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アプリ『異世界ポイント』で楽しいポイント生活 ~溜めたポイントは現実でお金や様々な特典に交換出来ます~  作者: よっしゃあっ!
第二章

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36/117

36.人は差別する生き物である


 悲報、村に入れて貰えなかった。

 俺は逃げた。

 見張りの村人達は途中まで追いかけてきたが、しばらくすると村へ戻っていった。


「なんじゃ、あの素早い変態は?」

「あの変態、森の方から来たぞ?」

「もしやここ最近の森の異変はあの変態の仕業では?」

「かもしれねえな。だってあんな変態見たことがねえ」


 そんな会話が聞こえてきた。

 泣きたい。

 畜生、この格好では村に入れない。

 いったいどうすればいいんだ?


 ――結論、普通に着替えれば良いじゃん。


 その結論を出すまでに、しばらく考えてしまった自分を殴りたい。

 俺は……この姿に慣れすぎてしまった。

 これを悲劇と言わずしてなんという。

 ……はい、ただの馬鹿ですね。すいません。


「よしっ、反省完了。んじゃ、着替えて乗り込むか」


 幸いにして、顔はアイマスクをしていたため、素顔は知られていない。

 雷蔵達にはカードに戻って貰い、装備を全て変更。

 ショップで売られている普通の服や普通のローブ、それにリュックや日用品なんかも購入。

 よし、これでどこからどう見ても普通の旅人だ。

『紙装備』の恩恵は受けられなくなるが、別に戦闘が目的じゃないので問題ない。


「……うん、やっぱり普通の服は良いな。」

 

 下着代わりに派手なパンツはそのままにしているが、やはり普通の服は良い。

 何が良いって見た目が良い。

 不審者と思われる要素が一つもないもの。


「村の反対側に回り込んで……。よし、さっきの門番とは違うな」


 メイちゃんが居ると思われるグランバルの村は、周囲を柵に囲まれた村だ。

 それなりに規模は大きく、行商人や旅人が村に入っていく様子が見られる。

 森や山に囲まれている為か、通行の要所になっているのだろう。


(……特に身分を確認する様子はないな)


 代わりに硬貨のようなモノを門番に渡している。

 通行料みたいなもんか?

 俺も少し離れた茂みから出て、入り口へと向かう。


「止まれ。名と職業は?」

「へへっ、リュウと申します。しがない薬売りでごぜぇます」


 揉み手をしながら、へこへこと門番へ会釈し、俺はあらかじめ懐に忍ばせておいた硬貨を渡した。

 今の俺はしがない流れの薬売り。そういう設定で行くことにした。

 俺の態度に、門番はあからさまに見下した表情を浮かべる。


「ふんっ、薬売りね。念のため中身を見せろ」

「へへぇー、了解でやんす」


 やんすってなんだよ。

 いや、でもこれはこれでなんか楽しいな。

 普段とは違う自分って感じがして良い。

 門番はリュックの中を改める。リュックの中にはあらかじめ水や食料、傷薬や回復薬、麻痺治しなんかを入れておいた。

 デイリークエストやショップで手に入れたアイテムだが、果たして騙されてくれるだろうか?

 内心、ドキドキしながら門番を見つめる。


「……ずいぶんと品揃えが良いな。滞在は?」

「み、三日ほどでごぜぇやす。それと、メイという少女はどちらに住んでおりやすでしょうか?」


 俺がメイという名を口にすると、門番はピクリと反応した。

 ……なんだ? 何かまずかったか?

 こちらを見つめる門番。その顔には、先ほどよりも更に差別的な笑みが浮かんでいた。


「はっ、なんだお前、あの亜人のガキの知り合いか。なら通行料は倍だ。それと荷物の一部を徴収させて貰うぞ」

「え、えぇ!? そんなぁ、どうしてでやんすか?」

「当たり前だ。亜人とつるむ輩など、碌な連中ではない。村へ入れてやるだけありがたいと思え」

「へ、へぇー。かしこまりやした」


 俺は懐に手を入れるフリをして硬貨を取り出す。

 傷薬を三つ、回復薬を三つ、取られた。くそ、調子に乗りやがって。

 門番はほくほくした顔で、硬貨とアイテムを懐へ忍ばせる。


「ふん、まあこれくらいで許してやろう。さっさと通れ。亜人のガキの家なら森側の外れだ。ボロいからすぐに分かるだろうぜ」

「へへぇ-、ありがとうごぜぇやす。恩に着るでやんす」


 へこへこと頭を下げつつ、俺は門番の横を通り過ぎる。


「ああ、そうだ。ちょっと待て」

「あへぇ、なんでごぜぇやしょ?」

「森側の入り口で布きれ一枚の怪しい男が現れたと連絡があったが、貴様は何か知っているか?」

「ッ……い、いえ、知りやせんねぇ、へへ……」


 内心、動揺を悟られぬよう、俺はへこへこした態度や口調を崩さずに答える。


「そうか。話によると呪術猿(カース・エイプ)の如き素早き変態だったそうだ。もし怪しい奴を見かけたらすぐに伝えろ。いいな」

「へへぇー、かしこまりやしたぁー!」


 へぇー、そんな怪しい男が居るんだー。

 全然、見覚えがないなー。ボク、分かんないやー。

 ご忠告を胸に刻みつつ、メイちゃんの家へ向かうとするか。



 それからしばらく村の中を歩き続けた。

 建物の作りは、いかにもゲームにありそうな中世ヨーロッパ風って感じだ。

 それなりに活気があって、市場や、露天なんかが並んでいる。


(……なるほど、あれが亜人か)


 猫耳や犬のような人と違う耳を持ち、尻尾が生えている者。

 中には顔がトカゲのような者もいた。

 彼らが亜人種と呼ばれる存在なのだろう。


(……確かに目に見えて差別されているな)


 露天や市場での対応が人と亜人とでは明らかに違う。

 人には愛想良く振りまいていた店主が、亜人の客が来た途端に露骨に表情をしかめている。

 あと先ほどから亜人たちは妙に怪我人が多い気がする。

 偶然だろうか?


(どういう理由で亜人が差別されているのかは分からないが、正直見ていて良い気分はしないな……)


 それが俺がこの世界の人間じゃないからそう感じるという訳じゃない。

 こんな光景は、現実でもよくあるからだ。

 人種や肌の色が違うだけでまともな職に就けない、能力はあるのに出世できない。そんな事は、世の中にありふれている。

 俺の部下にもそういう奴がいた。

 俺はソイツを高く評価していたし、仕事も出来るから重宝してたし、上司にも推していた。

 しかし人種や肌の色が違うだけで、ソイツは出世することもなく、重要な仕事も任されることもなく、単調な仕事だけをやらされ、やがて辞めていった。

 きっかけはろくに仕事も出来なかった同期が出世したことだった。

 頑張っていたからこそ、何もしない奴が評価されたことが耐えられなかったのだろう。


(やるせねぇよなぁ……)


 だが俺にはどうすることも出来なかった。

 会社という組織にとって、俺個人の意見など通るはずもないし、逆に目を付けられて立場が危うくなるだけだった。

 世の中は一問一答で成り立っていない。正しい、正しくないだけで動いてはいないのだ。

 でも、現実でないここでなら……。

 そんな気持ちを抱きつつ、歩いていると、村の外れにたどり着く。

 

「ここだよな……?」


 そこにはボロボロの小屋があった。

 建物全体が傾き、屋根はあちこちが剥がれ、今にも崩れそうだ。


『――お兄さんたちはぁ、いい人そうですねぇ~。ワタシの種族にもぉ、全然反応無いですしぃ~』

羊人(シープル)って言ったじゃないですかぁ。ワタシ、人の言うところの亜人種なんですよぉ~』


 以前、メイちゃんが言っていたことを思い出す。

 考えてみれば、危険なモンスターが現れる森に、あんな小さな少女が一人で出向くこと自体、おかしかった。

 彼女のような存在はこの村、いやこの世界で、俺が思っている以上に立場が低いのだ。それが何を意味するのか、俺はこれから知ることになる。


「……誰かいませんか?」


 扉をノックすると、不規則な足音が聞こえてくる。

 遅い。その妙な違和感。その理由。

 

「はぁ~い、どなたですかぁ~?」


 出会った時と変わらぬ間延びした口調。

 ややあって、扉を開けて、メイちゃんが姿を現した。

 俺は再会できたことに笑みを浮かべ、そして彼女の姿を見て、その笑みは一瞬で消えた。


「…………え?」


 胸が締め付けられ、吐きそうになった。

 対するメイちゃんは俺を見て、すんすんと鼻を鳴らすと、花のような笑みを浮かべた。


「あらぁ、リュウさんじゃないですかぁ~。お久しぶりですねぇ~。会いたかったですよぉ~」

「あ、あぁ……俺も、会いたかったよ」


 ようやく絞り出した言葉。

 なんてことのないように笑みを浮かべる彼女に、俺は問わずには居られなかった。


「その、メイちゃん……その傷は、どうしたの?」


 メイちゃんの体は傷だらけだった。


 右目には包帯が巻かれ、右手は焼けただれたような跡がいくつもあり。


 そして、杖をついて歩く彼女の右足は――膝から下が無くなっていた。



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― 新着の感想 ―
これだけの大怪我をしたのに生きているという事は何らかの形で治療を受けたという事だと思います。亜人同士での助け合いのようなものがあるのかな。
ちょっと続きを読むのに勇気がいる展開、事実ここで読むの止めちゃっててもう50話まで進んでる。 進んでるところ見ると何とか話は乗り切ったんだろうけどきついことに変わりなし
......よし殺るか(殺意)
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