34.デイリークエスト ボスクエスト編
ウォーキングを終えて、アパートに戻り朝食を食べる。
軽く部屋の掃除と洗濯。
とりあえず大河さんのことは一旦、保留にすることにした。
色々考えてから聞いた方がいいと思ったからだ。
だって大河さんの人見知りは凄まじいからな。
……タイミングをきちんと見極めないと、後々面倒なことになる気がしたのだ。
なので保留。
「さて、やるか」
異世界ポイントを起動させると、光と共に俺は黒い空間へと移動する。
今日は日曜日、デイリークエストは『ボスクエスト』に変わったはずだ。
ヘルプだと、ボスへ与えたダメージ量で報酬が変化するとあった。
「倒せない敵ってことか?」
掲示板の方でも調べてみるか。
検索してみると、案の定、ボスクエストに関するスレがたくさんあった。
とりあえず前回と似たようなタイトルの『デイリークエスト 日曜の攻略スレ』を閲覧してみよう。
必要なポイントは1ポイントだったので、ぽるんがさんに1ポイント譲渡する。
「へぇー、ボスモンスターの種類はスタート地点によって異なるのか」
出てくるボスモンスターは一体だけ。
グランバルの森なら、特殊なマザー・スネイク。
コロドル大渓谷なら、色違いのマジック・クロウ。
パルムール王墓なら、巨大なスケルトン・ゾンビ。
ヌッチャラ湿原なら、悪天候付きのジャイアント・トードー。
またこれらの敵はプレイヤーのレベルやメインストーリーの進み具合によって変化していくそうだ。
「またマザー・スネイクかよ……」
風魔法による単体攻撃や全体攻撃、更に地面に潜っての奇襲を使ってくるらしい。
ストーリーの方に出てくる通常種との最大の違いは、どれだけダメージを与えても倒せないこと。
ダメージを与えても即座に再生し、時間が経過するごとにステータス、スキルの威力が上がっていく。
最終的にはほぼダメージを与えられないレベルまで強化されるらしい。
なので、ボスクエストはプレイヤーがほぼ全滅することが前提のクエストとなる。
「デスペナルティーは発生しないってことか」
ボスクエストに限り、プレイヤーが死んだとしてもポイントや所持金、アイテムの減少もおこらない。
それは従属化したモンスターについても同じだ。
「でも負け前提ってのは少し萎えるなぁ……」
まあ、そういう仕様なら仕方ないか。
一応、制限時間はあり、その時間いっぱい耐えることも理論上は可能らしい。
とりあえず交換とショップで消耗した装備を整える。
アイテムとかも一通り確認し、補充。よし。
「んじゃ、始めるか」
『デイリークエストを開始します』
『デイリークエスト ボスイベント
クリア条件 可能な限りボスにダメージを与える(制限時間30分)
成功報酬 ポイント+10、追加ポイント』
視界が暗転する。
「お、森の中じゃないな」
フィールドはいつもの森ではなく、中世のコロッセオのような空間だった。
空は分厚い雲に覆われ、観客席は所々が崩壊し、宙に浮かぶ無数の松明がフィールドを照らしている。
後ろにはどこかへ繋がる薄暗い通路がある。檻に塞がれて、進むことは出来ない。
正面にも同じような通路が見られる。
さながら、プレイヤーはここから入ってきた剣闘士ってところか。
なるほど、ボスクエストらしく凝った作りじゃないか。
「雷蔵、雲母、出てこい」
俺はカードをかざし、雷蔵と雲母を召喚。
今までとは違う空間に、二人も興味深そうに周囲を観察している。
「二人とも、今回はボスクエストだ。今から出現するモンスターを三十分間殴り続ける」
「ウガォ」
「きゅー」
端的な俺の説明に、雷蔵も雲母も「了解だ」と頷く。
「そういや、雲母は今回は初めての実戦だな」
「きゅぅー」
昨日は採取クエストだけで、モンスターとは全く戦わなかった。
しかし今回は戦闘だ。
雲母のスキルを遺憾なく発揮することが出来る。
雲母の持つ四種のスキル、強化、硬化、光壁、加速。
これはらは全て、自身、または味方へ使用するバフスキルだ。
強化は『アクティブ 攻撃、防御、知力、魔防を強化+10%(60秒)』。
硬化は『アクティブ 物理ダメージ-40%(60秒)』。
光壁は『アクティブ 魔法ダメージ-40%(60秒)』
加速は『アクティブ 敏捷+20%、CT-30%(60秒)』。
CTは全て15秒だ。
強化は剣士の職業で手に入るスキルと一緒だな。
どのスキルも強力だが、中でも加速は一際強力な効果を持つ。
なにせ敏捷が上がるだけでなく、スキルのCT減少という戦闘における圧倒的なアドバンテージを得ることが出来るのだ。
仮に雷蔵の『雷閃』のCTは60秒なので、42秒まで減らすことが出来る。
通常なら三回スキルを使う間に、ほぼもう一回追加でスキルを使うことが出来るのだ。
「なにより素晴らしいのがこれらを重ね掛けできるってことだな」
もし雲母が蜿蜒長蛇の時にいてくれたら、戦いは格段に楽になっていただろう。
あの戦いではとにかくスキルのCT管理と、デバフ運が重要だったからな。
まあ、過ぎたことを言っても仕方ないか。
「雲母、早速頼む。まずはお前自身に加速を。その後で俺と雷蔵に加速、強化、硬化、光壁の順にかけてくれ」
「きゅー♪」
今のところ、ボスモンスターが現れる気配はない。
時間経過で現れるのか、俺たちがフィールドの中央に近づけば現れるのか。
どちらにしても先に準備を済ませてしまおう。
全員にバフを掛け終わり、フィールドの中央へ向かう。
すると反対側のゲートが開き、ボスモンスターが現れた。
「ジュラァァァァ……」
出たなマザー・スネイク。
姿はEXステージで見たマザー・スネイクとほぼ同じだ。
違いがあるようには見えない。
「……案の定、デバフは無効か」
当然、出てきた瞬間に『不快』を発動させたが、デバフを受けた様子は見られない。麻痺でも食らってくれれば殴り放題だと思ったのだが、流石にそんな甘い仕様にはなっちゃいないか。
「よし、雷蔵、雲母。作戦通りにいくぞ」
「ゴァゥ」
「きゅー」
まずは雷蔵が『雷撃』を放ち、同時に俺が側面から接近。
正面と側面からそれぞれ攻撃を加える。
雲母は俺の肩に待機してもらい、バフが切れそうになったら掛け直しを行う。
バフには有効射程があるので、雷蔵とも定期的に接近しなければならない。
行動パターンを予測されないように動く。
敵の対策としてマザー・スネイクが竜巻を使う気配を見せたら、武装を鞭に切り替え敵に張り付く。
竜巻の発生時間は15秒だったが、ボスモンスターだしもっと伸びている可能性もある。
だがあの時と違い、装備は万全だし、雲母のバフもある。
それに今回のステージは闘技場だ。森と違い、瓦礫や木々の飛散物がなければ、そこまで脅威じゃない。最悪、壁への激突だけは注意しなきゃいけないけどな。
「むしろ使ってくれた方がありがたい」
なにせ竜巻の最中、マザー・スネイクは動けない。
格好の的だ。
そのキレイな顔をフッ飛ばしてやるぜ!
問題は単体の風魔法と地面からの奇襲だ。
これは初見で対応するしかない。
一撃でやられさえしなければ、あとは対応して見せる。
「さあ、バトル開始だ――……ってあれ?」
駆けだそうとして俺は違和感に気づく。
マザー・スネイクがその場を動こうとしない。
ともすれば、出来るだけ壁際に寄り、俺たちから距離を取ろうとしているようにも見える。
「ジュラ……ジュラァァ……」
なんか、めっちゃ怯えてない?
大きな体を縮こませて、壁際を這う姿は哀れみすら漂っている。
いったい何故だろうと考え、俺はまさかとその可能性を思い浮かべた。
「お前、もしかしてあの時のマザー・スネイクか……?」
俺がそう尋ねると、マザー・スネイクはビクッと震えた。
「ジュ、ジュラァァ……。ジュラァァァァ……」
コクコクと頷く。
マジだった。
「え、えぇー……」
そうなの?
そういうことってあるの?
まさか死んだから、こっちでボスモンスターとして再利用されてるの?
そういうのあり?
『マザー・スネイクが降伏を宣言しました』
『降伏を受諾しますか?』
頭の中に響くアナウンス。
そ、そういう仕様もあるんだ……。
読んでいただきありがとうございます
9月から更新を一日一話にペースにさせて頂きます
基本的に朝8:00更新となりますのでよろしくお願いいたします