31.デイリークエスト 採取編
さて、それじゃあデイリークエストとやらをやってみるか。
俺はゲーム開始からデイリークエストを選択する。
『デイリークエストを開始します』
『デイリークエスト 採取
クリア条件 薬草を三種類手に入れる
成功報酬 ポイント+10、ランダムアイテム』
視界が暗転し、俺は再びグランバルの森へとやってきた。
まずはカードから雷蔵と雲母を召喚する。
「ウゴァ」
「きゅー」
元気な姿で現れた雷蔵に俺は内心安堵する。
装備もちゃんと一新されていた。
「雷蔵、傷はもう大丈夫みたいだな」
「ウガオゥ♪ ウッガガ♪」
雷蔵は傷が治ったことよりも、装備が新しくなって嬉しいようだ。
上機嫌でその場で小躍りしている。
「雲母、今日からよろしく頼むな。期待しているぞ」
「きゅー♪」
雲母も任せてよーと元気よく返事をした。
フリフリの尻尾がとっても可愛い。
ちょっと撫でさせてもらおう。
「ふわぁぁ……フカフカであったけぇ……」
「きゅ~♪」
雲母も撫でられて気持ちよさそうだ。
俺も気持ちい。
つまりウィンウィンの関係。
「……ウガォ」
ほわほわしていると雷蔵にじーっと睨まれた。
「あ、すまん雷蔵。お前のことをおざなりにしていたわけじゃないんだ」
「ウガゥォ」
ぷいっとそっぽを向かれた。
別にいいですけどねー、自分は自分の仕事はちゃんとしますしーみたいな感じの表情だ。
はぁ、まったくしょうがない奴だ。
「……雷蔵、お前も雲母を撫でてみろ。それで分かる」
「ウガゥォ?」
雷蔵はホントでござるかー? みたいな疑いの眼差しを向けながらも雲母に手を伸ばす。
雲母も大人しくその手を受け入れた。
ふわっふわ。もふっもふ。
「……ウガァァァ~~」
おお、雷蔵の心からの笑顔!
なんていい笑顔だ。まるで初めて人の温もりに触れたみなしごのよう。
ふっ、落ちたな。
「どうだ、雷蔵。これはいいものだろう?」
「ウガォ」
雷蔵も迷いなく頷いてくれた。
そのまま俺が差し出した手を無言で握り返してくれた。
これからも仲良くやっていこうじゃないか。
俺は自分一人だけがいい思いをしようとは思わない。
尽くしてくれた仲間には報いたいし、良いものは積極的に共有したい。
それが部下や仲間のモチベ向上に繋がるのだ。
当たり前のようだが、これが意外と出来ない人が多い。俺の上司とか井口とか。
もちろん、俺自身まだまだ未熟な部分は多いし、これからも学んでいく所存。
つまり何が言いたいかといえば、モフモフはいいものなのだ。
「きゅー?」
唯一、撫でられてる雲母だけが「コイツらよく分かんない」と首をかしげていた。
さて、十分に癒されたところでそろそろ真面目にデイリークエストに挑もう。
「まずはマップを確認するか」
フィールドマップを確認すると、俺たちを示す緑色のアイコン以外はなかった。
モンスターもNPCも居ない。
「採取クエストだし、モンスターは居ないのか?」
てっきり邪魔をするモンスターでもいるのかと思ったが、本当に薬草を採取するだけなのだろう。
まあ、油断はしないでおこう。
一定のエリアに入った瞬間、モンスターが現れるなんてゲームじゃお約束だ。
さて、クリア条件は薬草を三種類手に入れること。
「……薬草ってどれだ?」
どの草も植物も同じに見える。
ヒントとかないのか?
「ヘルプで調べても出てこないし、ショップやポイント交換にも現物はないな……」
現物があれば、それを参考に探せるんだが、ないとどうしようもない。
流石に、一つずつ調べていくのは手間すぎるしなぁ……。
「雷蔵、雲母、お前たちは薬草って分かるか?」
「ウゴァ?」
「きゅー?」
二人とも首をかしげる。
そもそも薬草って何なのかが分かっていないっぽい。
「まあ、なんでもいいか。とりあえず適当に良い感じの植物があったら摘んできてくれ」
「ゴアゥ」
「きゅー」
雷蔵と雲母は茂みの中へと入っていった。
「俺もとりあえずその辺の草でも摘んでみるか」
その辺に生えてる草を引っこ抜いてみる。
ブブーと頭の中に響く効果音。
『薬草ではありません』
……違ったようだ。
これ、ひょっとして薬草じゃない草抜くと減点になるとか?
「ウゴォー」
「きゅきゅー」
そんな風に思っていると、雷蔵と雲母がその辺に生えていた草を持ってくる。
「お前らなぁ、そんな適当に持ってきて――」
ピンポーンと頭の中に響く効果音。
『バブミ草を手に入れました』
『オギャの花を手に入れました』
薬草だった。
「……」
俺はその辺に生えてる別の草を引っこ抜いてみる。
雷蔵が持ってきたヤツに似てるしこれなら大丈夫だろう。
ブブーと頭の中に響く効果音。
『薬草ではありません』
畜生。
「ゴァ、ゴァゥ」
雷蔵が肩を指で叩いて、茂みを指さす。
そこにはちょっと色合いが禍々しいキノコが生えていた。
「いや、お前流石にあれはないだろ……?」
どう見ても毒だ。
素手で触るのも躊躇するレベルの色合い。
すると雷蔵はささっと引っこ抜いてしまう。
ピンポーンと頭の中に響く効果音。
『バラライカ茸を手に入れました』
『薬草を三種類手に入れました』
『おめでとうございます。デイリークエストをクリアしました』
頭の中に響くアナウンス。
「…………」
俺、何もしてないんだけど。
なんとも言えない気分のまま、白い光に包まれて黒い空間へと戻るのだった。




