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47.EXステージ3 その5


「――よし、なんとかなったな」


 俺は自分の姿を確かめるように、体を動かす。

 うん、これなら問題ない。


「……本当にその恰好で行くのかい?」

「ああ、たぶんこれが一番いい装備だと思う」

「そ、そうかい……。まあ、アンタがいいならそれでいいけどさ……」


 俺の姿を見て、コロロさんはドン引きしていた。

 他の亜人たちも目を逸らし、もはや恐怖すら浮かべている者すらいる。


「ふわぁ~、やっぱりお兄さんは、すっごい変態さんですぅ~」


 唯一、メイちゃんだけは目を輝かせてたけど……。

 正直、今はその純粋さが心に沁みて、火傷みたいにヒリヒリする。


「これを渡しておく。万が一、攻撃が来たら、使ってくれ」

「分かった。すまないね」


 ポイントで交換した『派手なマント』を大量に渡しておく。

 これで泥が降っても防ぐことが出来るだろう。


「雷蔵、お前は一旦カードに戻す。戻すタイミングと、その後の行動は、さっき説明した通りだ。いいな?」

「…………ウガゥ」


 雷蔵は目を逸らしながら、小さく返事をした。

 もっといつもみたいに元気よく返事しろやぁ!

 なんだその明らかに気のない返事は!

 気持ちは分からんでもないけどさ。


「……今回だけだ。今回はどうしてもその格好じゃないと駄目なんだ。それもさっき説明しただろう?」

「……ウガゥ」


 理解は出来ても納得はしてません。

 雷蔵の顔にはそんな感情がありありと浮かんでいた。

 俺は雷蔵をカードに戻す。

 ……忠誠度が『最良』から『良』に落ちていた。ちくしょう。


「そ、それじゃあ、猿たちも護衛を頼んだぞ」

「「「ウキキー!」」」


 メイちゃん達には魔術猿、音猿、戦士猿を護衛に付ける。

 これで防衛は問題ないだろう。

 作戦が始まれば、巨大猿は俺たち以外に気を向ける余裕はなくなるはずだ。

 ……あくまで上手くいけばの話だが。


「きゅー、きゅきゅー」

「よし、バフは全部掛け終わったな。んじゃ、雲母も一旦カードに戻ってくれ」


 雷蔵、雲母をカードに戻し、バインダーに収める。

 まずは俺一人での先行だ。

 

「それじゃあ、行ってくる」

「頑張ってくださいね~」


 メイちゃんの声援を背に、俺は巨大猿へと向かって駆けだした。




 さて、それじゃあ作戦――というか、検証開始だ。

 巨大猿までの距離はおおよそ百メートルってところか。

 まずはメイちゃん達と、反対方向まで回り込む。

 村の中を一気に横切り、巨大猿の正面から見て左手側へ。


(改めてみると、でっかいな……)


 近づくにつれてそのサイズに圧倒される。

 だが、ビビるな。

 奴の姿も、その周辺の状況も全て、ちゃんと見るんだ。


(……あった)


 一つ目の確認が終わり、俺は大きく息を吸い込む。

 そして、巨大猿へ向けて叫んだ。


「おーい! デカブツ! こっちだ! こっちを見ろー!」

「……ギィィィ?」


 巨大猿は俺の声に反応した。

 俺の方を見るようにデカい頭を動かした。

 ――その反応に、俺は自分の予想が正しかったと確信する。


(よし、第一段階はクリア!)


 ならば次だ!

 俺は即座にあのスキル(・・・・・)を発動させる。

 このスキルは『不快』同様、相手を見るだけで発動できる。

 さあ、どうなる?


「ギィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!」


 巨大猿は振り上げた拳を、俺目掛けて振り下ろした。

 凄まじい勢いを伴った拳は、呪いだけでなく、単純な質量だけでも俺を押しつぶすことが出来るだろう。


 ――無論、当たれば(・・・・)の話だが。


 巨大猿の拳は全く見当違いの場所に振り下ろされた。

 それだけでなく、巨大猿は何度も見当違いの場所を執拗に叩きつけている。

 その様に予想が確信に変わる。


「――雷蔵」

「……ウゴァ」


 俺は小さな声で雷蔵を召喚する。


「俺の予想は正しかった。今のうちに行ってくれ。頼んだぞ」

「ウゴァ」


 雷蔵は頷くと、すぐに森の中へと走り去ってゆく。


「ギィィ……? ギィィ?」


 さて、そろそろ向こうも違和感に気付いただろう。

 先ほど、俺が使ったスキルは『催眠』だ。


・催眠 アクティブ 対象の五感を一つを指定し、誤認させることが出来る

          CT60秒後に再発動可能。1ステージにつき最大3回まで


 ポイント交換で手に入れた二つのスキルのうちの一つ。

 これを使って、アイツの『視覚』を操作した。

 アイツの目には、俺が全く別の場所に居るように見えていたのだ。


「そもそもおかしかったんだよな。お前が破壊不能のオブジェクトなら、そこから発生した呪いだって破壊不能のはずだ。体から離れたモノは対象外なのか。もしくは俺が最初から誤解していたか」


 事前にあの破壊不能の祭壇を見ていたことと、『一時間生存する』という勝利条件に惑わされて。

 俺はコイツの本質を見誤っていた。


「お前は破壊不能のオブジェクトじゃなかった。――ただの『装備品(・・・)』だ」


 俺は手をかざし、もう一つのスキルを使う。

 さあ、隠れてないで出て来いよ。


「――脱衣(パージ)・胴体装備」


 催眠と共に手に入れたもう一つのスキル。

 その効果は、対象の装備を一つ強制的にパージするというもの。


 次の瞬間、巨大猿の胴体が弾けた(・・・)


 泥が雨のように周囲に飛び散り、中に居たソイツ(・・・)の姿を露わにする。

 ソイツは重力に従い、地面に落ちて尻もちをついた。


「――ウッギャァゥ!?」



『モンスター図鑑が更新されました』


『モンスター図鑑№12 屍狒々(アンデッド・エイブル)

 呪術猿の亜種

 激しい恨みを残して死んだ呪術猿がアンデッドとなった姿

 全てに呪いを振りまく厄災の象徴

 直接的な戦闘力はほぼない代わりに、無限の呪いを操れる

 一定時間が経過するまで死ぬことはない

 討伐推奨LV25』


「なるほど、今は呪術猿じゃなく屍狒々っていうのか」


「ウッ、ウ゛ッギィィィィ……ドウシテ、分カッタ?」


 呪術猿改め、屍狒々は憎らし気な視線を俺に向けてくる。


「お前はこう言ってたな。『儀式は誰にも止められない』って。確かに祭壇は壊せなかった。『壁』と同じ破壊不能オブジェクトだった。じゃあ――儀式が(・・・)終わった後(・・・・・)はどうなんだろうって」


 それが最初の疑問。

 コイツのいう儀式とは、おそらくあの巨大猿の召喚、または別の強力な呪いを発動させることだったのだろう。


 破壊不能の祭壇から発生したのなら、その呪いもまた破壊不能なはず。

 

 だから勝利条件が『一時間生存する』なのだと思った。

 呪いによって発生した存在だから、モンスター図鑑が更新されないことも、不審に思わなかった。


 しかしだとすれば、何故、巨大猿は声を上げ、自分の存在を誇示するように振舞っていたのか?


 機械的に、ただ淡々と俺たちへ呪いを振りまけばいい。

 叫ぶ必要なんてない。

 そこにただの呪いとは違う、明確な意思のようなものを感じた。

 だがこれは不確実な、ともすれば勘違いかもしれない程度の違和感でしかない。

 恐怖心を煽るためと言われればそれまで。

 だから、俺はその違和感を確信に変えるために賭けに出た。

 巨大猿に接近し、叫び、挑発した。


 そして――俺は賭けに勝った。


 巨大猿は声に反応し、姿を見るような動きをし、挑発を理解したのだ。

 それはただの呪いにはあり得ない行動、

 

 つまり――操っている存在が居ることの証明に他ならない。

 

 果たしてその予感は正しかった。

 あの巨大猿の中には呪術猿が――いや、屍狒々が居たのだ。


「ウッギィィ……死ネ! 死ネェエエエエエエエエ!」


 ボコボコと屍狒々の手に呪いの泥が集まり、巨大な腕へと変化する。

 奴はその腕を俺へと叩きつけた。

 しかし――。


「効かねえよ」


 この程度の量ならば、少し多めの泥水を浴びせられた程度の衝撃しかない。

 

「ウキ……ナ、ナンデ呪イガ発動シナイ! ナンデ生キテル! ナンダソレ(・・)ハ?」


 屍狒々はギリッと歯噛みし、叫ぶ。


「ナンナンダ――ソノ全身ヲ覆ウ『真ッ黒ナ皮』ハアアアアアアア!」


「これは――黒海苔だ」


 そう、俺は今、全身を黒海苔で覆っているのだ。

 傍から見れば、全身真っ黒なタイツ姿にしか見えないだろう。

 黒いオスカー像である。どう見ても変態だ。くそが。


・黒海苔 100ポイント 倫理の最後の砦、晒しても見えない。

             小さくなっても大きくなっても安心安全


 まさかこんな説明しか書いてなかった装備にこんな副次効果があるなんて思わなかった。

 黒海苔は、センシティブな部分を隠すだけじゃない。

 隠された部分は外部からの呪いを一切受け付けなかったのだ。

 これは先ほど、アイテムを検証して分かった。

 黒海苔はどれだけ呪いの泥に当ててもまったくの無反応だった。

 黒海苔越しならば、泥を掴むことすら出来たのだ。

 しかも、この黒海苔、タイツみたいに伸びる。


 ――だってセンシティブな部分は大きくも小さくもなるから。


 だから伸ばして、伸ばして、めいっぱい伸ばして全身に張り付けた。

 目と鼻、口以外は全て黒海苔だ。


(今回の戦いで、オススメ商品がなかった理由が分かったよ……)


 俺は既にオススメ商品を手に入れていたのだ。

 まさに倫理の最後の砦。

 馬鹿! ホント馬鹿! 畜生! アホか!


「さて……一分だ」


 再び俺は『脱衣』を発動させる。

 今度は腕の装備だ。

 再び攻撃をしようとした屍狒々の腕に集まった泥が飛び散る。


「これで、腕も胴体も装備は不可能」

「ウッギィィィ……マ、マダダ!」


 屍狒々は手をかざすと、呪いの泥を周囲に集める。

 装備できないなら、遠隔操作で操るか。

 徐々に巨大化していく泥はやがて腕のような形へ変化した。

 それを奴は俺に向けて放とうとして――。


「視覚を操られてることを忘れてるぞ?」


 全く見当違いの方向へと攻撃した。

 そう、『催眠』もまだ効果は継続中だ。

 こっちは脱衣と違って、重ね掛けは出来ないがその効果は永続。


「もうお前は俺にまともに攻撃を当てることは出来ないよ」

「ダ、ダッタラ――」

「周り全てに攻撃をすればいい、か?」

「ッ……!」


 屍狒々の言葉に被せるように、俺は次の手を予想する。

 

「無理だな。それには大量の泥が必要だ。でも――もうお前に泥の供給は無い」

「……?」


 見れば森の方から煙が上がっていた。

 雷蔵に持たせていた発煙筒だ。

 煙の数は……三本。

 

「なるほど、そうなったか」


 俺は丸腰になった屍狒々に向き合う。


「その呪いの泥は、あの祭壇から供給されてるんだろ」

「ッ……」


 図星を突かれたように、屍狒々は後ずさる。

 遠くからでは分からなかったが、あの泥は森の奥から――祭壇から発生していた。

 それがポンプのように、屍狒々へと供給されていたのだ。

 近くで見ればそれがはっきりと分かった。


「雷蔵には祭壇の破壊を命じてある」


 俺が雷蔵に頼んだのは祭壇の破壊だ。

 その結果に応じて発煙筒を上げるように指示しておいた。

 一本なら、破壊は失敗。

 二本なら、破壊は成功。

 そして三本なら、破壊は出来たが、再生した場合。

 三本上がったってことは、雷蔵は今も祭壇を破壊し続けてくれているだろう。

 雷蔵も俺と同じ黒海苔で全身を包み込んでいる。

 呪いの心配はないので、安心して祭壇を破壊し続けることが可能だ。

 

「馬鹿ナ……馬鹿ナ、馬鹿ナ、馬鹿ナ、馬鹿ナ!」


 屍狒々が何度手をかざそうとも、泥はもうやってこない。

 一度、操った泥はもう操れないのは、巨大猿の時に確認済だ。


「さて、残り時間はあと30分ちょっと、か……」


 俺は屍狒々の眉間に銃弾を撃ち込む。


「ギギャッ!?」


 屍狒々はその場に倒れたが、経験値獲得のアナウンスは鳴らない。

 モンスター図鑑にも一定時間が経過するまで死ぬことはないってあったからな。

 一定時間、つまり残り時間が終わるまでは死なないのだろう。

 なら、やることは一つだ。

 着替えでリロードを行い、再び発砲。


「ウッギィィィ! 痛イ……痛イ! 痛イイイイイイイ!」


 屍狒々は地面を這って、少しでも遠くへ逃げようとする。

 どうやらアンデッドでも痛みは感じるようだ。


「さて、付き合って貰うぞ屍狒々」


 あっさりと追い付き、俺は屍狒々の後頭部へ銃口を押し付ける。


「残り時間が過ぎるまでに――お前はあと何回死ぬんだろうな?」


「ッ――ヒィィイイイイイイイイイイイイイイイイ~~~……」


 屍狒々の悲鳴を聞きながら、俺は迷うことなく引き金を引いた。



 ……………………。



 …………。



 ……。








『――残り時間14:23』


『屍狒々が蘇生を拒否しました』


『それに伴い、勝利条件を変更します』


『勝利条件 一時間生存する、または屍狒々の死亡』


『モンスターの死亡を確認しました。EXシナリオ3『籠鳥檻猿(ろうちょうかんえん)』がクリアされました』


 頭の中に響くアナウンス。

 勝利条件の変更、か。

 EXシナリオでも適用されるんだな。



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― 新着の感想 ―
リポップ拒否ってできるんですね。 どうやらこの世界はモンスターの基本的権利(基本的モンスター権?)が認められているようで。(;^ω^)
黒桜ならセーフなのにwww
まぁ全身タイツのアメリカンヒーローとトポロジー的には同じと言えますし… と言うかヴェノムとかシンビオートはそのまんまとも言えますし… (コンドーム仮面と言う言葉を横目に見ながら)
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