59.絵面がシュールすぎるんだよ
服を着た 3+3=8さんに俺は事情を説明した。
ビキニとマントを装備した8に、派手パンツ一丁の変質者が頭を下げるというあまりにもシュールな光景である。
最初は怒り心頭だったご様子だが、きちんと事情を話して、誠心誠意謝ったら許してくれた。
「そうだったのか! つい勘違いをしてしまった! 怒鳴って悪かったな!」
「あ、いえお構いなく……。状況的に勘違いされても仕方ないと思いますし……」
3+3=8さんは8の真ん中から曲げて、頭を下げてくる。
……頭だよな?
あ、ちなみに雷蔵たちは一旦カードに戻している。
間違って攻撃しちゃいそうだし……。
「それにしても、まさかアナタがリュウだったとは。ずいぶんと特徴的な見た目をしているのだな!」
「……そ、そうですね」
アナタに比べれば、誤差だと思います。
主に人間的な見た目という意味で。
「3+3=8さんは……」
「8で構わない。ずっとフルネームで呼ばれるなんて堅苦しいじゃないか。フレンド同士だし、気軽に呼んでくれたまえ。敬語も不要だ!」
プレイヤー名にフルネームもなにもないだろう。
でもまあエイトって方が、まだ名前っぽいか。
「しかし他のプレイヤーに会えたのは初めてだ! 私は今、とてもドキドキしている! 正直に言えば、オープンワールドなのに全然、他のプレイヤーと会わないから不安だったのだ!」
「初めて? てっきり、何人か会っているもんだと……」
メッセージの感じからすると、既に他のプレイヤーとやり取りをしていると思っていた。
「ないな! だから、その、つい警戒心が緩んじゃって……水浴びしてて……ぁぅ」
「それに関しては……その、本当にごめん」
急にモジモジされると、こちらとしても罪悪感が沸く。
たとえ8の姿でも。
「いや、謝らないでくれ! 勘違いした私にも非はある! だからその……その件に関しては、忘れて? ね?」
「はい」
なんかちょいちょい口調が違うな、この人。
ひょっとしてキャラ作ってるのだろうか?
というか、8の姿なのだから羞恥心とか今更だと思うんだけど、その辺は言わない方がよさそうだな。
「そ、それにしてもなんでエイトは、数字の姿をしているんだ? あ、いや、言いたくないなら別に良いけど」
「か、構わない! 質問に答えよう! それは我が職業が『数字』だからだ!」
「……?」
この人は何を言っているのだろう?
「混乱しているのか。なら、順を追って説明しよう! 私のスタート地点はパルムール王墓だったのだ。そこのストーリーを進めていくうちにLVが10になった。選択できる職業の中に『数字』があったので、選んでみたらこの姿だ! 理解できたかね?」
「理解は出来たけど、意味が分からない」
だって数字って職業じゃないだろ。
俺の『変質者』も大概だけど、『数字』ほどではない気がする。
「分かるよ。私もまさか本当に数字になるとは思ってもみなかった!」
「だ、だよね……」
「だが問題は無い!」
……問題だらけでは?
「人にとって大事なのは姿形よりも心の持ち様だ。たとえどのような姿であっても、私という人間が変わることはない!」
「な、なるほど……」
なんというかとても心がお強い。
俺なんて変質者になっただけで心が折れそうだったのに。
「……まあ、ここだけの話、今でこそそう思えるのだが、最初の頃はそれなりに荒れていたよ。私もまだ6だったからな」
「6……」
最初は6だったのか。
……だからなんだよっ。
「それに姿はこうだが、『数字』は中々強いんだ。特にスキルが素晴らしい」
「ど、どんなスキルなんだ?」
気になる。めっちゃ気になる。
「本来は秘匿にすべきだが、リュウには私の全てを見られているからな! 特別に一つだけ教えてあげよう。『数値変化』だ」
「数値変化……?」
「対象のステータスの数値を一つ、1~9の数値に変化させられる」
「ッ……」
なんだそれ。めちゃくちゃ強いじゃないか。
「数値と効果時間がランダムなのはネックだがな。このスキルにずいぶんと助けられたよ。EXステージもこのスキルと、仲間達のおかげでクリア出来たようなものだ」
「仲間というとカードか。俺にも居るよ。みんな、出て来てくれ」
今の状況なら大丈夫だろう。
俺は雷蔵、雲母、夜空を呼び出す。
三人はエイトさんをみて驚いていたが、俺の様子を見て、警戒を解いてくれた。
「ほほう! 素晴らしい仲間だな! では私の仲間も紹介しよう」
エイトさんがカードをかざす。
すると、数字の「3」と音符の「♪」が現れた。
「ミーちゃんとハッくんだ」
「ミミミミミミィ~~~」
「ブルゥァァァァァァァァ~~」
数字の3と八分音符が声を上げる。
どこから声を上げているのだろう?
……うん、もう慣れた。
「パルムール王墓ってゾンビや幽霊が多いって掲示板で書いてあったけど……?」
「ああ、ゾンビもレイスも居るぞ。だが主力はコイツらだ。王墓には古びたコンサートホールみたいな場所もあってな。そこには音符や楽器のモンスターが出るんだ」
「へぇー」
そういうステージもあるのか。
3と八分音符はよほどエイトさんに懐いているのか、体をすりすりとこすりつけている。
「……キィ」
それを見て、何故か夜空も俺に体をこすりつけてきた。
対抗心でも燃やしているのだろうか?
よしよしって頭を撫でたら、凄く喜んだ。
「この間、ようやくパルムール王墓から出られたんだ。それで今はアポリスの町を拠点に活動しているのさ」
「パルムール王墓ってアポリスの町の近くなのか?」
「ああ、この辺だ」
エイトさんは地面にざっくりとした地図を書いて教えてくれる。
今更だけど、プレイヤーの画面は他人には見えない。
操作している様子は見えるけどね。
エイトさんの絵は上手く、それぞれの位置関係がよく分かった。
「確かにアポリスの町から近いな……」
「ああ。でも入るのは難しいぞ。パルムール王墓は入るのも、出るのも特殊な条件があるからな。私も一度出たっきり、もう行っていない」
「なるほど」
まあ、今のところは行く予定もない。
なにかイベントがあれば別だけど。
(今更だが、それぞれのスタート地点って結構近いな……)
俺が居たグランバルの森、大河さんのキザルト草原、エイトさんのパルムール王墓。
少なくともこの三カ所は割と距離が近い。
それでも出会ったプレイヤーは大河さんとエイトさんだけだ。
(プレイヤー同士が出会うのにも何かしら条件があるのか……?)
イベントやストーリーが重複していないとか?
後で掲示板とかで、確認してみるか。
「それでリュウはどうしてアポリスの町に? ふふ、まさか私に会いに来てくれたとか?」
「まあ、それも理由の一つかな」
「ッ……」
エイトさんのプレイヤー名はインパクトが強かったし、特徴的な外見って言われれば気になるに決まってる。
「次のサブイベントがアポリスの町にいる魔女に出会うって内容なんだ。何か知らないか?」
「え、あ、ま、魔女……魔女ね。うん、魔女なら知っているぞ!」
エイトさん、やたらと声がうわずっているけど、どうしたんだろう?
もじもじしながら、頭の辺りを弄ってるし。
「町の西の外れに古い道具屋がある。そこの店主の正体が魔女だ」
「おおっ、それは本当か?」
「ああ、本当だ。お使いを頼まれるからそれをクリアすれば魔女だと正体を明かしてくれる。私もサブイベントで『アポリスの町で魔女に出会う』ってのがあったからな。間違いない」
「それはそれは……ありがとう。礼を言うよ」
凄い有益な情報だ。
これは本当にありがたい。
「フレンド同士だ。気にしないでくれ」
「それでも俺の気が済まないよ。何か礼をさせてくれ」
「ふふ、律儀な男だな。それじゃあ、もし『バルカディア金貨』というアイテムが手に入ったら、私に連絡をくれ。今、イベントで集めているんだ」
「バルカディア金貨? ああ、それなら持ってるよ」
あれだ。
マザー・スネイクの腹から出てきた金貨だ。
ついさっき、バルカディア皇家の紋章も手に入ったし覚えてる。
「あ、あるのか!? 頼む! 是非、譲ってくれ!」
俺が持っているのは予想外だったらしく、エイトさんは興奮した様子で詰め寄ってくる。
「何枚必要なんだ? 全部で十五枚あるけど?」
「そ、そんなに持っているのか? じゃ、じゃあその……四枚譲って貰えないか?」
「お安いご用だよ。ほら」
俺は収納からバルカディア金貨を四枚取り出して、エイトさんに渡す。
エイトさんはそれを大事そうに握りしめた。
「ありがとう。これでようやくイベントを先に進められる」
「こっちこそ。情報提供、感謝するよ」
メイちゃんと違って、全く知らない相手を探すのは大変だからな。
これでサブイベントをクリア出来る。
ふふ、とエイトさんは笑い、手を差し出してくる。
「最初はこんな変態に裸を見られるなんて、厄日だと思ったが、人の巡り合わせとは分からないものだな。今は、君に出会えたことを心から喜ばしく思うよ」
裸……うん、まあ裸か。それに関しては本当に申し訳なく思う。
あれは不幸な事故だ。
エイトさんが差し出した手を俺は握り返した。
「こちらこそ、エイトに出会えて良かったよ。今後ともよろしくな」
「勿論だ。私はまだイベントの途中だからまだ戻らないが、もし町で会えたら気軽に声を掛けてくれ」
「……はい」
今更だけど、その姿で町に入れるんだな。
俺が言うのもなんだけど。
何はともあれ、こうして俺は異世界ポイントで二人目のプレイヤー3+3=8さんに出会い、魔女の情報も手に入れることが出来たのだった。