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アプリ『異世界ポイント』で楽しいポイント生活 ~溜めたポイントは現実でお金や様々な特典に交換出来ます~  作者: よっしゃあっ!
第二章

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43.EXステージ3 その1


 呪術猿は己の不幸を嘆いていた。

 ああ、自分はなんと哀れな存在なのか。

 生まれたときから弱かった彼は、同族から食料を盗んだり、味方を囮に敵を騙し討ちしたりと、必死に知恵を振り絞って生きてきた。

 そうして時間を掛けて進化を繰り返し、ついに呪術猿へと至った。

 

 そんなある日、彼はいたずらで、村のはずれにあった家屋に火を付けて燃やした。面白そうだったので、燃やしてみただけなのに何故、人間共はあんなに怒るのか?

 住んでいた住民に、自分が火をつけるところを目撃されたようで、それから人間共は自分たちのテリトリーに入り込んでくるようになった。

 罪もない同族が何体も殺されてゆく姿に胸を痛めた。


 ――人間ハ自分勝手ナ生キ物ダ! 許セナイ!


 呪術猿は怒りに震えた。正義も大義も自分たちにある。

 他の魔物と手を組んで、村を襲って滅ぼしてやろうと決意した。

 森の奥で静かに暮らしていたマザー・スネイクとその群れに、あることないことを吹き込み、上手く仲間に引き込んだ。

 本音を言えば、猪の魔物達とも手を組みたかったが、同族が人間にやられたのをきっかけに奴らは森を離れていった。まったく臆病者どもめ。

 

 準備は順調に進んだ。

 呪いや暴力で同胞たちを脅して、強力な呪いを発動させる祭壇を作らせる。

 拒否した奴らは片っ端から殺して祭壇の生贄に捧げた。

 与える食い物も最低限にした。

 こうすれば効率よく群れを支配できると、彼は村の人間どもを見て学んだのだ。


 そんなある日、マザー・スネイクたちが居なくなった。

 どうやら人間に狩られてしまったらしい。

 まったく役立たずな連中だ。

 仕方が無いので彼は、嫌がる同族共を無理矢理脅し、村を襲うことにした。

 手始めに羊人のガキに呪いを掛け、さあこれからだという時だった。


「……お前、全然人望ねえな」


 奇妙な格好をした人間――『ぷれいやー』によって彼の野望は打ち砕かれた。

 ちゃんと最低限の食い物は与えていたのに、いったい何故、同胞共は裏切ったのか?

 何故、あの肩の傷を押し付けた魔術猿は、あの人間につく瞬間、あんなにも怒りと憎しみ、そしてどこか哀れみを含んだ目で自分を見ていたのか。

 分からない。分からないが、自分が可哀そうだということは分かった。

 自分はこんなところで死んでいい存在ではない。

 もっと上に行ける、選ばれた存在だったはずなのに。

 そんな崇高な思いを、あのぷれいやーは、同胞たちは踏みにじったのだ!


『――ァァァ、ァアアアアアア……アアアアアアアアアアアアアアア!

 死ネエエエエ! 皆、死ネエエエエエエ! 死ンデシマエエエエエエエエエ!』


 呪術猿は全てを呪った。


 その怨嗟の声と魂は彼の作った祭壇に捧げられ、彼自身を飲み込んだ。


 そしてあまりにも自分勝手で救いようのない願いは叶えられ、特大の呪い(はた迷惑)となって、この地に降臨したのだった。



 

『特殊条件を満たしました』


『オープンワールドでのEXシナリオを解放』

 

『これよりEXシナリオへと移行します』


『メインストーリー3 EX『籠鳥檻猿(ろうちょうかんえん)

『クリア条件 一時間生存する

 敗北条件  メイメイ・メイ、メイメイ・ミィ及び特定のNPCの死亡

 成功報酬  ポイント+500、女神の水晶、30,000イェン』


「マジかよ……」


 このタイミングでこんなことが起こるのか。


「ふぅー……」


 深呼吸をして気分を落ち着かせる。……よしっ。

 理由は分からないが、始まってしまったのなら仕方ない。

 全力でEXシナリオに挑むだけだ。


「……クリア条件、一時間生存する、か……」


 てことは、あの化け物は『倒せない存在』ってことか?

 ものの〇姫に出てくる祟り神を巨大化したような姿。

 おまけに猿のような形をしているとなれば、だいたい予想は付く。


(あの呪術猿の置き土産ってところか……)


 あの奇妙な祭壇が残っていたし、呪術猿の魂やら恨みやらを吸い込んで出来上がったんじゃないだろうか?

 タイトルも籠鳥檻猿(ろうちょうかんえん)だし、たぶんそうだろう。

 確か思い通りに生きられない辛さを表す四字熟語だったと思うが、あの猿には当てはまらないだろ。自分勝手のクズもいいところだ。

 モンスター図鑑が更新されないってことはあれはモンスターじゃないってことか?

 名前が分からないから、とりあえずは巨大猿と呼ぼう。

 

(にしても、オープンワールドでのEXシナリオの解放、か)


 画面で確認したが、フィールドマップがなかった。

 いわゆる『壁』が存在しない、つまり行動範囲の制限がない。

 となれば、基本的な戦術は『逃走』一択。

 別に戦う必要なんてない。

 行動範囲に制限がないなら、どこまでだって逃げられるだろう。

 だがこれはEXシナリオ、そんな単純な対策で済むとは思えない。

 だってその証拠に、今回は『敗北条件』なるものも追加されている。


 敗北条件  メイメイ・メイ、メイメイ・ミィ及び特定のNPCの死亡


 メイちゃんとミィちゃんは分かるが、それ以外の特定のNPCって誰だ?

 特にヒントになるものは提示されていない。

 俺は村長の方を見る。


「お、おい! あれはなんだ? こ、こっちに向かってくるぞ?」


 ……まさかコイツらってわけじゃないよな?

 えー、やだよ。こんな乳首に星シールなんて貼った変態助けるの。

 誰だよこんな変態なシール貼ったの。――俺だわ。


「おい、この村にあの化け物の侵攻を防ぐ、もしくは対抗する戦力はあるか?」

「お前、あれが何か知っているのか?」

「いいから答えろ! 乳首の星を思いっきり剥がすぞ! どうなんだ?」

「あ、あるわけないだろ! 森のモンスター程度ならまだしも、あんな巨大な化け物を想定した武装や訓練などしていない!」

「結界みたいなもんは?」

「こんな村にあると思うか? 王都じゃあるまいし!」


 適当に言っただけだが、そういう防衛システムが本当にあるのか。

 ちょっと見てみたいな。

 

「分かった。じゃあ、今から縄を解く。すぐに村のみんなに伝えて避難しろ! どこでもいい。とにかく一時間、生き延びろ。いいな!」

「……わ、分かった」


 村の一大事ということは理解したのだろう。

 村長は素直にうなずいた。


「猿たちも拘束を解いてくれ!」

「「「ウキキ!」」」


 村人たちの拘束を解く。


「お、おい! 服も! 服も返してくれ! 素っ裸なんだぞ!」

「分かった! 猿共、服は?」

「ウッキー」


 猿たちは茂みに隠していた服を持ってくる。


「適当に着たら、早く動け!」

「わ、分かった! お前らも服を着た奴から村に戻れ! この事態を伝えるんだ!」


 村長も村人たちに指示を出す。


「くそ! この星剥がれねえぞ!」

「こんなの着けて家族に会いたくねえよ!」

「どうして剥がれねんだ!」


「いいからとっとと動け馬鹿どもが! 後でいいだろそんなの!」


 村長は必死に星シールを剥がそうとする村人たちを怒鳴りつけて、先行させる。

 その少し後に、全員が着替え終え、村へと走っていった。


「よし、俺たちも動くぞ!」

「「「キキッ!」」」


 まずは雷蔵と合流して、メイちゃん、ミィちゃんを保護する。

 全てはその後だ。


「キィ! キキィ!」

「どうした?」


 魔術猿が叫ぶ。

 振り向けば、あの巨大猿に動きがあった。

 這いずっていた動きを止め、その両手を万歳するように振り上げたのだ。

 その瞬間――ぞわりと、背筋に怖気が走った。


「ッ――全員、その場に伏せろおおおおおおおおおおお!」


 カードに戻している時間なんてなかった。

 俺は即座に、猿共にその場に伏せるように指示を出した。

 根拠なんてない。ただ直感でそう叫んだ。

 果たしてそれは正しかった。


「ギィィァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 叫びと共に、巨大猿はその両腕を地面にたたきつけるように思いっきり振り下ろしたのだ。

 ブチブチと、何かが裂けるような音と共に、勢いよく巨大猿の腕が体から剥がれ、散り散りになって拡散してゆく。

 それはまるで黒い雨だった。

 ビチャビチャビチャ! と森が、建物が、大地が黒い泥を浴びる。

 その瞬間、植物は腐り落ち、建物は崩壊し、大地は腐ったヘドロのように変化した。

 その異臭に、俺は思わず鼻を覆う。


「なんだこりゃ……」

 

 一瞬で周囲の景色が地獄のように変化する。

 おそらくは当たったものを溶かし、爛れさせる呪いの雨。

 もしこれが直撃していたかと思うとゾッとする。


「みんな、無事か?」

「キキィ……」


 俺も猿たちもなんとか無事だった。

 周囲に遮蔽物が多かったのが幸いした。

 開けた場所じゃ、あの黒い雨を防ぐ手段はなかっただろう。


「雷蔵たちは……無事、だよな?」


 村の方からは叫び声が木霊している。

 不測の事態に備えて指示はしておいたが、早く合流した方がいい。


「あの巨大猿は……?」


 見れば巨大猿は両腕を失い、動きも遅くなっている。

 しかし、肩の部分から徐々に新しい腕が生えてきていた。

 つまり、あの攻撃は一回だけじゃない。

 何度でも繰り返すことが出来るのだ。

 

(……なるほど、だいたい読めてきた)


 あの巨大猿はああやって定期的に広範囲に泥を拡散させる。

 それを避けつつ、奴から距離を取って、一時間生き延びる。

 おそらくはそれが今回の攻略法。


(大部分はアイツのすぐ手前に落ちたが、先端部分に遠心力が加わって、広範囲に拡散したって感じか……)


 とはいえ、攻撃範囲が尋常じゃない。

 なにか防ぐ手立てを考えないと。

 それに他にも何か厄介なギミックがあると想定して動いた方がいいな。


「よし、動きが鈍った今のうちに雷蔵たちと合流する。みんなはカードに戻ってくれ」

「ウキキ!」


 一旦、猿たちをカードに戻す。

 雷蔵たちと合流するなら、全員で動くより、俺一人の方が格段に速い。

 俺は猿たちをカードに戻し、雷蔵たちのもとへ急いだ。

 ……雷蔵、無事でいてくれよ。


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