4.チュートリアル その2
「くそっ暴れるんじゃねえコイツ!」
「ギィ! ギギィ!」
「ハァ……ハァ……手こずらせやがって。少しは大人しくしやがれってんだ。へへっ、すぐ終わるからよ」
「ギッ……ギィ、ギィィ……ッ!」
「泣いたってもうどうにもなんねーよ。……ほら、ギチギチだ。もう動けないだろ?」
「ギギィ……ッ」
……よし、終わった。
多少抵抗されたが、なんとか俺はゴブリンを木に縛り付けることに成功した。
万が一にも抜け出せないように、手足を拘束する必要があったからベルトとズボンを脱ぐ羽目になったが、問題ない。
どうせゴブリンしか居ないんだ。
パンツ一丁でも誰も気にしない。
「ギィ……!」
ゴブリンは悔しそうに涙目になって俺をにらみ付けている。
いやぁ、マジで弱かったなゴブリン。
流石、チュートリアル。
あと断っておくが、俺は決して露出狂ではない。
あくまでゴブリンを拘束するために必要に応じて下半身をさらしたにすぎない。
だってシャツよりもベルトとズボンの方が相手を縛るのに適しているだろう。
だからこれは必要に駆られた行為であって、決して俺自身が変態というわけではないんだ。誓って本当だ。
「ともあれ、これでじっくりマップ探索が出来るな」
そう、俺がやりたかったのはマップの調査だ。
夢とは言え、チュートリアルとはいえ、これはゲームだ。
こんなフルダイブみたいなファンタジーなフィールド、全部調べないなんてもったいない。
「チュートリアルや初期ステージに隠し武器やアイテムがあるのはお約束だからな」
だってクリア条件がゴール地点に行くか、ゴブリンを倒すかだよ?
絶対、何か隠し要素があるに決まってる。
「まずはゴール地点を確認っと」
パンツ一丁でマップの道に沿って緑の矢印アイコンのある場所へ向かう。
歩いて十分くらいですぐについた。
光の渦みたいなのがあった。
こう、ラノベとかで同じみの異世界にいくゲートっぽいやつ。
俺が近づくと、光の渦が「よくぞたどり着いた」と言わんばかりに強く光った。
「うん、あれがゴール地点で間違いなさそうだな」
というわけで、Uターン。
ゴール地点を確認したので、俺はスタート地点へ戻る。
心なしか、光の渦が「えぇー」って感じに光が弱まったけど、気のせいだろう。
「ギギャ!?」
戻ってくると、ゴブリンが俺を見て驚いた。
なんで戻ってきたのかとでも思っているのだろう。
そりゃ、マッピングするならまずはスタート地点からに決まってるだろうに。
「これ、茂みとか道以外の場所は入れるのかな?」
試しにゴブリンが出てきた茂みに入ってみる。
そのまま茂みをかき分けて進むと、ゴツンと見えない壁にぶつかった。
マップを確認すると、どうやらステージの端まで来たようだ。
試しに見えない壁を何度か叩いてみるが、通れる気配はない。
石を投げてみたが、弾かれた。
じゃあ、ゲーム外から持ち込んだものならどうかと、服を脱いで試してみたがこちらも同じく弾かれた。
あのゴブリンはどうやって入ってきたのだろうか?
最初からこのフィールドの中に居たのか?
もしくは外からは入ることが出来るとか?
まあ、ゲームだしその辺は考えても仕方ないか。
今度はそのまま見えない壁伝いにマップの上方向に向かう。
しばらく進むと、再びあの光の渦が見えてきた。
光の渦は「おお、待っていたぞ」と言わんばかりに強く輝くが、あいにくとまだ入るつもりはないので引き返す。
引き返すと、再び光の渦の光が「えぇー、またぁー?」って感じに弱まっていた。
「うーん、……このマップの中央にある青色部分が気になるな」
戻るついでにそちらも調査したら池があった。
大きさは畳六畳分くらいか。
池だから青色だったのか。
「そんなに深くなさそうだな」
手を浸してみると冷たくて気持ちよかった。
気になるのは池の中央だ。めっちゃ意味ありげな葉っぱが一枚浮かんでいた。
蓮みたいな形で色が綺麗だし、池の端に浮かんでる葉っぱに比べて明らかに大きい。
目立ってるし、あれは何かの隠しアイテムではなかろうか?
「……よし、行ってみるか」
靴と靴下を脱いで、池に入る。
事前にズボンを脱いでいて良かった。
池の深さは膝より少し上くらいで、簡単に歩いて中央までたどり着けた。
意味ありげな葉っぱに触れると、葉っぱがぱぁぁと光り輝いた。
『――500イエンを手に入れました』
「うぉっ!?」
なんか頭の中に声が響いた。
今のってゲームのアナウンスか。
どうやら隠しアイテムはお金だったようだ。
「イエンって確かこの世界の通貨だったっけ?」
ていうか、アナウンスは流れたけど、お金はどこに?
なんかゲーム的な空間にでも自動収納されたのだろうか?
だとすればどこで確認するんだろう?
まあ、その辺はクリアした後で確かめれば良いか。
とりあえず再びスタート地点へと戻る。
木に拘束されたゴブリンも大人しくしていた。
「ギィィ……」
相変わらずゴブリンは恨めしそうな目でこちらを見つめてくる。
「さて、次は反対側を調べてみるか」
その後、マップの反対側も隅から隅まで調べ尽くした。
結果、岩の下に隠れていた『力の指輪』と、偽仙桃という果物を6つ見つけることが出来た。
こちらはお金と違い消えることはなかった。
違いはなんだろう? その場で使うことが出来るからとかか?
「この『力の指輪』ってのは名前でなんとなく効果が分かるけど、こっちの桃は食えるのか?」
見た目は桃だ。
香りもとてもいい。
でも、いきなり食べるのは流石に不安である。
「! ギィ! ギィギィ!」
悩んでいるとゴブリンが興奮した様子でこちらを見ていた。
なんかよだれ垂らしてる。
「……これ、食いたいの?」
「ギギャゥ」
ゴブリン、頷く。
食いたいのか。というか、言葉が通じるのか。
よし、毒味もかねて食べさせてみよう。
手足は縛られてるから、俺が食べさせてやる形になる。
手、噛まれないように注意しなきゃ。
「ほら、食え。俺の手は噛むなよ?」
「ギギャァ~♪」
むしゃむしゃ。
あっという間に、ゴブリンは桃を食べてしまった。
おや、ゴブリンがちょっと光った?
「ギギャァ~♪ ウマッ♪ ウギャァ~ウ♪」
「そうか、そうか、美味いか」
見た感じ食べても問題なさそうだな。
というわけで、俺も一つ食べてみる。
「……普通に美味いなこれ」
見た目は桃。味も完全に桃だ。
食べ終わると、ゴブリンのように体がちょっと光った。
「んー……でも、特に何か変わった感じはないな……」
ゲームならステータスとかそういうのがあると思うんだけど、このゲームにはないのだろうか?
しかしこの桃、結構な満腹感があるな。
あと一個くらいしか食えなそう。
「残すのももったいないし、お前食う?」
「ギュウ♪」
ゴブリンが嬉しそうに頷いたので、俺がもう一つ食べて残りはゴブリンに上げた。
「さて、マップは全部調べ尽くしたし、そろそろクリアすっか」
「……ギギャ?」
ビクリとゴブリンが震える。
殺されると思っているのだろうか。
「安心しろ、殺さないから。その代わりに、ちょっと大人しく出来るか? せっかくだし最後にもう一つ、試してみたくてさ」
「ギャゥ、ギャゥ?」
俺の言葉に、ゴブリンはコクコクと頷く。
俺はゴブリンの拘束を解く。そしてズボンをはき直す。
意外にもゴブリンはちゃんと大人しくしていた。
触っても抵抗しないので、そのままひょいっと小脇に抱える。
「さて、んじゃ行くか」
「ギギャァ?」
俺はゴブリンを抱えたままゴール地点ヘ向かう。
チュートリアルのクリア条件は「モンスターを全滅させるか、ゴール地点へ到達するか」だった。
――なら仮にモンスターを連れたままゴールすればどうなるのか?
ちょっと試してみたくなったのである。
なんとなくだけど、こういうイレギュラーな行動もクリア時の報酬とかに影響するんじゃないかなーと思ったわけ。
というわけで、俺はゴブリンを抱えたままゴール地点の光の渦へと入った。
予想通り、ゴブリンも一緒に渦へと入ることが出来た。
『おめでとうございます。チュートリアルがクリアされました。報酬が発生します』
脳内にアナウンスが流れた。