57.デイリーダンジョン……? 後編
とりあえず深呼吸して心を落ち着かせる。
「ふぅー……」
よし、リセット完了。
「雷蔵、雲母、夜空、大丈夫か?」
「ウガゥ」
「きゅー」
「キキッ」
皆、元気よく返事をした。
驚いたけど、そこまで動揺してないかったっぽい。
心が強ぇ奴らだぜ。
「しかしなんだったんだ、あの化け物……」
空を食べる全長数キロの巨大アロワナとか、スケールも強さもおかしいだろ。
しかもモンスター図鑑もEXってついてたし。
ここのモンスターは別枠ってことなのか?
それともあのモンスターが特別なのか?
「アルタナって異世界ポイントの世界の名前だよな……?」
アルタナの空を食い尽くしたって説明にあったけど、どういうことだ?
空は特に普通だったと思うけど……?
あれかな? どっかに封印されてて、それがストーリーが進むうちに誰かに解放されて、みたいな。……でも説明見る限り、アルタナ滅んでるよな?
ついでに俺たちのいた世界も滅んでる設定? どういうこと?
「とりあえずはマッピングを進めるか……」
考えていても仕方がない。
まずはマッピングを進めよう。
「しかしホント、リアルだな……」
建物は崩壊し、あちこち劣化してるけど、近所にあった公園や、土手、スーパーもそのままだ。
見知った光景が様変わりしているのは、なんとも言えない喪失感があるな。
本当にこういう未来があるんじゃないかっていうくらいのリアリティがある。
ひとまずアパートの周辺をぐるりと探索すると、マッピングが0.17%まで上がった。
あと少しで終わりだ。
「……ん?」
すると、何かが目の前に現れた。
黒い影だ。
人型の黒い影が道路の真ん中に立っている。
「――雷蔵」
「ウガォゥ!」
俺は即座に『不快』を、雷蔵も『雷撃』を発動する。
しかし『不快』が当たった感覚はなく、雷蔵の『雷撃』も影をすり抜けて背後の建物に当たった。
「なっ……!?」
黒い影は何事もなかったように佇んでいる。
そういえばモンスター図鑑の更新アナウンスがない。
コイツ、モンスターじゃないのか?
『――……』
すると黒い影の腕が水平に上がると、どこかを指さした。
『あっち……』
「ッ……!」
喋った?
いや、喋ったというより頭の中に直接声が響いた感じだ。
声は違うが、アナウンスの通知と同じような。
『進むならあっち……戻るならそっち……』
黒い影の声が頭に響く。
戻るならそっち……。指した方向は俺の部屋。
このダンジョンのスタート地点。
「進むならあっち、ね……」
黒い影が指さしたのは、あの巨大アロワナが居た方向だ。
どう考えても危険な方向。
でも――。
「そっちに何があるんだ?」
『……忘れ物』
驚いた。
こっちの質問に答えてくれるなんて。
黒い影の頭の部分。ちょうど口に当たる部分が揺らめいて笑みを浮かべたように見えた。
『……ずっと昔の忘れ物。きっと役に立つよ……』
「どういう意味だ……?」
『……――』
黒い影は霧のように消えた。
最初からそこに何も居なかったように。
「……」
何だったんだ?
なんかのイベントか?
「……気になるなら行ってみるしかないか」
黒い影の示した方向へと進む。
しばらく進むと、十字路の中心に何かがあった。
「これは……金貨か?」
絵柄はちょっと違うが、以前マザー・スネイクの腹の中から出てきた金貨に似ている気がする。
確かバルカディア金貨だったっけ?
あの時は雲母が出てきたインパクトですっかり薄れてしまっていたな。
『バルカディア皇家の紋章を手に入れました』
頭の中に響くアナウンス。
金貨じゃなくて紋章?
・バルカディア皇家の紋章
かつてアルタナに存在した皇国の遺品
収納リストの説明もこれだけだ。
これが忘れ物? なんの役に立つんだこれ?
あれか? メインストーリーの後半とかでキーアイテムになるとか?
『マッピングが0.2%に達しました』
『おめでとうございます。デイリーダンジョンをクリアしました』
頭の中に響くアナウンスと共に俺たちの体が白い光に包まれる。
どうやらこれでデイリーダンジョンをクリアしたみたいだ。
視界が暗転し、再び黒い空間へと戻る。
『おめでとうございます。デイリーダンジョンをクリアしました』
『活動実績を算出……完了』
『成功報酬 大空の欠片×1、嵐の欠片×1、雨雲の欠片×1を獲得しました』
そういやデイリーダンジョンは報酬にポイントはないんだな。
追加報酬もなしか。
「あの巨大アロワナと遭遇しなくてよかったー……」
いや、もうほんと。
あれは文字通りの化け物だ。
とりあえず手に入れたアイテムを確認してみるか。
・大空の欠片
大空の力が込められた欠片
全てのモンスターの力を高めることが出来る
・嵐の欠片
嵐の力が込められた欠片
動物系モンスターの力を高めることが出来る
・雨雲の欠片
雨雲の力が込められた欠片
幻獣系のモンスターの力を高めることが出来る
「へぇ、なるほど。これってモンスターの強化アイテムだったのか」
つまりデイリーダンジョンはカードの強化素材が手に入るイベントってことか?
どうやら装備のようにカードへスライドさせることが出来るようだ。
「大空は雷蔵、雨雲は雲母、嵐は夜空にそれぞれ与えるか」
カーバンクルって幻獣系なのか。確かにそれっぽい。
正確には雷蔵――ゴブリンは動物系モンスターに該当するみたいで、大空、嵐どちらの欠片も使用することが出来るらしい。
でも、三つだし、三人にそれぞれ与えた方がバランスがいいだろう。
後で不満が出ても困るし。
それぞれの欠片をカードへスライドさせる。
『雷蔵が強化されました』
『雲母が強化されました』
『夜空が強化されました』
カードを確認するが、特に変化した部分はない。
表示されない部分が強化されたってことだろうか?
スキルの威力とか、ステータスとか。
これは実践で確認するしかないか。
「……デイリーダンジョンは一日一回までか」
試しにもう一回、デイリーダンジョンを選択してみたが無理だった。
まあ、何回も挑戦できれば、素材が手に入り放題だしな。
仕方ないか。
「さて、次は塔への挑戦権ってのを――」
『トラがフレンドを承認しました』
『ガルンバイダーがフレンドを承認しました』
『3+3=8がフレンドを承認しました』
『丑満丸がフレンドを承認しました』
『DT大帝がフレンドを承認しました』
『大きめのボッキーがフレンドを承認しました』
「おっ」
大河さんもログインしたみたいだ。
無事にフレンドが承認されてよかった。
他にもランダム申請で出した人からの通知が来る。
……個性的なプレイヤー名の人多くない?
「3+3=8って何て読むの……?」
6だろ。
そこは6であれよ。
どこのボー〇ボだよ。令和だぞ?
その後も、何名かフレンドの通知が届く。
・フレンド 14/50
フレンドはゼロじゃなくなったが、FPとやらは送られてこないな。
日付が変わると送られてくるのかな? 一日一回だし。
『トラからメッセージが届きました』
お、通知だ。
「大河さんが言ってた個別チャットってやつだな。どれどれ……」
フレンドの項目から『トラ』を選ぶとチャット欄が表示された。
おお、これ、あれだ。ライ~ンみたい。
<トラ
『フレンド承認遅れてすいません
ちょっと仕事の方で手間取ってしまいました
今ログインしました
喫茶店ではパフェご馳走様でした
これからよろしくお願いします』
画面もモロ同じだ。
まあ、分かりやすくていいけど。
とりえあえず返信しておくか。
『いえいえ、こちらこそ
今後ともよろしくお願いいたします』
返信を送ると『既読』の文字がついた。
そういうところまで一緒なのかよ。
(……意外と普通のメッセージだったな)
SNSの呟きがアレだったし、ひょっとしたらと思ったけど、その辺はちゃんとしているようだ。少し安心した。
『3+3=8からメッセージが届きました』
「おっふ」
え、メッセージ?
8の人から?
ど、どんな内容だろう?
恐る恐るメッセージを開いてみる
<3+3=8
『初めまして。3+3=8と申します
フレンド登録ありがとうございます
もしオープンワールドでお会いした際には、お気軽にお声がけください
特徴的な外見をしているのですぐにわかると思います
現在はアポリスの町を拠点に活動しています
今後ともよろしくお願いいたします』
めちゃめちゃ普通の内容だった。
なんで? なんでプレイヤー名はアレなのに、メッセージは普通なの?
「と、とりあえず返信だけしておこう……」
ありがとうございます、こちらこそよろしくお願いしますって感じのメッセージを送っておく。
こちらもすぐに既読がついた。
「アポリスの町か……あ、そういえば」
俺はスタート画面のメインストーリーを確認する。
『メインストーリー4を開始するには、以下の条件を満たしてください』
『サブクエスト
アポリスの町で魔女と出会う』
次の目的地がアポリスの町だった。
つまり8の人と会う可能性があるのか……。
特徴的な外見……まさか本当に8の姿をしているとか?
それとも俺や大河さんのようにアレな格好をしているとか?
「き、気になる……」
でも塔への挑戦ってのもやってみたいんだよな。
どちらを優先すべきか。
「……」
『サブクエストを開始します』
『クリア条件 アポリスの町で魔女と出会う
成功報酬 赤い石、1,500イェン』
好奇心には勝てなかったよ……。