27.クリア報酬最高じゃんよ
クリアを告げるアナウンス。
あの黒い空間に戻らないってことは狂鎧大猪の時のようにまだイベントが残っているということだろう。
「まずは雷蔵を助けないとな……ッ」
力が一気に抜けて、足に激痛が走る。
思わずその場に尻もちをついてしまった。
「はは……やべぇ、意識が飛びそうだ……」
痛い、疲れた、眠い。
でもまだだ。気を失うわけにはいかない。
「ふぅー、ふぅー……ジャイアント・スネイクより更にデカいが何とかなるか……」
俺は震える腕でなんとかマザー・スネイクの顎を切り裂く。
雷蔵の位置は分かってたから、すぐに見つかった。
「雷蔵大丈夫か!」
「ウゴァゥ……」
雷蔵も満身創痍なのだろう。伸ばした手が震えていた。
しっかりと掴んで、引っ張り上げる。
雷蔵は消化液でボロボロだった。
所々皮膚が爛れた痛々しい姿になっている。
それでも命に別状はなさそうだ。
「雷蔵、よくやってくれた。コイツを倒せたのはお前のおかげだよ」
「ウゴァウ。ウゴァゴァ」
褒められて雷蔵は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あれ? 雷蔵、なんかくっついてるぞ?」
「ウゴァ?」
雷蔵の足にはドロドロの糸のようなものが絡まっていた。
それはマザー・スネイクの内部へと伸びている。
引っ張ってみると、囮に使った肉人形が出てきた。
ドロドロの糸はまだ続いている。
「雷蔵、まだ体力残ってる?」
「……ウゴァウ」
流石に無理と首を横に振った。
だよね。
俺と雷蔵はしばしその場に倒れこみ、休憩した。
あ、ちゃんと肉人形に履かせた派手なパンツは回収した。
きちんと洗って履き直しました。
「お帰り……俺の最後の良心」
ずっと全裸で寂しかったんだからね。
しばしの休憩の後、俺と雷蔵は再び糸を引っ張った。
すると、まあ出るわ、出るわ。
マザー・スネイクがこれまで食べていたモンスターの死骸やら、変な武器や金貨らが大量に出てきた。
「どこにこんだけの量が詰まってたんだよ。うぇ、くっせぇな……」
モンスターの死骸はドロドロに腐ってとてもテレビじゃ映せないような有様だ。
武器も錆びてボロボロだ。
使えそうなモノは一つも残っていない。
「唯一使えそうなのは金貨だけか……」
金だから溶けずに残っていたのだろう。
絵柄が以前、宝箱からゲットしたコインと違っているな。
『バルカディア金貨を手に入れました』
頭の中に響くアナウンス。
バルカディア金貨? イェンじゃないのか?
ひょっとしたら年代物のヴィンテージ金貨なのかもしれない。
全部で十五枚手に入れた。
「他には……ん、なんだこれ?」
モンスターの死骸の中から、ゴロンとバスケットボールほどの球体が転がり落ちてきた。
マザー・スネイクの魔石かとも思ったが、違うように見える。
「――きゅー……、きゅーきゅー……」
すると、謎の球体から声が聞こえた。
「声?」
「ウガゥ?」
雷蔵にも聞こえたようだ。
まさかこの球体、中に何か入ってるのか?
卵……には見えないな。
しばらく見つめていると、白い球体はピキピキとヒビが入り、そこから何かが飛び出してきた。
「きゅ~~~!」
「うわぁ!?」
「ウガォウ!?」
俺と雷蔵は思わずびっくりしてのけぞってしまう。
球体から飛び出してきたのは小さな狐だった。
いや、正確には狐のような生き物、だろうか?
緑色の毛をした全体的にすごくモフモフした毛玉のような生物だ。
『モンスター図鑑が更新されました』
『モンスター図鑑№6カーバンクル
アルタナのどこかに生息するといわれている希少モンスター
額の宝石から様々な魔法を行使することが出来るといわれている
目撃例が極端に少なく、その生息地、生態も謎に包まれている
討伐推奨LV不明』
カーバンクル、ね。
某ゲームで有名なモンスターだな。
へぇー、めっちゃ可愛いな。思わずモフモフしたくなる。
「きゅう?」
カーバンクルはキョロキョロと周囲を見回すと、俺と雷蔵に視線を合わせる。
その後、マザー・スネイクの死体を見て、もう一度俺たちの方を見た。
「きゅうー」
ぺこりと頭を下げた。
どうやら俺たちが倒したのだと理解したらしい。
頭いいな、このモフモフ。
すると、トトトトと、近づいてくるではないか。
足元までやってくると、俺を見つめて、くぅ~~とお腹を鳴らした。
「お前、もしかして腹減ってるのか?」
「きゅぅ」
頷いた。
お腹が減っているらしい。
でもカーバンクルって何食べるんだ?
モンスターが食べそうなもの……あ。
まさか、コレってその為の商品だったのか?
「えーっと、これでよければ食べるか?」
俺は収納から『美味しい餌』を取り出すと、袋を破ってカーバンクルの前に置く。
「きゅぅぅ……♪」
カーバンクルは目をキラキラさせて、餌と俺を交互に見つめている。
食べていいの? これ食べていいの? とたずねる感じに。
「いいよ、好きなだけ食べて」
「きゅ~~~~♪」
カーバンクルは袋の中に頭を突っ込んで餌を食べ始めた。
……なるほど、このためのオススメ商品だったのか。
「ウガォ……」
「雷蔵、お前もか」
羨ましそうに涎を垂らしていたので、雷蔵にも一袋渡す。
雷蔵も袋を破ると、美味しそうに食べ始めた。
「きゅぅ~……きゅっぷい」
一袋食べて満足したのか、カーバンクルは満足そうな声を上げた。
まさかマザー・スネイクの腹の中で生き延びてるモンスターがいるとはな。
カーバンクルが出てきた瞬間、先の球体は消えたし、何かのスキルだったのだろう。
「……お前、これからどうするんだ?」
「きゅー?」
手を伸ばして体を撫でると、カーバンクルは気持ちよさそうに喉を鳴らす。
そのまま膝の上にのせても逃げようとしない。
それどころかコロンと仰向けになる、お腹を見せてくるではないか。
うーん、めっちゃ可愛い。
「行く当てがないなら、俺たちの仲間にならないか?」
「きゅう?」
カーバンクルのお腹を撫でながら、俺はそう提案する。
――癒しのペットが欲しい。
心中にあるのはそんな切実な思いだった。
俺の住んでいるアパートはペット禁止だ。
実家でも母と姉がアレルギーだったため、動物を飼うことは出来なかった。
でも異世界ポイントの中でなら、ペットだって飼えるのだ。
それも現実には存在しないこんなかわいいペットを。
「きゅ~……」
カーバンクルはじっと俺を見つめていたが、やがて小さくうなずいた。
『カーバンクルが従属化を希望しています』
『従属化しますか?』
いよしゃあああああああああああああああ!
ペットだ! 癒しのペットをゲットだあああああああああああ!
地獄のEXシナリオをクリアした甲斐あったわ。
最高の気分だわ。
俺は迷うことなくイエスを選択した。
「名前は……そうだな、雲母でどうだ? おでこの宝石がとてもキレイだし、お前に似合うと思ったんだが」
「きゅ~♪」
カーバンクル改め雲母は嬉しそうに声を上げる。
どうやら気に入ってくれたらしい。
「…………ゴアゥ」
なんか雷蔵が妙にじぃーっと見つめてくるけど、気にしない。
自分の時はずいぶんとセンスのない名前を連発したのに、ソイツは一発で良い感じの名前を決めるんですね、ふーんそうですか、そうですか……みたいな視線を感じるけどきっと気のせいだ。うん、きっとそうだ。
ボゥンッと、雲母の体が煙に包まれると、そこには一枚のカードがあった。
『名前 雲母 LV11
種族 カーバンクル
戦闘力 ☆☆-
スキル 強化、硬化、光壁、加速
忠誠度 普通』
カードを手に取った瞬間、俺の体が白い光に包まれた。
どうやらこれでイベントが終わったらしい。
さて、イベント報酬はどんな感じになっているか楽しみだ。
光に包まれ、俺の視界は暗転した。




