る。
『マッピングが0.4%に達しました』
『おめでとうございます。デイリーダンジョンをクリアしました』
頭の中にアナウンスが響く。
「あっ、ごめん。今、クリアアナウンスが……」
「構わないさ。むしろ、話が出来てよかったよ。私も残り少しだし、自力でなんとかするさ」
「……気をつけろよ」
「うむ、大丈夫だ! それじゃあ、また会おう!」
「ああ、またな」
手を振るエイトさんを見ながら、俺の体は白い光に包まれた。
視界が暗転し、再び黒い空間へと戻る。
『おめでとうございます。デイリーダンジョンをクリアしました』
『活動実績を算出……完了』
『成功報酬 大空の欠片×1、濃霧の欠片×1、吹雪の欠片×1を獲得しました』
「ふぅー……」
色々あったが、とりあえずクリアすることは出来たな。
エイトさんは、終末チケットを使えば、すぐに戻れるがあの感じなら、心配ないだろう。
釈迦蜘蛛たちのテリトリーからはそれなりに距離は離れているし、残り0.04%くらいなら、病院周辺を探索すればすぐに埋まるはずだ。
とりあえず、クリア報酬を確認するか。
大空の欠片は前回と同じだな。
・濃霧の欠片
濃霧の力が込められた欠片
植物系モンスターの力を高めることが出来る
吹雪の欠片
吹雪の力が込められた欠片
水生系モンスターの力を高めることが出来る
植物と水生系か……。手持ちに居ないな。
小雨は魚の姿をしているが、水生系ではなく雲母と同じ幻獣系らしい。
なので現状、手持ちのモンスターに使えるのは、大空の欠片だけだ。
「今回は小雨にやるか」
早く戦力になってもらおう。
世界扉と迷宮扉ってスキルも気になるし。
『小雨が強化されました』
さて、とりあえず一回ログアウトするか。
ログアウトを選択すると、再び俺は白い光に包まれた。