25.EXステージ2 その4
迫りくるマザー・スネイクと九体のジャイアント・スネイク。
驚きと恐怖。
だが、それまでの戦闘の蓄積が反射となって、俺は『不快』を、雷蔵は『雷閃』を即座に放っていた。
雷蔵の『雷閃』はマザー・スネイク含め七体に命中。
ジャイアント・スネイク三体が麻痺で動きを止める。
だが、
「ジュラァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「ッ……動きが全く変わってない!?」
マザー・スネイクはほぼ無傷。
どころか、俺の『不快』を受けても、全く変わった様子が見られない。
――抵抗された。
確信はないが、そう考えるのが妥当だろう。
マザー・スネイクは防御、魔防ともに高い数値を誇ると魔物図鑑に書いてあった。
デバフ無効、それとも特定のデバフに対してだけかは判断ができないがなんて面倒な。
(くそっ、厄介な特性まで持ってやがって!)
流石はボスモンスターといったところか。
「雷蔵! マザー・スネイクの強さは未知数だ! まずは周囲の取り巻きから片付けるぞ!」
「ウガォゥ!」
後退しつつ、取り巻きのジャイアント・スネイクに俺は『不快』を、雷蔵は『雷撃』を放つ。
動ける個体はマザーを除き六体。
一体目は『防御・魔防-10%』、二体目は『苦痛』、三体目は『攻撃、知力-10%』、四体目は『沈黙』がそれぞれ当たる。
だがそこで距離を詰められた。
迫りくる五体のジャイアント・スネイク。
マザー・スネイクは少し離れた位置で動かない。
(こちらを警戒しているのか? ……それとも)
ともかく今は先にジャイアント・スネイクを片付ける。
「シャァァアアアアア!」
「遅い!」
躱す、躱す、躱す。
何度、お前たちと戦ってきたと思ってるんだ。
動きのパターンは完全に熟知している。
そのうえ、レベルアップの影響でステータスも上昇している。
「まずは一体!」
もはやコイツらに俺を捉えることはできない。
急所を素早く突き刺し仕留める。
「二体目!」
身を翻し、その勢いのまま二体目も仕留める。
「ゴァウ!」
雷蔵も一匹仕留めた。
これで三体!
『経験値を獲得しました』
よし、順調だ。動ける個体は残り二体!
一気に仕留める!
だが俺と雷蔵がそれぞれの目標に攻撃を仕掛けようとした瞬間――ゾワッと寒気がした。
「雷蔵伏せろ!」
「ッ!?」
それは本能が叫んだと言っても過言ではない。
腹の内側から巻き上がる焦燥感と怖気。
果たしてそれは正しかった。
「ジュラァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!」
次の瞬間、マザー・スネイクを中心に巨大な竜巻が発生したのだ。
「ぐっ……がぁぁあああああああああああ!?」
「ゴァォォオオオオオオオオ!?」
まるでミキサーの中に放り込まれたかのような気分だった。
耐えることが出来たのは一瞬だけ。
俺も雷蔵もたまらず吹き飛ばされた。
それは近くにいたジャイアント・スネイクたちも同じだ。
全てを等しく飲み込む巨大な竜巻は周囲の木々をなぎ倒す災害と化してフィールドを一変させた。
たっぷり十秒以上も風の中でもみくちゃにされ、その果てに俺と雷蔵はフィールドの端まで吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
『経験値を獲得しました』
「ぐっ……かはっ」
叩きつけられた背中に激痛が走る。
全く自由の利かない竜巻の中で、ジャイアント・スネイクの死体や木々に圧し潰されなかったのは奇跡といえるだろう。
あまつさえ、こうして気絶もせずに、壁に叩きつけられただけで済んだのだから。
(今のはまさか図鑑にあった魔法のスキルってやつか?)
風系の魔法スキルを使用するとあったが、まさかここまでの威力だったとは。
周囲にあった木々やジャイアント・スネイクの死体が壁伝いに折り重なって山積みになっている。
フィールドの壁があるから、決して外には零れず、ずるずると内側に偏っている光景は酷く不気味で歪だった。
「雷蔵! どこだ! 返事をしてくれ!」
「――――ゴァゥ!」
少し離れた場所から叫び声が聞こえた。
ジャイアント・スネイクの死体の山から雷蔵が姿を見せる。
ボロボロの痛々しい姿だった。鎧や盾はあちこちがひび割れ、砕け、防具の体をなしていない。剣も折れていた。
(まずい状況だな……)
問題なのは左足の痛みだ。
激痛に内出血。ひょっとしたら靱帯が断裂してるかもしれない。
あと折れてはいないが、ヒビは入ってるかもしれん。かなりの激痛だ。
足という、俺の最大の武器が潰されたのだ。
――最悪の状況。
そう言って差し支えないだろう。
だが今の竜巻で、取り巻きのジャイアント・スネイクも何匹か死んだ。
というよりも、あの野郎味方を巻き込む前提でスキルを放ったな。
妙に距離を取っていたのもそのためか。
仲間に俺たちを足止めさせ、大技で仕留める。
犠牲を考慮しなければ効率的な戦術だな。……反吐が出る。
仲間をなんだと思ってんだ?
(……吹き飛ばされたおかげか、距離はかなり離れているな)
マップを確認すれば、マザー・スネイクたちはその場から動いていない。
スキルの反動か、それとも俺たちが弱るのを待っているのか。
どちらにしてもこれを利用しない手はない。
(考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、考えろ)
思考をフル回転させ、現状を打開するための戦術を打ち出せ。
飴を貪り、水を飲み干し、少しでもエネルギー補給する。
もう銃弾は残ってない。盗賊の短剣も吹き飛ばされた拍子に、一本どこかに飛んで行ってしまった。
残っているのは盗賊の短剣一本と、鞭が二本、空の短銃に、美味しい餌と温かい球体。
敵はマザー・スネイク、ジャイアント・スネイクは残り二体。
「へっ……やってやろうじゃねえか」
「ゴァゥ」
状況は最悪だ。
だが、終わりじゃない。
俺たちはまだ生きている。
「――まだ戦える!」
「ゴァオゥ!」
雷蔵も同じ気持ちのようだ。
その瞳には、怒りと不屈の闘志が宿っている。
一矢報いてやらねば気が済まないのだろう。
「……雷蔵、作戦がある。聞いてくれ」
「ウガゥ」
俺は残った飴と水を雷蔵に分けながら、作戦を伝える。
うまくいくかどうかは賭けだがやるしかない。
あのクソ蛇、ぜってーぶっ倒してやる。
だから、そのためにはこうするしかない。
「――まず、服を脱ぐ!」
俺は迷うことなく人にとっての最後の砦――派手なパンツを脱いだ。
さあ、反撃だ!